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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』第4話「アソビガミ」(3/6)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  二・Caligula Effect

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《………………》

 

 《……………………》

 

 《………………………………》

 

 

 「…………?」

 

 

 何か…………音が聞こえる…………。

 

 

 《サアアアァァァァァァァ…………》

 

 

 遠くから…………。水の音のような…………。

 

 これは…………シャワーの音?

 

 

 《ザアアアァァァァァァァ…………!》

 

 

 …………いや、それとは少し違う。

 

 雨……? 外で雨が降っているのか。

 

 勢いが増しているようで、音はどんどん大きくなっている。

 

 

 (何だ……?)

 

 

 《ザアアアアアアア!!

 

 

 「!?」

 

 

 突然、耳元で鳴り出す轟音。

 

 

 (うるさ……!!)

 

 

 俺は堪らず両手で耳を塞ぎ、目を開いた。

 

 

 《ザアアアアアアア!!》

 

 

 幾つもの白い点が、目の前で激しくうごめいている。

 

 

 (砂嵐……?)

 

 

 立ち上がり、辺りを確認すると、前回ほど真っ暗ではないが、薄暗い通路。

 

 幅は狭く、大量のテレビが山のように積み上げられ、砂嵐――スノーノイズを映している。

 

 

 (何処だ? ここ……。)

 

 

 考えてみるが……、全てのテレビがノイズの大合唱で、とてもじゃないが、集中できない。このまま聴いていると難聴になりそうだ。

 

 俺はすぐにその場から移動を始めた。

 

 両手は耳を押さえたまま、足元に気を付けながら、テレビとテレビの間を通り抜けていく。

 

 

 《ザアアアアアアア!!》

 

 

 誰かの家……?

 

 電気屋……?

 

 いずれにしろ見たことのない場所だ。前回の悪夢と同様、俺の記憶には無い。

 

 

 《ザアアアアアアア!!》

 

 

  「………………。」

 

 

 俺は早く抜け出そうと足を速めた。

 

 スノーノイズは集中力や睡眠の質を向上させる効果があると聞くが……。

 

 これはない。見ていると目までおかしくなりそうだ。

 

 通路の途中で扉を発見した俺は、すぐにその中に入り、扉を閉めた。

 

 

 《バタン――――――――》

 

 

 「ふー…………。」

 

 

 扉を閉めると、音が全く聞こえなくなった。

 

 

 (防音室なのか……?)

 

 

 部屋の中には、パイプ椅子と金属製のテーブルが置かれている。

 

 奥には横長のテレビ……。

 

 そして――。

 

 

 (気持ち悪いな……。)

 

 

 大量の監視カメラが天井の隅に……、まるで蜂の巣のように密集している。こんなに設置する意味はあるのだろうか。

 

 自分は集合体恐怖症ではないが、かなり気味の悪い光景。

 

 しかし、ここでひとまず落ち着けそうだ。

 

 俺はパイプ椅子に腰かけ、持ち物を確認した。

 

 ズボンの中にライター。それ以外の物は、やはり持っていない。寝る前に懐中電灯や鋏をポケットに詰めておいたが、無駄だったようだ。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 俺はライターの火を付け、心を落ち着けた。

 

 そして、この場所のことを考える。

 

 照明の無い部屋を、テレビの明かりだけが照らしている。

 

 天井には無数の監視カメラ……。

 

 扉は入ってきた場所以外に二つ……。

 

 

 「………………。」

 

 

 テレビの画面には先程から俺の姿……この部屋が映っているが……。

 

 暗視カメラの映像のようで、全体が緑色。天井のカメラの内、一つの映像がここに出力されているのだろう。

 

 しかし、何の意味が……?

 

 俺は立ち上がり、テレビの前に移動した。

 

 すると、画面の中の俺も、当然テレビの前にやってくる。

 

 特におかしなところはない。

 

 

 (リモコンとかは……無いか……。)

 

 

 テレビの置かれている台を調べてみたが、引き出しなども無い。

 

 

 (夢の産物を調べてもしょうがないな……。)

 

 

 人と会わなければ。

 

 とにかく、色々動き回ってみるしかない。

 

 俺は探索を始めるべく、腰を上げた。

 

 と、その時――。

 

 

 (…………?)

 

 

 暗視カメラの映像に、黒いもやのようなものが映り込んだ。ちょうど部屋の左にある扉の前のところだ。

 

 

 (何だこれ……?)

 

 

 ノイズ……?

 

 いや、ゆっくりだが、こちらに近付いてきている。

 

 俺は画面から目を離し、左後方を確認した。

 

 何もいない。

 

 しかし、再びテレビの画面に目を戻すと、黒い靄は俺のすぐ近くまで迫ってきていた。

 

 

 「…………!」

 

 

 ヤバいと感じ、素早くその場から移動する。

 

 右の壁に背を付け、俺はまた画面を見た。

 

 すると、黒い靄は俺を追尾するように移動方向を変えた。

 

 怪物……?

 

 

 (映像を通してしか見えないのか……?)

 

 

 分からない。

 

 だが、良いものとはとても思えない。

 

 俺は壁際を走り、扉を開けて、その先に逃げ込んだ。

 

 

 《ガタン!》

 

 

 すぐに扉を閉めるが、安心はできない。

 

 実体が無いなら、すり抜けてきてもおかしくないだろう。

 

 

 (映像は……。)

 

 

 部屋の中を見ると、またパイプ椅子と金属製のテーブルがあり、奥にテレビがあった。天井には大量の監視カメラ。

 

 さっきと同じか……。

 

 ――いや、テーブルの上に何か小さい物が置かれている。

 

 手に取ってみると、それはUSBメモリ。

 

 

 (中身は……。)

 

 

 今、確かめることはできない。

 

 俺はそれをズボンのポケットにしまい、テレビの前に移動した。

 

 

 「…………!」

 

 

 そこには俺と、黒い靄が映っていた。

 

 たった今、俺が入ってきた扉の前にいる。

 

 しかも、さっきとは靄の形が変わり、人型のようになっている。

 

 それは映像の中で俺に向かって両手を伸ばし、ゆっくりと近付いてきた。

 

 

 (くそ……。)

 

 

 何処までも追ってこられたら堪らない。

 

 俺は近くのパイプ椅子を持ち上げ、靄との距離を取った。

 

 効くかどうかは分からないが、まず一発これで試してみる。

 

 俺は画面を見て、黒い靄の位置を確認した。

 

 テーブルと重なっていたが、ちょうど離れたところだ。

 

 俺はパイプ椅子を畳んで両手で持ち、靄がやってくるのを待った。

 

 そして――。

 

 

 《ぶんっ!!》

 

 

 靄が目の前に来たところで、パイプ椅子を思い切りスイング。そのまま勢いで反対側の壁まで移動。

 

 手応えはまるで無いが……。

 

 

 (どうなった……?)

 

 

 画面を見ると、黒い靄の形が崩れ、動きが止まっていた。

 

 

 (やったのか……?)

 

 

 ………………。

 

 いや、駄目だ。またすぐに元の形に戻ってしまった。

 

 靄はまた俺に向かって移動を始める。

 

 

 (くっ……。)

 

 

 俺は近くの扉を開け、また別の部屋へと逃げ込んだ。

 

 とにかく逃げながら効きそうなものを探すしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ~ Another Side ~

               -?? ???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

 

 ………………。

 

 暗闇の中で、声が聞こえていた。

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

  

 何処かで聞いたような、無機質な女性の声……。

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

 

 何度も繰り返され、脳内に汚泥のように堆積たいせきしていく……。

 

 しかし、頭が酷くぼんやりとしている所為で、中々思い出すことができない。

 

 

 

 「…………。」

 

 

 それでも諦めずに記憶を探っていると、今日の出来事が思い起こされた。

 

 

 「なぁ、響子……。

  今朝、変な夢見なかったか?」

 

 

 それは、教室での響子との会話。

 

 

 「夢? 今日は見てないけど。何で?」

 

 「いや……。何か響子が死ぬ夢見ちゃってさ……。」

 

 「え? 私が?」

 

 「うん、妙にリアルで……。

  気分悪くしないでほしいんだけど、体が真っ二つになるっていう……結構グロい死に方……。」

 

 「うわっ、それは想像以上……。

  あ、でも私、お母さんから他人の夢の中で死ぬと、長生きできるって聞いたことあるな。

  実はかなりラッキーだったり?」

 

 「あー、逆夢さかゆめだっけ……? あれは夢占いでしょ?

  よく言われるけど、根拠は無いよ。」

 

 

 あれの元は、かの有名な精神分析学者――フロイトの「夢診断」だけど、今ではその研究に科学的価値が無いことが証明されてしまっている。

 

 あの時代には、脳内活動をモニタリングするfMRIなどが無かった為、かなり勝手な解釈で研究が進められていたらしいのだ。

 

 

 「はい。

  じゃあ気にしなくていいじゃん。

  夢は現実と関係ないんだから。」

 

 「うん……。」

 

 

 まぁ、確かにそうなんだけど……。

 

 

 「それより、昨日の配信見てくれた?

  前に薦めてくれた《流行り神》シリーズの実況始めたんだけど。」

 

 「ああ……ごめん。時間なくて……。」

 

 

 ………………。

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

 

 意識がはっきりしてきたところで、記憶の旅を中断した。

 

 こんなことを思い出したい訳じゃなかった。

 

 久丈くじょう 明日人あすひとは、ゆっくりとその目を開き、しばたいた。

 

 

 (ここは……。)

 

 

 暗闇の中に、四角い光が幾つも見える。

 

 視界がぼやけている所為ではっきりしない。

 

 

 (っ……眼鏡……。)

 

 

 上半身を起こし、眼鏡の位置を直す。

 

 そして、もう一度、光をよく見る。

 

 すると正体が分かった。

 

 無造作に積み上げられた何台ものパソコンが、その画面に赤いポップアップを表示している。

 

 

  [あなたは | 好きですか?]

 

 

 (あれは……。)

 

 

 思い出した。

 

 あれは「赤い部屋」。一時期話題になったホラー系のFLASHだ。

 

 懐かしい……。いや……、そんなことを思ってる場合じゃない。

 

 明日人は周りを見た。

 

 明らかに自分の部屋ではない。

 

 

 (また……。)

 

 

 また知らない場所で目を覚ました。

 

 

 (夢……。)

 

 

 昨日も見た。

 

 この感じは……まさか同じ……?

 

 

 (何で……。)

 

 

 忘れようとしていた記憶が蘇る。

 

 死の瞬間の……響子の顔。追いかけられ……巨大化した人体模型。

 

 あれは……本当に……?

 

 

 (いや……違う。響子は生きてた。全部夢……夢の筈。)

 

 

 頭が作り出してる、ただの幻。

 

 

 「…………。」

 

 

 でも、この生々しい……臨場感は一体何なのか。明晰夢という言葉で片付けられる訳がない。

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

 

 「…………!」

 

 

 冗談じゃない……。

 

 どっちにしろ……もうあんな目に遭うのは嫌だ。

 

 明日人は後ずさり、パソコンの山から距離を取った。

 

 そして、壁を背に膝を抱え、目を閉じる。

 

 

 (じっとしていよう……。)

 

 

 何もしなければ、何も起きない。

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

 

 (う……。)

 

 

 [あなたは | 好きですか?]

 

 

 text-to-speech(テキスト音声合成)による無機質な女性の声が、答えを急かすように繰り返される。

 

 聞いていて気持ちの良い声じゃない。

 

 明日人は耳を塞いだ。

 

 しかし、それでも音を完全に遮断することはできず、聞こえてくる。

 

 

 [あなたは見 | 好きですか?]

 

 

 「…………!?」

 

 

 (あれ? 何で……?)

 

 

 何もしていないのに、ポップアップに変化が現れる。

 

 

 (やめろよ……。)

 

 

 響子みたいな目に遭うのは……嫌だって。

 

 だが幾ら祈っても、ポップアップは止まらなかった。

 

 

 [あなたは見ら | 好きですか?]

 

 [あなたは見られ | 好きですか?]

 

 [あなたは見られる | 好きですか?]

 

 [あなたは見られるの | 好きですか?]

 

 [あなたは見られるのが | 好きですか?]

 

 

 「………………!」

 

 

 パソコンの画面が、真っ赤なポップアップで埋まった後、全て真っ黒に染まった。

 

 光が消えた所為で、何も見えない。真っ暗だ。

 

 

 (赤い部屋、じゃない……?)

 

 

 本来なら、[あなたは赤い部屋が | 好きですか?]となり、真っ赤な画面が表示される筈なのだが……。

 

 こんなのは知らない。分からない。

 

 明日人は更に縮こまった。

 

 

 (何も起きるな……。何も起きるな……。何も起きるな……。)

 

 

 頭の中で何度も祈る。

 

 

 《ゴトン…………》

 

 

 「…………!」

 

 

 だが、状況の変化は止まらない。

 

 今、何かが落ちるような音がした。

 

 何処から……何が……?

 

 自分がいる部屋ではない。

 

 

 (隣の部屋……?)

 

 

 暗くなる前、扉は見ていたが……。

 

 

 

 「…………。」

 

 

 明日人はゆっくりと立ち上がり、壁に手をついた。

 

 昨日みたいに、自分以外にも人がいるんだろうか。

 

 それとも怪物か……。

 

 

 「………………。」

 

 

 何処か、身を隠せる場所を探しておかないとマズいだろうか……。

 

 悩んだ末、明日人は歩き出す。

 

 なるべく音を立てないようにしながら、壁伝いに移動し、ドアノブを探す。

 

 

 (あった……。)

 

 

 ひんやりとした鉄の感触。

 

 明日人はそれを握り込んだ。

 

 

 「………………。」

 

 

 ゆっくりと捻り、扉を押していく。

 

 

 (……?)

 

 

 扉は開いた。

 

 しかし、少し開いたところで、抵抗を感じた。

 

 さっき落ちた物だろうか。

 

 もう少し力を加えれば動かせそうだが……。

 

 中々気が進まない。

 

 

 (やっぱりやめて……。)

 

 

 《バン!!》

 

 「……!?」

 

 

 音に驚き、固まる。

 

 後ろの方から、扉を思い切り叩いたような音が聞こえた。

 

 

 (何だよ……。)

 

 

 あっちに何かいるのか。

 

 しかし、反対側の扉は、パソコンの山で塞がれていて、開くことはない。

 

 

 「………………。」

 

 

 あれを少し崩せば、他の扉も塞げる。

 

 しかし、扉は三ヶ所。全てを塞ぐには足りない。

 

 こもるにしても、もう少し物が必要だ。

 

 明日人は手に力を入れ、扉を開き、出来た隙間を通り抜けた。

 

 

 《ガタン…………》

 

 

 扉を閉め、部屋の中を見る。

 

 ここも真っ暗……じゃない。

 

 奥の方に、薄いテレビが壁に立てかけるように置かれていて、それが光を放っている。

 

 

 (何が引っかかってたんだ……?)

 

 

 足元を見ると、そこにはバレーボールほどの大きさの何か・・が転がっていた。

 

 何か……。

 

 

  一瞬、頭が理解を拒絶した。

 

 それもその筈――。

 

 それは、人の頭の形をしていたのだ。

 

 

 (作り物……か?)

 

 

 こちらを向いてはいないが、触って確かめる勇気は無い。

 

 人形の首かもしれないが、もし、本物だったら……。

 

 明日人はなるべく見ないようにしながら、テレビの方に近付いた。

 

 何が映っているか、念の為、確認しておきたい。

 

 恐ろしいものが映っているかもしれないが、事前に分かれば、少しは心の準備ができる。

 

 明日人は背中に寒気を感じながら、恐る恐るテレビの画面を覗き込んだ。

 

 そこに映っていたのは……。

 

 

 (…………!)

 

 

 見覚えのある人間だった。

 

 暗視カメラの映像らしく、全体が緑色で分かりにくいが、あの髪型と服装……、昨日悪夢の中で見かけた。

 

 他の部分はよく覚えていないが、響子が死ぬ瞬間とその前後は、脳裏に焼き付いている。

 

 自分と同い年くらいの少年。確か響子が推しに似てるとか言ってたっけ。

 

 

 (何処の映像だ……?)

 

 

 少年は黒い靄に追われ、テーブルの周りを回っている。

 

 何故かは分からないが、ずっとカメラ目線だ。

 

 

 「…………。」

 

 

 そんなに見られても、自分にできることはない。

 

 明日人は目を逸らした。

 

 

 (頑張ってくれ……。)

 

 

 画面から目を逸らした明日人は、腰を上げ、テレビから離れようとした。

 

 

 「…………?」

 

 

 そこで違和感に気付く。

 

 何かの気配……、いや、視線……?

 

 突然、部屋の空気が変わったような、そんな気がして、明日人は辺りを見回した。

 

 

 「…………!」

 

 

 気の所為……ではなかった。

 

 あの首が……。地面に落ちていた首が、こちらを見ていた。

 

 顔はぐちゃぐちゃに歪んでおり、目も鼻も口も分からないが、微妙に動いており、呼吸らしき音が聞こえてくる。

 

 まさか生きているのだろうか。

 

 明日人は腰を屈めたまま、後ずさった。

 

 

 「うわっ……!」

 

 

 がくっとバランスを崩し、尻餅をつく。

 

 

 (いって……。)

 

 

 何が起こったのか。明日人は自分の腕の先を見て驚いた。

 

 なんと、テレビの画面に手が突き刺さっている。

 

 

 (嘘だろ……。)

 

 

 手を動かすと、画面が水面のように波立つ。

 

 腕を引いてみると、元に戻った。手は何ともなっていない。

 

 

 (もしかして……逃げられる……?)

 

 

 明日人は試しに顔を近付けてみた。

 

 頭の中に浮かぶのは、やはりペルソナ4。

 

 テレビの画面と接触すると、目の前が一瞬チカチカと光った。

 

 

 「っ。」

 

 

 思わず目を瞑り――そして開ける。

 

 

 「…………!?」

 

 

 するとそこは、画面に映っていたのと、同じ部屋だった。

 

 映像の中にいた少年と目が合う。

 

 

 「そこ通れるのか……!」

 

 「え。」

 

 

 一瞬、理解が追い付かず、明日人はフリーズする。

 

 だが、少年がテーブルと椅子を勢いよく引いてきたので、意図を察し、すぐにテレビから顔を引っこ抜いた。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 来るつもりなんだろうか。来れるのだろうか。

 

 しばらく待つと、テレビの中から少年の手と頭がにゅっと出てきた。

 

 テーブルの上に椅子を乗せて上がってきたのだろう。

 

 

 (何か、貞子みたいだな……。)

 

 

 少年は体を全てこちらに出すと、持っていたライターの火を付け、テレビを裏返した。

 

 

 「ふー……。」

 

 

 まさかこんなことになるとは……。

 

 明日人は床に座った状態のまま、少年を見上げた。

 

 前と横が白く、赤いメッシュの入った髪。長くて隠れてしまっているが、顔立ちは良い方に思える。

 

 自分の感覚に自信はないが、イケメンの部類に入るんじゃないだろうか。

 

 少なくとも自分よりはカッコいい。

 

 

 「お前、昨日の悪夢にいたな。」

 

 

 観察していると、少年が声をかけてきた。

 

 

 「うん……。

  そっちは確か、昇降口のところで……。」

 

 

 ………………。

 

 それから、互いに軽く自己紹介をした。

 

 六骸 修人。高校一年生で、学年は自分や響子と同じ。

 

 彼は名前を言い終えると、質問してきた。

 

 

 「俺は四日前からなんだが、いつから悪夢を見始めた?

  昨日からか?」

 

 「う、うん……。」

 

 「そうか……。じゃあ、この現象のことは詳しく知らないな。」

 

 

 少年は歩きながら、ライターの光で部屋の中を照らしていく。

 

 

 「…………。ここで死んだら、悪夢に関する記憶が全部消えるらしい。」

 

 「記憶が……?」

 

 

 じゃあ、それで響子は何も覚えてなかった……?

 

 

 「一緒にいたのは知り合いか?」

 

 

 少年は響子のことを聞いてきた。

 

 

 「…………。起きた後、学校で会ったんだけど、何も覚えてなかった。」

 

 「…………そうか。

  じゃあ後、住んでる場所のことも聞かせてくれないか。

  この現象がどれほどの規模なのか、調べたいんだ。」

 

 「あ、えっと……。」

 

 

 住所……。

 

 教えて大丈夫だろうか。

 

 

 「はぁ……。悪いが、答えてくれ。この先、何人と出会えるか分からないんだ。

  お前だって、こんな悪夢を見続けるのは嫌だろ。」

 

 

 少年は少し顔をしかめながら、答えを急かしてくる。

 

 怖い……。

 

 言わなきゃ殴られそうな雰囲気だ。

 

 

 「神奈川県横浜市の……泉区……」

 

 「学校は何処だ?」

 

 「夜巻やかん高校……。」

 

 「泉区……夜巻高校……クジョウ アスヒト……。」

 

 

 少年は聞き終わると、聞いたことを小声で何度も呟き始めた。

 

 

 「あの……。」

 

 「ああ……。急かして悪かったな。

  ここじゃ何が起きるか分からないし、時間を無駄にしたくないんだ。」

 

 

 少年は口調を和らげることはなく、さもめんどくさそうに早口でそう言った。

 

 中々、合理的で冷たい。

 

 でも、不思議と好感が持てる。

 

 多分、頼りになる人間が現れて、安心しているのだろう。

 

 

 「俺はもう行くが、お前は……ついてくるか?」

  

 「え。」

 

 「一応、お前には生き残ってもらわなきゃならない。

  記憶が消えたら話した意味が無くなるからな。」

 

 「それ……。」

 

 

 そのことに関して、一つ思うことがあった。

 

 

 「ここで死んでも、現実じゃ死なないんだよね?」

 

 「死にたいのか?」

 

 「あ、いや……。確かに、痛いのは嫌だけど……。」

 

 「諦めれば、この現象をいつまでも放置することになる。

  怖くても付き合ってもらうぞ。」

 

 「………………。」

 

 

 かなり強引だが、言ってることはよく分かる……。

 

 今はこの強引さに引っ張られるのも悪くないかもしれない。

 

 頭良さそうだし……、強そうだし……。

 

 ここで死んでも現実で死ぬ訳じゃないと分かって、少しは心に余裕が生まれてきたし……。

 

 

 「分かった……。俺も協力する。」

 

 

 明日人は立ち上がり、修人の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ L i t t l e  N i g h t m a r e ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を閉じている…………

 

 皆、目を閉じている…………

 

 まるで眠っているかのように…………

 

 心の無い人形であるかのように…………

 

 誰もXを見ようとしない…………

 

 

 

 

 

 …………。

 

 だからこれは……、誰も知らない筈の物語。

 

 泡沫うたかたの如く、儚く消えていく筈の物語。

 

 この世界に何も残らない、ただの夢……。