ケロタン:勇者の石+2
◆ 英雄の道 ◆
「……!」
急に眩しい日の光に照らされ、ケロタンは一瞬、たじろいだ。
城の中から一気に外へ転移したようで、辺りは戦場跡地とでも言うべき荒野。手をかざしつつ空を見上げると、そこには先程まで立ち込めていた灰色雲は無く、青々とした空が広がっていた。
「はぁ……。」
ようやく寒さが収まったことにほっとする。
走りながら後ろを振り向くと、さっきまでいた雪山は遠くに見えた。結構な距離を移動したようだ。
《ボォォン!!》
前方を見ると、フレアタンがマカイに向かって炎を放っている。
激しく争っているようだが、ここはところどころが石造りの壁に遮られていて、マカイは上手く障害物を利用し攻撃をかわしており、順位は簡単に逆転しそうにない。
ケロタンは一旦、ナダラと同じく、距離を一定に保ちながら機を
(まだ最後の難関がある……。)
恐らく先に見える巨大な建物がそうだ。
あれはコロッセオだろうか。そんな形をしている。
「さぁ、選手達が現れました!
現在一位は初参加のマカイ選手!
前回はフレアタン選手が他に圧倒的な差を付けて一位の座を手にしましたが、今回は白熱のラストスパートとなりそうです!!」
シカーイの実況もまた聞こえ出し、緊張が高まる。
ここまで来たら何としてでも勝ちたい。
ケロタンは闘志を
◆ 第二十の難関・英雄の像 ◆
そこで待ち受けていたのは、全長40mはあろうかという四体の石像であった。
中央の柱を囲むように四方に立つそれらは、どうやら伝説に語られる
彼らは順に、力、知恵、勇気、慈を現し、これらは真の冒険者に必要なものだと言われているが……関係してくるだろうか。
ケロタンは目を凝らした。
ここからでは読めないが、中央の柱に何か書かれている。
きっとここを突破する為のヒントに違いない。
「ふっ、最後の最後で謎解きとは。この勝負貰ったぞ!」
既に柱の文章を読み終えたらしいマカイは、ベルブラストの石像に向けて走り出した。
ケロタン達もすぐに内容を確かめる。
【勇気ある旅人は力を求め東に向かった。
力を得た旅人は知恵を求め北に向かった。
知恵を得た旅人は慈を求め南に向かった。
全てを終えた旅人は夢を求め天へ向かった。
旅人に足りなかったものは1つだけだ。】
……成程、それでベルブラストという訳か。
「……?」
いや、本当にそうだろうか? 何かおかしい気がする。
「ガァオ!!」
だが、考える間もなくココオウが追い付いてきた。
耳を
「グルルル……!!」
深い怒りを
彼は眉間にこれでもかというほどの皺を寄せると、牙を剥き出しにしたまま、血走った目でマカイを睨み付けた。
最早、巨獣のような迫力だが、当のマカイの返す表情は余裕に満ち、恐れるものなど何も無いといった風情であった。
「ふん、遂に正体を現したな蛮族め。」
水のレイピアが再び彼の手に出現する。
それと同時にココオウは走り出し、鋭い爪を生やした手を大きく振りながら、マカイに迫る。
「ジョーンズ!!」
しかしマカイはその場から一歩も動かず、レイピアを地に突き刺し、仲間の名を叫んだ。
すると次の瞬間――。
レイピアを中心に液状化した地面からゾンビのような姿の巨大ザメが飛び出し、ココオウの体に真正面から咬み付いた!
「ぐおおっ!?」
体に鋭い歯が何本も突き刺さり、痛みに声を上げるココオウ。
マカイの召喚獣は一体だけではなかったのか……。
「ん? 待て。ジョーンズって確か、死んだ船員の名前じゃ。」
「ハハハ!! 忘れたのかカリバン!
確かにあの時、ジョーンズの体は食べてしまったが、その魂は我らの中で今も生き続けているのだぞ。片時も離れたことなどない!
見ろ! 体の形は違うが、彼と同じバンダナを巻いているではないか!
私は呪いの魔海ナジハンリで得た禁忌の魔法により、彼を蘇らせることに成功したのだ!」
「…………。」
もう何でもいいやと、ケロタンは思った。
「さて、あの邪魔な蛮族はこのままジョーンズに片付けてもらう。
早く行くぞ、カリバン。」
「ぐ……ク……ウオオオオ!!」
――だが、これで終わるココオウではなかった。
《グッシャアアアア!!》
「何っ!?」
なんと彼は、サメの口に無理矢理手を突っ込み、その体を力任せに左右に引き裂いたのだ!
二つとなったジョーンズの体は、すぐに光に包まれ霧散していく……。
「っはぁ……はぁ……。」
荒い息を吐きながら、マカイに近付いていくココオウ。
傷口からだらだらと血が垂れているが、一応、急所は外れているようで、まだ戦えるようだ。
「この程度の傷、俺の森じゃ日常茶飯事だぜ……!」
「はぁ……全く、これだから蛮族は……。」
不気味な笑みを浮かべ強がるココオウに、やれやれと首を振るマカイ。その表情から笑みが消え失せる。
「仕方がない。負けを認めないということがどういう結果を招くか、思い知らせてやるとしよう。」
マカイのレイピアがココオウに向けられ、両者の間に危険な空気が漂い始める。
このままでは潰し合いではなく、殺し合いが始まってしまいそうだ。
張り詰めた空気に
その時――。
《ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……》
「ん……?」
揺れている――。
地面が……身体の震えではなく、地面がぐらぐらと――。
(地震……?)
《ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……!》「わっ……!?」
一気に揺れが強くなり、転びそうになるケロタン。
これは結構でかい……!
「くそ、何だこんな時に。」
これには流石のココオウも身を低くし、ケロタン達もそれぞれ更なる震動に備え、身構えた。
「ハハ! こんな嵐の船揺れにも満たない地震、蛮族ならば簡単に止められるのではないか?」
一方、マカイは仁王立ちのまま、
驚くべきバランス感覚……!
「クゥ……!!」
それがまたココオウの闘争心に火を付けたらしい。
彼は無謀にも拳を振り上げ――固く握り締めたそれを全力で地面に降り下ろさんとする!
(マジでやるのか……。)
どう考えても恥をかくというのに、彼に
「フンッ!!」
《バコオォォォ!!》
だが、拳が叩き付けられた瞬間! 地面に入る亀裂、亀裂、亀裂――!
「うおっ……!?」
まるで隕石でも落ちたかのように、ココオウの真下に出来上がるクレーター。
その衝撃の威力に、ケロタン達は思わず驚きの声を漏らした。
「何だと……。」
マカイもまた驚いている。
しかし、どうやらそれはココオウの馬鹿力に対してではないようだった。
彼の視線は下に向き、ココオウを捉えていない。
「……!」
気付けば、揺れが止まっている。
まさか……本当に今のが地震を……?
「………………。」
拳を叩き付けた本人ですら首を傾げ、コロッセオを変な静けさが包み込む。
《ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……》
いや、音は止まっていない。
(何だ、この音……。)
《ダッ!》
ケロタンが
良くない予感がしていたケロタンも、半ばそれに釣られる形でその場を離れる。
直後――。
《……ゴゴゴゴゴゴゴ!! ドゴオオオオォォォォン!!》
背後の地面が――裂けた。
「なっ!?」
《ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!》
轟音と共に、地中より姿を現す長く巨大な体……!
まるで天にでも昇るかのように伸びていく、そのあまりに衝撃的な光景に、ケロタン達の目は奪われた。
ひび割れた岩石が数珠繋ぎになった胴体。それが節々から黒い炎を噴き出させながら、柱を中心に大きくトグロを巻いていく……!
《しゅるるるるるるる!!》
そう、それは見るも恐ろしい
《ピシピシ……バコッ!》
トグロを巻き終わり、完全に地上に姿を現したそれは、ヒントが書かれていた柱を締め付け、砕き、そして青く濁った眼をケロタン達に向けた。
「でっか……!」
全長何メートルあるのだろうか。
この状態では正確な長さは分からないが、頭まではコロッセオの壁を超えるくらいの高さがある。
「何だ。ボスがいるではないか!」
自分達と同じく壁際まで退避し、しばし周囲と同じように固まっていたマカイだったが、相手が魔物と見ると、興奮した様子で近付いていく。
(ボス……?)
ケロタンは心の中で首を傾げた。
では柱のヒントは何だったというのか。
ケロタンはどうにも納得できず、空を見上げた。
青い空には、シカーイの気球がふわふわと浮かんでいる。
「あれは……?」
ケロタンからは見えなかったが、この時、シカーイも困惑の表情を浮かべていた。
最後の難関でボスが出てくるなどという話は聞かされていない。
もしや……トラブル?
「くそ……どうなんだ。」
上空の葛藤など知りようのないケロタンは、苛立ちを胸に大蛇の魔物へと視線を移した。
「ふっふっふ、これが最後というのなら、我が最強のしもべを見せてやろう。」
魔物の前に立ったマカイは、先程と同じように水のレイピアを地面に突き刺した。
《ぶくぶくぶくぶく……ゴボッ、ゴボボボ!》
最強のしもべ――と言うだけあって、液状化した地面の泡立ちは大きい。
一体どんなものが出てくるというのか……。
「出でよ! オルカリ――!」
《コオオオォォォオオオン!》
(えっ?)
マカイがしもべを召喚しようと叫んだ、まさにその瞬間――魔物の体が突如黒ずみ、そこに幾つもの青い眼が浮かび上がった。
そしてそれを見たケロタン達の動きは――完全に止まってしまう。
「……!?」
体が動かない。動かせない。
(これは……!?)
一体何をされたのか。
力を入れている筈なのに、全身が石のように固まり、顔を動かすことも、目を閉じることもできない。
《ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……》
獲物が動かなくなったのを見た魔物は、ゆっくりと首を動かし、品定めでもするかのように顔を左右に揺らめかせた。
これではまるで――蛇に見込まれた蛙。
誰一人声を発することができず、身体を動かすこともできず、ただじっと、魔物の口が眼前に迫って来るのを待つだけ……。
(嘘だろ……?)
そして――最初に選ばれたのは、ケロタンだった。
彼の前で動きを止めた魔物は、唾液に塗れた口をゆっくりと開き、今にも襲い掛からんとする……!
(マズい……!)
だが、心の中で幾ら叫んだところで、魔物の術は解けない。
(助かる方法……。この状況を何とかする方法……!)
ある筈だ……ない筈はないと思い、その間にも動かない体に力を入れ続ける。
何処かで魔物の気が緩むかもしれない……! 新しい力が発現するかもしれない……!
頭を巡る多くは酷く都合の良過ぎる思考だったが、とにかくケロタンは足掻いた。とっくに詰んでいることを認められず。
だが――。
《ゴゴゴゴゴッ!!》
魔物の口が迫り、ケロタンの心に絶望の二文字が揺らめく。
(くっ……。)
しかし、彼はそれを全力で掻き消した。
まだ何も成し遂げていないのに、こんなところで終われない……!
絶体絶命の瞬間ですら、ケロタンは諦めず、思考をやめなかった。
そして、その必死の足掻きにより、彼は一筋の希望を掴む。
喰われる一瞬――そこに全てを集中させる。
それは死に飲まれる前に、魔物の体に浮き上がった眼が、視界から外れる瞬間だから。
勿論、すぐに体を動かせるようになるかは分からない。奴の顎の力をバリアで耐え切ることができるかは分からない。
でも、賭けるしかないんだ。
《ゴゴゴゴッ!!》
巨大な口が自分の身体を飲み込む――。
そんな絶望的な一瞬にもかかわらず、ケロタンの瞳は希望の光を失わなかった。
そして――その
《ボンッ!》
(……!?)
彼の視界の隅で何かが弾け――。
《ズドオオオォォン!!》《シャアアアアアア!!》
次の瞬間、魔物の顔の
(!?)
横からの衝撃により、ケロタンから僅かに逸れる首。
それはコロッセオの壁に激突し、続く上からの攻撃によって地面に叩き付けられる。
「フレアタン……!?」
魔物の体を襲う巨大な炎の拳――。
それは今までに見たことのない、フレアタンの技であった……!
「《
怯んだ魔物にトドメを刺すべく放たれる怒涛の連打……!
フレアタンの目は赤く染まり、宙に浮かんだ炎の拳が凄まじい勢いで大蛇の体を砕いていく。
《ボォン! ボォン! ボォン! ボォン! ボォン! ボォン! ボォン! ボォン!》
一撃ごとに周囲に広がる熱風、衝撃波――。
一切の反撃も許さぬ、その鬼神のような連打には、誰もが呑まれ、言葉を失った。
《ボォォン!!》
そして――一際強い一撃によって、魔物の頭部は完全に潰れる。
残った長い胴体は、まるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ、フレアタンは魔物の残骸の中へと降り立った。
《シュウウウウウ……》
立ち込める砂煙と白煙。
ケロタンは半ば放心状態でその光景を眺めていたが、よろめくフレアタンの影によって、現実に引き戻された。
「……! 大丈夫か!?」
ケロタンはすぐさまフレアタンに駆け寄り、身を案ずる。
体力も魔力も残り少ない状態での大技の発動――。相当な無茶だったに違いない。
「ふっ、ふふふふ……。」
「?」
だが、フレアタンは息を切らしながらも、笑みを浮かべていた。
「この技を……全力でぶつけられる相手に出会えるとは幸運だった。」
フレアタンは自力で立ち上がり、「まだまだだな」と小さく呟くと、ケロタンの方へ振り向いた。
「どうした……? レースはまだ終わっていないだろう……。
俺のことは気にせず、先に行けばいい……。」
「……。」
力を使い果たし、もう勝ち目がないと踏んだのか……。
ケロタンは一週間前に起きた二度のテロのことを思い出していた。
あの時も……、突然、巨大な魔物が出現し、何らかの目的を果たすように暴れ回った。
今回のもそうだとしたら……。
「おい。結局この魔物は何だったんだ? これまでと嫌に雰囲気が違ったが……。」
ココオウが頭を掻きながら近付いてくる。
額に汗が
「……少なくとも、これまでの大会には、こんな魔物は出てこなかった。」
「……!」
外から様子を窺っていたのだろうか。
スダを先頭に、ツギとテロも姿を現した。
「幾らサバイバルレースと言っても、こんな初見殺しのような能力を持った魔物を用意するとは思えない。」
スダに続いてツギが意見を述べる。
「じゃあ、やっぱり……。」
ケロタンは顎に手を添え、考え込む。
これがアクシデントならば、レースは中止になる可能性がある。
しかし、これは普通のレースとは違う。
魔物は何とか退治できた訳だし、レースはもう終盤。このまま続行も十分有り得る。
「…………。」
「? お前達、まさかレースを放棄する気か?
ゴールはもう目の前なのだぞ!」
その場の全員が沈黙する中、痺れを切らしたマカイが口を開いた。
確かに、このまま努力が無に帰すのは耐え難い。
しかし、こんな邪魔が入った状態でレースを続けて一位を取っても、納得できないような気もする。
「んー……。」
《カタカタカタカタ……》
「ん……?」
そんな時だった。
何かが小刻みに震えるような音が聞こえ出し、一同の脳裏に嫌な予感が過ったのは……。
見ると、バラバラになった筈の魔物の体が
「……っ!?」
フレアタンは驚きに目を見開いた。
魔物の残骸が突然、黒炎に包まれたかと思うと――宙に浮いて一箇所へと集まり始めたのだ……!
「まさか……再生してるのか……!?」
《ダッ!!》
マカイが走り出したのは、ケロタンが叫ぶのとほぼ同時だった。
彼は素早く水のレイピアを地に突き刺し、二体の召喚獣の名を叫ぶ。
「ジョーンズ! オルカリヴァー!」
《バッシャアアア!!》
さっき見た巨大なゾンビザメと、これまた巨大なシャチが水の無い地面より飛び出し、彼らは魔物の復活を阻止すべく、欠片に喰らい付いていく……!
しかし、完全に再生していないのにもかかわらず、魔物の体から強い黒炎が放たれ、それに包まれた二体は、一瞬で消滅……!
「何だと……!? 恐ろしい役立たず共だ……!!」
驚き、急ブレーキをかけるマカイ。
そんな彼に再生を果たした首が襲いかかる!
《シャアアアア!!》
「《リヴァイアサン》!!」
だが、しぶとさではマカイも負けていない。
レイピアを突き刺し、抜いた地面から間欠泉のように水が噴き出し、龍の姿になって、魔物に向かっていく!
《バシャァァアン!!》
それで魔物の動きを止めることは叶わなかったが、視界を塞いだことでマカイの回避は成功する。
魔物の体は誰も居ない地面を抉り、再び元の位置へと戻っていった。
「ウオオオォォ!!」
注意がマカイに向いている隙に魔物への接近を果たしたココオウは、自慢の拳を魔物の胴体に叩き込む。
《ズガァァアアン!!》
一撃で胴体を構成する岩石の一つを粉砕。だが、すぐに欠片は集まり始め――。
「っ……!?」
元に戻るかと思いきや、なんと今度は二つ目の首となり、本体から分離――厄介なことに二体目の大蛇となった。
「貴様ァー!! 増やしてどうする!?」
「知らねーよ!!」
《シャアアアア!!》
二体目の魔物が激しく尻尾を振り回す。
「うおっ!」「っ!」
それをココオウは跳躍で何とかかわすが、彼と同じく傍まで来ていたナダラは、疲れの所為か回避が間に合わず、クリーンヒット!
彼は地面を転がり壁際まで吹っ飛ばされ、仰向けに倒れ動かなくなってしまった。
「お、おい……!」
ケロタンはすぐにナダラの元に駆け寄り、無事を確かめる。
「…………。」
だいぶ傷だらけだが、気を失っているだけのようで、命に別条は無さそうだった。
しかし……あの顔を覆うほどに生えていた白い髭が取れてしまっている。
下の顔は、まるで少女のように美し……。
「ん?」
――というか、少女だった。
てっきり老人とばかり思っていたが、白い髭は全て付け髭だったようで、その下には真っ白な肌と可愛らしい顔が隠されていた……。
「あぁ? あいつ女だったのか……!?」
ココオウも驚きで目を丸くする。
「そんなことはどうでもいい! 来るぞ!」
マカイがキレ気味に言い、ケロタン達は慌てて魔物に向き直る。
魔物は再び体を黒ずませ、例の技を発動しようとしていた……!
「まずっ!」
《コオォォォォォン!!》
ケロタンはバリアで身を固めようとしたが、無駄であった。
魔物の体に浮き上がった眼を見た瞬間、全身が硬直し、技を維持できなくなってしまう。
(くそ……! 駄目か……!)
連続で使用できる技では無さそうだが、こうなると対処のしようが無い。
「ふっ、魔物め。私に同じ手は通用せんぞ! 何処からでもかかってくるがいい!!」
だが、マカイだけは何故か術が効いていないようだった。
よく見ると、ぎゅっと目を瞑ったまま、レイピアを振っている。
(そうか。)
どうやってフレアタンがこの技を防いだのか謎だったが、あの目を見なければ全身が固まることはないようだ。これが熟練者の勘の良さという奴なのか……。
しかし、それでもフレアタンの時と同じように魔物の位置が分からなければ、まともに戦うのは困難。
マカイはあらぬ方向へレイピアを向け、叫んでいる。
《シャアアアア!!》
そんな彼を無視して魔物が狙ったのは、コロッセオ入口まで退避していたテロだった。他にツギやスダ、フレアタンの姿もある。
(……!)
魔物の眼を見てしまったテロ達は、恐怖の表情すら浮かべられずに、その場に固まっている。
(くっ……。)
物凄いスピードで首を伸ばす魔物を前にして、ケロタンは何もできない。
フレアタンだけは何とか目を瞑ったようだが、消耗が激しく、反撃は難しいだろう。
(どうすればいい……!?)
短い間とはいえ、共に冒険した仲間の危機に何もできないのも、ケロタンは嫌だった。
しかし、彼らを助ける為には、まず魔物の術を解かなくてはならない。
ケロタンはその方法を考える。
考える。考える。考える、考える――。
そして、気付く。
この場で自分にできることは、何も無いということに。
(……?)
幾ら考えても思い浮かばなかった。
自分のピンチでは無いから? 才能が無いから? それとも疲れているから?
…………。
恐らく、全てが重なった結果なのだろう。
しかし、避けられない運命では無かった筈だ。
ケロタンは食い縛れない歯を食い縛り、伸ばせない手を前に伸ばした。
助けるには、遠過ぎる……。
ようやく
今は……仕方が無いと、諦めるしかないのか?
(そんなのは嫌だ……。)
欲張り過ぎなのは分かっている。多くを望めば望むほど苦しむことは分かっている。
それでも……、何一つ譲れなかった。
(……諦めたくない。)
だからケロタンは、己の
今はただ願った。再び、奇跡が起こることを。
「――――」
だが、この光景を遠くから見る
奇跡など……
この世に起こる事象は全て、偶然ではなく、必然であるべきなのだ。
例えそれが……、誰かの願いを壊すとしても……。
「破導式大剣術――」
「《