☆ 天至21年4月17日(日)☆
《ダンッ!》
一粒の水滴が、
《ダンッ!》
感情は揺れ動く。
例え、収まっても、一度混ざり合ったものは、もう元には戻らない。
「覆水盆に返らず――かな。
こうなったら、もう止められないね。」
戦いは避けられない。人には誰しも譲れないものがある。水魚の交わりという言葉があるが、どれだけ親しい関係になろうとも、
「私が勝ったら、全部取り消してもらいます。」
「勝てたらね。おもらしちゃん。」
両者の視線が交錯し、フィールドに水が流れ始める。
「うおー! がんばれぇぇ! みなもちゃん!!」
《
退く訳にはいかない。例え、どれだけ酷い目に遭おうとも。
少女達は叫ぶ――
「「ランカーズファイト!!」」
その決意の言葉を。
「おぉ~、生魚~♪」
やってきて、すぐに声を上げる、何処か見覚えがあるような金髪のツインテール。
早くも展示物に目を輝かせた彼女は、服から星のシールが大量に貼られた携帯を取り出し、その画面に自分と水槽を収め始める。
「どう? 色々新しくなってる感じ?」
「わぁぁ……」
そして、そんな彼女に続いてやってきたのは、水兵のような帽子を被ったショートヘアの女子と、鳥のような髪留めを付けたツインテールの女子。遅れて、水色髪と白髪の女子も姿を現す。
これは、間違いない――
彼女達は全員、
「これ、なんて魚かな……」
「分かりませんが、ちっちゃくて、萌えます!」
《パシャ☆ パシャ☆》
すみだ水族館、最初の展示エリア――水のきらめき、美しき自然水景。
生い茂った水草の間を生き生きと泳ぐ小魚達に、早速、流々達は癒される。
「お魚……」
そんな中、約一名、虚ろな表情で水槽を見つめる者がいるが……
「わぁ! つぐみちゃん! よだれ、よだれ!」
急いでハンカチを取り出そうとする流々。
しかし、それより早く
《ぱくっ!》
「!?」
すっと身を屈めたと思ったら、垂れたよだれを口でキャッチ。
「萌ちゃん、それヤバいって。」
「はうっ……!」
アンナに突っ込まれ、縮こまる萌。
まぁ、床を汚さずに済んだのは良かった……。
不思議と彼女のことを不快に感じないのは、異能《
周囲の人間に不快感を覚えさせないというD級能力。大胆な行動の多い彼女にとって、この能力は外せない。
「ははは……」
それでも
すると、様子を察した流々が手を取ってきた。
「大丈夫、みなもちゃん。萌ちゃんはちゃんと相手を見て、やってるから。」
「あわわ……」
「約束したからね。
今日は何が何でも楽しいって思わせてみせるって。」
そう、それは3日前のこと――
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はぁ……はぁ……」
自動ドアを通り抜け、コインランドリーの中へと入る。
「みなもちゃん……!?」
店内を見回す。
すると、そこでは《ぐおん……ぐおん……!》と回っていた。
洗濯機の中、魔法少女姿の水漏 ルゥが――
「うわぁ! みなもちゃん!」
急いで駆け寄り、魔法のリモコンで強引に停止させる。
「何で中に!? 何やってんの!?」
「自分を戒めてるところ……」
「え……!?」
「だって……私、トイレ怪人さんを殺しちゃったから……。殺人魔法少女だから……。
誰も罰を与えてくれないなら、一度捕まって……」
「思い切りが良くなったのは嬉しいけど、この方向は想像してなかったよ!」
学校でも突然自分を傷つけ始めるから、何事かと心配して追いかけてきてみればこの有り様。流石に犯罪はマズい。
「ルルちゃん、邪魔……」
「聞いて! 怪人が消えたのは、みなもちゃんの所為じゃなくて――」
「ネガヘルツでしょ。知ってるよ。
でも、倒したのは私だから――」
「…………。」
どうしてそこまで
今まで殻に閉じこもっていた所為で、ネガティブ思考が染みついてしまっているのか……。
だったら――
「じゃあ、罰として!
次の休み、何処か遊びに行こう! 皆で!」
「え……。」
「嫌でしょ。
みなもちゃんには絶対、楽しんでもらうよ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……………。」
「みなもちゃんはクラゲ好き?」
「えっ、あ……毒持ってる子もいるし、怖いかなって……」
色鮮やかな照明により、幻想的なクラゲエリア。
ビッグシャーレと呼ばれる巨大な水盤型水槽を見下ろしながら、ルゥも会話に参加する。
「見た目はふわふわしてて萌えるんですけどね~。」
「食べれるのかな。」
「ほとんど水分だから栄養は少ないらしいよ。ダイエットしてる時には良いかもしれないけど。」
「あ、ウミガメはよくクラゲ食べるって聞いたことある……。」
「耐性あるんだよね。猛毒クラゲも平気でむしゃむしゃ食べちゃうとか。」
「へー、凄い……!」
「うん、カメは凄いよ。」
間違えてビニール袋食べちゃったりするけど。
「う~ん、皆ものしり。
私、リョナ系でしかクラゲのこと知らないや。」
「マリオのことだと言ってくれ、流々。」
「ははっ……」
冗談に軽く笑いつつ、皆で次のエリアへと歩く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うわー、やっぱここは凄いね!」
吹き抜けの上、六階から見下ろす、小笠原大水槽。
ここは世界自然遺産である小笠原諸島の海が再現されていて、すみだ水族館の中で最も大きな水槽となっている。
シロワニやエイなど、大小様々な魚達が一つの水槽の中で群れを成し、泳ぎ回るさまは圧巻で、思わず時間も忘れて見入ってしまう。
じっと眺めていると、こんな会話も聞こえてきた。
「ここ、沢山色んな種類の魚がいて、どうして食い合わないのか不思議じゃないかい?」
「知ってるの? ダイヤちゃん。」
「調教済みだからさ。
ちゃんと餌の量も調整して、常に満腹の状態を維持しているみたいだよ。」
「いいなー。私もそんな生活送りたい!」
「ねぇねぇ、そろそろあっち見に行ったら? チンアナゴいたよ、チンアナゴ!」
「あっ、イクイク~!」
「流々ちゃん、チンアナゴだって。」
「みなもちゃん、チンアナゴだって。」
「え、う、うん……。」
こっちを向くつぐみと流々。
二人とも何かを期待するような目をしているが、ぶっちゃけそんなに惹かれないし、ウィットに富んだ返しも全然思い浮かばな――
「あっちは確かカメもいるんじゃなかったかな。」
「行こう。兎より早く。」
一瞬で迷いのなくなるルゥであった。
☆ まじぱれ ☆
大水槽から離れ、いよいよサンゴ礁エリアへと入る流々達。
360度から鑑賞できるスクエア型の水槽が並ぶ中、少し進んでいくと、目当ての水槽を見つけた。
「いた! チンアナゴ!」
全員で水槽の周りに集まり、じっくり観察する。
一面の砂の中から、細長い体をにょろんと出して、ゆらゆら動く不思議生物。
名前の由来は
「これ、模様が違くて萌えます!」
「ああ、それ。黒い斑点がチンアナゴで、シマシマがニシキアナゴっていう別の種類。それ以外は覚えてないけど。」
「星模様を探せ……」
流々が携帯を構えながら、水槽の周りを歩き始める。
確か昔、体の模様から「スター」というあだ名を付けられたチンアナゴがいたとか。
同じ種類でもそんな感じで微妙な違いがあるらしい。
「流々ちゃん、流々ちゃん。あれやらない?」
「おっ、やる? ここに来たら、当然のやつ。」
「?」
つぐみが突然、ツインテールを解き、両手を合わせ、前に突き出した。
「さかな~!(>ᗜ<)」
「「ちんあなご~!(>ᗜ<)」」
!?
ちょうど後ろの女の人とシンクロしてしまった流々。
二人は万歳に似たチンアナゴポーズのまま顔を見合わせる。
「あぁ、ごめんごめん、体が勝手に。チンと言ったら、マンと言わざるを得なくなるタイプだから、私♪」
「いえ、そういうノリいいの、大歓迎です!」
「なら、僕も何かやろうか。」
流々の言葉に面白がったのか、別の女の人も近付いてきて、ポーズを取り始める。
直立したまま、両腕を非対称になるように上へ。
これはもしかして……
「サンゴ……?」
ルゥは呟いてみる。
「正解♪」
「よし……!」
それを見た流々は対抗心を燃やしたのか、突然、大の字になり、床にうつ伏せになった。
「ヒトデ……!」
「私もやります!」
「あ、じゃあ、私も。」
萌は両手をひらひらさせ、クラゲかクリオネか。アンナは両手を翼のように動かし、海鳥の真似をし始める。
「はっ……!」
その様子をじっと眺めていると、全員から視線を注がれる。これは何かやらなくてはいけない空気!
「かっ――」
ルゥは膝を折り、四つん這いになる。
「カメ~……!」
近くの水槽では、ウミガメの赤ん坊がバタバタと泳いでいた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いや~、中々良い思い出が出来たね!」
水槽の前で撮った記念写真を満足げに眺める流々。
若干忘れたくなる気持ちもあるが、皆ノリノリだったのでまぁいいか……と、ルゥは思う。
「これで六階は見終わったかな?」
「うん、そろそろ下に。カフェあるから一旦休憩にする?」
「賛成!」
特に意見はぶつかることなく、ペンギンの見える下の階に繋がるスロープへ向かう。
(ん……?)
ルゥもついていこうとしたが、途中、気になる物が見え、足を止めた。
チンアナゴがいた水槽の辺り。床の上に何か落ちている。
(何だろう……?)
さっき通った時は無かったような気がする。
妙に気になって、近付いて拾い上げてみた。
「……?」
太くて長い……棒? 色は黒で、回してみるが、特に何も書かれていない。
……もしかして、グッズショップとかで売ってる物だろうか? オットセイに見えなくもない形をしている。
しかし、それにしては手足が付いていなくておかしいが……
(誰かの落とし物かな……?)
だとしたら、届けるか、このままに……
《ギュィィン……! ギュィィン……! ギュィィン……!》
「え……。」
握っていると、突然、手の中で音を立てながら震え出した。
(あ……)
その瞬間、頭の中で可能性が一つに絞られた。
(これ、えっちなやつだ……)
実物を見るのは初めてだが、間違いなくそうだろうと思った。
「みなもちゃん?」
「あわっ!」
急いで鞄に隠して音を抑え、振り返る。
「どうかした? トイレなら――」
「ううん。だいじょぶ……。」
言ったところで、振動は収まった。詳しくないが、さっき何処かスイッチでも押してしまったのだろうか?
ひとまず安心……とはならない。
ルゥはどうすべきか迷ったが、休憩中に考えようと思い、皆の元へ走った。
★ まじぱれ ★
スロープを通り、五階にあるペンギンカフェへとやってきた。
ここでは軽食やデザート・ソフトドリンク、すみだ水族館オリジナルのメニューが楽しめるようで、流々達は早速、チェック。
どうやら多くは水族館の生き物を模しており、ドーナツやアイスクリーム、期間限定のものなど、とにかく色々ある。
折角なので、全員オリジナルのものを注文することにし、大水槽前のソファに集まった。
他の客と共に腰を下ろし、一息つく。
(さて、どうしよう……。)
亀の形をした和菓子を食べながら、ルゥはブツのことを考える。
(こんなもの落とし物として届けていいのかな……)
拾ってしまった以上、元あった場所に戻す訳にもいかない。
小さな子もいるし、落とした人ができるだけ恥ずかしい思いをしないように……
「ダイヤちゃん、こっちこっち♪」
「……!」
少し離れたところに、さっき一緒に写真を撮った女の人達がいた。
生クリームみたいに白くてふんわりした髪の人が、チンアナゴを模した太くて長いパンに頭からかぶり付いている。
「ん~、おチンアナゴ美味しい~!」
「…………。」
まさかという思いが頭を駆け巡るが、もし違ったら、大変失礼なことになる。
「中々凝ってるよね、これ。」
「萌ちゃんは何頼んだの?」
「クラゲソーダです。萌えます!」
悩み過ぎて食べ物のことが頭に入ってこない。
ここは何だか分かってないフリをして、聞いてみるか。
いや、でも、折角の楽しいおでかけが台無しになる可能性を考えたら……
ルゥは動くに動けない。
《ギュィィン! ギュィィン! ギュィィン!》
「………っ!」
その時、ブツがさっきよりも大きな音で震え始めた。
バッと女の人達を見るが、食べ物に夢中で何かした様子はない。
「ん? 何の音?」
「電話かな?」
「あ、ちょっと……親からかも! 出てくるね……!」
咄嗟に誤魔化し、鞄を持って、その場から離れる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
人気のない場所に行き、震えが収まるのを待つ。
(ど、どうしよう……。このまま持ってたら……)
何か酷い勘違いをされそう。
緊張で、体の至るところから汗が噴き出てくる。
もう持ち主のことなんてどうでもいいから、そこら辺に転がしておこうか。
(あわわ……。落とす方が悪いよ、こんな物……)
さっきの女の人達のじゃないなら、お手上げだ。
全然収まりそうもないので、周囲に誰もいないことを確認し、鞄の中から取り出そうとする。
しかし――
「コッチから聞こえてきます。」
「!?」
誰か来る……!
逃げる隙もなく、固まる。
「おぉ~?」
現れたのは、二人。銀髪で、腰に浮輪のようなリングを付けた女の人と、ヤシの木っぽい髪に褐色肌の女の人だった。
「あの鞄の中かと。」
「え。いや、そんな訳ないよ。別の物と間違えてない?」
「間違いありません。」
「いや、でも――」
「間違いありません。」
銀髪の人が近付いてきて、強引に鞄を奪われる。
「あっ――」
「ありました。」
そして、まだ動いているブツを取り出し、褐色肌の人に渡す。
「え、何で持ってたの?」
「あ、えっと……。さっき六階で拾って……。そのままにしておくのマズいかなって……。」
「あー、あはは! そっか、ありがと♪」
良かった。とりあえず、そこまで迷惑にはならなかったみたい……。
しかし、安堵も束の間、銀髪の人に腕を掴まれる。
「待ってください。」
「えっ。」
「あなた、他にも
突然、全く心当たりのないことを言われる。
「あ……あの、すいません。友達と来てるので……、そろそろ戻らないと……」
「そーだよ、レプリ。意味分かんないこと言わないの。」
銀髪の人はレプリというらしい。変わったお名前で……
「亀の形をしていました。」
「!!」
ドキリとした。
彼女が言っているのは、きっと変身アイテムのことだ。あの日、手に入れた。魔法少女の。
「ごっ、ごめんなさい……!」
ルゥは手を振り払う。
流々もそうだが、周囲にはあくまで
「あぁ、ごめん……! たまにおかしくなるからこの子。」
褐色肌の女の人は、レプリっていう人の頭を掴んで強引に下げさせた。
「私はおかしくなどありません。スキャン結果をお見せしましょうか?」
「自己診断じゃ意味ないよ……!」
(何なんだろう、この人達……)
ルゥは軽く引きながら、皆の元へ戻った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おおぉ~ん♪ ここが噂に聞く、えっどリウム♡」
「…………。」
しかし、戻ったところで変態からは解放されなかった。
「じー……。」
食事の後、江戸リウムという金魚の展示エリアに来たが、ここでさっきの二人と写真の二人が合流し、あろうことか四人組に。
レプリからはずっと視線を注がれている。
「何かあの人、ずっとこっち見てくるね。」
「な、何だろうね……。」
ルゥは極力目を合わせないようにする。
「やっぱ写真かな?」
「絶対、嫌……!」
「おお?」
携帯を取り出そうとした流々を制止する。
写真を見る度にアレのことを思い出すのは御免だった。
「この金魚
「掬ってどうするんだい?」
「たまきん袋作る♪」
「私は亀に興味があります。」
「亀?」
「……! 皆、そろそろ次行かない?」
「え、どうしたの? あ……」
再び絡まれる前に避難する。
自分の所為で魔法少女の秘密がバレるのは嫌だし、近くであんな会話を聞かされると、イベントを純粋な気持ちで楽しめない。
「新しいエリアって、アクアスコープだっけ?」
「そうそう。もしかして、みなもちゃん知ってた?」
「へ?」
「きっと気に入ると思うよ♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「…………。」
新しく出来たというエリア。
そこに向かうと、オススメされた理由はすぐに理解できた。
壁やオブジェに幾つも空いている穴。
それを覗き込んでみると、そこには水族館で暮らす生き物達の過去の映像や、遠くで暮らす生き物達の映像が流れていた。
その中には、成長したウミガメの姿もあり、故郷・小笠原の海へ還っていく様子は、寂しくもじんとさせられる。
「みなもちゃん。見えた?」
「うん……。」
このすみだ水族館で昔から続けられている、絶滅危惧種の保全活動。
さっき六階で見た赤ん坊のウミガメも、成長したら元の居場所に帰るのだろう。
そうしてまた新しい命へと繋がっていく……
(いいな……)
こうした活動を見る度に、自分にも何かできることはないかと、深く考えさせられる。
「……。私もいつも考えるんだ。
この世界の為に、自分は何ができるんだろうって。」
「…………。」
「トイレ怪人はさ。人間が汚れてるって言ってたんだよね。
誰もがモノを大切にする、綺麗な世界を望んでた。
みなもちゃんはどう思ったの?」
「……。正直……無理だと思った。
皆の思いを一つにするなんて、聞こえが良いだけで、きっと良い世界じゃないと思う。
あんな風に自分の都合を周りに押し付けて……、強引に変えようとしても、反発を生むだけ……。
だから、止められたことは後悔してない。
最後……私にルルちゃんみたいな力が無くて、助けられなかったから……。」
「みなもちゃん。」
「……?」
「実は、渡したいものがあるんだ。」
流々はそう言うと、鞄から何かを取り出す。
渡したいもの……。
ルゥはそれが何であるか想像できなかった。
「手、出して。」
「うん……。」
両手で器を作る。
そこに流々の手が重なり、何かが置かれる感触。
「あ……。」
ルゥは目を見開く。
渡されたのは、まるで食玩のような手の平サイズのトイレ怪人だった。
「ごめんね。今はまだ力が足りなくて、そんな状態でしか残せなかったんだ。」
会話はできない。動くこともない。本当にオモチャみたいな状態……。
「これ……元に戻せるの?」
「できないとは思わない。今後の頑張り次第だと思う。」
「…………。」
まだ取り返しがつく。ルゥはトイレ怪人を大事に手で包み込んだ。
「大丈夫。私は皆を支えるマスターエール。
あいつら……ネガヘルツの番組を絶対にハッピーエンドで終わらせてやろうよ。」
「……うん。やろう……!」
顔を上げるルゥ。その表情は、決意に満ち溢れていた。
ようやく迷いの晴れた様子の彼女を見て、流々達も笑顔になる。
「はぅぅ元気なみなも先輩……! 萌えます!」
「それじゃあ、後はグッズコーナーだね。行こうか。」
「こっちだよ♪」
「…………。」
仲間……。友達……。
騒がしいのにはどうしても慣れず、心から受け入れることはとても難しいが、今は感謝の気持ちでいっぱいだった。
一緒にいれることをこんなにも嬉しく感じるなんて。
今の気分なら、皆と同じように楽しめるかもしれない。
そう思い、付いて行こうとした。
その時だった。
「おお! こんなところにノゾキアナ!」
!?
振り返ると、そこには例の四人。
「ねぇ、見て! チンコが泳いでる!!」
「え? あぁ、ウミガメだね。
暖かくなってくると、卵を産みに上がってくる。」
「ちん……」
「ん、どしたの? みなもちゃん。」
突然、フリーズしたルゥ。
その耳は彼女達の会話を聞くことに集中していた。
「それ! 海の中で産まないのって、やっぱ見せ付ける為?」
「いえ、呼吸ができず死んでしまいますから……」
「私、性別が温度で決まるって聞いたことあるよ。」
「ちなみにウミガメってAVメーカーの名前にも使われててね。」
「おぉ~。どんなの? どんなの?」
盛り上がっている。周りの目も気にせず。
ルゥはそんな危険痴帯へふらふらと近付いていく。
「あの……。」
「ん。」
「ちんこって何のことですか……?」
「エッ? 亀頭……。
亀っていったらチンコだし♪」
白髪の女子は目を閉じ、頬を赤らめる。
「違います! 全然似てないです!」
「?」
「みなもちゃん……?」
突然、声を荒げたルゥに、流々達は驚き、駆け寄る。
「んー、確かに色はあんまり似てないかもね。」
「えー! でも、亀頭って言葉があるんだよ!」
「だからって、そんな呼び方しないでください!」
「やだ! チンコはチンコだもん!」
腕を組み、頬を膨らませる。
「まぁまぁ、しもちゃん……。普通の子の前だから……」
「いえ、彼女は普通ではありません。」
「え?」
レプリが一歩前に出る。
「たった今、情報が届きました。
彼女は水漏 ルゥ。先日、街に出現したトイレ怪人を倒した魔法少女です。」
「……!」
「えっ、そうなの?」
「だってさ、しもちゃん。」
「……!? おっ、脅そうったって無駄だよ! こっちには表現の自由があるんだから!!」
「それは誰にもあるよ。」
「どうなの、流々ちゃん?」
「う~ん、一応、向こうが正論かな……。
みなもちゃん。」
しかし、ルゥは肩を掴まれても退こうとしない。
「国は関係ありません。取り消してください。」
「うわー! ダイヤちゃん、助けて! この子めんどくさい!!」
「素直に謝ったらいいんじゃないかな……。」
「いえ、私から一つ提案があります。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「チャンネルチェンジ!!」
《カッ!!》
…………。
流々のリモコンから放たれた光が収まり、ゆっくり目を開けると、辺りは真っ白な空間に。流れ落ちる水の美しい決闘場に変わっていた。
「ここなら誰にも迷惑かからないでしょ。」
「へー、本当に魔法みたいな異能力。」
「ココナ。席、こっちみたいだよ。」
《…………。なぁ。》
「ん?」
流々の鞄から仮面状態の
《止めなくて良かったのかよ?》
「こうなったら良い機会だよ。みなもちゃんのデッキ楽しみだし♪」
《二日前に始めたばっかの初心者だろ。
やる気みたいだけど、ちゃんとデッキ回せるのか?》
「では、勝負の内容を確認します。」
フィールドの中央に立ったレプリが司会をする。
「勝負はTower of Rankersにて行い、敗者は勝者の要求を呑む。
水漏 ルゥ様が勝った場合、
「ぶぅー!!」
「こりゃ、しもちゃんにとっては死活問題だね。」
「あはは、そうかな?」
「霜之口 亥鷺様が勝った場合、水漏 ルゥ様は謝罪と、その鞄の中の亀の機械、提出をお願いします。」
《亀の機械……? って、変身道具か……!
おい。あれ調べられるの、マズくないか?》
「まぁ、その時はその時♪」
《…………》
「それでは両者、位置についてください。」
霜之口とルゥは、フィールドの両端に立ち、向かい合う。
《ダンッ!》
最早、相手のことしか見えていない。
応援する者、先行きを憂う者、ただただ状況を楽しむ者――
二人は全てを
「「ランカーズファイト!!」」