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『異端のネシオ』2Hz「異常性クラスメート」(3/7)

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 ≫ 杉並区・一常高校・二年I組教室

 

 

 

 …………まぁ、渋谷になんて普段行かないから、自分がカラーギャング同士の抗争に巻き込まれるなんてことは、早々ないだろう。

 

 

 …………フラグじゃないぞ。

 

 

 「あ、億卍おくまんじからメールだ。」

 

 (ん?)

 

 

 弁当を食べ終わり、休憩していると、ミツヤが携帯を見ながら声を上げた。

 

 すると、マザネも携帯を手に取り――

 

 

 「ほんとだ。僕のとこにも来てる。」

 

 「あ、こっちにも……。」

 

 「ワイもだ。」

 

 

 綿貫うずもそれぞれ携帯の画面を見始めたので、自分も携帯を取り出し、メールボックスの中を確認してみる。

 

 そこには確かにクラスメートの一人――億卍おくまんじ 解俸かいほうからのメールが届いていた。

 

 件名は……

 

 

 ――【高額案件OMCJ-X01 《犯罪支援アプリ》の謎に迫れ! ――

 

 

 (犯罪支援――)

 

 

 そのワードを見た瞬間、思わず手が震え、携帯を落としそうになる。

 

 

 「え~っと……。

  今年に入ってから、東京都内における犯罪の発生件数が急増している。

  特に軽犯罪の発生件数の伸びが顕著であり、調査の結果、犯罪を助長する、犯罪支援アプリなるものの存在が判明した……。」

 

 

 自分はメールを開かなかったが、マザネが読み上げた所為で耳に入ってしまった。

 

 

 「ふ~ん……、調査協力者を募ってるみたい。参加する場合はなるべく早く返信しろって。」

 

 「俺は絶対関わらないぞ。」

 

 

 早めに不参加の意思を表明しておく。

 

 

 「あ、でも凄いよ。

  参加報酬・三万円、成果報酬・百万だって……。」

 

 「え……。」

 

 

 綿貫が震えながらこちらを見てくる。

 

 参加するだけで三万円……?

 

 

 (俺の小遣い半年分……。)

 

 

 普通の高校生としては無視できない金額だ。

 

 

 「こんなん実質ばらまきやん。参加するしかねぇだろ。」

 

 「いや……、でも上手い話には裏があるって……。」

 

 「黙れ小僧!」

 

 

 うずは俺の忠告を無視してさっさと返信を済ませてしまう。

  

 

 「う~ん、僕はどうしようかなぁ……。

  お金なら余裕あるんだけど……。」

 

 「貰えるもんは貰っとけよ。いらないならくれ。綿貫も。」

 

 「え……うん……、お金は渡さないけど……。」

 

 

 マザネミツヤ綿貫も参加を決めたようだ。

 

 俺は急いでメールを開き、何か怪しい文言がないかを確かめた。

 

 集合場所や日時に問題はないか、危険な場所への潜入を強制させられたりしないかなど――

 

 しかし、そういった具体的なことは一切書かれておらず、代わりに――

 

 

 「これ先着10名だから、早く決めねーと枠埋まるぞ。」

 

 

 募集人数10名ほど……という文言が目に入った。

 

 早い者勝ち……。これってやっぱり、金さえ払えば何でもするような人材を求めているんじゃないだろうか……? 自分には荷が重い気がする……。

 

 

 「俺はやめとく……。何やらされるか分からないだろ。」

 

 「まぁ、確かにな。でも億卍だし大丈夫だと思うぞ。

  前にも良い案件くれたからな。」

 

 「………………。」

 

 

 そう言われても、ミツヤの基準なんか信用できない。相手が同い年の高校生でも、住んでる世界が違うんだ。

 

 

 (億卍……。)

 

 

 滅多に登校してこない生徒の内の一人なので、まだ数回しか見てないし、話した回数はもっと少ないが……、父親大手金融グループ・零宝れいほうの社長で、その金管や一部子会社の経営などを任されているという話は聞いた。

 

 親の七光りもあるだろうが、ちゃんと実力があるようで、億単位の金を一声で動かせるだけの権力と人望があるという。

 

 ミツヤ達は仲良くしておけば、様々な恩恵を受けられると言っているが、俺はとてもじゃないが、近寄る気にはなれない。

 

 いつも大勢の護衛に守られてるらしいし、何かの拍子に怪我をさせたり、貴重な時間を奪ってしまったりしたら、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃないだろう。

 

 

 (金融関係は怖いイメージしかないんだよな……。)

 

 

 アニメ漫画の影響はあるけど、実際に不正融資とか、パワハラとか、ブラックなニュースが耳に入ってくるし……。

 

 そういう競争の激しい世界で生きている億卍にとっては、俺みたいな平凡な人間は路傍ろぼうの石同然だろう。困った時に助けてくれるなんて期待を持ってちゃ駄目だ。

 

 俺は億卍からのメールをゴミ箱に移動させた後、完全に削除した。

 

 

 (金なんてあっても不幸になるだけだ……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 わずかな金で満足すること、これもひとつの才能である。

 

Jules Renard(ジュール・ルナール

 

 

 

 

 

 

 ≫ 東京都・港区・芝浦港南地区

 

 

 

 23日午前十時頃――

 東京都・港区高層ビル――零宝れいほうビル最上階にて――

 

 

 

 「お前達は、仮想通貨メリットを知っているか?」

 

 「え?」

 

 「株とは違い、24時間365日取引を行うことができ、世界中の何処へでも、低いコストで瞬時に送金することが可能という利便性――

  ブロックチェーン技術を用いれば、全ての取引情報を余すことなく記録し、データの改竄も防ぐことができる。万能ではないものの、高い安全性を確保できる訳だ。」

 

 「………………。」

 

 「完全なる取引データ。通貨の希少性は勿論だが、透明性の高さは信用に繋がり、より高い価値を生み出す。

  我が社のシステムを持ってすれば、個人の特定まで可能だ。

  それがどういうことか分かるか?」

 

 「いや……何が何だか……。」

 

 

 先程から部屋の真ん中に立ち尽くし、話を聞いていた男達は、緊張で頭が真っ白になっていた。

 

 大の大人二人が、よわい十六の高校生に威圧され、まともに口がきけないでいる。

 

 この異様な状況の中、彼らを宙に浮いたデスクから見下ろす少年――億卍 解俸は、更に話を続けていく。

 

 

 「…………。

  つまり……、誰がいつどこで何にどれだけの金を使ったかが、すぐに分かるということだ。

  社会において、金の流れを追えるということは、真実を知ることに繋がる。」

 

 「………………。」

 

 「鈍いな。お前達が借りた通貨を何に使ったか、こちらは全て把握しているということだ。」

 

 「あ……。」

 

 

 男達の背筋は凍る。

 

 

 「さて……、お前達に大金を操る資格があるかどうか見させてもらったが、見事に不合格だ。よって――」

 

 

 スイッチが押され、宙に浮遊するデスクが下がり、床へと着くと、億卍は椅子から立ち上がり、拡張現実眼鏡をかけた。

 

 

 「これが最後のチャンスだ。

  俺達のどちらかに勝つことができれば、お前達の借金は帳消しにしてやる。

  しかし、もし二人とも敗北した場合、こちらの命令に従い、すぐに指定の場所に向かってもらう。」

 

 「はい……。」

 

 「よし……。」

 

 

 帽子を被った気弱そうな男と、ガタイの良い中年男――

 

 彼らもそれぞれ用意していた拡張現実眼鏡をかけ、勝負の準備を整える。

 

 

 「それで、億卍君。僕はどっちの相手をすればいいんだい?」

 

 「どっちでもいい。好きな方を選べ。」

 

 「じゃあ……。」

 

 

 億卍の隣に立つ、眼鏡をかけた緑髪の少年が片腕を上げ、中年男を指差す。

 

 

 「うわっ……!」

 

 

 すると、一瞬で二人の姿が消え、帽子の男は驚き、声を上げた。

 

 

 「二人には別の場所で勝負をしてもらう。

  時は金なりだ。さっさと済ませよう。」

 

 「…………!」

 

 

 壁に大量の取引情報が流れる円形の部屋の中心にて――

 

 ある一人の男の運命を決める勝負が始まる。

 

 

 「「ランカーズファイト!」」

 

 

 その結果を見透かしているような笑みを浮かべる億卍は、先攻の表示を確認すると、自分のターンを開始するのだった。

 

 

 

 

 ―【TURN 1億卍 解俸 【LP 5000】―

 

 

 

 

 「俺のターン。

  フィールドチェンジ――《仮想領域》。」

 

 

 《ポゥゥ……

 

 

 億卍がフィールドカードをプレイした瞬間、床が半透明となり、青く発光する円柱状の空間へと景色が塗り替わる。

 

 高所恐怖症でなくても、思わず足がすくんでしまいそうになるフィールド。

 

 帽子の男は焦りを隠せず、上と下を交互に見た。

 

 

 「こんなことでいちいち心を乱すな。慌てず気流を読め。

  この世界では上手く風に乗った者が遥か高みへと行けるが、乗れなければ落ちるだけだ。

  俺はスキルカード《エアドロップ》を発動。手札の【ドラグリプター】ユニット1体をコスト無しで召喚する。

  《ドラグリプター・ビット》を召喚!」

 

 

 《ドラグリプター・ビット》[Rank 8・POWER 2000]

 

 

 「そして《ドラグリプター・イーサ》を召喚!」

 

 

 《ドラグリプター・イーサ》[Rank 5・POWER 1500]―召喚石 0/3

 

 

 光る点と線で体が構成された二体のドラゴンが、半透明の床を突き破り、億卍のフィールドに出現する。

 

 属性種族サイバー / ドラゴン、モチーフとなっているのは、やはり仮想通貨のようだ。

 

 

 「2体のスキルを発動!

  コイントスの裏表を当てることで、次のターン終了時までPOWERが上昇または下降する。

  俺は両方とも表を選択。」

 

 

 億卍がそう宣言すると、2体のユニットの前に巨大なコインが現れ、自動でコイントスが行われる。

 

 その結果は――

 

 

 「まずまずだな。《ドラグリプター・ビット》POWERは1000上昇。《イーサ》POWERは500下降する。

  この時、《仮想領域》の効果により、上昇・下降の値に500がプラスされる。」

 

 

 《ドラグリプター・ビット》[POWER 2000 + 1000 + 500 = 3500]

 《ドラグリプター・イーサ》[POWER 1500 – 500 – 500 = 500]

 

 

 「え……、運任せ……?」

 

 「不思議か? 俺がこのようなカードを使うことが。

  だが、運の大部分は選択によって決まるもの。

  これは真剣勝負だ。気を抜けばすぐに落ちるぞ。」

 

 「…………!」

 

 「エンドフェイズ、【ドラグリプター】ユニットのコイントスを当てていた場合、《仮想領域》の効果でカードを1枚ドロー。

  ターンエンドだ。」

 

 

 

 ―【TURN 2鳥山 高司 【LP 5000】―

 

 

 

 「お、俺のターン。

  俺は……《FXBファイナンシャル・クロス・バード―アルバトロス》を召喚。」

 

 

 《FXB―アルバトロス》[Rank 3・POWER 500]―召喚石 1/3

 

 

 「更に《FXB―オーストリッチ》は、自分フィールドに【FXB】ユニットが存在する場合、召喚に必要な召喚石が1つ減るので、召喚。」

 

 

 《FXB―オーストリッチ》[Rank 6・POWER 2300]―召喚石 0/3

 

 

 「そしてライフを2000支払うことで、《FXB―アーキオプタリスク》は、召喚石の消費無しに召喚できる。」

 

 

 【鳥山 LP 5000 – 2000 = 3000

 

 《FXB―アーキオプタリスク》[Rank 9・POWER 2900]

 

 

 帽子の男のフィールドに3体の【種族:バード】のユニットが出現。

 

 モチーフは順にアホウドリダチョウ始祖鳥のようだが……。

 

 

 「鳥山とりやま 高司たかしだったな。

  FX取引での失敗を懲りず、今度はカジノで大損。

  随分、ギャンブルに依存しているようだが、その自覚はあるのか?」

 

 「えぇ……それは……。でも、やめる訳にはいかなくて……。

  能力が無いから、そういう方法で一発逆転を狙うしか……。もう……。」

 

 「ただの思い込みだな。

  そんな生き方を続けるのであれば、この勝負に勝ったところで何も変わらない。」

 

 「思い込み……?」

 

 「お前の能力は既に調査済みだ。

  まだ若く健康。合う仕事など幾らでも思い付く。足りないのはやる気だ。」

 

 「…………。そんなこと言われても、これまで何度も挫折を味わってきた……。

  今更自分に自信を持つなんてとても……。」

 

 

 「人間は、3日で変われる。」

 

 

 「…………?」

  

 「心理学者アルフレッド・アドラーの言葉だ。

  お前が望むなら、俺はたった3日でお前を生まれ変わらせてやれる。」

 

 「ど、どうやって……?」

 

 「それを知りたければ、まずはこの勝負に全力で臨むことだ。

  俺を少しは楽しませてみろ。」

 

 

 

 

 

 ≫ 天楼の間

 

 

 

 

 

 《ヴォイド・ギアス・ヌル》[Rank 0・POWER 0]

 《ヴォイド・ギアス・レイ》[Rank 0・POWER 0]

 《ヴォイド・ギアス・ニヒル[Rank 0・POWER 0]

 

 

 「ふ……。

  ステータスが皆0とは、中々ユニークなデッキを使うね。」

 

 「………………。」

 

 「無工田むこうだ 一文いちもんさんだったかな。

  ネットアイドル風俗に金をつぎ込み過ぎて、借金塗れになってたみたいだけど、今回のお金もまたほとんどそっちに入れてるね。自分の生活を犠牲にしてまでやることかい?」

 

 「……余計なお世話だ。

  毎日苦しい中、唯一の生きがいなんだよ……。」

 

 

 無工田は顔をしかめ、上から目線で語る緑髪の少年を睨み付ける。

 

 

 「やれやれ……。幾ら貢いでも相手と付き合える訳じゃないんだよ? リターンが少な過ぎると思わないのかい? やめろとは言わないけど、ほどほどにしておくことをオススメするよ。」

 

 「…………。

  じゃあ他に何に使えって言うんだ。この歳で今更生き方を変えたところで、何もかも手遅れだろう。」

 

 「僕はそうは思わないよ。

  この広大な社会において、必要とされない人間は一人も存在しない。

  僕らはそれを証明する。」

 

 

 眼鏡をかけた緑髪の少年――只乃やの 博人ひろとはそう言い終えると、ターンを開始した。

 

 

 

 ―【TURN 2只乃 博人 【LP 5000】―

 

 

 

 「僕のターン。

  スキルカード《パラダイムシフト》を発動。

  デッキから、同じカードが場に存在しないフィールドカードを発動する。

  僕がこの効果で発動するのは、《天界の摩天楼》。」

 

 「…………!」

 

 

 一瞬で景色が変わり、雲の上。

 

 周囲を見回すと、そこには何棟もの高層ビルがそびえ立ち、それらはプレイヤーが立つ柱の周囲を惑星のようにぐるぐると回っている。

 

 これもまた足の竦みそうなフィールドである。

 

 

 「《天界の魔天楼》の効果を発動。

  手札を1枚捨てることで、デッキから【超高層ビル】シリーズのユニット1体をコスト無しで召喚できる。

  超高層ビルド・イノベーター・Dダイニングを召喚。」

 

 

 超高層ビルド・イノベーター・D》[Rank 8・POWER 3000]

 

 

 《ゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 

 只乃がユニットを召喚すると、雲を突き破り、一際大きなビルが彼の背後に姿を現す。

 

 あれがユニットなのか。

 

 属性種族マシンと表示されている。

 

 

 「《ビルド・イノベーター・D》のスキル発動。

  相手フィールドにこのユニットより、Rankの高いユニットが存在しない場合、このユニットのPOWERを0にすることで、手札から【超高層ビル】シリーズのユニット1体をコスト無しで召喚できる。

  超高層ビルド・イノベーター・L(リビング)》を召喚。」

 

 

 超高層ビルド・イノベーター・L》[Rank 7・POWER 2500]

 

 

 「そして、《ビルド・イノベーター・L》のスキル発動。

  同じく相手フィールドにこのユニットより、Rankの高いユニットが存在しない場合、ソウルエリアの【超高層ビル】シリーズのユニット1体を蘇生できる。

  さっき捨てた超高層ビルド・イノベーター・M(マンション)》を蘇生する。」

 

 

 超高層ビルド・イノベーター・M》[Rank 8・GUARD 3500]

 

 

 《ゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 

 更に2体のビルが雲の下より出現。

 

 見上げるほど巨大なその圧倒的な光景に、無工田は思わず後ずさりをする。

  

  

 「さぁ、遥かな高みより見下ろすとしよう。

  サモンタイプヘヴンズクロス

  場に《天界の摩天楼》が存在する時、カード名の異なる3体の【超高層ビル】ユニットを天へと捧げ、超巨大ユニットを降臨させる!」

 

 「超巨大ユニット……!?」

 

 

 《シュバァーー!!

 

 

 只乃の場のユニットがそれぞれ光の柱に包まれていく……!

 

 

 「天壌無窮てんじょうむきゅうの摩天楼よ。青雲之志せいうんのこころざし掲げる神民しんみんよ。今、覇を競い、天を貫き、聖塔を超越せよ!」

 

 

 三本の光の柱が一つに合わさり、一本の巨大な柱となった光の中から、ゆっくりと何かが姿を現す。

 

 それは……恐れを抱くほどに巨大。特撮ヒーローに出てくるロボットのように変形合体し、一つとなった、超高層ビル

 

 

 「超天召喚超高層ビルジネス・カーネル・Oオフィサー!!」

 

 

 超高層ビルジネス・カーネル・O》[Rank XX・POWER 5000]

 

 

 

 

 ≫ 円環の間

 

 

 

 「ああぁ…………。」

 

 

 

 《ドラグリプター・マスターノード》[Rank X8・POWER 10000]

 

 

 

 「圧倒的な力の前で、戦意を失わずにいられる者は早々いない。

  ましてや敗北が確定した状況で、余裕の笑みを浮かべていられる者など。

  だが、決して敗北は終わりではない。」

 

 

 億卍は、ユニットを見上げ、固まっている鳥山に語りかける。

 

 

 「イギリス劇作家――ウィリアム・シェイクスピアや、アメリカ合衆国第37代大統領――リチャード・ニクソンも言っていたように、諦めこそが本当の終わりだ。

  敗北を糧にして変わるか、現実を受け入れず逃げ続けるか。

  お前はどちらを選びたい?

  理想を叶えようという意思が少しでもあるならば、迷うことはない筈だ。」

 

 

 鳥山億卍に視線を戻し、わなわなと震える。

 

 

 「…………本当に…………変われるんでしょうか。」

 

 「勿論だ。恐れる必要はない。

  諦めずにいることが苦しいのなら、この俺が手を貸すと言っている。」

 

 「あ…………ありがとうございます……。」

 

 「ふ……。」

 

 

 億卍は話を終えると、片手を上げ、攻撃宣言を行った。

  

 

 「ダイレクトアタック!」

 

 

 光る点と線で体が構成された竜人が、全身を激しく点滅させ、両手で作り出した光球を放つ。

 

 それは鳥山の元へと真っ直ぐ飛んでいき、床に触れると激しい輝きを放った。

 

 そして――

 

 

 [鳥山 LP5000 - 10000 = 0]

 

 

 ― WINNER 億卍 解俸 ―

 

 

 

 

 ………………。

 

 勝負が終わると同時に、別の場所へ移動していた只乃無工田が戻ってくる。

 

 彼らの勝負も決着がついたようだ。

 

 

 「やぁ、僕の方が少し早かったかな。」

 

 

 ログを確認した只乃は、億卍に対し、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 

 「………………。十銭じゅっせん。」

 

 

 彼の態度に一瞬、顔を顰めた億卍だが、すぐに切り替え、護衛の名を呼ぶ。

 

 すると、大正時代の学生服のような黒い服に身を包んだ、ショートヘアの若い女性が姿を現した。

 

 

 「二人を案内してやれ。」

 

 「はっ。」

 

 

 億卍の前にひざまずく彼女は短く返事をすると立ち上がり、その後、鳥山無工田を連れ、部屋から出ていく。

 

 それを確認すると、億卍は再びデスクに戻り、パソコンと向かい合った。

 

 

 「御苦労だったな、只乃。報酬の話だが……。」

 

 「いや、いらないよ。

  僕は僕より劣る存在から金を受け取るつもりはない。」

 

 

 只乃は両手を広げ、おどけたポーズを取る。

 

 

 「…………。そういう訳にはいかない。

  お前もこの社会で暮らす知的生命なら、労働に見合った対価を受け取り、経済を回せ。」

 

 「欲しいものなんてないけどね。」

 

 「天才だろ。手本となってみせろ。」

 

 「ハハ。分かったよ。そう言われちゃ受け取るしかない。」

 

 

 只乃は携帯を取り出し、既に振り込まれていた報酬の額を確認する。

 

 

 「ふ……金欲の魔物と呼ばれているのが嘘みたいな羽振りの良さだね。」

 

 「いや、間違っていない。俺は常に利益の為に行動している。

  ただ、得るのが容易い目先の利益よりも価値のある、未来の利益の為にだがな。」

 

 

 億卍は天を仰ぐ。

 

 

 「一億総活躍。それが俺の目指す世界。

  国民が誰ひとり夢を諦めることなく、誰ひとり見捨てられることはない……。

  その理想の実現の為、外れた歯車に手を加え、適切な場所に配置している。

  いつか日本を世界で最も優れた国にし、人々をから解放してみせるさ。」

 

 

 姿勢を正した億卍は、キーボードを叩き、作業を再開する。

 

 

 「ふ…………いいね。そうなることを期待して、僕は見下ろすとしよう。

  いつか君達が、僕を超える日を楽しみに待っているよ。」

 

 

 只乃は遠い目をしながらそう言うと、音も無く、静かに姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ◆ Dirty Game ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 23日――夜。

 東京都新宿区――歌舞伎町某所

 

 

 

 (はぁ…………はぁ…………。)

 

 

 あぁ…………吐き気が止まらない…………。

 

 

 (はぁ…………ぁ…………ぁあ。)

 

 

 絡まり合う男女の、荒い息遣い……。

 

 この壁一枚隔てた先で、ついさっき前を通り過ぎていったあいつが、快感に喘いでいると思うと…………

 

 

 (ん…………んんぅ…………。)

 

 

 心の奥底から、汚い感情が湧き出してくる……。

 

 

 「……っ…………。」

 

 

 黒い衝動に突き動かされ、ポケットから携帯を取り出し、ホーム画面に表示されているアプリの中から、赤い背景に黒い五芒星が描かれたものをタップする。

 

 すると、画面いっぱいに血のような赤が広がり、すぐに様々な項目が表示された。

 

 

 「………………。」

 

 

 汚れている……。

  

 この世界は何処も彼処も汚れている……。

 

 幾ら綺麗にしても、またすぐに踏み荒らされ、散らかされ、穢れてしまう。

 

 あぁ…………人間はなんて汚い生き物なのだろう…………。

 

 

 「………………。」

 

 

 だが……自分もまた、その汚い生き物の内の一匹……。

 

 分かっている……。これが汚い手・・・だと言うことは……。

 

 でも、この仕事を完遂する為には、どうしてもこの力が必要だ……。

 

 他人には絶対に頼れない。巻き込む訳にはいかないし、信用もできないから……。

 

 ゆっくりと、慎重に項目を選んでいき、仕事の準備を整えていく。

 

 

 「…………………。」

 

 

 まだ…………、少なくともあいつらよりは汚れていない筈だ。

 

 

 (そうだよな……、サヤカ……。)

 

 

 どうか許してほしい……。

 

 全てが終わった時、ちゃんと手は洗うから……