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『異端のネシオ』3Hz「異常性クラスメート(後編)」(1)

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 万物はメタファーだ。

 

村上 春樹『海辺のカフカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つとして、同じものはない――

 

 自然の中では、全てが異なっている――

 

 

 

 「…………。」

 

 それは、この舞い散る氷の粒のように。一見、同じに見えるものでも、必ず何処かに違いがある。

 その素晴らしさを、一体どれだけの人間が自覚していることか……

 

 男は窓の外を見つめ、天から降りてくる宝石のような結晶一つ一つに目を合わせた。

 

 さぁ、君達は、これを見て何を思う?

 

 美しく宙を舞うそれらは、やがて地に落ち、溶けて消える運命にある。

 故に、この光景に寂しさや虚しさを感じるだろうか……。

 

 私は、そうは思わない。

 

 それらは、正確には消えたのではない。

 

 個体から液体へと、形を変えた。

 

 我々、人間もそう。

 

 決して、消えてなくなったりなどしない。死しても形を変え、何かの一部となってこの世に存在し続ける。

 

 無駄な終わりなどない。

 

 一つの終わりは、また新たな始まりに繋がっている。

 

 流れるエンドロールと、そのBGM。

 プロジェクターの再生が終わると同時に、聞こえていた足音が部屋の前で止まった。

 

 「アルター……!!」

 

 扉が開かれ、メイド服を着た緑髪の少女が駆け込んでくる。

 ノックも忘れるほど慌て、その表情には恐れが見える。

 

 「何かあったか?」

 

 「……! はいっ。ネシオ・スペクトラが……脱獄、しました。」

 

 

 …………。

 

 

 「そうか……。」

 

 「…………?」

 

 予想外の反応に、しばしフリーズする少女。

 

 「あの、アルター。すぐに――」

 

 「全ては予定通り・・・・だ。

  エアデュースにも、騒ぎ立てることのないよう伝えておいてくれ。」

 

 「っ……! どういうことですか……!?  まさか――」

 

 「兄弟愛・・・でないことは保証する。

  今、言えるのはここまでだ。」

 

 「…………。分かり……ました。」

 

 エアと呼ばれた少女は、納得できない、という表情を浮かべつつも、大人しく引き下がっていく。

 

 「…………。」

 

 すまない……。本当のことだ。ここまでは・・・・・、全て予定通り――

 

 アルターは窓の外、海の向こうへと目を向けた。

 

 そして、ここから先は、もう誰にも予測はできない。

 

 (これは賭け・・だ。)

 

 既に未来は確定している。そこに繋がる可能性は無限大。

 

 (ネシオ……)

 

 真実に辿り着くには、多くの犠牲が伴う。

 

 しかし、お前ならもしかしたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【天至20年・12月24日・国際異能機関ISNO本部】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3Hz ― 異常性クラスメート(後編) ― 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆ 天至てんし21年5月29日) ◆

 

 

 

 ≫ ??????

 

 

 

 

 何処までも広がる、暗黒の宇宙――

 

 星々が渦巻く、神秘の宇宙――

    

 ここには未だかつて、誰も解明し切れていない、おびただしい数の未知がある。

 

 それが、この私の知的好奇心を刺激する。

 

 漂う男は、その長い銀の髪を揺らめかせながら、機械の眼で輝く星々を見つめた。

 

 全ての始まりは、そう――

 

 今から約138億年前。この世界は大規模な爆発によって始まった。

 

 ビッグバン――

 

 最初は一つの点であった宇宙が、それ以来、幾つもの星々、銀河を生み出しながら膨張を続け、今では観測可能な範囲だけでも兆単位の銀河が存在している。

 

 果たして、この世界は何処まで続いているのか……。宇宙の膨張は何故か加速しており、永遠とする説も存在する。

 

 それは、何とも夢のある話だ。

 

 もし、宇宙の広さが無限だとするなら、可能性も無限大。

 地球が生まれたように、そこに生命が誕生したように、どのような世界でも生まれている可能性がある。

 

 ここと全くそっくりの世界、或いは全く異なる世界――

 

 想像してみたまえ、ここより遥か遠くの宇宙には、規模も物理法則も異なる銀河が存在し、我々の想像もつかない知的生命体が存在しているかもしれない。

 

 「フフフフ……。」

 

 できることなら、直接この目で見て確かめたいものだ。

 果たして、無限などということが有り得るのか。

 

 「あらゆるものは有限である・・・・・・・・・・・・――

  というのが、私のスタンスでね。

  ネシオ。君も見たいとは思わないか? この世の果てを。」

  

 漂う男は、身を翻し、問いを投げかける。

 有限か、無限か、それが問題だ。

 

 ネシオ・スペクトラ――

 

 「フッ……。生憎、あまり難しい話は好きじゃない。

  『ゼロ・グラビティ』を楽しんでいるところ悪いが、つまらなければ、すぐに帰らせてもらうぞ。

  メタファー・ハイブアイズ。」

 

 「…………。」

 

 口元に笑みを浮かべ、沈黙するメタファー。

 

 しかし、次の瞬間……! その背後に幾何学模様が広がっていく。

 

 「《The End of the World》――。

  我がZ級能力は、この身を何処までも運ぶ。」

 

 出現した鋼鉄の羽。

 メタファー・ハイブアイズの異能は、瞬間移動能力の究極系。制約は無いに等しく、あらゆるものを任意の場所へと移動させることができる。

 

 「成程。旅行や覗きには便利そうだ。」

 

 「ああ……。私はこの力を利用し、これまでありとあらゆるものを観測してきた。

  人が一生の内に見る景色の、何億倍もの景色を、この脳に刻んできた。

  だが……」

 

 メタファーは、暗黒の宇宙へと手を伸ばす。

 

 「足りない。どうしても辿り着けない。全ては遠ざかっていく。

  我が能力を以てしても、観測し切れぬものが2つ。」

 

 「……?」

 

 「一つは宇宙。

  そして、もう一つは――」

 

 メタファーの羽が煌めくと同時に、何も無かった空間が物で埋め尽くされる。

 椅子……人形……ヤシの木……テレビ……何処からやってきたのかは知れない。

 ネシオは、その中からジュースを手に取り、蓋を開け、飲み始めた。

 

 「異能だ。宇宙と同じく、多くの謎に包まれている。

  今から約二十数年前。突如、出現し、爆発的に世界に広がった。

  このことに疑問を抱かない者はいない。

  ネシオ。君はどうだ?」

 

 「ん? さぁ? 第二のビッグバンでも起きたんじゃないか?」

 

 「フフフ……。あれが自然現象だと?」

 

 メタファーは笑い出す。

 

 「記録は十分残っている。

  あの混乱の最中、他とは明らかに異なる動きを見せた者達がいた。

  彼らは今、多くの国家・組織を超越した力を手にしている。」

 

 「もしかして、俺のお兄様の職場のことを言っているのか?」

 

 「彼らの動きは異常だった。

  まるで異能の出現をずっと前から予期し、準備していたかのような……。

  Z級能力者の中でも極めて特殊な君達の存在も、実に興味深いのだよ。」

 

 「…………。」

 

 「しかし、だ。あれが人為的に引き起こされた現象だと考えた時、どうしてもおかしなことがある。」

 

 「また問題か?」

 

 「ああ。そのような大規模な計画。権力者達の耳に入らない筈はない。

  奴らは常に世界中に網を張っている。

  苦労して固めた権力基盤を揺るがす、いや、破壊するような計画を彼らが許すと思うか?」

 

 「やっぱり、DOGEZAだろうな。必死に頼めば、思いは伝わる筈さ。」

 

 「ふ……。

  このような力、独占しようと考えない人間はいない。」

 

 メタファーはネシオの周囲をゆっくりと回り出す。

 

 「何故、そうならなかったのか?

  現在、異能力者の管理に躍起になっている国際異能機関は、それが目的だった筈だ。

  ごく一部の選ばれた人間による、世界の統治。超国家機関。

  私は今の状況が、とても不自然で仕方がないのだよ。」

 

 「ほぉ……。じゃあ、何かトラブルがあったのかもな。

  どんな天才にも失敗はある。」

 

 「―――――」

 

 メタファーの姿が一瞬にして消え、ネシオの目の前に出現する。

 

 「私は、計画に裏切り者・・・・が出たのではないかと考えている。」

 

 一瞬、会話の時が止まる。

 

 「へぇ、裏切り者……。

  計画を止めるのではなく? 全員にバラまくなんて、面白いことを考える奴がいたもんだ。

  そんな人間がいるなんて――」

 

 「君達の母親ではないのか?」

 

 「…………。」

 

 「クレイシー・スペクトラ。著名な生物学者の両親の間に生まれ、彼女もまた、同じ道を志した……。

  確かにこの世に存在していた筈だ。

  それなのに、今は何処にも存在しない。

  彼女は一体何処へ行ったのか?

  何かに姿を変えたか、それとも、誰にも見つからないような場所に隠れているのか……。」

 

 メタファーは、また空間を漂い始め、数回手を叩いた。

 

 「とりあえず、おめでとう。

  君の母親は、前の世界を牛耳っていた権力者達の夢を見事にぶっ壊した訳だ。

  組織を代表し、私から感謝を送る。」

 

 「…………。俺の母親がヒーローねぇ。

  そりゃ、誇らしい。アルターに伝えたら泣いて喜ぶかもしれない。」

 

 「まぁ――」

 

 メタファーの動きが止まる。

 

 「消えた人間は複数人存在する。

  君の母親でない可能性は十分あるがね。」

 

 「…………。」

 

 「なぁ、ネシオ。

  夢を壊された権力者達が、その後、諦めたと思うか?」

 

 メタファーの手に、世界地図が出現する。

 

 「どうあれ、目的のもの――異能力は手に入った。

  ただ、裏切り者の行動によって、彼らはシナリオを大幅に変更せざるを得なくなった。

  彼らは年々、異能力への締め付けを強化している。

  目的を悟られないよう、少しずつ、少しずつ……。」

 

 「ハハハ!

  結局、やり方は変わらない訳だ。」

 

 「そう、実に哀れな連中だ。

  だが、そんな彼らに大人しく従ってしまうのだから、愚かな大衆よ。

  金をちらつかされれば、自らを縄で縛る。

  現在、国際異能機関の方針に逆らうことができているのは、我々が支配する中東と、ロシア含むアジアの一部の国々のみ……。」

 

 メタファーは、世界地図を指でなぞっていく。

 

 「フフフ。日本には驚かされた。

  簡単に取り込まれると思っていたが……新しくトップの座に就いた男。

  戦後、アメリカの奴隷となっていた日本を、よくあそこまで立て直せたものだ。いやはや、日本人の創造力は侮れん。

  ネシオ。

  君が今、あの国に身を置いているのは、何か深い意味があるのかな?」

 

 「いいや? 俺はただの旅行者だ。

  5年も刑務所の中にいたからな。新鮮な気分で――」

 

 「…………。」

 

 メタファーの顔から急激に表情が消えていく。

 

 「さて――。どうでもいい。余計な話はここまでにしよう。」

 

 「ん?」

 

 「本題・・だ。」

 

 メタファーがそう言った瞬間、周囲に巨大な星が幾つも出現する。

 

 「異能――。

  はっきり言って、異常な力だ。ほんの少し前まで、この世界にこんなもの存在しなかった。

  それをどのようなきっかけか、誰かが手に入れ、世界に広めた。

  それにより、誰も想像し得なかったことが起きる。」

 

 「そりゃそうだろう。」

 

 何を当たり前のことを、と。ネシオは笑う。

 

 「ネシオ・スペクトラ。

  君は、これほどの力が何の代償もなしに使えていると、本気で考えているか?」

 

 メタファーの機械の眼が真っ直ぐネシオを捉える。

 

 「一体エネルギーは何処から来ているのか。

  我々は、一体何を消費しているのか。

 

  誰も分からない――。

 

  だから、様々な予測が立てられている。

  こんな能力が消費するエネルギーが僅かということは決して有り得ない。

  使えば使うほど、この世界は終焉に近付いている。そう恐れを抱く人間もいるのだよ。」

 

 「おいおい。本題っていうのは、ただの学者の妄想か?」

 

 「いいや。

  どうやら、彼ら・・には見えているようだ。世界の未来が。」

 

 メタファーの背後に赤く輝く星が出現する。

 

 「破滅が、ね――。」

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ≫ 東京都・中野区・夙吹はやぶき

 

 

 

 (金か……)

 

 AM8:00――

 夙吹はやぶき 創太そうたは、パソコンの時刻表示をじっと見つめながら、表情を険しくする。

 

 (残り十六時間……。)

 

 このまま何事も無ければそれでいいのだが……、楽観はできない。

 金の為ならヤクザをも殺すような連中が、こんなうまい話・・・・に飛び付かずにいられるか……。

 

 「…………。」

 

 「お兄ちゃん、ずっとその姿勢で疲れないの?」 (( ))

 

 「そう言えるほど、見ていたのか?」

 

 「ゔ……。」 ((( )))

 

 大した用もないのに話しかけてくる妹を追い払い、ソファの上へと目を移す。

 

 《♪ ♪ ♪ ♪ ♪》

 

 そこから聞こえてくるのは、携帯ゲームの音。無音むおんは変わらぬ様子でくつろいでいる。

 家に上げるのは今日が初めてだが……。たいへん奇妙な状況にある。

 

 しかし、彼女の両親は、このことに一切疑問を持っていない。

 彼女は今日一日、この家の中――俺の目の届く場所で過ごす。

 これは仕方のないことだ。

 運が悪かったで済ますつもりはない。

 

 創太は携帯の画面へ目を移し、昨晩のことを思い出す。

 

 今年より東京内に蔓延し始めた犯罪支援アプリ――クラスタークライムに、最近になって追加されたというレイドイベント

 昨晩、桃風ももかぜ 無音むおんがそのターゲットになったという情報が舞い込み、すぐに危険を知らせに動くことになった。

 一刻を争う事態であった為、手段を選んでいる余裕はなく、を借りざるを得なかった。

 

 B級能力――嘘から出たまこと】。

 

 それが俺の――結火むすびが持つ異能力。嘘を信じ込ませる。

 対象人物が赤の他人であるほど、高い効果を発揮するもので、無音達の説得は恐ろしいほど簡単なものだった。

 

 ただ、危険が迫る無音だけには、ここに連れてきた後、ちゃんと真実を伝えている。

 巻き込むことは全く考えていなかったが、犯罪支援アプリのことを伝えざるを得なかった。自分の置かれている状況を正しく理解していなければ、危険だからだ。

 いざという時、自分で身を守る行動は取ってもらいたい。本人に生き残る意思がなければ、守ることは難しくなる。

 

 (できることなら、絶対に安全だと保証してやりたいが……。)

 

 …………。

 

 創太は何もない天井を見つめ、しばし考え込む。

 

 (いや……、期待することはできない・・・・・・・・・・・。)

 

 遠い存在を頼りにするべきじゃない。

 

 創太は再び端末の画面と向き合った。

 無音が選ばれたのは、偶然と考えることもできる。

 しかし、これまでのどのターゲットよりも、報酬は高く設定されているという話だ。

 俺への攻撃か、それとも無音自身に何かがあるか。

 アプリがターゲットの情報を何処までイベント参加者に伝えているのか。

 情報が不足している中、今、俺にできることは後、仲間に指示を出すことくらいだ。

 暗間くらまには、俺が無音の護衛で動けない間、限無きりなしのサポートを頼んである。

 それに合わせ、他の仲間達も既に動き出している。

 例え、俺が抜けても戦力は十分……

 

 (ん……。)

 

 端末の画面に通知が表示される。暗間からメッセージ。

 開いてみると、文章と共に幾つもの画像が表示された。

 

 【アプリの件との関連性は不明――】

 

 どうやら、ここ最近続いている人肉事件のことのようだ。

 突然、空から人そっくりに加工された肉が降ってくるという怪奇現象。

 これまで犯人も狙いも不明だったが、数と場所を記録していった結果、暗間はそこに潜む謎に気付いたらしい。

 彼女が出した答えは、二進数。男性の肉を1、女性の肉を0とし、身長(年齢?)の順に並べる。

 その後、アルファベットに変換し、東京の地図上に並んだものを読めば、意味の通る文章になるという。

 記録が完全ではない為、抜けもあるが、そこは前後が分かっていれば、埋められる。

 

 (よくやってくれた……。)

 

 彼女の暗号の気配を嗅ぎ取るセンスは超一流だ。情報を集めた甲斐がある。

 

 しかし……、今、この文章のことは後回し。

 

 創太は再びパソコンの画面に集中する。

 

 (また一人罠にかかったか……。)

 

 自宅周囲の監視カメラ映像の一つに、挙動不審な少年が現れる。

 突然、透明化が解除されたことに戸惑いを隠せていない。

 

 ――これが無音異能沈黙の奏者】。

 一定時間、声と聴力を失う代わりに、周囲にいる人間が持つ異能力を無効化する。

 ここにいる間、無音には、俺と結火を対象外にし、疲れない程度にこの能力を繰り返し使ってもらっている。合図はゲーム音。

 これでアプリが与える力だけでなく、固有の異能の使用も防げる。

 そのまま相手が諦めて帰ってくれればそれで良し。

 もし、諦めないのであれば……

 

 《ぴんぽーん

 

 「結火、対処は任せた。」

 

 「おっけー。」((( )))

 

 

 

 

 

 

 

 

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