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『異端のネシオSIDE』「マジシャンズパレード編」☆2(3/3)

 

 

 

 

 

 

  天至21年4月13日(水)☆

 

 

 

 

 

  ≫ 水漏家・二階・水漏 ルゥの部屋

 

 

 

 《PPP……! PPP……!

 

 「………………。」

 

 

 脇の下に挟んでいた体温計を取り出し、そこに表示されている数字を眺める。

 

 

 (風邪……。)

 

 

 風邪なら……休まないといけない。休まないと……駄目だ。

 

 ルゥは起き上がり、タブレットを手に取ると、あらかじめ入力していた内容を送信した。

 

 

 【お大事に

 

 

 これで欠席――。画面にアイコンが表示されたのを確認し、オフにする。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 アプリなら緊張も一瞬。

 

 ルゥは、布団の中に体をうずめ、目を瞑った。

 

 傷ついた心と体を癒してくれるのは、やっぱり一人で過ごす時間だけ。自分の部屋はトイレと同じで、誰の目も無く、静かで落ち着く。

 

 

 《ぶくぶくぶく……

 

 

 隅の水槽では、飼い亀キュッポンが泳いでいるが、あれは例外。に悪い子はいないから……。

 

 ……まぁ、困ってても何もしてくれないけど……。

 

 ルゥは、目を開き、ぼんやりと水槽を眺めた。キュッポンはいつも通り、小さな竜宮城のオブジェの中でくつろいでいる。

 

 

 (今、何考えてるのかな……。)

 

 

 は、人の顔を覚えることができるくらいには知能がある。個体によっては視力も良い為、もしかしたら、こちらの状況が見えているかもしれない。

 

 もし話せたら、なんて言うだろう。

 

 …………。

 

 

 「あのね……、今、外大変なんだ。悪い怪人の所為でトイレが使えなくなってるらしくって……。

  だから……、風邪を引いたのはきっと良いタイミングだったんだよ……。」

 

 

 学校側はギリギリまで様子を見ているようだが、このままなら休校になるんじゃないだろうか。それなら堂々と休める。

 

 

 「…………いいよね。私が頑張らなくても、ルルちゃんがいるし……。

  余計なことはしない方がいいんだよ……。」

 

 《ぶくぶくぶく……

 

 

 ………………。

 

 一人で喋っても、キュッポンは何も返さない。

 

 まぁ、当然理解してくれる訳がない。こちらのことなんか気にせず、暢気にしている。

 

 

 (いいなぁ……。)

 

 

 周りを気にせずに生きていける動物達は羨ましい。水の中に住めば、汗も気にならない。

 

 まぁ、野生だと天敵とかいるけど。

 

 

 (飼われるのって、やっぱり幸せだよね……。)

 

 

 亀はよく食べる分、排泄量も多く、毎日、水を換えてあげる必要があるが、その辺りは水まわりの仕事をしているの手によって半自動化されている為、手間はかからない。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 浦島太郎おとぎ話みたいに、が恩返しに竜宮城に連れていってくれたら……。

 

 

 (竜宮城……。)

 

 

 ルゥは目を閉じ、夢想する。の背に乗って向かうたつみや。豪華な食事に音楽、舞い踊る魚達。争いも憎しみもない、穏やかな世界……。

 

 ああ……家に帰ろうなんて思わないから、ずっとそこで暮らしたい。

 

 きっと……皆もそれでいいと思う筈だ。自分なんて社会に出ても周りに迷惑かけるだけ、一生引きこもっていた方がいい。気持ち悪い体質に加えて頭も悪かったら最悪だから、これまで勉強は頑張ってきたけれど、特にやりたいこともないし……

 

 考えれば、考えるほど沈んでいく。思考がネガティブに染まっている。

 

 自分は何の為に生まれてきたのか。その答えが見つけられると思えない。

 

 

 《……な……ちゃ……》

 

 

 きっとこの先、自分はこのままだろう。何も変われず、何も成せず。自分を育ててくれた親への恩返しもできないまま……

 

 

 《み……ちゃ…………》

 

 「…………。」

 

 

 《みなもちゃん……!

 

 

 「……?」

 

 

 聞き慣れない声――

 

 呼ばれた気がして、目を覚ます。

 

 

 (何……?)

 

 

 ……幻聴……?

 

 タブレットで時間を確認すると、三時間ほど経っていたが、まだ親が帰ってくる時間ではない。

 

 

 (誰もいない……よね?)

 

 

 寝惚け眼で部屋の中を見回す。人の気配はない。

 

 やっぱり、気の所為……?

 

 

 《ぶくぶくぶく……

 

 「……?」

 

 

 そう思いかけた時、気が付いた。

 

 部屋の壁に取り付けられた小さなテレビが、いつの間にか光を放っている。そして、そこにデフォルメされた小さなが映っていた。

 

 

 《こんにちは、みなもちゃん。ボクはティーヴィ。いきなり起こしちゃってゴメンね。》

 

 (あわっ……)

 

 

 映像に話しかけられた?

 

 ルゥは思わず布団の中に潜り込む。突然のタートル・トークは夢だと思った。こんなディズニーある訳がない。

 

 目を覚まそうと布団の中でもぞもぞした後、また少しだけ顔を出す。

 

 

 《あ……えっと……、いいかな。聞いてほしいんだ。大事な話だから……》

 

 

 ティーヴィと名乗ったは、変わらずテレビの中から話しかけてきた。

 

 

 《このままだと……、みなもちゃんみたいな人が増えちゃうかもしれないんだ……。》

  

 「…………?」

 

 《反世界放送局ネガヘルツ

  今、みなもちゃん達の街で暴れてる怪人を作り出した奴らの所為で、皆、生きる気力を奪われてる。

  ネガヘルツの作る番組はね。途中までは人々に希望を抱かせるような内容だけど、最後は必ず悲劇で幕を閉じる。

  彼らは人々を怪人化させて暴れさせたり、反社会的な番組を制作して、他の世界に密かに流すことで、人々に負の感情を抱かせて、侵略に都合の良い状態にしようとしているんだ。》

 

 「…………。」

 

 《ボクの世界は、ネガヘルツに裏から乗っ取られつつある。

  けれど、みなもちゃん達の世界はまだ間に合う。

  お願い。ボクが力を貸すから、一緒にネガヘルツと戦ってほしい……!》

  

 「やっ……な、何で……。

  何で私にそんなこと……。」

 

 《それが……、ネガヘルツ脚本だから。

  ボクは表向きネガヘルツに協力するフリをして、君に力を渡す。

  いつかその力を使って、ネガヘルツの思惑を打ち砕いてほしいんだ。》

 

 「他の人に頼んでよ……。

  私なんかより強い人はいっぱいいるよ。」

 

 《でも……それだと……》

 

 「見て分からないの? 体調が悪いんだよ……!! 放っておいて!!」

 

 《……………》

 

 

 今は何もしたくない。病気の時くらい休ませてほしい。

 

 でも――

 

 

 《それは……だよね。みなもちゃん。》

 

 「……………。」

 

 《もうとっくに体調は戻ってる筈だよ。平熱だったでしょ……?》

 

 「戻ってないよ……。」

 

 

 体は重いし、辛くて泣きたくなってくる。

 

 

 《…………分かった。

  ボクはもう一度、ここに来るけど、いつでもいいから。

  元気になったら、ボクの名前を呼んでね。》

  

 

 プツンとテレビの切れる音。

 

 

 「…………。」

 

 

 恐る恐る確認すると、もうは何処にもいなかった。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 ようやくまた静かになった。

 

 ルゥは安心して布団の中に潜り、目を瞑る。

 

 

 (…………大丈夫だよ。私の出番なんてない。

  私が頑張らなくても、ルルちゃんがきっと……)

 

 

 きっと……。

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【★ NEGATIV ★】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  《(トイレの流れる音)》

  

 「東京の皆さン、コンニチハ。

  昼十二時、食事中にワルいが、緊急放送させテもらウ。

  コノママ、漏ラしたクナけれバ、ケツの穴かっぽジってよォく聞ケ。

 

 

  コノ放送ノ後――、全テのトイレの封鎖を解ク。

 

  繰り返ス。

 

  コノ放送ノ後――、全テのトイレの封鎖を解ク。

 

  アア、許した訳じゃネェから勘違イすんジャねェぞ。日が暮れるマデにオレの居場所を見ツケるゲームだ。誰か一人デも、オレを見ツけタら、クリアにシてヤル。

  タダシ……! ハズれのトイレを開いタラ、ペナルティ・・・・・。半端なカクゴで開けルと痛い目見るカラ気をツケナ。

 

  ヒントは、これ――【1251-K+1010】――東京の何処かだ。

 

  分かラなけレバ、神に祈ルんダナ……。」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【★ NEGATIV ★】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≫ 東京都渋谷区・渋谷キャストガーデン

 

 

 

 

  「う~ん……。」

 

 

 タブレットに突然流れた映像を見終え、ベンチで考える人のポーズを取る流々

 

 怪人目撃証言を頼りにを回っていたが、ここで思わぬ展開だ。

 

 

 《とりあえず、今の放送でトイレ怪人の姿は分かったな。

  居場所についてはさっぱりだが、お前はもう分かったり……》

 

 「ううん、すぐには無理だよ。

  計算式じゃないのは間違いないと思うけど……。」

 

 

 【1251-K+1010】……。

 

 数字が中途半端なのが気になるし、が何を表しているかが重要そうだ。恐らく、変換作業が必要になるだろう。

 

 

 「一応、皆にも今のヒント送ったから、分かる子がいれば、連絡来ると思うな。」

 

 《俺の時みたいに、魔法少女の力で特定できないのか?》

 

 「それは近くじゃないと――」

 

 「うわあああ!!」

 

 「……っ!?」

 

 

 近くで悲鳴。

 

 急いで声の上がった方向を見ると、何人かが建物の中から走り出てきた。

 

 そして、逃げる人々を追うようにして、全身に白い包帯を巻いたミイラのような人型が現れる。

 

 いや、よく見ると頭が――

 

 

 《何だあれ、トイレットペーパーか……!?》

 

 「手下っぽいね。」

 

 

 あれは【ネーガ】。怪人が生み出す、所謂、雑魚戦闘員

 

 前回、学校に現れたのは仮面型だったが、今回はトイレットペーパーミイラのようだ。毎回、姿は違うらしい。

 

 

 「ひとまず、考えるのは後だね……!」

 

 

 立ち上がった流々は、ポケットからリモコンを取り出し、天に掲げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≫ 水漏家・二階・水漏 ルゥの部屋

 

 

 

 PM0:30――

 

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 落ち着かない……。

 

 何だかよく眠れない……。

 

 

 「…………っ。」

 

 

 どうして……? またあの変なが現れても無視すればいいのに……。

 

 罪悪感なんて……

 

 

 (ぅ……)

 

 

 体がぶるっと震える。トイレに行きたくなってきた。

 

 

 (もう……使えるかな……)

 

 

 いい加減、もう解決していてもおかしくない。いや、解決していてくれないと困る。

 

 それを確かめる為にも、ルゥは部屋から出て、トイレの前に向かった。

 

 もし駄目なら、風呂場を使うだけだが……

 

 

 「…………。」

 

 

 昨日からずっと固く閉ざされているトイレのドア。

 

 いつもは半開きにしているが、こうきっちり閉まっていると、不気味に感じる。中に誰もいないことは分かってるのに。

 

 恐る恐る、手を掛ける。

 

 

 (あ……)

 

 

 僅かに力を込めただけで、開く。開いた。

 

 その瞬間、嫌な考えが消え去っていく。

 

 やっぱり、もう誰かが怪人を倒してくれたのかも……。

 

 ルゥは、そのままドアをスライドさせ、中に入ろうとする。

 

 しかし、そこで何かにぶつかりそうになった。

 

 

 「あっ、えっ……?」

 

 

 中に、誰かいた。

 

 真っ白で、大きな……

 

 

 《ネェェェガァァァァ……!

 

 「……!?」

 

 

 見上げた頭はトイレットペーパー。いや、全身に巻き付いていて、ミイラのようだった。

 

 

 (あわっ……!!)

 

 

 まるで呪われた棺を開けてしまったかのよう。

 

 ルゥは急いで逃げようとしたが、後ろから伸びてきた紙が首に巻き付き、締め上げられる。

 

 

 「ぁ……!」

 

 

 掴んで千切ろうとするが、トイレットペーパーとは思えない理不尽な頑丈さ。

 

 ジタバタともがくが、紙は更に巻き付いてきて、口も塞がれる。

 

 

 「ン~~!!」

 

 

 突然の危機。寝惚け眼だったが、一気に目が覚める。

 

 

 (息できない……! 死んじゃう……!?)

 

 

 青褪めるルゥ

 

 助けを求めようと思っても、家には今、自分以外誰もいない。物音で気付いてもらうこともできない。

 

 

 「ンゥ~~!!」

 

 

 自分でも予想外だった。

 

 あんなに嫌になってたのに、命が危険にさらされた瞬間、死にたくないという強い思いが湧いてきた。

 

 

 《~~~~~》

 

 

 恐怖のあまり、失禁したものの、すぐには諦めない。

 

 出したものを異能で操り、ミイラの顔に思いっきりぶち当てた。

 

 

 《ネェェェガァァァァ……

 

 

 精一杯の抵抗。

 

 大した威力はなく、拘束が緩むこともない。

 

 

 (はぁ……。)

 

 

 それならもう、選ぶしかない。迷ってる時じゃない。

 

 

 (てぃ……ゔぃ……。)

 

 

 おかしな敵はおかしな味方で何とかする。その名前と姿を思い浮かべる。

 

 

 《バァァン!!

 

 

 願いが通じるという予感はあった。しかし、やっぱり不思議だ。

 

 自分の部屋から、青い光を身に纏ったが飛んできて、ミイラを吹き飛ばす。

 

 あっという間の出来事で、気が付くとルゥは、水に満たされた球体の中でと向き合っていた。

 

 

 《覚悟はできた? みなもちゃん。》

 

 「………………。」

 

 

 覚悟……。

 

 そんなの全然できていない。

 

 だけど……

 

 

 「なんていうか……。

  私って、まだ生きたいんだね……。死んでもいいって思ってたけど……。」

 

 

 やっぱり、怖いんだ。何も成さずに死ぬのが。

 

  

 「臆病だから……、逃げることもできないんだよ……。」

 

 《みなもちゃん……。》

 

 

 何も成せずに死んでいく。きっとそういう人は世の中に沢山いる。

 

 だからこそ、自分が特別な力を得てしまうことに、少しだけ申し訳のなさを感じていた。

 

 

 「私は自分の命と、自分の居場所を守りたいだけ。

  それでもいいのかな……。」

 

 《今はね。

  さぁ、想像してみて、なりたい自分の姿を……。》

  

 

 なりたい自分……。

 

 

 《例えば、好きなものとか。思い浮かべてくれれば、後はボクが調整するよ。》

 

 

 好きなもの……。

 

 頭の中でドレスを身に纏い、背中に甲羅を背負った自分の姿を想像する。

 

 

 (かっこ悪い……。)

 

 

 魔法少女育成計画テプセケメイだって、元はリクガメだが、魔法少女の姿はランプの精なのだ。流石に甲羅を背負うのは想像力が貧困過ぎる。

 

 

 (なら……)

 

 

 皆の前に出ることを考え、必死に絞り込んだ結果、残ったのは一つだけだった。

 

 

 《決まったみたいだね。それじゃあ行くよ。》

 

 

 ティーヴィは、青い光の玉となり、水漏 ルゥと一つになる。

 

 変化はすぐに始まった。

 

 ぶくぶくと体中が泡に包まれ、服は着物のような衣装に変わり、髪は飛仙髻ひせんけいわれていく。

 

 

 《ふふふ♪ 乙姫様みたいだね。みなもちゃん。》

 

 「あわわ……凄い……。」

 

 

 思った以上に派手だった。

 

 

 「大丈夫かな……。ちょっと古臭くない……?」

 

 《ボクは好きだよ。》

 

 

 胸に付いている真珠っぽい球体からティーヴィの声が聞こえてくる。

 

 こんなことになるならもっと練っておけば良かった。

 

 

 「うぅ……あんまり見られたくないし……。怪人って何処にいるの?」

 

 「分からない。ボクは脚本の全てを知ってる訳じゃないんだ。

  けど、さっきヒントを出してたよ。 

  これなんだけど、分かる? みなもちゃん。」

 

 

 真珠から光が放たれ、目の前にヒントの内容が投影される。

 

 

 【1251-K+1010

 

 

 「海雲寺かいうんじ……。」

 

 「知ってるの……!?」

 

 「あわ……前に一度行ったことあるから……。」

 

 

 水漏 ルゥは、もう一度トイレ怪人からのヒントを見た。

 

 

 「1010トイレで、は多分、キッチン……。

  1251は、始まりの年……。

  海雲寺には、台所の神様である千躰荒神せんたいこうじんと、トイレの神様である烏枢沙摩うすさま明王みょうおうの両方が祀られてるから、多分、間違いない、と思う……。」

 

 

 東京都・品川区にある海雲寺。そこのトイレの中で、怪人は待っている。

 

 

 (でも、何でそんな場所に……?)

 

 

 やっぱり、私がすぐに気付けるように……?

 

 

 「自信を持って。脚本通りなら、キミはトイレ怪人を倒せる筈。」

 

 「…………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【★ NEGATIV ★】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………。」

 

 

 静かな静かな、トイレの中。

 

 トイレ怪人が作り出した空間――エリア1010

 

 ここには普通の人間が入ってくることはできない。

 

 つまり、魔法少女以外が答えに辿り着いても、ただのトイレで用を足すことしかできない。

 

 

 「ム~……。遅いぃ……!

  魔法少女より早く、ただの一般人が三人も来ているぞ……! お前らはお呼びじゃねェ!!」

 

 

 トイレ怪人の後ろで焦るフレット

 

 問題は難しくしたつもりだったし、映像を飛ばす範囲は限ったが、やはり何人かは来てしまう。

 

 

 「帰れ、モブ共! お前らはカメラの外だ! 今日の主役は――」

 

 「来タ……。」

 

 「ん?」

 

 

 トイレ怪人が立ち上がる。

 

 よく見ると、巨大トイレの底の水が揺れていた。侵入者が現れたということ。

 

 

 「やれやれ、やっとか。じゃあな、クラウン。後は任せたぜ!」

 

 「…………。」

 

 

 カメラを手に裏に下がるフレット

 

 その直後、天井を通り抜け、水の魔法少女が現れた。

 

 

 「あわわ……おっきいトイレ……」

 

 

 彼女は、巨大な便座の、怪人とは反対側の場所に降り立った。

 

 汚れ一つないピカピカのトイレ。驚いたが、何だか気分は悪くない。

 

 

 「ミナモレ ルゥか……。

  オマエも俺とオナジ――ナノかと思ったガ。」

 

 「え……?」

 

 「全然違ウ。

  結局、俺が何とカするシカない……。」

 

 

 トイレ怪人は片腕を上げ、水の魔法少女に狙いを定める。

 

 

 「あわっ……! ちょっ、ちょっと待って……ください……!

  どうして、こんなことを……?」

 

 

 水漏 ルゥは理由を尋ねる。

 

 理由も聞かず、問答無用に戦いたくなどなかった。

 

 

 「フン………。汚レてるからサ。」

 

 「何が……?」

 

 「人間だ。

  モラルは低下し、世界は今やインモラル

  汚レてる連中が、綺麗なモノを汚いと蔑むようなディストピア

  正論が通らナイなら、ドウする? コウするしかナイだろうガ……!」

 

 《バシャアアアア!!

 

 「……!!」

 

 

 赤いマークの付いたトイレ怪人の左腕から、突然、高圧熱水が放たれる。

 

 ルゥは便座の上を走り出した。

 

 

 「少し前にもコンナ事件があっタ。

  中学生が公共のトイレに落書きや集めたゴミを捨てルなどの悪戯をし、ソレを撮影しタ動画をネットに上げテ、炎上……」

 

 

 《バシャアアアア!!

 

 

 今度は右腕の青いマークの付いた発射口から高圧冷水……!

 

 挟まれたルゥは宙へと逃げる。

 

 

 「多くノ人間は、目にツクのは周りの汚レだけデ、自分が汚レてるコトにはちっとも気付きやシナイ。

  ソウ、別にトイレに限っタ話じゃナイ。」

 

 

 トイレ怪人の目が赤く光り、巨大トイレおしり洗浄機能が作動……!

 

 ノズルから放たれた水が空中のルゥを襲う!

 

 

 「……くっ!」

 

 

 泡のバリアを張るが、すぐに貫通されてしまう。

 

 

 「分かるダロ……? バカは死んデもナオラない……。ブっ殺したっテ、第二第三のバカが現れるダケ。

  後悔サセルしかねーンダヨ……!」

 

 

 トイレ怪人の両腕がルゥに向けられる。

 

 

 「…………!」

 

 

 目を瞑る。

 

 

 《バシャアアアア!!

 

  

 しかし、その攻撃はルゥには届かなかった。

 

 放たれた水が拡散していく。

 

 

 「……!」

 

 

 目を開けると、そこには自分とは違う格好をした魔法少女の姿。

 

 透き通るように美しい星の髪飾りに、流星の夜空を映したマント。

 

 大スターのような衣装に身を包んだ少女の後ろ姿は、自分がよく知る人物に似ている。

 

 

 「ルルちゃん……!?」

 

 「ゴメン、みなもちゃん……! 遅くなって……!」

 

 

 トイレ怪人の攻撃を星型のバリアで弾き終わると、流々ルゥの方をまじまじと見つめた。

 

 

 「わぁ……みなもちゃんの衣装もイイね! 乙姫でしょ!?」

 

 「あ、うん……。私のことはいいから……」

 

 

 気まずい。

 

 流々は全然気にしていない雰囲気だが、昨日のことを思い出してしまう。

 

 ルゥは逃げるように便座に降り立った。

 

 

 「…………。ウルサいのガ来たナ……。」

 

 「私は用を足す時はBGMを流すタイプだからね。

  けど、今日はここでいいよ。みなもちゃんの初舞台だし!」

 

 「悪いガ……。

  手加減は無用ダ。」

 

 

 《ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 「えっ、何……!?」

 

  

 地震か。突然、足元の便座が揺れ動く。

 

 

 「必殺……! トルネード洗浄!!」

 

 《バシャアアアアアア!!

 

 

 便器に水が流れた――

  

 そう思ったのも束の間、それは巨大な水の竜巻を形成し、ルゥ達を飲み込んだ。

 

 

 「くっ……!」

 

 

 流されながらも、流々は周囲を飛ぶスポットライト型の装置からレーザーを放つ。

 

 しかし、それは激しく流れる水の壁に阻まれ、トイレ怪人には届かない。

 

 

 「みなもちゃん!!」

 

 

 あっという間に竜巻の外に弾かれた流々は、ルゥの名を叫ぶ。

 

 中では、流石、水の魔法少女と言うべきか。ルゥの体は激しい水流を物ともしていなかった。

 

 

 「これが私の力……?」

 

 

 しかし、不思議な光景に見惚れている暇はない。目の前にトイレ怪人が現れた。

 

 

 「オマエはナゼ俺の邪魔をシに来た……?」

 

 「えっ……、それは……」

 

 「物を大事にデキない人間が、人ヲ大事にデキる訳がナイ。

  俺のコドモはそうイッタ人間達に学校でイジメられたコトをキッカケにヒキコモリになっチマッって、人生に絶望シタ末、犯罪に走ってムショの中だ。」

 

 「……!」

 

 「俺もスッカリ汚れちまっタよ。俺にデキるのは、汚物共に思い知らセテやるコトくらいだ……。

  自分がドンナに汚い生き物カヲナ!」

 

 

 トイレ怪人の腕が振るわれ、ルゥは便器の中へと落とされる。

 

 激しい水流の中だが、その影響は受けず、ゆっくり……、ゆっくりと沈んでいく。

 

 

 「みなもちゃん……! みなもちゃん……!

  どうしたの? 何か反撃しないと……!」

 

 

 ティーヴィが必死に呼びかける。

 

 しかし、ルゥが体を動かす様子はない。

 

 

 「…………。」

 

 

 ああ、やっぱり、私は駄目だ。

 

 

 (倒したくない……。私には倒せないよ……。)

 

 

 知ってしまったから……、その通りだと思ったから……。

 

 ルゥは全身の力を抜き、暗い便器の底に辿り着く。

 

 

 「みなもちゃん……!」

 

 

 真珠が外れ、の姿に戻る。


 

 「怪人の言ってることも分かるけど、ここで負けたら、ネガヘルツが……!」

 

 (大丈夫だよ……。流々ちゃんがいるから……。)

 

 

 自分はただ生きたいだけ。居場所を守りたいだけ。

 

 怪人が少しでも長く生き延びれば、それだけ皆、苦しむ時間が長くなる。

 

 少しは世の中が良くなるんじゃないかな。

 

 それなら……

 

 

 (その方が……いいよ……。)

 

 

 ルゥは目を閉じる。

 

 しかし、直後――

 

 

 「だ……誰……!?」

 

 「…………?」

 

 

 ティーヴィが何かに驚く声。

 

 目を開けると、先程まで真っ暗な空間にいた筈なのに、何故か真っ白な空間に変わっていた。

 

 

 (何処……?)

 

 「うわああぁぁ~!!」

 

 

 倒れたまま周囲を見ていると、悲鳴と共に、バチバチ!っと音がして、何かが床に転がった。

 

 ティーヴィ? いや、亀の形は同じだが、前より角ばっていて、マスコット感が無くなっている。機械みたいな……オモチャみたいな……。

 

 

 「フフフ、この方がずっと役に立つだろう。」

 

 「……?」

 

 

 近くに黒いコートを着た外国人っぽい男の人が立っている。

 

 

 (誰……?)

 

 

 見ていると、彼はこっちに近付いてきた。

 

 

 「俺が誰かは、今はどうでもいい。お前の話をしよう。」

 

 (私の……? どうして……?)

 

 「つまらなそうな顔・・・・・・・・をしていたからさ。

  折角、力を得たのに、ちっとも楽しんでいない。」

 

 (楽しんでいない……?)

 

 「そう、お前にはもっと世界を楽しんでほしい。生きているからには。」

 

 (無理だよ……。怪人と……あの人と戦うことを楽しむなんて……。)

  

 「だが、お前はそんな自分が嫌いだ。嫌で嫌で堪らない。

  邪魔だと思っているんじゃないか?」

 

 (…………。

  私は……変わろうとしたよ……。

  でも……、駄目。魔法少女になったのに、結局、元に……。)

 

 「それは、お前が自分にを吐いているからだ。」

  

 (嘘……?)

 

 「もっと正直に生きてみたらどうだ? 周りの目なんて気にする必要はない。

  俺はそんなお前が見たいし、きっとお前の友達もそう望んでいる。」

 

 (どうして……)

 

 「World is Colorful. お前にもそれを感じてもらいたい。

  生きているのに、こんなに広く美しい世界を楽しまないなんて、もったいないことだ。

  もし、分からないのなら、教えてやろう。」

 

 「…………。」

 

 

 腕を引かれ、立ち上がる。

 

 

 「さぁ、あの扉を開けてみろ。

  お前が本当に望むものが待っているぞ。」

 

 (私の……本当に望むもの……。)

 

 

 いつの間にか現れていた扉。

 

 ゆっくりと近付き、開けてみる。

 

 そこで瞳に映ったのは、一台のトイレ・・・だった。

 

 でも乙姫でもない。

 

 

 (ああ、そうか……。)

 

 

 あの時、候補にすら上がらなかったもの。

 

 しかし、確かに自分が一番好きなもの。

 

 

 「はぁ~……。」

 

 

 座って心を落ち着ける。

 

 すると、天からひらひらとトイレットペーパーが下りてきた。

 

 それは体に巻き付き、やがて全身を包み込んでいく。

 

 

 (何か気持ち良い……。)

 

 

 さっき襲われた時とは違う。優しくて、温かくて、心の傷が癒されていく……

 

 

 「さぁ、World is Colorful. 共に世界を楽しもう。

  マジシャンズパレードの――始まりだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★ Magicians Parade ☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……はぁ……。中々やるね。」

 

 

 流々……魔法少女マスターエールは、エリア1010で戦い続けていた。

 

 しかし、トイレ怪人にレーザー攻撃は通じず、お得意のチャンネル変更も防がれ、窮地に立たされている。

 

 

 《なぁ、ヤバいんじゃねーか……。あいつ見た目に似合わず、つえーぞ。》

 

 「まさかリモコンを水浸しにしてくるなんてね……。」

 

 

 観客がいないと力が出ない。

 

 それは気分の問題という訳ではなく、マスターエールの弱点だった。

 

 

 《やっぱあんな奴を当てにするべきじゃないんじゃないか?

  俺の体を出してくれ。俺なら……》

 

 

 火星はそう言うが、流々は首を横に振る。

 

 

 「ううん。みなもちゃんには可能性がある。

  きっかけさえあれば、私以上の力が出せる筈だよ。だから――」

 

 

 《ぶくぶくぶくぶく……

 

 

 沈んだルゥを助けに行く。そのつもりだった。

 

 そして、この状況を撮影しているフレットも、そうなるだろうと踏んでいた。

 

 しかし――

 

 

 《バシャアアアアアアア!!

 

 

 「…………!?」

 

 

 突如、巨大な水柱が、マスターエールトイレ怪人の目の前で上がった。

 

 一体何事か。トイレ怪人は何もしていない。

 

 

 「ン……!?」

 

 

 水の中に何者かの影が見える。

 

 水漏 ルゥか……? いや、先程とはシルエットが違う。

 

 

 「誰ダ……!」

 

 

 そう声を上げた瞬間、水柱がZ字に切り裂かれ、空中に残った水球の上に何者かが着地した。

 

 

 「あれは……!」

 

 

 マスターエールは目を輝かせる。

 

 そう、そこにいたのは勿論、彼女・・

 

 蛇口ハンドルの髪留めが外れたことで現れた、噴水のように左右に広がったアホ毛

 

 顔の上半分を覆う白い仮面に、甲羅模様の白いマント。

 

 そして、痴女レベルに露出した肌には、トイレットペーパーが巻き付いている。

 

 

 「な、ナンダあのへんた――!」

 

 「ミナモレアワー!!

 

 《ブシャアアアアア!!

 

 

 掛け声と同時に上がる大量の水柱! まるで間欠泉のように勢いよく噴き出し、それらは全てトイレ怪人へと向かっていく!

 

 

 「ウォロロロォォ!?」

 

 

 押し流されぬよう踏ん張るが、水漏 ルゥに似た少女は跳躍し、彼の目の前に着地する。

 

 

 「ウォッ!?」

 

 「ねぇねぇ!! どぴゅっとされたい!? されたいかなぁ!?」

 

 「ハ!?」

 

 《ガシャーン!!

 

 

 素足の蹴り上げを喰らい、トイレ怪人の顎が砕け散る。

 

 

 「グハッ……!」

 

 

 更に宙へと打ち上げられたトイレ怪人の体にトイレットペーパーが巻き付く!

 

 そのままぶんぶんと振り回され、トイレの蓋へと叩き付けられた彼は、壊れた機械のようにガタガタと揺れた後、動作を停止するのだった……!

 

 

 「ああっ……! みなもちゃん……!  遂に殻を破れたんだね!」

 

 《えぇっ!? あれでいいの!?》

 

 

 滝のような涙を流す流々と、絶句する火星

 

 

 「みなもちゃん……?」

 

 

 水漏 ルゥはようやく彼らに振り返る。

 

 

 「違うよ。私は聖戦士ペパーミスティルセイを求める者。」

 

 《何処がだ。》

 

 

 火星のツッコミも無視して、跳躍した彼女は天井に向けて強烈な蹴りを放つ。

 

 

 《ズガアアアァァン!!

 

 

 トイレ怪人の作り上げた空間が崩壊していく。

 

 

 「ね☆ やっぱり、みなもちゃんって凄いでしょ♪」

 

 《いや、頭のネジが外れたっていうか、蛇口が壊れたっていうか……。

  あいつに一体何が起きたんだ……?》

 

 

 

 

  ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 一方、その頃――

 

 

 「スッ、ススス!! スゴイものが撮れタァァァ!!

  はっ、早く! 早くこれを持ち帰って編集――!!」

 

 「タマタマはっけーん! ヘェ~イ!!」

 

 《ガキイィィィン!!

 

 

 ペパーミスティルの素足がフレットの体に突き刺さり、ピシピシとヒビが入る……!

 

 

 (ガッ……そ、そんな……。

  どんな攻撃も受け付けない、この無敵の黄金ボディに何故傷が……が……ガガガ……!)

 

 「ぐがあぁぁ~~~~!!」

 

 

 遠くの空に向かって蹴り飛ばされたフレット。彼は無事、星となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ マジシャンズパレード ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………。」

 

 

 戦いが終わった後、寺の上で静かに夕日を眺めるペパーミスティル

 

 時間はいつの間にか、六時前。夕方になっていた。

 

 ティーヴィ曰く、別の空間では時間の流れ方が違うこともある為、浦島太郎現象が起こることが多々あるという。

 

 今回の場合は十数分が数時間になった程度なので、然程、生活に影響はないが、長期戦になりそうな時は気を付けた方がいいだろう。

 

 

 「みなもちゃん。」

 

 

 流々は変身を解き、ルゥに近付く。

 

 振り返る彼女。仮面を外したその表情は、元の落ち着いた彼女に戻っていた。

 

 

 「ルルちゃん……。」

 

 

 ルゥは一瞬目を伏せるが、すぐに流々の顔を見つめ直す。

 

 

 「昨日はゴメンね。あんなもの見せちゃって……。」

 

 「気にしないよ。みなもちゃんの所為じゃないからね。」

 

 「ううん、あれは私の所為だよ。臆病だった所為。」

 

 

 ルゥは再び夕焼け空を見つめる。

 

 

 「だからね。もうそんな自分は捨てることにしたんだ。

  全然楽しくないから……。」

 

 「みなもちゃん……。」

 

 

 ようやく笑顔を浮かべたルゥ。彼女の変身も解けていく。

 

 マントが消え去り、肌を覆っていたトイレットペーパーが消え去り、一糸纏わぬ姿となっていく……。

 

 

 「………………。」

 

 「み、みなもちゃん。」

 

 「あ、あわわぁぁっっ!!? なっ、何で……!?」

 

 

 急いで手で胸と陰部を隠す。

 

 

 「服……! 私の服は何処……!?」

 

 

 きょろきょろと海雲寺の敷地内を見回す。

 

 その時――

 

 

 「あ……。」

 

 

 倒れているトイレ怪人を見つけた。

 

 急いで近くに駆け寄るが、その姿はもう半分消えかかっている。

 

 

 「…………。」

 

 

 トイレ怪人の虚ろな目が素っ裸のルゥを捉える。

 

 

 「キレイだな、オマエは……。」

 

 「あわっ……そ、そんなこと……」

 

 「イイヤ、俺からシタら十分キレイだ。もっと自信を持ってイイ。

  俺の頑固汚れはモウ落ちナイが、オマエはまだ大丈夫だ。」

 

 「トイレ怪人さん……。」

 

 

 ルゥの目から涙が零れ落ちる。

 

 その光景を、流々火星はじっと眺めていた。

 

 

 《なぁ、流々。》

 

 「ん、何?」

 

 《お前があいつに構ってた理由、何となく分かったよ。》

 

 「お♪ そう?」

 

 《臆病で泣き虫、自己肯定感ゼロ。便所の妖精みたいな奴で、お前とは正反対だった。

  だからだろ?》

 

 「うん♪ そういう人って、私とは別の視点から物事を見れるからね。

  きっと私には気付けないようなことに気付かせてくれるんじゃないかって。

  まぁ、みなもちゃんはこれから変わっていきそうで、今はそれが楽しみなのが理由かな。」

 

 

 誰と付き合うかは先の人生を左右する重要な選択。

 

 みなもちゃんにも、これからもっと多くの人達と関わっていってほしい。この広い世界を楽しんでほしい。

 

 そして――

 

 

 「あ、そう言えば……。

  元が人間なら、名前は……?」

 

 「俺の名前……。ナンダッタか……。

  ――ああ、そうダ。」

 

 

 抜水ぬくみず 十和とわ――

 

 

 「ま、トイレ怪人の方が覚えていヤスいだろウから、ソレデいい。」

 

 「……私、トイレは大好きだよ。」

 

 「ああ。変わってるナ……。

  でも……ありがとう。

  どうかこれからも……大切に……使ってやってくれ……。」

 

 

 《ザザァァァ……!

 

 

 「! トイレ怪人さぁーん!!」

 

 

 水の流れる音と共に消えていくトイレ怪人

 

 その後、ルゥは、これまでの人生に無いくらい、いっぱい泣いた。

 

 

 

 

 

 

 水道の蛇口をひねれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 「報告します。

  フレット。全治何ヶ月かの大怪我だそうです。」

 

 

 ………………。

 

 

 「加えて、水漏 ルゥの元に向かわせたティーヴィとの連絡が取れません。」

 

 

 ………………。

 

 

 「それで、あの……第3話の脚本担当について……」

 

 

 その時、会議室のドアがキィと音を立て、ゆっくりと開いた。

 

 

 「ちょっと待ってもらえる?」

 

 「……! あなたは……」

 

 「次はアタシに任せてちょうだい♡ イイ男を見つけたの♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (☆2 End

 

☆3(1/?)に続く