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『ケロタン』第7話「墓場の森のミューバス屋敷」(2/3)

ケロタン:勇者の石+5

 

 ◆ ??? ◆

 

 「う、う~ん……。」

 

 一瞬、が抜けたような……。そんな感覚を味わった……。

 何の抵抗もできず、吸い込まれて……

 全く説明がなかったが……、これ、絶対危ない魔法だろ……。

 地面の上でうつ伏せになりながら、ケロタンは確信する。

 

 (これがパワハラか。)

 

 まさかの躊躇ためらいもなし。雑に扱われるのもそろそろ癖になってくる。

 

 (で……?)

 

 顔を上げ、周囲の状況を確認する。

 上手くいったんだろうか? そうでないと困るが……

 ケロタンはきょろきょろと辺りを見回し、頭に疑問符を浮かべる。

 

 (何処?)

 

 ぐるぐると渦巻く景色。少なくとも三途の川ではなさそうだが……。

 墓場の森……なのか?

 木々が……、空間が歪んでいると言うべきか。まるで絵の具をかき混ぜたかのようになっている。

 これは……

 

 「これが霊界・・だ。」

 「あ。」

 

 後ろに立っていたアグニスが説明を始める。

 

 「墓場の森だが、墓場の森ではない場所――

  本来、"霊界"とは、我々がいる"物質界"のように肉体を持ったまま活動できる場所ではないが、何らかの要因によって空間の安定が崩れた時、このようにズレが生じ、迷い込む者が現れる。」

 「その、要因って……?」

 「調べねばなるまい。」

 

 アグニスが前へ進む。その視線の先をよく見ると、建物が見えるような……。

 

 (屋敷……?)

 

 ゆらゆらとゆらめいていてはっきりしないが、周囲とは明らかに色が違う。自分の知る限り、墓場の森にあんな大きな建物は無かった筈だが……

 

 「あ、そう言えば、テロは……?」

 「近くにはいない。恐らく、あの屋敷の中だろう。ユタリはもう先に行った。」

 「なんてこった……。」

 

 何が出てくるか分からない状況でバラバラとは……

 

 (まぁ、こういうホラーな場所で固まろうとしても、結局、バラバラにされるのがオチな気がするけど……。)

 

 ケロタンアグニスに続き、屋敷の中へと足を踏み入れる。

 テロのことは連れてきた手前、放っておく訳にはいかない。

 

 

 

 

 ◆ 霊界の屋敷・1階・玄関ホール ◆

 

 《バタン!

 

 「…………。」

 

 誰のものかも分からない屋敷

 入ってすぐ扉が閉まり、少しビビった。

 しかし、これはもうお約束。特に気にした様子はないアグニスは、ライトで周囲を照らしながら、ずんずん奥へと進んでいく。

  

 「テロ~! 聞こえるか~!?」

 

 ケロタンは一応、奥に向かって呼びかけてみる。

 ――が、返事は返ってこない。屋敷の中は暗く静まり返っている。

 

 「手分けするか?」

 「そうだな……、だいぶ広いし……」

 「では、お前は1階を。私は2階だ。」

 「ん……。」

 

 勝手に決められてしまった。

 重要なものは1階より、2階にありそうな気がするが……。

 迷っている内に階段を上がっていくアグニス

 

 (譲る気ないのね……。)

 

 まぁ、探索は順番通りがいいが……

 ケロタンは溜息を吐き、玄関ホールをぶらつく。

 物言わぬ絵画をライトで照らしながら、ぐるっと一周。

 

 「…………。」

 

 何もない。

 一人だと本格的に静かだ。

 

 (…………。何か、寒くなってきたな……)

 

 ぽつんと残され、若干、心細くなる。

 幽霊が怖い訳ではないが、喋ってないとどうにもテンションが上がらない。

 

 (早くテロ、見つけよ……)

 

 ブルっと体を震わせた後、ケロタンは近くの扉に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
テロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《キィ……

 

 薄く扉を開け、中の様子をうかがう。

 

 「…………。」

 

 何の物音もしない……。けれど……、すぐそこに何かあるような……

 テロは恐る恐るライトを点けた。

 光が暗闇を裂き、そこに確かな物体が現れる。

 

 (ぬいぐるみ……?)

 

 小さくて丸くて紫色の……スモールノーマンだろうか……?

 そこら中、同じものが転がっている。

 

 (誰かの部屋かな……?)

 

 それとも物置か……。警戒心が薄れ、そのまま扉を開いていく。

 

 《キィィ……

 「…………。」

 

 中に入ってみるが、見える範囲に他の物はない。床や棚の上が同じぬいぐるみでぎっしり……。コレクションにしては、無造作に散らかり過ぎている。

 念の為、奥の方も照らしてみるが……

 

 (……?)

 

 いや……、積み上がったぬいぐるみの奥に、何か見える。

 気になったテロは、邪魔なぬいぐるみを少しどかしてみた。

 すると……、出てきたのは、大きめの箱

 

 (おもちゃ箱……)

 

 ……には見えないデザインで、血のように赤い。この部屋ではかなり浮いている。

 

 (開けられない……かな。)

 

 正面に錠が付いているので、が必要だ。

 テロは一旦離れ、近くにないか探すことにした。ぬいぐるみに埋もれているものがまだあるかもしれない。

 

 「うんしょ……」

 

 適当にぬいぐるみの山に体を突っ込み、かき分けていく。

 見た目に反して若干重みがあるが、頑丈な体の御蔭で問題ではない。

 

 《ぶすっ……

 

 後はライトで陰をよく照らし、見落としのないように……

 

 《ぶすっ……》《いたい……

 

 「……?」

 

 その時、何か聞こえた。

 

 《ぶすっ……》《いたい……

 《ぶすっ……》《いたい……いたい……

 

 動く度に小さなうめき声が増える。

 

 (あっ……)

 

 そこでテロは気付く。

 よく見えないが、多分、背中のトゲにぬいぐるみが突き刺さっている。

 

 《いたい……いたい……

 

 (ど、どうしよ……。)

 

 テロは慌てた。

 周囲のぬいぐるみの腹から、目から、血のような赤い液体が流れ出てきている。背中はもっと大変なことになっているが、問題のトゲには手が届かない。

 

 《いたい……いたい……

 

 泣きそうな声で痛みを訴え続けてくるぬいぐるみ。どんどん申し訳ない気持ちになる。

 

 (早く抜かないと……!)

 

 テロは急いで山から飛び出し、体をぶんぶんと振った。

 

 《いたい……いた……いた、いてて……!

 

 ぬいぐるみの体がトゲを上下する。糸が絡まり、中々抜けなかった。

 

 「ふんっ……! ふんっ……!」

 

 《いたっ……! いたっ……!

 

 苦痛に声を上げるぬいぐるみ

 頑丈な体を持つが故の無配慮か。テロは必死に体を振り続ける。

 

 (……!)

 

 すると、ふっと重みが減った。

 

 (と、取れた……?)

 

 ゆっくりと後ろを振り返る。ぬいぐるみは無事か。

 

 (うわ……)

 

 床はすっかり血塗れになっていた。思ったより、重傷だ。

 しかし、不思議なことに、刺さっていた筈のぬいぐるみの姿がない。

 

 (あれ……?)

 

 まだ刺さってる……なんてことはない。背中の違和感は消えた。

 一体何処に……

 

 《ぽた……ぽた……

 

 「……?」

 

 その時、顔に何か水滴がかかった。上……?

 テロはゆっくりと天井にライトを向ける。

 

 《ぽた……ぽた……

 

 垂れてくるのは赤い液体

 そこには、心臓部分に穴の空いた、スモールノーマンのぬいぐるみ……

 ――ではない。

 そこで、彼が目にしたもの・・・・・・は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
ケロタン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 「輝き♪ 失う♪ 屋敷に♪ 再び♪ この願い♪ 想いを馳せる♪

  幽霊でも♪ テロでも♪ ユタリでも♪ 早く出て~きて~♪

 

 《♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 一階とある部屋――

 ケロタン孤独のあまり、歌っていた。

 探索中に偶然見つけたピアノ。それが勝手に鳴り出すのも待てず、知っているアニソンのリズムに乗りながら、替え歌を歌い、鍵盤を叩く。

 この想いよ、届け――。ある種、不気味な光景であった。

 

 「悲鳴が上がる♪ 断末m――」

 

 「うわぁぁぁぁ……!!

 

 「…………。」

 

 断末魔?

 気持ちよく歌っていたところで、何か声がした。鍵盤を叩く手を止め、しばしフリーズ。

 

 (テロか……?)

 

 少なくとも、アグニスユタリの声ではなかった。あの二人はそもそも悲鳴を上げるタイプじゃない。

 

 「ケロタンさ~ん。目~覚ましたんですね~。」

 「うおっ……!」

 

 突然、背後に現れるユタリピアノの音に誘われたか。

 

 「なぁ、今、テロの声しただろ。聞いてたか?」

 「そ~ですね~。何処から聞こえたか~。私の予想では~」

 「あああ、早く言ってくれ!」

 

 ケロタンは足踏みしながら、答えを待つ。

 

 「思い浮かべると~いいと思います~。」

 「?」

 「会いたい相手のことを思い浮かべる~。次はその場所を思い浮かべる~。

  テロさんに会いたいという気持ちが強ければ~、屋敷が応えてくれるかもしれませんね~。」

 「何だその精神論。あ……おい……!」

 

 言ったところで、急にユタリの姿がぼやけ、見えなくなった。

 驚き駆け寄るが、霧散……。廊下の途中で、身を隠せる場所は何処にもない。

 

 (消えたよ……。)

 

 謎が過ぎる。これが空間が安定してないってことなのか? 流石にあいつが幽霊ってオチだけはやめてほしい。

 

 (思い浮かべる、か……。)

 

 ケロタンは溜息を吐き、走り出した。

 

 

 

 ◆ 霊界の屋敷・17階・廊下 ◆

 

 「テロ~!

 

 それからしばらく、名前を呼びながら、屋敷の中を走り回った。ユタリに言われた通り、よく考えながら。

 しかし、想いが足りないのか。悲しいほど誰にも出会えない。

 悲鳴はあの一回きりで、結局、本当にテロの声だったのかどうか分からないまま……

 

 (ん……?)

 

 廊下を走っていると、また目の前に階段が現れた。

 

 (さっきからやたら多いな……。)

 

 一体何階建ての屋敷なのか。だいぶ足腰が鍛えられる。霊界ってことで納得しようとしたが、そろそろ……

 ケロタンは階段の前で一旦停止した。

 

 「…………。」

 

 アグニスにも会わないし、完全に迷路に迷い込んでる感じがする。

 こういう時は、足を止めて周囲をよく観察した方がいいんじゃないか。

 例えば、あの壁に掛かってる絵画とか。裏側に隠しボタンや通路があったり、あるあるな……

 

 「ケロタン……」

 「え?」

 

 じっくり考え込んでいると、誰かに呼ばれた。

 もしや、テロかと思い、階段を見てみると、次の階に向かうサボテン族の後ろ姿が……

 

 「あっ……!?」

 

 もしや、テロ……!

 

 「おい……!」

 

 ケロタンは急いで後を追った。

 勿論、変だとは思ったが、今の膠着こうちゃく状態から抜け出せるなら、罠でも良かった。

 

 「テロ……!?」

 

 辿り着いた階で、テロは開いた扉の奥へと消えていく。

 ケロタンはその姿に続いてすぐに中に入った。

 

 「テ……」

 

 そこでケロタンは絶句した。

 大量のぬいぐるみの転がる部屋――、その床の絨毯が赤く汚れていた。

 

 「テロ……」

 

 ライトで部屋の中を照らす。ここで一体何があったのか。

 

 「お……。」

 

 テロの姿はないが、を見つけた。蓋は開いている・・・・・・・

 しかし、の周りは特に血の汚れが酷かった。

 

 (ごくり……)

 

 嫌な予感がする。

 ケロタンは警戒し、ゆっくりとに近付いた。

 

 「…………。」

 

 傍まで来て、恐る恐るの中をライトで照らす。

 そこには――

 

 「……!」

 

 何も無い……?

 予感が当たらず、ほっと胸を撫で下ろす。

 しかし、それならテロは何処に行ったのか。

 

 「ケロタン……」

 

 また同じ声。

 扉の方を見ると、テロらしきサボテン族が部屋から出ていく。

 

 「…………。」

 

 ケロタンは再びその後を追った。

 部屋から出ると、テロは廊下を走っていく。

 

 「は……?」

 

 だが、不思議なことに、階段の下にもテロらしきサボテン族が見えた。

 

 「えっと……」

 

 迷うが、とりあえず、廊下を走っている方を追うことにする。

 そうすると、今度は開いている扉から別のテロが飛び出した。

 

 「うおぉっ!」

 

 カオステロが沢山いる。どうしてこんなことに……

 頭の中に最悪のケースが浮かぶ。

 

 「テロ……」

 「どうした。」

 「びゃああっ!!」

 

 突然、後ろから話しかけられ、ケロタンは飛び退いた。

 

 「あ、あ……」

 

 いたのは、アグニス……。ようやく会えてほっとする。

 

 「何やってる。」

 「て……テロが……。テロが死んで……」

 「は?」

 「だって、あれってそういうことだろ!?」

 「…………。」

 

 アグニスは廊下を走り回る何匹ものテロを見た。そして、溜息を吐いた。

 

 「はぁ……。悪戯好きな幽霊がいるのかもな。」

 「興味深いですね~。」

 「え?」

 

 アグニスの後ろからユタリが顔を出した。

 

 「我らも中々探し物に辿り着けなくてな。

  どうやらこの屋敷を根城にしている魔物が、住処を荒らされまいと邪魔をしているようだ。」

 「魔物……? それが空間が不安定になった原因なのか?」

 「いや……、とにかくまずはその魔物をどうにかしなければ、まともに調査ができない。

  場所はユタリが特定した。地下だ。」

 「地下……。やたら上に向かわせる階段が多かったのはそういうことか……。

  ここから辿り着けるのか?」

 「ユタリ、任せたぞ。」

 「はい~。」

 

 ユタリは返事をすると、頭に被っていたナイトキャップを取った。

 すると、になんと。彼女の第三の眼が隠れていた。

 

 《ブォォォン……

 

 その眼がゆっくりと開き、妖しげな光を放つ。

 

 「何だ……?」

 「ユタリの能力だ。魔力のヴェールに隠れ、他者の知覚から逃れる。これで魔物は我々を見失った筈だ。」

 「じゃあ、今の内に地下へ向かうのか。

  テロはどうすんだ……?」

 

 聞かれたアグニスは走り回るテロ達に目を向ける。

 

 「あれを見ても、少し前までこの辺りにいたようだ。

  我々と同じく上に追いやられているのなら、餌ではなく、天敵と認識されている。心配する必要はないだろう。」

 「恐らく屋敷の中で迷わせて~、弱ったところで襲いかかるつもりなんでしょうね~。」

 「成程……。やっぱり、幽霊なのか? その魔物。」

 「ユタリ、説明してやれ。」

 「ふふふ~、幽霊っていうのは~、厳密に言いますと~、死んだ本人とは別の存在なんですよ~。」

 「ん、そういや、アグラン言ってたな。魔科学で扱う霊は、一般に知られているものとは異なるとか。」

 「ええ、その人の~、死ぬ間際の強い思いに影響された大気中の魔素マナが~、その人の形や思いを映しているだけなんです~。」

 「形や思い……。」

 「この規模のものは中々ないがな。」

 「え?」

 「屋敷だ。この場所は単なる記憶に過ぎない。

  だからおかしなことが起きるとしたら、大方、魔物の仕業だ。」

 「悪霊というやつですね~。負のエネルギーを大量に帯びることで魔物になる。

  ダンジョンで死亡した冒険者は、無念の死ということもあって、やはり生み出しやすいですね~。」

 「う~ん……。この屋敷はまだ大丈夫なのか?」

 「…………。魔物に支配されつつある。

  だが、元の状態を維持しようとする動きが見られる。」

 「相当、未練を残して死んだ奴がいるってことか……。この場所に……」

 

 一体何があるというのだろうか……。

 

 

 

 ◆ 霊界の屋敷・1階・地下室前 ◆

 

 「ここです~。」

 

 話しながら1階まで戻り、ユタリが見つけたという地下への入り口までやってきた。

 

 「何か置いてあるぞ。」

 

 魔法陣の光る扉の前に、5体の人形の乗った台

 ケロタンは、しゃがんで観察する。

 左から――。体の一部分が欠損していた。

 

 「封印か。

  仕掛けを解かなければ、先には進めないな。」

 

 アグニスは壁にライトを当てた。

 すると、赤い文字がそこに浮かび上がる。

 

 

 

 「……。」

 「何だこれ?」

 屋敷の主の趣味とは思えんな。」

 「例の悪戯好きな幽霊の仕業か?」

 「はぁ……。」

 

 アグニスは台に近付き、その内、1体の人形の頭を掴んだ。

 

 《ボゥッ……

 

 そして、燃やす。

 それは決して間違いないだろうという自信の表れ。

 

 「…………。」

 

 結果は言わずもがな。

 扉の魔法陣が消えたのを確認したアグニスは、開いてその先へ進む。

 

 「う~ん……イタズラ……え?」

 

 

 

 ◆ 霊界の屋敷・地下 ◆

 

 「魔物の気配が近いですよ~。この下です~。」

 

 ケロタン達ユタリを先頭に、地下へ続く長い螺旋階段を下っていった。

 にこちらの存在は認識されていないが、先程のようにあらかじめ仕掛けられたには注意して。

 

 「なぁ、さっきの壁に書かれてたこと気になるんだが……。ミューバス屋敷って……」

 「ああ。どうやら屋敷の主の名のようだな。

  確かにこの墓場の森には昔、魔科学者が住んでいたという話が資料に残っていたが……」

 「それを早く教えてくれよ……。」

 

 ケロタンは文句を垂れる。

 

 「マグル・ミューバス氏~、一部では有名な方ですよ~。

  私達が生まれる前~、霊界の研究中に起きた事故で、屋敷ごと行方不明に~。奥さん子ども~、家族もそれに巻き込まれて~、後には何も残らなかったと聞きます~。」

 「屋敷ごと……?」

 「物質界での建物は消滅したと見ている。研究資料も消えた為、はっきりしたことは分からない。

  ただ……、禁忌に触れた者は皆、哀れな末路を迎えるもの。未練の大きさはこの屋敷からよく伝わってくる。」

 「…………。」

 

 禁忌……。

 こんな場所でする研究といったら、やっぱそういう方向だよな……。

 

 「もし本物の屋敷と同じなら、何か手掛かりが残ってるんじゃないか?」

 「我々はそれを探している。」

  

 …………。そうか。

 確かここに来た目的は、行方不明者の捜索だったような気がするが……

 

 「ん……?」

 

 ケロタンは階段の途中で立ち止まり、少し考え込む。

 

 「どうした?」

 「う~ん……。」

 

 頭の中でこれまでのことがぐるぐると回る。上手く言葉にはできないが、何だか妙な違和感がある。

 

 「なぁ、ちょっと一つ確かめてもいいか?」

 「何を――」

 

 「《ケロダン!!」

 

 ノータイム

 ケロタンは突如、アグニスの顔面に向けて光球を放つ!

 

 《バァァァン!!

 

 「きゃあ~~!」

 

 爆発――

 アグニスの首が吹っ飛び、ユタリの気の抜けるような悲鳴が響き渡る。

 

 「当たったか……!?」

 

 首は階段の下へと転がっていき、残された胴体は青白い光に包まれ、壁の中へと逃げていく。

 アグニス偽物――! ということは当然……!

 

 「《ケロソード》!!」

 

 ケロタンは迷わず、ユタリに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
アグニス・ランパード

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ 霊界の屋敷・3階 ◆

 

 《ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 「…………。」

 

 突然、床が揺れ始め、アグニスは机の上のから目を離す。

 

 (この乱れ……始まったか……)

 

 既に行方不明者は見つけ、家に帰した。

 彼らは魔物の餌食にならず、しぶとく生き残っていたが、ケロタンテロはどうだろうか。

  アグニスは黒い装丁そうていをパタンと閉じ、近くの写真立てに目を向けた。

 

 (ゴードル・・・・……。)

 

 最期の願い、か……。

 ミューバスも厄介なものをのこしたものだ。