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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』第4話「アソビガミ」(4/6)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、監視室の悪夢での一幕。

 

 

 「ハァ…………ハァ…………。」

 

 

 ある部屋に、一人の男がいた。

 

 パソコンの光に照らされる、薄暗く狭い室内で、柔らかなパーソナルチェアに腰掛けている、凡庸な顔立ちの青年。

 

 彼は荒い息を吐き、ねちゃねちゃとした音を立てながら、下腹部に伸ばした右手をしきりに上下に動かしている。

 

 

 《あぁ……! あぁん……! あぁん……!》

 

 

 イヤホンから漏れる嬌声。机の上に置かれたパソコンの画面に映っているのは、美しい濡れ場のアニメーション。

 

 それを視界に収めながら、男は段々と手の力を強めていく。

 

 

 「んッ……。」

 

 

 高まる快感。吹き飛んでいく理性。

 

 体の奥底から熱いマグマが込み上げ、男は手の動きを加速させる。

 

 もう止まらない。もう限界だ。

 

 彼は遂に至福の時を迎える。

 

 

 《~~~~》

 

 

 達する直前、脳がスパーク――痺れるような快感が走り、白く濁った液体が左手のティッシュの中に溜まっていく。

 

 早まる心臓の鼓動。広がる多幸感。水鉄砲のように発射され、元気良く泳ぎ回る自分の分身達。

 

 やがてほとばしりが収まると、男は机の下の小さなゴミ箱に向けて、丸めたティッシュを放り投げた。

 

 

 「はぁ…………。」

 

 

 イヤホンを外し、パソコンの蓋を閉じる。

 

 男は静寂の中、目を瞑り、全身の力を抜いていった。

 

 心地の良い倦怠感。それに浸りながら、暗闇の中を漂う。

 

 

 (ああ……。)

 

 

 最高だ……。

 

 ぼんやりとしながら、男は思った。

 

 どうやら今回は……、アタリ・・・を引いたようだと……。

 

 

 「ふふふ……。」

 

 

 男の名は、一村いちむら 十八とうや横浜市内の大学に通う二年生。

 

 彼が悪夢を見るのは、修人達と同様、初めてではなかった。

 

 まだ日は浅いが、この世界のことは何となく理解している。

 

 痛みも快楽も、現実と変わりがないこと。ホラーゲームに登場するような怪物が出ること。自分以外にも巻き込まれている人間がいること。

 

 そして、何をやったところで、現実に然程影響が無いこと――。

 

 そう、一村にとっては、この現象が何なのか、何が原因で起きているのか、どうでもよかった。

 

 彼はこの不思議な世界で、自分の性欲を満たすことしか考えていなかった。

 

 

 「ふぅ……。」

 

 

 十分に余韻を堪能した一村は、ズボンを履き、椅子から立ち上がった。

 

 もし今回がエロい夢なら、ここで満足するのは勿体ない。

 

 扉を開け、部屋から出た一村は、左右に広がる通路に目を向けた。

 

 同じような個室が沢山並んでいる。

 

 この辺りは、寂れたネットカフェといった感じだ。掃除が全くされていない所為で、だいぶあちこちが汚れている。しかし、自分の家よりはマシに思えた。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 現実での生活は、色々と汚れ切っている。

 

 親は二人ともだらしのない人間で、父はパチンカス、母は野党のクズ議員。

 

 そんな彼らの遺伝子を受け継いだ上に育てられた自分は、当然の如く、ゴミになった。

 

 一応、金だけはあるので大学に通えてはいるが、特にやりたいこともないので、講義に対するモチベーションはゼロ。

 

 家ではずっと寝転がってばかりで、ネットに違法アップロードされた18禁動画やゲームを楽しむだけの毎日。

 

 駄目だとは思っているが、これが中々やめられない。

 

 完全にポルノ中毒というやつだった。

 

 自己嫌悪でこれまで何度死にたいと思ったか分からない。

 

 

 「………………。」

 

 

 しかし、何がきっかけか、こんな面白い現象に巻き込まれた御蔭で、もう少し生きたいと思えるようになった。

 

 このラッキータイムが終わる前に、夢を叶えたい。

 

 

 (サキュバスとかいないかな……。)

 

 

 折角こんな世界に来てるんだ。リアルの女よりは、やっぱり美少女モンスターの方が良い。あんまりグロいのは勘弁だが、搾り取られて快楽の中で死ねるならそれが一番。

 

 一村はそんなことを期待しながら、スマホのライトで通路を照らし、奥へ奥へと進んだ。

 

 近くに自分以外の誰かがいる気配は無い。

 

 

 (…………最悪、リアルの女でもいいんだけどなぁ……。)

 

 

 一村は頭の中で理想の美女達の姿をイメージする。

 

 

 (幼女とかJKとかは……普段絶対に手を出せないからな……。)

 

 

 そういえば、前に子どもを見かけた。頭に白い花の飾りを付けた可愛い女の子だった。

 

 あの時は怪物が近くにいたので飛び出せなかったが、勇気を出して追いかけていれば、仲良くなれたかもしれない。

 

 次は絶対にチャンスを逃さないようにしたい。

 

 

 (ん…………?)

 

 

 そんなことを考えていると、気になるものを見つけた。

 

 通路の壁に、大きめのモニターが取り付けられていて、光を放っている。

 

 何が映っているのか気になり、正面まで行くと、それは何処かの監視映像のようで、全体が緑色だった。

 

 

 (おお……!)

 

 

 だが、それを目にした瞬間、釘付けになった。

 

 その映像の中では、リアルの男女が繋がっていたのだ。顔は見えないが、髪が長く、胸の大きいスレンダーな女と、屈強な男……。

 

 男が女の上半身をテーブルの上に乗せ、後ろから両腕を掴んで激しく腰を打ち付けている。

 

 

 (すげぇ……。)

 

 

 カップルなのだろうか。

 

 分からない。分からないが、まさか先を越されているとは……。

 

 心臓の鼓動が早まってくる。

 

 

 「はは……。」

 

 

 やはりここでヤりたくなるのは、自分だけではないのだ。

 

 妙な安心感を覚えた一村は、もっと画面に顔を近付けた。

 

 今さっき出したばかりなのに、もう股間のモノは硬くなり始めている。

 

 

 「…………!」

 

 

 そこで、彼は気付く。映像の中に入れることに。

 

 画面を触った手が吸い込まれ、その先の空間にあるものに触れる。

 

 

 (おお……?)

 

 

 思い切って首を突っ込んでみると、そこは映像と同じ部屋。

 

 

 《パン! パン! パン!》

 

 

 肉と肉のぶつかり合う音が響く、行為の場だった。

 

 

 (これは……うおぉ……。)

 

 

 まるでAVの中に入った気分。興奮で思わず、落ちそうになってしまう。

 

 今は壁のモニターから上半身を出している格好。

 

 一村は一旦体を横にし、行為中のカップルに背を向けた状態で床に着地した。

 

 

 「ふー……。」

 

 

 二人はまだこちらに気付いていない。

 

 音は聞こえている筈だが、それだけ行為に夢中なのか。

 

 

 「なぁ、ちょっと。」

 

 

 一村は男に声をかけてみた。

 

 ひょっとしたら混ぜてくれるかもという淡い期待を抱きながら。

 

 しかし――。

 

 

 《パン! パン! パン!》

 

 

 返事は無し。

 

 聞こえていないのか、無視されているのか、男は腰の動きを少しも乱す様子が無い。

 

 

 (人間だよな……?)

 

 

 一村は二人の顔を確認する為、ゆっくりとテーブルの横に回り込んだ。

 

 

 「…………!」

 

 

 そこで、ようやく違うことに気付いた。

 

 一瞬、見間違いかと思ったが、男と女の顔は、どちらもぐにゃぐにゃに歪んでいて、人間のそれではなかった。

  

 目も鼻も口も本来の位置には無く、普通の感覚で見れば、とても気持ちが悪い。

 

 しかし――。

 

 

 (……女は女だ。)

 

 

 一村はイける口だった。

 

 別にのっぺらぼうだったとしても、体がこれだけエロければ関係ない。

 

 昔、サイレントヒルのバブルヘッドナースで抜いたこともあるくらいだ。エログロ耐性は十分にある。

 

 

 (NPC姦か……悪くない。)

 

 

 物言わぬ怪物の方が気兼ねなく犯せる。本物とする前の練習に良い。

 

 

 (しかし、邪魔だな……。)

 

 

 《パン! パン! パン!》

 

  

 男はさっきからずっと同じ動きを繰り返すだけだが、あの体格……自分の腕力ではどうにもできない。

 

 

 (それに……。)

 

 

 一村は天井を見上げた。

 

 四つ角に大量の監視カメラが設置されている。

 

 

 (どんだけ見てんだ……。)

 

 

 見られながら……というのは場合によっては良いものだが、これは何だか気味が悪い。

 

 居心地が悪いというか、とにかく行為に集中する際に邪魔だ。

 

 一村は監視カメラを睨み付けた。

 

 だが、都合良く消えてくれることはない。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 仕方なく一村は、他の部屋を確認してみることにした。

 

 

 (まぁ、ここ以外にも何かあるだろ……。)

 

 

 入ってきた場所から見て、西側の扉が半開きになっている。

 

 そこを覗いてみると、奥の方に椅子の形に変形した手術台が見えた。真上には眩しいほど光る無影灯むえいとう

 

 

 (こっちは何かヤバそうだな……。)

 

 

 しかし、手術台の近くに気になる物が置かれている。

 

 

 (ん……? VRヘルメット……?)

 

 

 ハートマークの描かれた張り紙も見える。

 

 

 「………………。」

 

 

 それに心引かれた一村は、部屋に入り、手術台の近くまで歩いた。

 

 そして、ヘルメットの傍の張り紙を読む。

 

 

 (《姦脳メーカー》……。)

 

 

 無限の快楽の世界へ……、と書かれている。何だか凄そうだ。

 

 一村はヘルメットの一つを持ち上げ、中身や外側のデザインなどを見てみた。

 

 

 (うーん、エロいな……。)

 

 

 大きく淫紋が描かれていて、かなり期待が持てる。

 

 紙には細かい指示も書かれていたので、一村はそれに従い、ヘルメットを持って、手術台に腰掛けた。

 

 後はスイッチを押して、頭に被るだけ……。

 

 

 「すぅー…………。」

 

 

 深呼吸をし、心の準備を整える。

 

 罠の可能性はあるが、どうしても誘惑に抗えない。

 

 

 (騙してくれるなよ……?)

 

 

 一村はワクワクとしながら、起動したヘルメットを被り、手術台にもたれかかった。

 

 すると――

 

 《ガシャッ》――という音がし、両腕両脚が拘束――身動きが取れなくなってしまった。

 

 

 (うっ……。)

 

 

 緊張が高まる。

 

 ……だが、一村は慌てず、目を閉じて祈り続けた。

 

 

 《ブゥゥゥゥゥゥン……》

 

 

 「…………?」

 

 

 目の前が少し明るくなり、一村は薄く目を開いた。

 

 何かが表示されている。

 

 

 (脳……?)

 

 

 ヘルメット内部の画面に、MRIで撮影したかのような脳の断層写真が映し出されている。

 

 一体誰のものか……。嫌な汗が出る。考えたくはない。

 

 

 《ブゥゥゥゥゥゥン……!》

 

 

 「…………!」

 

 

 じっと画像を見ていると、急に頭に痛みが走った。

 

 

 (頭痛か……?)

 

 

 締め付けられるような痛みだった。

 

 それはヘルメットの音が大きくなるにつれ、強まっていく。

 

 

 「ぐっ……あ…………ああ…………。」

 

 

 一村は頭を左右に振った。

 

 両手は固定されている為、ヘルメットを外すことができない。

 

 

 《ブゥゥゥゥゥゥン!!》

 

 

 ヘルメットがどんどん熱くなっている。

 

 頭が茹で上がりそうだ。

 

 一村は歯を食い縛り、暑さと痛みに耐えた。

 

 目の前の画面に表示される脳の形がどんどん歪んでいく……。

 

 あまりの気持ち悪さに、胃液が逆流しそうになる。

 

 

 (うぇ…………。)

 

 

 それを必死に抑えること、十数秒。

 

 ようやく暑さと痛みが引き始め、一村は安堵の息を吐いた。

 

 

 《ガシャッ》

 

 

 拘束も解け、やっと自由になる。

 

 

 《ガン!》

 

 

 「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」

 

 

 手術台から転がり落ち、ヘルメットを投げ捨てた一村は、地面に手を突きながら、呼吸を整えた。

 

 

 (マジで死ぬかと思った……。)

 

 

 一村は額に手を当て、異常がないかを確認する。

 

 

 「っ……!」

 

 

 頭はまだ触ると痛む。

 

 しかし、それよりも気になることが……。

 

 一村は自分の股間を見た。

 

 痛いほどに勃起している。

 

 

 「ハァ……、ハァ……。」

 

 

 体が尋常じゃなく熱い。

 

 

 (何だこれ……。)

 

 

 これがあのヘルメットの効果……?

 

 暑過ぎて体中から汗が噴き出してくる。

 

 一村は耐えられず、ズボンとパンツ――ついでに上の服も脱ぎ捨てた。

 

 

 「ふー……。」

 

 

 全裸となり、天井を見上げる。

 

 軽い……。とても軽い……。身体の底から力が溢れてくる。悪くない気分だ。

 

 無限の快楽の世界……。どうやら真実味が増してきた。

 

 一村は急いでさっきの部屋へと戻る。

 

 そこではまだ、歪んだ顔の男女が激しくぶつかり合っていた。

 

 

 (女……!)

 

 

 女体を視界に入れた途端、更に興奮が高まる。

 

 他のことは何も気にならなくなっていた。

 

 全裸で歩き回ることも、あの大量の監視カメラの視線も。

 

 何故、今まで気にしていたのか分からない。

 

 一村は未だに腰を振り続けている屈強な男に近付き、掴みかかった。

 

 

 「おい……! どけよ……!!」

 

 

 強い口調で怒鳴り、男の体を激しく揺さぶる。

 

 だが、男の動きは止まらない。

 

 

 「ア゛ア゛ア゛ー!!」

 

 

 一村は獣のような叫び声を上げ、男の体を蹴りまくった。

 

 

 「どけよ!! どけっ!!」

 

 

 大量の視線を気にすることなく、みっともなく騒ぐ。

 

 

 「ウラァァ!!」

 

 

 そうしていると、不思議なことが起こった。

 

 

 《ザシュッ!!》

 

 

 「…………!?」

 

 

 右腕が男の首に突き刺さる。

 

 いや、違う。突き刺さったのは、剣だ。

 

 いつの間にか、両腕が剣に変わっていた。

 

 

 「あ……?」

 

 

 ちょうど肘から手の先までの部分が、鋭利な刃物と化している。

 

 だが、一村は特に驚かなかった。

 

 それよりも女。女のことしか考えられない。

 

 

 《ブシュッ!》

 

 

 もう片方の剣も男の首に突き刺す。

 

 だが、それでも男の腰は止まらない。

 

 

 (死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……!!)

 

 

 一村は剣と化した己の腕を深く突き刺していき、男の首の中で交差させた。

 

 そして――

 

 

 《ブシュッ!!》

 

 

 思い切り腕を振り、首を落とした。

 

 ぼとっと床に落ちて転がる歪んだ顔。

 

 何故か血は一滴も出ない。その代わりに、黒い靄のようなものがしゅうしゅうと噴き出し始めた。

 

 

 《ドサッ》

 

 

 ようやく動きを止めた男の体を蹴飛ばし、女との結合を解除させる。

 

 

 (俺の番だ……。)

 

 

 女の背後に立った一村は、元に戻った手で彼女の腰をガシッと掴む。

 

 股間にはまだ一本、剣が生えたまま……、一村はそれを目の前の鞘に思いきり押し込んだ。

 

 

 《にゅるん……》

 

 

 前の男がガンガン突いていた所為でだいぶ濡れている。

 

 男の体液が残っているのが少々気持ち悪いが、気持ち良いのでもうどうでもいい。

 

 一村は腰の動きを加速させた。

 

 

 《パンッ! パンッ! パンッ!!》

 

 

 今まで味わったことのないような快楽が全身を突き抜ける。

 

 もうまともな思考はできない。

 

 童貞卒業の感動も、怪物に対する嫌悪や恐怖心もない。

 

 ただただ気持ち良さに身を委ね、一村は猿のように腰を振り続けた。

 

 

 「ハァ……! ハァ……! ハァ……!!」

 

 

 あっと言う間に込み上げてくる射精感。

 

 今の状態なら、幾らでも出せそうな気がする。

 

 いつもなら寸止めで長く楽しむところだが、ここは既に無限の快楽の世界――気にする必要はなさそうだ。

 

 一村は腰の動きを速め、ラストスパートに入ろうとした。

 

 

 《ッ!》

 

 

 しかし、勢いを付け過ぎたのか、穴からモノが抜けてしまう。

 

 いや、急に締め付けが緩んだのだ。

 

 

 (なんで……。)

 

 

 折角イけるところだったのに。

 

 一村は苛立ちながら、視線を下に落とした。

 

 

 「あ…………?」

 

 

 そこで、女の体が真っ二つになっていることに気付いた。

 

 腰から上がテーブルの向こうに滑り、残った下半身が机の下にくにゃりと落ちた。

 

 両手がまた剣と化していた。

 

 

 「ああ…………。」

 

 

 一村はふらふらと揺れた後、しゃがんで女の下半身を掴んだ。

 

 断面から黒い靄を噴き出すそれを持ち上げ、また穴にモノを突っ込む。

 

 

 《ぐちゅ……ぐちゅ……ぐちゅ……》

 

 

 だが、締め付けが足りず、ちっとも満足できない。

 

 

 「うゥゥ!!」

 

 

 怒りのあまり、女の下半身を投げ捨てる。

 

 

 (穴……穴…………。)

 

 

 代わりになるものを探す。

 

 それはすぐに見つかった。

 

 一村は床に倒れていた屈強な男の体を持ち上げると、その後ろの穴に自分のモノを突き刺した。

 

 

 「……!」

 

 

 体液に塗れている為、すんなり挿入は果たされる。

 

 さっきのものよりかはキツくて気持ちが良い。

 

 一村は再び腰を振り始めた。

 

 無限に膨れ上がった性欲を満たす為、何度も何度も同じことを繰り返す。

 

 その姿は、最早人間ではなく、ただの獣であった。

  

 

 ………………。

 

 

 快楽を得る為には、その分、理性を引き換えにしなければならない。

 

 全てを向こうに渡した彼は、もう二度と元の世界に戻ってくることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ~ Another Side ~

               -六骸 修人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あれ……?」

 

 「? どうした。」

 

 

 移動しようとしたところで、明日人が声を上げた。

 

 何か気になることでもあるのか、部屋の中をきょろきょろと見回している。

 

 

 「顔が無い……。」

 

 「顔?」

 

 「うん……、さっき人の生首があの辺りに落ちてたんだけど、いつの間にか消えてる。」

 

 「………………。」

 

 

 俺はもう一度ライターで部屋の中を照らしてみた。

 

 隅から隅までよく確認する。――が、特に何もない。

 

 

 「まぁ……、ここは夢だからな。

  何が起きても全くおかしくない。あまり気にするな。」

 

 「うぅ~ん……、そう言われても……。」

 

 

 明日人は落ち着かない様子だ。どうやらこういう雰囲気の場所はあまり得意じゃないと見える。

 

 この先、怪物に遭遇した時、何とか取り乱さないでほしいものだが……。

 

 

 (厳しいか……。)

 

 

 俺もまだこの悪夢の全てを知ってる訳じゃない。

 

 坂力が裁朶姉に伝えた情報も、100%正しいとは言い切れないし……、俺の中にも、僅かだが恐怖があるのは事実だ。

 

 分からないものは怖い。

 

 

 「そうだ。お前、何か変わった力は使えないのか。」

 

 「え……? 何?」

 

 「ここは夢の中だから、思いの強さが武器になる。 

  俺の場合は、体から黒炎を出せるんだが……。」

 

 「黒炎……。

  それって、中二病的な……?」

 

 「まぁ、そんな感じだが、都合が良いんだ。

  怪物に追い詰められた時、俺は恐怖より怒りの感情が勝る。

  その怒りからイメージしやすいのは炎。

  追い詰められればられるほど、火力が上がっていくのは理に適ってると思わないか?」

 

 それに、色が黒ければ普通の炎と混同することもない。

 

 

 「確かに……。」

 

 

 明日人は納得した様子で顎に手を当てる。

 

 しかし、口で説明されただけでは、まだ半信半疑だろう。

 

 

 「ちょっとやってみせる。

  条件をまだ把握してないから、すんなり出せるかどうかは分からないが……。」

 

 

 俺はライターを壁に向け、念じながら着火した。

 

 すると――

 

 

 《ボウゥ!!》

 

 

 「……!?」

 

 「お、ほんとに黒い……。」

 

 

 本当に黒い炎が出た……。

 

 

 (どうなってる……?  何でまた急に――)

 

 

 前回は幾ら念じても使えなかった。なのに、何で今回はこんな簡単に……。

 

 俺は頭を悩ませた。

 

 

 (ライターの気まぐれ? いや、そんなの納得できない……。)

 

 

 条件……すぐに突き止められるか……。

 

 いや……、無理か。

 

 俺は一旦考えるのを後回しにし、明日人への説明を続けた。

 

 

 「……。こんな感じで、お前も何か特殊な力が使える筈なんだ。

  想像しやすいものを頭に思い浮かべてみろ。好きなものとか。」

 

 「想像しやすい……好きなもの……? う~ん……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ~ Another Side ~

               -久丈 明日人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (う~ん……。)

 

 

 明日人は考える。

 

 想像しやすい、自分の力を。

 

 しかし、自分は動画投稿以外に取り柄がない。

 

 思い浮かぶのは、アニメやゲーム、ネットのことばかり。中々一つに絞れない。

 

 

 「駄目なら、その眼鏡でもいい。ビームとか出せたら……。」

 

 「いや、クソダサ過ぎるって……。」

 

 

 心理的抵抗があり過ぎる。

 

 もっと受け入れられるもの……。使いたくなるようなものは……。

 

 

 《ぷにっ》

 

 

 「ん?」

 

 

 その時、足が何か柔らかいものに触れた。

 

 

 (何……。)

 

 

 足元を見てみると、そこには生首・・が――

 

 

 「うわぁう!!」

 

 

 明日人は驚き、思わぬ場所に虫を見つけた時の如く、飛び退いた。

 

 何でここに生首が……!?

 

 

 「ゆっくりしていってね。」

 

 「え……? え……?」

 

 「ゆっくりしていってね。」

 

 

 物凄く聞き覚えのある声。

 

 まさか、生首から……?

 

 明日人は眼鏡を押さえ、もう一度生首をよく見てみた。

 

 それは人間の首にしてはでかくて……、丸くて……。

 

 

 「お……おお…………。」

 

 

 なんと……ゆっくりだった。

 

 しかも、自分の動画で使っていて、愛着のあるオリジナルのもの。

 

 ヘッドホンとサングラスを着けていて、髪は黒猫っぽい感じで……。

 

 

 「ゆっくりしていってね。」

 

 

 (か、可愛過ぎか……?)

 

 

 明日人は手を伸ばし、ゆっくりの丸々とした頬に触れてみた。

 

 

 《ぷに……ぷに……》

 

 

 (お、お、お……。)

 

 

 おちんちん勃つよこんなの感動で……。まさかリアルゆっくりに触れられる日が来るなんて……。

 

 

 「で……、それ何ができるんだ?」

 

 

 感触を楽しんでいると、修人が変なものを見るような顔で突っ込んできた。

 

 

 「ゆっくりしていってね。」

 

 「………………。」

 

 

 何…………何ができるって、そりゃあ、あれだよ……。

 

 いつも喋らせることしかやらせてないから……。

 

 

 「可愛く喋る……だけ……。」

 

 「う~ん……。音を出すなら、怪物に襲われた時、囮に使えるが……。」

 

 「え。」

 

 

 明日人に電流走る。

 

 ゆっくりを……囮に使う?

 

 こんな可愛い生き物を……犠牲にする?

 

 

 (さてはゆっくり虐待派か……!?)

 

 

 悪魔の所業としか思えない、ゆ虐……。

 

 それを俺にしろっていうのか……? 

 

 

 「だだだ駄目駄目駄目、そ、そそれは駄目……!」

 

 

 明日人は急いでゆっくりを抱え上げ、修人を睨み付けた。

 

 

 「ゆっくりしていってね。」

 

 (絶対に守ってみせる……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ~ Another Side ~

               -六骸 修人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (何か、急に目つきが変わったなこいつ……。)

 

 

 さっきまで怯えていたのに、雰囲気がまるで別人だ。

 

 

 「ゆっくりしていってね。」

 

 (あれが精神安定剤になったのか?)

 

 

 理解はできないが、まぁ、人の好みにあれこれ言うべきじゃない。

 

 やる気を出してくれるなら何でもいい。

 

 

 「これで思いの強さが武器になることは分かったろ。

  追い詰められても、諦めるなよ。」

 

 「うん。」

 

 (ゆ)「うん?」

 

 

 明日人に続き、ゆっくりが気の抜ける声で返事を返す。

 

 どうやら、ただ同じ言葉を繰り返すだけではないようだ。

 

 

 (ウザいな。)

 

 

 喋るのはほどほどにしてほしいものだ。

 

 

 《バン…………!!》

 

 

 「…………?」

 

 

 明日人の能力について考えていると、壁の向こうから何かがぶつかったような音が聞こえた。

 

 

 「何の音だ……?」

 

 「ああ……、さっきも同じ音聞いたよ。

  誰かいるのかも。」

 

 

 明日人も壁を見つめ、警戒する。手の中にゆっくりを抱いたまま。

 

 

 「とりあえず、前は俺が担当する。

  お前は後ろから何か来ないか見ててくれ。」

 

 「分かった。」

 

 (ゆ)「任せな。」

 

 

 俺は近くの扉を開き、明日人と背中合わせで通路を進んだ。

 

 黒炎が使える今なら、必要以上に警戒しないで済む。

 

 今日はなるべく多くの仲間を見つけて、情報を交換したいから、ガンガン行こう。

 

 

 《バン!!》

 

 

 通路の奥でまた扉を見つけた。

 

 音はこの先から聞こえてくる。

 

 俺はライターを構え、扉を勢いよく開いた。