Security is mostly a superstition. It does not exist in nature, nor do the children of men as a whole experience it. Avoiding danger is no safer in the long run than outright exposure. Life is either a daring adventure, or nothing.
(安全とはほとんどが思い込みに過ぎないのです。それは自然界には存在せず、人の子が経験するものでもありません。危険を避けることは、長い目で見れば、危険にさらされるよりも安全ではないのです。人生は危険に満ちた冒険か、もしくは無か、そのどちらかしかありません。)
≫ 東京都・渋谷区・
23日・午後4時頃――
東京都渋谷区の裏世界・虹幻町にて――
「静かだな……。」
表世界の道玄坂辺り。とあるライブハウスの前に、数人の男達が集まっていた。
彼らは先頭の一人を除き、皆、消防隊が着るような、防火服に似たデザインの赤い服に身を包んでいて、その服の背には、片目から炎の噴き出た、赤い虫のマークが描かれている。
「
ガラガラヘビって、自虐のつもりなのか?」
ガスマスクを付けた男が、建物に取り付けられた看板を見上げながら、前に立つ男に尋ねる。
「どうせこれも批判をかわすのが狙いだろ。
臆病なんだよ。こんな場所に一人で閉じこもりやがって。」
彼らは渋谷のカラーギャング・レッドバーンズ……。
そのリーダーは、頭にダイナマイトのような筒の付いたベルトを巻いている男――
ガスマスクを付けているのは、副リーダーの
現在、彼らはヴァイオレット・エリクスの拠点となっているライブハウスを、武闘派のメンバー達と共に取り囲んでいた。
ここはリーダーの
「ほんとに一人で行く気か? 大勢いる気配はないが、罠がないとは限らないだろ。」
「いざとなったら合図を送る。お前達は邪魔が入らないよう外を見張ってろ。」
「「はい。」」
仲間の返事を聞くと、炎上はライブハウスの中へ一人で足を踏み入れた。
………………。
基本的にネットでの活動が中心のレッドバーンズだが、メンバーが増えてからは、こうして問題人物の居場所を特定してのリア凸なども行っている。
なるべく事前に連絡を入れ、暴力沙汰は避けるようにしているが、それでも危害を加えてきた場合は例外――。
悪人には社会の制裁を受けさせる。社会が制裁を与えることを恐れるのなら自分達がその役目を引き受ける。
罪には罰を、それがレッドバーンズの正義であった。
犯罪だの、私刑だの、当然うるさい声もあるが、その考えがどれだけの人間を救わなかったことか。
炎上は、今の法や社会のシステムが不完全だと考え、足りない部分を補う為に、自分達のような組織が必要だと訴えている。
彼の言動は実績を積む度、多くの称賛を得て、応援する積極的な支援者も付き、組織規模はカラーギャング最大となった。
今後もその地位は簡単には揺るがないだろう。
「…………!」
ライブハウスの奥へとやってきた炎上は、紫色の光に照らされたステージの上で機材をいじっている男を発見した。
顔を白と黒に塗り、ヘヴィメタル風のファッションに身を包んだ不気味な男……。
あれがカラーギャング、ヴァイオレット・エリクスのリーダー、不紫蛇 壺毒。
只者ではない雰囲気を放っているが、あれでもまだ炎上と同じ高校三年生だ。
ステージに近付くと、不紫蛇は気配に気付き、ゆっくりと立ち上がった。
「よォ……。俺の孤独の箱をハイジャックでもシに来たのか?」
「いや。そんな意味ねーことするかよ。メッセージは読んだろ? 例の
あっちこっちに気味悪い落書きしやがって。」
「落書き……?
ハッ。俺は芸術だと聞いてるがな。バンクシーみたいでイイじゃねぇか。」
「世間はそんな評価はしてない。軽犯罪法違反だ。
今すぐやめさせるか、居場所を教えろ。」
「ハァ…………。」
不紫蛇はさもめんどくさそうに溜息を吐きながら頭を掻くと、再び炎上に背を向け、機材の前に腰を下ろした。
「そうやって無視してれば諦めて帰るとでも思ってるのか?
カメラを入れてもいいんだぞ?」
「ふっ……。
一人で来るとか書いてた癖に、やっぱり後ろに大勢控えさせてるのか。ロックじゃねぇな。」
「生憎と色んな曲を聴くんでな。
俺はお前らと違って、向こう見ずじゃない。」
「へっ。何も見えてねーよ、お前には。」
不紫蛇は蛇の模様が描かれた紫色のギターを手に取ると、再び立ち上がった。
「俺は
だからあいつらが何処で何をやらかそうが、俺には関係ないんだな。」
「っ。てめぇ……。それでも一組織のリーダーか。
責任てもんがあるだろ。」
「組織っつったって、所詮はカラーギャング。何カッコつけてんだ。
他人を叩きまくることしかできない低能共が。」
「…………。それは違うな。俺達の活動は実際に人を救ってる。大勢に評価されてる。」
「大勢ってどんくらいだ? 評価って具体的にはどんなものだ?
欠点のある人間をいじり倒して、悦に浸っているだけじゃないのか?
そういう奴らはまともなのか?
一体どれだけの人間が純粋な気持ちで、お前達の活動を応援してるんだろうな?」
「………………。」
炎上は拳を握り締めた。額には青筋が浮かんでいる。
(落ち着け、あいつのペースに乗せられるな。)
手は一切出さず、言葉だけで相手を追い詰める天才――不紫蛇 壺毒。
レスバ最強――信者の間ではそう言われているらしいが……。そんなものは幻想だ。
「顔の見えない連中なんて何を考えてるか分からない。どういう立場かもな。
あそこに住み付いてる奴らの大半は口だけで、問題の解決はいつも他人任せだ。そんな有象無象の共感を得て、幾ら味方に付けたところで、本当に世界を変えられる筈もない。」
「じゃあ何もするなって?
苦しめられてる人達を見過ごせっていうのか?」
「俺はただ……、異常者が人間扱いされない世の中が我慢ならねーのさ。
人を殺したい。女を犯したい。働きたくない。
そういった願望を持っちまった人間は、一体何処へ行けばいいんだ?
皆この世界が生み出したってのによ。全員隔離か死刑にすべきってか?」
「それは……。」
「土壌が汚染されてるのを無視して、上手く育たない稲を出来が悪いと刈り取って、滑稽なもんだ。」
「…………そう思うなら、お前もこんなところにいないで、何か行動したらどうだ?」
「ハハハハハ!! 俺はまだ高校生なんでな。今は学業と遊びに集中する時期だろ。
俺はお前らと違って健全な大人に成長したいんだよ……。
そうでなきゃ、
「だったら、こんなくだらないチーム、今すぐ解散しろ!
どれだけ多くの人間に迷惑かけるつもりだ!?」
「ハァ……。お前の言う通りにして、何が変わる?
俺からメンバーに何かを求めたことはない。
つまり、俺が解散を宣言したところで、何も変わりゃしない。あいつらは好き勝手に行動し続ける。
そもそもリーダーとか、誰が上だ下だとか、そんなヒエラルキーはヴァイオレット・エリクスにはねーんだよ。」
「何だそりゃ……。」
「分かれよ。
犯罪者集団じゃねぇ。
社会も、お前達も救えない人間達、それがヴァイオレット・エリクスだ。」
「………………。」
炎上は一旦、言い返すのをやめ、考えることにした。
(悪人にも事情があるってヤツか……。)
彼らを更生させることができるなら、それが一番なのは分かってる。
でも、相手が完全に価値観の固まった人間なら、変えるのは困難だ。甘やかしていたら、反省するどころか調子に乗ってエスカレートするに決まってる。
そもそも、悪は完全に無くすことはできない。
だからせめてその行い、間違いを衆目にさらし、次の世代の反面教師となるよう炎上させるんだ。
悪を許さない、真っ当な人間が増えるように。
「……
悪いがお前が世界を変えるなんて信じられない。犯罪者を擁護してる時点でロクなことするとは思えねぇ。」
「そうか……。ならどうする?」
「勝負だ。」
炎上は服から拡張現実眼鏡を取り出す。
「もし俺が勝ったら、
「へっ。じゃー、こっちも何か要求しなきゃならねぇな。
俺が勝ったら、1ヶ月間、レッドバーンズは活動休止ってのはどうだ? 勿論、個人でも控えてもらう。」
「いいだろう。」
炎上と不紫蛇は、それぞれ拡張現実眼鏡をかけ、勝負の開始を宣言する。
「「ランカーズファイト!!」」
眼鏡が声を認識し、目の前に情報が表示されていく。
先攻はランダムに決まり、炎上 火之海。
彼は目の前に表示されたカードを見てニヤリと笑うと、ターンを開始した。
―【TURN 1】 炎上 火之海 【LP 5000】―
「俺のターン!
《バズフレイム・ブーイ》、《バズフレイム・ヒーボ》を召喚!
更に《バズフレイム・ローカス》は、場に【バズフレイム】シリーズのユニットが存在する時、コスト無しで召喚できる。」
《バズフレイム・ブーイ》[Rank 1・POWER 800]―召喚石 1/3
《バズフレイム・ヒーボ》[Rank 2・POWER 800]―召喚石 0/3
《バズフレイム・ローカス》[Rank 1・GUARD 800]
片目から炎を出す三匹の赤い虫が炎上のフィールドに出現。
モチーフとなっているのは順にハエ、ホタル、イナゴ――。全て属性・炎、種族・インセクトのユニットだ。
「《ローカス》のスキル発動!
デッキからもう1体の《ローカス》を召喚し、新たに呼び出した《ローカス》のスキルで3体目の《ローカス》を召喚する!」
《バズフレイム・ローカス》[Rank 1・GUARD 800]
《バズフレイム・ローカス》[Rank 1・GUARD 800]
「早速、群れてきやがったか……。」
「これだけじゃ終わらないぜ?
《ヒーボ》のスキル発動! 場の【バズフレイム】の数×100のダメージをお前に与える!」
《シュボッ!!》
《ヒーボ》の燃える尻から火の玉が放たれ、不紫蛇に直撃!
「………………。」【不紫蛇 LP5000 - 500 = 4500】
「最後に《ブーイ》のスキルを発動。
【バズフレイム】が相手にダメージを与えた時、一度だけ、デッキから【バズフレイム】シリーズのカード1枚を手札に加えることができる。
俺が加えるのは《燃料投下》。
ターンエンド。」
―【TURN 2】 不紫蛇 壺毒 【LP 4500】―
「スゥ……。」
不紫蛇は体についた火の粉を払い、自分のターンを開始する。
「フッ……。俺のタァーン!」
「…………!」
「フィールドカード《
表情と声のトーンを変えた不紫蛇は、フィールドを塗り変える。
カードがプレイされた瞬間、空間が歪み、周囲には人型爬虫類の観客、床には絡み合った毒蛇の模様が現れ、激しいヘヴィメタルがスピーカーより流れ出す。
「このフィールドの効果で、手札の《蛇狂徒ハブ》を捨て、デッキから《蛇狂徒バイパー》を召喚!」
《蛇狂徒バイパー》[Rank 6・POWER 1800]
「更に手札から《蛇狂徒アダー》を召喚!」
《蛇狂徒アダー》[Rank 4・POWER 800]―召喚石 0/3
不紫蛇の場にヘヴィメタル風のファッションに身を包んだ二体の人型爬虫類が現れ、炎上を激しく威嚇する。
「《アダー》のスキル発動。
デッキから【蛇狂】シリーズのスキルカード《ゴアグラインド》を手札に加える。
そして! 手札の《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》のスキル発動! 場の二体の《蛇狂徒》をデッキに戻すことで、コスト無しで召喚できる!」
《ギュイイイイイイイン!!》
後方へ下がった二体の《蛇狂徒》が姿を消すと同時に、宙よりエレキギターを持った大柄な人型爬虫類が姿を現す。
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》――。不紫蛇 壺毒のデッキのエースユニットだ。
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》[Rank 8・POWER 2500]
「召喚後、俺はデッキに戻った《蛇狂徒》の数だけドローする。
さァ、バトルと行こうか。」
フェイズが切り替わり、《ヘルヴィネス・メタル》の目が赤く発光する。
「《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》は、自分フィールドの前方6マス――アタックゾーンに存在するユニットが自身だけの時、相手フィールドのユニット全てに一度ずつ攻撃できる。」
「何……!?」
「虫ケラ共を蹴散らせ! 《ヘルヴィネス・メタル》!
攻撃宣言時にスキルカード《ゴアグラインド》を発動!
このターン、俺の場の【蛇狂】シリーズのユニット1体がバトルで相手ユニットを破壊した時、そのRank×200――1体につき最大1000のダメージを相手に与える!
この効果は、俺の場のユニットが1体のみの場合、無効化されない!」
「おっと、やらせるかよ!
スキルカード発動。《スルースキル》!
このターン、【バズフレイム】が攻撃されることで発生するバトルダメージは0になる。」
「だが、《ゴアグラインド》の効果によるダメージは受けてもらうぜ?」
《グアアアアアアーー!!》
《ヘルヴィネス・メタル》が咆哮を上げると同時に衝撃波が走り、炎上の場のユニットが全て吹き飛ばされ、破壊される。
「っ……!」【炎上 LP5000 - 1200 = 3800】
「フン……。雑魚を潰しても大したダメージにはならねーな。
ターンエンド。」
―【TURN 3】 炎上 火之海 【LP 3800】―
「やれやれ、まさか全滅するとはな。
だが、まだ勝負はここからだ。俺のターン!」
炎上は目の前に表示されている4枚の手札を見つめ、頭の中で展開の道筋を組み立てる。
「フッ……、手札を1枚捨て、《燃料投下》発動!
ソウルエリアの【バズフレイム】を三体まで蘇生する。
蘇れ! 《ヒーボ》、《ブーイ》、《ローカス》!!」
《バズフレイム・ヒーボ》[Rank 2・POWER 800]
《バズフレイム・ブーイ》[Rank 1・POWER 800]
《バズフレイム・ローカス》[Rank 1・GUARD 800]
「そして、《バズフレイム・ゴギー》を召喚!」
《バズフレイム・ゴギー》[Rank 2・POWER 600]―召喚石 1/3
「今度はゴキブリかよ。
次は何が出てくるんだ? ノミか? ダニか?」
「馬鹿にしてられんのも今の内だ。
《ゴギー》のスキル発動。ソウルエリアの【バズフレイム】1体をデッキに戻す。
俺は《バズフレイム・ローカス》をデッキに戻し、これを場にいる《バズフレイム・ローカス》のスキルで召喚。
そして《ヒーボ》のスキルで場にいる【バズフレイム】の数×100のダメージだ!」
「こんな火じゃ燃えねぇなァ……。」【不紫蛇 LP4500 - 500 = 4000】
「【バズフレイム】がダメージを与えたことで、《ブーイ》のスキルでデッキから《フレーム戦争》を手札に加える。
さぁ、俺のエースを見せてやるぜ。」
炎上の場には現在、属性・炎、種族・インセクトのユニットがT字に並んでいる。
「サモンタイプ・フォーメーション!
T字に並んだ5体の【バズフレイム】をドライブ!!」
ユニット達が熱風に包まれ、天高く飛んでいく!
「内に秘めるは大和の魂――。その身に纏うは紅蓮の鎧――。
気炎万丈! 揺るがぬ闘志で燃やし尽くせ!!
《バズフレイム・キング・バンカブト》!!」
業火の中から赤く巨大なカブトムシが現れ、炎上のフィールドに降り立つ。
《バズフレイム・キング・バンカブト》――。炎上 火之海のエースユニットだ。
《バズフレイム・キング・バンカブト》[Rank X5・POWER 2000]
「カブトムシ……。へっ、他人の不幸は蜜の味ってか?」
「いいや。こいつはそんな本能に負けたりはしない。
まず素材となった《ヒーボ》のスキル発動!
相手ユニット1体に、素材になったユニットの数×100のダメージだ。」
火の玉が現れ、《ヘルヴィネス・メタル》に向かっていく!
「この時、《バンカブト》のパッシブスキルにより、【バズフレイム】カードの効果で与えるダメージが倍増!」
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》[GUARD 3000 - 500 × 2 = 2000]
「そんなんじゃ俺の《ヘルヴィネス・メタル》は燃やし切れねーぜ?」
「今のはただの下準備だ。
本命は――《バンカブト》のスキル発動!
ダメージを受けている相手ユニット1体をデッキに戻す!」
「…………!」
「そして《バンカブト》が存在する限り、戻ったユニットと同じ名前のユニットは場に出せず、スキルも使えない。
これでてめぇのエースをBANだ!」
「中々惨いことするじゃねーか。
だが……、スキルカード《ヘビーローテーション》を発動!
このカードの効果により、場の《ヘルヴィネス・メタル》を手札に戻し、デッキから2体の《蛇狂徒》を召喚する。
来い、《蛇狂徒マンバ》と《蛇狂徒コブラ》!」
《蛇狂徒マンバ》[Rank 6・GUARD 2000]
《蛇狂徒コブラ》[Rank 6・POWER 2300]
「チッ、かわしたか……。
俺はスキルカード《バズワード・クロス》を発動。
ソウルエリアの【バズフレイム】を5体――《ヒーボ》、《ブーイ》、《ローカス》3体をデッキに戻して、2枚ドローする。
…………。よし。
《飛んで火に入る夏の虫》を発動!
相手ユニットが自分ユニットより多い場合、デッキからRank 2以下の【種族・インセクト】のユニットを2体まで召喚できる。
《バズフレイム・ハッチ》と《バズフレイム・カッデム》を召喚!」
《バズフレイム・ハッチ》[Rank 2・POWER 800]
《バズフレイム・カッデム》[Rank 2・POWER 1200]
「そしてソウルエリアの《バズフレイム・ゴギー》は、一度だけ蘇生できる。」
《バズフレイム・ゴギー》[Rank 2・POWER 600]
「《ハッチ》のスキル発動!
次のターン終了時まで、《カッデム》のPOWERを《バンカブト》に加える!」
《バズフレイム・キング・バンカブト》[POWER 2000 + 1200 = 3200]
「さぁ、バトルだ!
まずは《バンカブト》でプレイヤーにダイレクトアタック!!
衝撃のバーストレッド!!」
《ゴオオォォ!!》
《バンカブト》の体が炎に包まれ、角の先に巨大な火球が生成される!
「スキルカード《フレーム戦争》!
その効果で、このターン、【バズフレイム】が攻撃する度に相手に300のダメージ。
《バンカブト》のスキルで倍になり、600のダメージだ!!」
【不紫蛇 LP4000 - 600 = 3400】
「フッ……。ノってるとこわりィが、スキルカードだ。《ブームスラング》。
相手ユニットが攻撃してきた時、場の【蛇狂】ユニット1体を選択。
攻撃してきたユニットに選択したユニットのPOWER分のダメージを与え、攻撃を無効にする。」
《バズフレイム・キング・バンカブト》[GUARD 3500 - 2300 = 1200]
「その後、選択した《コブラ》はデッキに戻る。」
「止めやがったか……。
だがまだ攻撃は終わりじゃねーぞ。
《カッデム》と《ハッチ》で《マンバ》を攻撃!」
《蛇狂徒マンバ》[GUARD 2000 - 1200 - 800 = 0]
【不紫蛇 LP 3400 - 600 - 600 = 2200】
「《ゴギー》でダイレクトアタック!」
【不紫蛇 LP 2200 - 600 - 600 = 1000】
「………………。」
虫達の連続攻撃を受け、追い込まれる不紫蛇。
ちょうど流れていたBGMも止まり、辺りは静寂に包まれる。
「どうだ。少しは響いたかよ?
ターンエンド。」
―【TURN 4】 不紫蛇 壺毒 【LP 1000】―
「ハァ…………。」
不紫蛇はターンが切り替わると、心底つまらなそうに溜息を吐いた。
「響かねぇなァ……。ちっとも響かねェ……。
俺をもっとマジにさせてみろよ。」
「何……?」
「しょうがねぇから、さっさと終わらせてやる。俺のターン!」
《♪! ♪! ♪! ♪!》
不紫蛇がカードを引くと同時に、新たなBGMがフロアに流れ始める。
それは先程よりもテンポが早く、勝負の終わりを予感させるものだった。
(強がってるようにしか見えねぇが……。)
炎上は手札のカードを見つめながら、心を落ち着かせる。
「俺は《蛇狂の箱》の効果を発動!
手札の《蛇狂徒》を捨て、デッキから《蛇狂徒アダー》を召喚。
そして《蛇狂徒コブラ》を召喚!」
《蛇狂徒アダー》[Rank 4・POWER 800]
《蛇狂徒コブラ》[Rank 6・POWER 2300]―召喚石 0/3
「《蛇狂徒アダー》のスキルにより、《メロイック・サイン》をデッキから手札に加え、場の二体の《蛇狂徒》をデッキに戻し、手札の《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》を召喚!」
再び、二体の《蛇狂徒》が後方に下がって姿を消し、宙よりエレキギターを持った大柄な人型爬虫類が姿を現す。
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》[Rank 8・POWER 2500]
「まぁ、そいつを出すだろうな。
だが、俺が何も対策してねーとでも思ってるのか?
《バンカブト》が存在する限り、お前は俺を直接攻撃できず、《バンカブト》以外の【バズフレイム】を攻撃対象にすることもできない。
《バンカブト》を倒せなきゃ、終わるのはお前だぜ?」
「フフ……。
サモンタイプ……アナザー!」
「…………!?」
「ライフが1000以下の時、《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》は新たな姿へと進化する。」
《コォォォ……!》
《ヘルヴィネス・メタル》の体からオーラが迸り、変化が始まる……!
「歪んだ世界に潜む異常者共! 今すぐ目覚めてこの声の元に集え!
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル・ディストーション》!!」
《グオオオオォォォ!!》
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル・ディストーション》[Rank X8・POWER 2500]
筋肉量が増し、より巨大かつ凶悪な見た目になった《ヘルヴィネス・メタル》。
これが不紫蛇 壺毒のエースユニットのもう1つの姿!
「スキルカード《メロイック・サイン》を発動!
《蛇狂神》が存在する時、デッキから《蛇狂徒》を2体まで召喚できる。
ただし、この効果で召喚されたユニットはこのターン、攻撃とスキルの使用ができない。」
《蛇狂徒コブラ》[Rank 6・GUARD 1800]
《蛇狂徒アダー》[Rank 4・GUARD 1800]
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル・ディストーション》
[POWER 2500 + 500×2 = 3500]
「……! POWERが上がったか……!」
「そうだ。《ディストーション》のPOWERは、《蛇狂徒》1体につき、500アップする。
更に、《蛇狂徒》1体の元々のPOWER分、【蛇狂】以外の全てのユニットのPOWERをダウンだ!」
《バズフレイム・キング・バンカブト》[POWER 3200 - 2300 = 900]
不紫蛇が選択した《蛇狂徒コブラ》のPOWER 2300分ダウンし、炎上の場のユニットは《バンカブト》以外POWERが0に!
「くそっ、とんでもないな……。」
炎上は唇を噛む。
「スキルカード、《デスラッシュ》により、このターン、《ディストーション》は2回攻撃できる。
これで終いだ。
《バズフレイム・キング・バンカブト》を攻撃!!」
《ディストーション》がギターを構え、大きく跳躍する!
「かかったな……!」
「ア?」
「スキルカード、《フレイムブーメラン》!!
【バズフレイム】が攻撃されることで発生するバトルダメージをお前にも与える!」
「……っ!」
「俺のライフは3800、お前のライフは1000、そしてこのバトルで発生するダメージは2600!
勝つのは俺だ!」
《ガキィィィィン!!》
振り下ろされたギターと《バンカブト》の角の間に巨大なブーメランが挟まり、エネルギーを吸収する!!
「…………最後の最後でやってくれるな。
だが、それならこっちもスキルカードだ。
《ブラックゲイズ》!!」
《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル・ディストーション》
[POWER 3500 + 1250 = 4750]
「何っ!?」
「ソウルエリアの【蛇狂】ユニット――《蛇狂神ヘルヴィネス・メタル》を手札に戻し、そのPOWERの半分を場の【蛇狂】ユニット1体に加える。」
これで発生するバトルダメージは3850――
エネルギーを吸収し終えたブーメランは、空中で二つに分かれ、炎上と不紫蛇の元へ飛んでいく!
《ズドオォォォン!!》
【炎上 LP 3800 - 3850 = 0】
【不紫蛇 LP 1000 - 3850 = 0】
激しい火柱が上がり、両者のライフが同時に尽きる。これは――
― DRAW ―
「くっ……。引き分けかよ……!」
宙に表示された文字を見た炎上は、膝に手をつき、項垂れた。
「ハハハ! こうなった時、どうするかは決めてなかったなぁ……。変なカードを使ったお前の責任だぞ? 残念だったな。」
不紫蛇はステージを降り、炎上の元へ近付く。
「そっちこそ、威勢の良いこと言ってた割に、パッとしない結果で内心悔しいだろ。」
「いいや? 負けなければ俺の勝ちだからな。
俺はメンバーを守り抜き、お前は何の手柄も持ち帰れない。」
「…………。これで終わりじゃねーぞ。」
「フン……。もう一度チャンスが欲しいか?」
「いや……今日のところはやめておく。
ランカーたるもの、勝負の結果を潔く受け入れよ……。Tower of Rankersの掟だ。」
炎上は不紫蛇に背を向け、出口に向かって歩いていく。
「おい。待てよ。」
「ん? なん――」
振り返った炎上は、目の前に飛んできた四角いケースをキャッチする。
「何もないんじゃ可哀想だからな。それをやるよ。
俺の新曲。寂しくなった時に聴いてみな。」
「……? いらねーよこんなもん……。」
――と、言いつつも、上着のポケットにしまう。熱くなってもしょうがない。
「ま、確かに四六時中、同じ考えを持った仲間に囲まれてるお前じゃ、この曲の良さは分からないかもしれないがな……。」
不紫蛇は炎上の姿が見えなくなると、ステージに腰掛け、天井を見上げた。
(さて……悪魔たる俺の言葉は、少しは響いたかねぇ……。)