≫ 東京都・新宿区・歌舞伎町二丁目
トロピカル・クイーンでの捜査をあらかた終わらせた後、俺達はもう一つの事件の捜査に向かった。
場所は歌舞伎町の北にあるホストクラブ――キング・フリジッド。トロピカル・クイーンと同じく人気No.1のお店で、北国をイメージした、お洒落な内装が特徴だという。
また、店の中で特に人気の高い七人のホスト。一昨日のデートにも来ていた彼らはキング――セブンキングスと呼ばれており、女性を悦ばせるテクニックは皆、超一流だそうだ。
「冷えた心を温かく包んでもらえるんだろうな。」
三ツ矢が適当なことを言う。
「う~ん、ホストって厄介なファンが多いイメージだけど、どうなの?」
「ホスト狂いってヤツか……。客に睨まれないか心配だな……。」
「いや、それは大丈夫だろ。今は何処も営業時間外じゃないか?」
「あぁ、それはね。」
死瑪の言う通り、キング・フリジッドの営業はいつも午後六時からとのことで、今なら仕事の邪魔をすることなく、話を聞けると霜之口が教えてくれた。
さて、今度は一体どんな……
「はぁぁぁぁぁぁ…………。」
(ん……?)
店の中に入ったところで、奥の方から深い溜息が聞こえてきた。
「もう駄目だ……。お終いだぁ……。僕が捕まるに決まってる……!」
「レード、心配し過ぎだって。誰も犯人とは……」
「僕が死体の第一発見者なんだ! しかもあそこに行ったのは僕とあの人だけ……。
ああーー!! きっと冷たい取調室の中で暴力警官に脅されて、あることないこと喋らされて、檻の中で人生を終えるんだぁ……!!」
レードと呼ばれた青髪天然パーマのホストが、両手で頭を掴み、上下左右にぶんぶんと振っている。どうやらこっちもかなりめんどくさそうだ。
「皆、お待たせ~! 全員揃ってる?」
「あ、しもちゃん。それが……、ヨタカがまだ来てなくて。」
「え~、もー何処行ってんだろ。」
腰に手を当て、唇を尖らせる霜之口。
ソファに座り、テーブルを囲んでいるのは六人で、セブンキングには一人足りないようだ。
「はぁ……、もう手の込んだ自己紹介はいらねーから、重要なことだけ教えろ。」
「あはは。そうせっかちにならないでよ。今、飲み物用意するから。」
その後、一応、全員の名前と異能だけ聞くことになった。
イザヤ、エスカー、ホルン。この三人はデートに来てたので既に知っているが、残りの三人――ノース、レード、エドマのことは初めて知る。
「それでは――皆様、こちらです。」
小休憩を挟んだ後、俺達はエスカーに案内され、別の部屋へと移動した。
廊下を進み、地下への階段を下りていき、幾つかある扉の内、一つの中へ。
「………………。」
さっきの事件現場のインパクトが強かった為、少し身構えてしまったが、どうやら普通のワインセラーのようで、青い光を放つガラスの棚の中に、何本ものワインボトルが綺麗に並べられている。ホストクラブの地下にこんな場所があるのか……。
「被害者が虎門組の人ってことはもう知ってるよね。
見回りをしていた時に、背後から刃物で心臓を刺されて、ここに倒れてた。
だよね? レード。」
「う、うん……。」
ホルンとレードが指し示したのは、入り口からは棚の影になっていて、見えない位置。
こんな場所で死体を発見して……さぞかし怖かったことだろう……。
「で、事件があった時間帯に出入りした人間は二人だけか。普通に考えたら犯人だ。」
「だ、だから……僕の知らない僕がいつの間にか殺っちゃったとか。」
「突然、多重人格設定増やさないでよ……。
僕らは悲鳴を聞いてすぐに駆け付けたんだけど、レードは凶器を持ってなかった。その後、警察が到着するまでレードにはここで待機させたから、犯人では有り得ないよ。」
「ふーん……。」
死瑪はしゃがみ込み、死体のあった場所の周囲に目を走らせる。
「ダイヤちゃんのとこと殺し方が同じだよね? 同一犯?」
「いや、そうとも限らない。
偶然一致したか、共犯者って可能性もある。
けど、まず間違いないのは、異能を使って侵入してるということだ。あくまでも店の人間の言葉を信じるならだけどな。」
「透明化か壁抜けか。」
「後、店の中の構造についてある程度詳しいかもしれない。殺害現場はできるだけ目の少ない場所を選んでる。」
「そうなると、やっぱり店の人間が怪しいんじゃ……。」
「うう……。」
レードが今にも泣きそうな顔をする。正直、疑いたくはないが……。
「はいはい、質問いい?」
その時、マザネが声を上げた。
「またなのか、マザネ。」
「へへ、お姉ちゃん働き者だから。
ほら、このページ。」
マザネは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、また週刊マイチルを取り出し、中身を見せてきた。さっきの次のページのようだ。
「大量の死体に……、穴あき女……?」
開かれたページには、折り重なった死体の写真や、穴だらけのワンピースを着た不気味な女の写真が載っている。
見出しの文章は……俺達の屍を越えてゆけ!と、怪奇! 話題の蓮コラアーティスト!
「ああ、その子。最近よくウチに来る子かな。確か名前は……。」
「
記事では名前は伏せられているが、レードが教えてくれた。
しかし、何だろう? 更に顔色が悪くなったような……。
「どうしたんだ?」
死瑪も同じことを思ったようで、すぐに尋ねた。
「いや、ちょっと苦手で……。あの子達、
ほら、体に穴あけたり、舌を裂いたりするヤツ……。」
「あー……大変だな。厄介な女に気に入られると。」
「うん……。指名してくれるのはありがたいんだけど、ちょっとね……。」
まぁ、まともな人間にとって理解できない趣味だ。自分も勿論、そう思う。
「そういう奴、ウチのクラスにもいるよな……。」
「
「ははは……。」
三ツ矢と一緒に苦笑する。
まともに話が通じないので、異常者ばかりのクラスの中でもかなり嫌われている。
「ん、このマーク……。毒蛇……?
こいつヴァイオレット・エリクスのメンバーだな。こっちにまで行動範囲広げてるのか……。」
「…………?」
死瑪の言うように、蓮来 蘭の腕には紫色の蛇の顔が彫られていた。
「渋谷のカラーギャングの中で一番タチの悪い連中だよ。
人間の一人や二人、簡単に殺しそうではあるな。」
「えぇ……。」
そんなおっかない連中が事件の発生した日に来てたのか……。
「でさ、そっちの大量の死体って……。最近、SNSで騒がれてるヤツ?」
本庄が尋ねる。
「ああ、ヒトモドキって言われてる事件だな。
知らない間に空から大量の死体が降ってくる……。
どうも本物の死体じゃなくて、
記事によると、この店の近くの路地に積まれていたのをマザネのお姉さんが発見したらしいが……。
「肉……?」
またややこしいことになってきた。
「事件に関係……無いよな?」
「さぁな。多分、ネットの予想通り、異能でどっからか転移させられてるんだろうが、誰がやってるのか、目的は何なのか、一切分からない。」
「気持ち悪いな……。」
「ああ。もうこの際、一つ一つ確かめていくか。」
「え、でも、手掛かりが……。」
「いや、実は議員が行方不明になった件と、赤ん坊が発見された件については犯人に心当たりがある。まずはそこからだ。」
そう言うと死瑪は、近付いて俺と三ツ矢の肩に手を乗せてきた。
「カスムとミツヤ、お前達二人は付いてこい。」
「え、ちょっ。」
後ろに引っ張られ、咄嗟に抵抗する。
「何で俺――」
「女共を俺の家に上げる気はない。
マザネは信用できないし、クグモはこれ以上付き合わせる訳にはいかないだろ。」
消去法ってことか……。
「で、マザネは協力する気があるなら姉を連れてこい。
本庄と霜之口は殺されたヤクザの身辺調査。分かったな?」
「何であんたが仕切ってんのよ。」
「別の考えがあるなら言ってみろ。」
「………………。」
そう言われて本庄は何も言い返せず、死瑪の指示通り、これから分担し捜査を進めていくことになった。
…………。
でも、やっぱ俺いらないんじゃないかな。
There is no coincidence in fate. Before meeting a fate, a human being is making it.
(運命の中に偶然はない。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれを作っているのだ。)
≫ Unknown
天瞑 幽鵡達が歌舞伎町の事件の捜査を始めた、ちょうどその頃――
「………………。ふむ……。」
見渡す限りの暗黒の世界にて――
遥か彼方の地球を見下ろしながら、男は低く唸った。
「今、この世界において、私の理解の及ばぬこと……。
その一つは君だ……。」
男は
「ボクのサバトへようこそ……! 大罪諸君……!!」
異界からやってきた、罪深き七人の魔女の集い――
「お前の知らないお前が顔を出す……。クヒヒ……!」
増え続ける少年犯罪の数々――
「現れろ、光も闇も、全てを破壊し尽くす狂暴!!」
巨悪に立ち向かう、勇敢なる学生達――
様々な光景が通り過ぎていく。
しかし、そのどれにも目的の人物の姿はない。
「…………ネシオ。私は君の興味を引く為に、あらゆる手を尽くした。
さて、メッセージは伝わったか……。
もし君がこの世の因果の中心に存在しているならば、きっと正しく受け取ってくれることだろう……。」
男は体を
「The End of the World.
世界の果てのその先へ。我々は旅立つ……。」