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『異端のネシオ』3Hz「異常性クラスメート(後編)」(5)

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 Alcohol is the cause of all my problems.

 (アルコールは私のあらゆる問題の原因である。)

Jason Williams(ジェイソン・ウィリアムス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ≫ ??????

 

 

 

 

 

 何処までも広がる暗黒の宇宙――

 星々が渦巻く、神秘の宇宙――

 

 そこでは、赤く輝く星を背景に、二人のZ級能力者の会話が続けられていた。

 

 「星の寿命が尽きる時、人類は滅亡せざるを得ない。

  しかし、我々はどうだ?

 

 「…………。

 

 

 ネシオは手元の携帯に目を落としている。

 ノストラダムスの大予言になど興味はないといった風に。

 しかし、構わず話は続けられる。

 

 

 「ZONEゾーン。自分を変え、そして、周囲を変える能力。

  我々が持つ特異な力  

  最早、人類などと呼べるかどうかも怪しいだろう。

 

 

 メタファーは、遠くの星々を見つめる。

 異能が使えない人類を旧人とするなら、彼らはもう滅ぼされてしまっている。

 

 

 「変わることのできない生命が、生き残ることはない。

  次に滅びるのは、君の可愛い友人達かもしれないな。

 

 「…………。

 

 

 淘汰の時は再び迫っているのだろうか。

 

 

 「新たな人類は、環境に適応する為、異能力を発現させた。

  しかし、中にはそれだけに留まらない  

  更に進化した異能力者は、ZONEを形成し、環境を自らに適応させるようになる。

  我々がこうして宇宙空間で言葉を交わせているのも、Z級能力者たる我々が作り出したZONEによるもの。

  国際異能機関が我々をZ級能力者と呼ぶのは、そういうことだ。

 

 

 メタファー幾何学的な羽を大きく広げる。

 

 

 「異なる法則、異なる宇宙を作り出す存在……。ネシオ、君は我々が一体何処へ向かっていると思う?

 

 「ふむ……。

 

 

 ネシオはようやく携帯をしまい、メタファーの質問に応じる。

 

 

 「更に上があるとでも言いたげだな。

 

 「私は君達が他の誰よりもその場所に近いと考えているのだよ。

 

 「何を根拠に  

 

 「私は見た。

 

 

 メタファーは片目を見開く。

 

 

 「5年前のあの日、ニューヨークの崩壊を目の当たりにした時、私の視界に飛び込んできたもの。

  君が形成した大規模なZONEの影響で大勢の人間が不可逆変化を促されたが、私にとってはそんなことはどうでもいいのだ。

  ネシオ、あれは一体何だ?

 

 

 メタファーは強く答えを求める。

 

 

 「崩壊した街の中、君を中心に宙を舞う蝶、いや  

  あんな生物・・・・・はこれまでに見たことがない。

  君の能力によって目にすることができたのだ。

 

 「ほう。ただのエフェクトに深い意味を感じたか?

  妄想が過ぎると友人を無くすかもしれない。

 

 「構わんよ。あの日、私の運命は変わった。

  地上にはもう興味が持てない。

 

 

 メタファーは興奮しているようだった。

 

 

 「あの日見たものこそ  

  あれこそ! 我々が普段知覚することの叶わない高次元の生命! 異能の正体……!

  私は何としてでもその場所に辿り着く。

 

 「…………。

 

 

 メタファー・ハイブアイズの持つ異常性。

 この世の全てを余すことなく観測しなければ、気が済まない。

 ふふふ……ある意味、と似ているな。

 

 

 「その為にずっと観測を続けてきた。

  君達の母親は一足早く彼らと同じ場所にいるのではないか?

  ネシオ、我々は良き友人となれるのではないか?

 

 

 目的は同じ。利害の一致という話か。

 

 

 「望むのなら、組織を抜けて君達の下に付くことだって厭わない。

  目的の為に世界を滅ぼす必要があるならば、いつでもそうしよう。

 

 

 メタファー・ハイブアイズ……。

 彼はマッドサイエンティストで、これまで多くの人間を自らの科学の礎にしてきた。命じれば、本当に躊躇なくやるだろう。

 しかし  

 

 

 「悪いが、俺は昔から飽き性でな。依存や執着とは無縁だ。

 

 「…………。

 

 

 差し出された手が取られることはない。

 が、無論、メタファーも一筋縄で行くとは考えていない。

 

 

 「成程、君と君の兄、アルター・スペクトラの目的は違うのかもしれない。

 

 「完全に的外れな可能性について、もう少し考えてみた方がいいんじゃないか?

 

 「…………。

 

 

 メタファーはようやく沈黙する。

 

 

 (ネシオ・スペクトラ……

 

 

 能力【Color Noise Butterfly】は、あらゆるものを変化させる。

 例えば、私が時間の流れるスピードをプラスしても、同じ分だけ減らされ、0に戻される。

 接触した相手の能力に変化し、仕組みを把握してから逆をやるだけの単純作業。弱点があるとすれば……

 

 他のZ級能力者と同様  性格。

 

 現状、能力勝負に持ち込むのは得策ではない。

 アルター・スペクトラは、飼い慣らすことができなかったようだが、私が諦めることはない。

 

 「さて、答えは出たかな。メタファー。

 

 「ふふふ……。

 

 

 メタファーは差し出した手の平にあるものを出現させた。

 

 

 「確かに、プロセスに問題があったようだ。

 

 「ふっ……

 

 

 狂気の科学者は、今、基本に立ち返る。

 旧時代の遺物・・・・・・を手に、求めることは自明  

 

 

 「そうだ。仲間になりたいと願うのなら、相手と同じ姿をする必要がある・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 嘲笑とも感心ともつかない笑みを浮かべたネシオ。その手には同じ物が握られている。

 


 「同じ物を持ち、同じ物を見、同じ物を食べ、同じ時を過ごす……。

  それ故に、未だにこれを手放せない。

 

 

 そう言いながら、ネシオは手にあるものを放り投げた。

 

 

 「…………。

 

 

 プリミティブに過ぎる……。ホモフィリー的なことを言っているのか。まさか本心ということはあるまい。

 

 メタファーは沈黙により、否定する。

 

 あのような無知蒙昧もうまいの衆、進化に遅れた劣等衆  ただの実験動物共を同胞と見なすことなど、ましてその心を理解することなど、意味がある筈もない。我々はやがて自己完結を成し、他者の存在など不要とする。

 

 それとも  

 

 

 (私を試しているつもりか?

 

 

 メタファーは向かってくる携帯電話をじっと見つめる。

 

 

 「さぁ、どうしたメタファー。

  お前が望んだキーネーシスだ。

 

 

 望み……無論、理想を実現できるのであれば、その手段など、どうでもいいもの。

 

 神の領域へと手を伸ばし、この場所で得た孤独と万能感を自ら手放す。

 

 構わない。だが、有り得ない。

 

 不完全な肉体に絶望し、サイバネティクスに失望し、より高次の存在へと希望を抱いた。

 何度誤魔化そうとも、私の望みはネシオ・スペクトラの中にある。

 

 

 (これは、後退ではない  

 

 

 そう自分に言い聞かせ、手を伸ばす。文明の利器・・・・・へと。

 

 

 「フッ  アイデンティティを捨てなければならないとは、悲しいことだ。

 

 「!?

 

 

 瞬間、ノイズが走った。

 視界から星々が消える。

 

 

 「メタファー・ハイブアイズ。

  お前はまだ若い頃、実験中の事故をきっかけに、トランスヒューマニズムに目覚めた。」

 

 「……!

 

 

  異変の中心には、ネシオ・スペクトラがいた。

 

 

 人間の不完全性を酷く嘆いたお前は、運命さだめから逃れるべく、これまで様々な人体実験を繰り返してきた。

  犯罪組織  ブラッドバス・エイトに身を寄せたのも、その為だった。

 

 

 機械化された右目にずきりと痛みが走る。思い出したくもない過去の記憶、感情が、ネシオ・スペクトラに呼び起されていく。

 

 何故  

 

 彼の羽がこちらを見ていた。

 宇宙の闇をも覆い尽くし、噴き出すカラーノイズは波打ち、その姿を絶え間なく変化させる。

 

 覗かれている?

 

 だが、メタファーはまるで魅入られたかのように動くことができなかった。

 

 

 「先人達は未来での再生を願い、その身を氷の中に閉じ込めた。

  しかし、そんな夢のような現実は果たして訪れるのか。ただ死を克服できればそれでいいのか。

 

 

 (ああ……、そうだ……。

 

 

 クライオニクスなど馬鹿げている。自分の命を他者に預けるなど。

 

 私の目的はただ永遠に生きることではない。

 

 異能……Z級能力者……。更にその先へ……私は進化を続ける……

 

 

 《《誰にも辿り着けぬ、世界の果てへ  》》

 

 

 

 【The End of the World】  

 

 

 

 ふむ、成程。

 ブラッドバス・エイトにより、力を引き出されたものの、Z級能力者と呼ぶには足りないか。

 どれ、1つそこを補ってやろう。

 

 

 「さぁ、メタファー。俺が何に見える・・・・・・・

 

 「フッフッフッ……。

 

 

 メタファー答え・・を得る。

 失われた筈の右目によって、想像の欠落が埋められていく。

 

 

 「おお……

 

 

 それは今まで成し得なかった、過去の観測・・・・・

 

 そして  

 

 

 「……そうか。未来はまだ存在しない。

  そうか、存在しないのなら、観測は不可能。だが手はある。

 

 

 メタファーの羽が激しい音を立て、変形を繰り返す。

 

 

 「不完全だったのだ。

  あらゆるものを瞬間移動させる能力では、時間跳躍までは成し得なかった。

  だが今ならば、全てを過去とすることができる……!

 

 「ほう……。

 

 

 どうやら、この宇宙にもう未練はないらしい。

 

 

 「未知なる世界へ招待しよう! ネシオ・スペクトラ! 

  これが君の貢献に対する、我が最大の賛辞である!

  

 

 無数の隕石が出現する。

 

 

 (名誉なことだ。

 

 

 ほぼ静止状態から加速し、光の速度を超えてネシオを襲う!

 瞬間移動でなければ避けられない。ネシオの羽はメタファーと同じ形状を取り、加速する。

 

 

 「過去だけでは足りないか?

 

 「クレイシー・スペクトラ  

  あの監獄、ハイゼンスは元は彼女達の実験施設だった!

  全ての政府、倫理に縛られることのない科学者達の理想郷!

  彼らはそこで一体何を生み出したのか。

  あの女の子供である君ならば知っている筈だ。

 

 

 幾何学模様の羽を震わせ、ブラックホールの位置を瞬間移動させるメタファー

 しかし、ネシオの羽により、性質変化を促されたブラックホールは、閉じられた空間ではなくなる。

 

 

 「驚嘆する! 事象の地平面すら物ともしないとは!

 

 「カービィだって物を吐き出すからな。

 

 

 何もおかしなことはない。

 攻撃が止まり、ネシオは近くに飛んできていた椅子に腰を下ろす。

 

 

 「フフフ、素晴らしい。いつ限界が訪れるのか。何処までついてこられるのか。その間、何度宇宙が滅ぶか。

  さぁ! 共に果ての景色を見に行くとしよう!!

 

 

 未来への時間跳躍……。滅んでもその先の新しい宇宙が待っている。

 ふむ、再びミスティ・・・・は生まれるだろうか?

 全く同じ世界が生まれる可能性は何%くらいだろうか?

 

 

 「いいだろう。俺は別に構わない。

 

 「これが! The End of the  

 

 「俺はな。

 

 

 時の流れが加速する。そうなる筈だった。

 

 

 「  !?

 

 

 発動前にメタファーの両翼が謎の光線に貫かれ、不発に終わる。

 

 

 「フッ……。やはり来たか……! アルター・スペクトラ……

 

 「いや、どうも違うようだ。

 

 「……?

 

 「……。

  俺は一旦席を外そう。何かあったら連絡してくれ。

 

 

 姿をくらますネシオ。一体何を見た?

 メタファーはすぐに周辺の観測を行い、攻撃者を特定する。

 

 

 「ッ……!

 

 

 約10光年ほどの距離を瞬時に移動し、正体不明の発光体に向け、問いかける。

 

 

 「何だお前は。

 

 

 青白い光を放っている。その姿は10代の少年のように見える。

 だが、メタファーの右目はその奥の真実を捉えていた。

 

 

 「我が観測から逃れていたZ級能力者。

  それでいて、私を見ているとは  

 

 

 発光体が瞬間移動により、裂ける。

 

 

 「姿を見せろ。それが本体でないことは分かっている。

 

 

 光のベールに包まれていたのは、ただの人形か?

 

 否  引き裂かれた光はすぐに元の状態に修正された。

 

 

 「生憎、ボクに見せることのできる体はない。

 

 「何……?

 

 

 発光体が形を変え始める。

 

 

 「でもね。ボクは心のある生き物となら一つになれる。

  ボクは今、この子の体を借りて、君に語りかけているんだよ。

 

 

 言葉遣いと声は無垢な少年のようだが、それでいて厳格な雰囲気を纏っている。

 

 

 「まさか……

 

 「ネシオ・スペクトラには困ったものだよ。

  どうもあれは、人の本心に基づく行動を止める気はない・・・・・・・・・・・・・・・・・・らしい。

  アルター・スペクトラも  

 

 「貴様……! 貴様が入っているそれは……!

  分かっているのか……!?

 

 

 メタファーは取り乱す。

 目の前にいる生物は、自分が探し求めてきたものと同じ形をしている。

 あの日、崩壊するニューヨークで見た。高次の生命体。

 

 

 「ふ……。そのまま実験から興味を無くしてくれればいいんだけど、そうもいかないだろうから  

 

 「ククク……ハハハハ!!! 今日はなんという日だ!

  何も差し出すことなく、これほどの材料を得られるとは!

  あれほど生命への冒涜! くだらん謎を仕掛けた甲斐があったというもの。

 

 「……。やはりあれは君の仕業だったんだね。

  突然、死体が降ってきたって、向こうではちょっとした騒ぎになってるよ。

 

 

 ヒトモドキと呼ばれた大規模死体遺棄事件

 あれは暗号であり、その目的は観測も制御も困難なネシオ・スペクトラを誘い出すことだった。

 二進数を使い、地図上に浮かび上がらせた英文の一部を、更に数字に変換することで、この場の座標が得られる。

 無関係の者が例えそこまで気付いても、来られるのはZ級能力者くらいという寸法だ。

 

 

 「ふ、別に人形でも良かったがね。

  ハイゼンスにいた者ならば、あれには興味を抱く。

  ネシオ・スペクトラの知能の程度は謎だったが、もう少し高く見積もっても良かったかもしれないな。

 

 「…………。

 

 

 報道では人そっくりに加工された肉ということにされているが、あれはメタファー・ハイブアイズが実験に使った生き物の合い挽き肉。当然その中には人の肉が多く含まれている筈だ。

 彼にとってはゴミを再利用しただけということになる。

 

 

 君は自分以外がどうなっても、本当に気にしないんだね。

 

 「ああ。自らをダウングレードし続け、大人しく運命を受け入れるような愚か者達に興味はない。

  今の私の興味は、私の実験の邪魔をしようと、できると思っている君が、どのような遊びを提案するか、ということだ。

 

 

 通常、Z級能力者同士では、決着がつかない。そこには何らかのゲームが必要になる。

 

 

 「実はボクも、一つ実験をしているところなんだ。それを用いようと思う。

 

 

 謎の発光体は再び少年の姿を取り、メタファーに手を向ける。

 

 

 「……!

 

 

 瞬間、メタファーの脳内に凄まじい量の情報が流し込まれる。

 

 

 「…………。

 

 

 だが、彼はまるで機械の如く動じず、与えられた情報を処理し切る。

 

 

 「これは意外だな。Tower of Rankersか。

  特に探りは入れなかったが、まさかZ級能力者が生みの親とは。

  

 「そうとも言えるし、そうでないとも言えるね。

  とにかくこれで君は、Tower of Rankersをプレイする上で必要な知識を全て得た。

  さぁ創るといい。君の理想のデッキを。

 

 「完成した。

 

 「早いね。こちらももう出来たよ。

 

 

 Z級能力者が二人もいれば、全てが一瞬。

 

 

 「……さて。

 

 

 メタファーは位置につく。

 

 

 君の名をまだ聞いていなかったな。

 

 「……。特に決まった名前は無かったけれど、前に憑依した人間に付けられたものが、一番気に入ってるよ。

  ボクは、始まりを生みし者  タウマゼイン。

 

 「ふ……。ならば、この手で終わらせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タウマゼイン……。

 

 

 

 【PM 4:00

 

 

 

 腕の出血を押さえ、立ち上がる。

 

 放心状態の桃風ももかぜ 無音むおんを背に、夙吹はやぶき 創太そうたは対峙する。

 

 その手にはナイフ、周囲にも複製された大量のナイフが舞う。

 

 

 「フフッ、ないない、有り得ない……!

  邪魔ですよ……!」((( 真・偽 )))

 

 「…………。

 

 

 まともでないことは分かっていた。

 しかし、想定していた異常性とは、だいぶ違う。

 

 

 (一体何があった?

 

 

  因果律。あらゆる物事には原因がある。

 

  

 ここに至るまでに何が……。

 

 

 そして、原因なしには何も起こり得ない。

 

 創太は痛む左腕を押さえながら感じていた。

 

 自分の奥底から湧き上がってくる感情。それが恐怖などでは決してないことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ἀεὶ ὁ θεὸς ὁ μέγας γεωμετρεῖ τὸ σύμπαν.

 (神は常に幾何学をしている。

Πλάτωνプラトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【PM0:00

 

 

 

 

 暗く狭い闇の中を進んでいると、遠くの方に微かな光が見えた。

 

 

 「あそこっぽいな。おい、ちゃんと来てるか?

 

 「ああ……。

 

 

 死瑪しばを先頭にして、幽鵡かすむは今、別の次元  異界の入り口付近にいた。

 

 

 「なぁ、死瑪。なんかダクト潜ってる気分なんだが、もっと広くできねーのか?

 

 「広げてる。だが、すぐ元に戻る。贅沢言うな。この道具持ってた奴がチビだったんだ。

 

 

 謎の空間に置き去りにされないよう、男3人くっ付いて移動しているのだが、いい加減息苦しくなってきた。

 あんまりトロピカル・クイーンに近寄り過ぎると見つかるからって、少し離れた場所から侵入を試みたのは、良い判断でもなかったか。

 

 

 「もうすぐだ。はぐれるなよ。

 

 「…………。

 

 

 光に向かって、本来通れない場所に道を作って進んでいく。

 

 

 異界……異界か。

 

 

 この息苦しさ、どうしても昔を思い出してしまう。

 

 異界とは、空間系の能力者の中でも、ごく一部が作り出せる異次元空間

 

 「こんな世界で暮らしたい」「世界がこんなだったら良いのに」といった

誰もが一度は夢想する理想の世界を作り出せてしまう。

 

 つまりは、現実逃避の究極系。こういう異能妄想の強い人間が発現させる傾向にある。

 

 だから本来なら、そんな場所に他人が勝手に入っていくべきではない。

 

 

 「はー、こりゃまたすげぇな。

 

 

 概ね、残念な感想を抱くことになるからだ。

 

 

 「ぅう……?

 

 

 色鮮やかな光に思わず目を細める。

 

 屋台? 城?

 

 先ほどまでいた歌舞伎町の街並みとは、また違った華やかさ。

 

 それは一言で言い表すなら、「遊郭」だった。四方が堀に囲まれているところからも明らかだろう。

 

 

 「引きこもりの割には、随分と贅沢な場所に住んでやがるな。

 

 

 3人並んで周囲を見渡す。

 

 トロピカル・クイーンオーナー風璃宮かざりみやとは、一体どんな人物なのか。

 

 異界を作り出せる能力者は希少な為、国は勿論のこと、色んな組織が人材を奪い合ってると聞く。

 だから、引きこもりがちだっていうのは、何も本人が根暗だとか、そういう単純な理由に留まらない筈だ。危険から身を守る普通の行為……。

 

 しかし、風璃宮にとって、ここが理想の世界

 

 

 「遊郭って、負の歴史じゃなかったか?

 

 

 歩きながら、ミツヤが言いたいことを言ってくれる。

 

 

 「遊女の扱いは劣悪だったって話だな。

  どうも上っ面の煌びやかな部分だけ持ってきたみたいだ。

  性的搾取の歴史を塗り替えようという気概は感じられるな。

 

 

 いつまでも悪のイメージに縛られ続けることもないということか。

 実際、風俗嬢達の待遇はかなり良いみたいだし。そうか、遊郭がこうだったらという理想……

 

 って……、あんまり踏み入るのは良くないか。

 

 ともあれ、また・・こういった場所に来ることになるとは……

 

 

 「そう言えば、カスムは異界初めてか?

 

 「え。あぁ、いや……昔ちょっと。

 

 「俺も童貞卒業済みだぜ。

 

 「なら説明は不要……。いや、一応、認識に違いがないか確かめておくか。

 

 

 説明の手間をかけさせたくなかったから嘘は吐かなかったが、チュートリアルはスキップできないようだ。

 

 

 「異界は基本的に、俺達のいた世界とは全く異なる場所だ。ここでは常識は一切通用しないと思え。

 

 

 死瑪はおもむろにしゃがむと、落ちていた鞠を掴み、空に向かって放り投げた。

 すると、それはふわふわと宙に浮かび、中々落ちてこない。

 

 

 「時間の流れ、物理法則、馴染みある物が持つ能力  

  どれも元の世界のそれとは異なる。

  だからどんな物でも警戒する必要があるし、金やレア物のグッズなんかあっても釣られるなよ。武器になりそうなものならいいが、ここの空間にあるものを別の場所に持ち出しても、消えて残らない。

 

 「でも、向こうから持ってきたものは例外だろ?

 

 

 ミツヤは懐からイカつい改造のスタンガンを取り出してみせる。

 当たり前のように出さないでほしい。

 

 

 「そうだな、武器は必要だ。

  今言ったが、気を付けろよ、異界を形成した人間に俺達の侵入が即バレしててもおかしくない。明らかな異物な訳だからな。

  知り合いでも何でもないし、力ずくでも追い出しに来る筈だ。

 

 

 どうせバレるなら、やっぱり話を通してもらった方が良かったんじゃないだろうか。

 頭下げるのが死んでも嫌なんだろうな……。

 

 

 「なぁ、死瑪。こんだけ広けりゃ、DDもここにいる可能性が高いんじゃね?

 

 「そうだな。その場合、手間が省けて好都合だ。

 

 「…………。

 

 

 異界に入るべきではないもう一つの理由。

 それは違法な取引の現場や、犯罪者の潜伏先に利用されている可能性が高く、とても危険だから……。

 

 

 「はぁ……。

 

 

 自分も一応、武器になるものは持ってるけど……。

 

 

 「あれ? カスム。そんな竹刀持ってたか?

 

 「持ってたよ。

 

 「…………。

 

 

 死瑪は何も聞かないでくれる。

 だからこっちも、異界が探れる謎の超便利グッズ  あのがらがらを手に入れた経緯について、詳しく問い質したりはしない。ぶっちゃけ凄く気になるけど。

 

 

 「さて……。

 

 

 遊郭の人混みを抜け、の近くまでやってきた。

 恐らくはこの異界の中心部。トロピカル・クイーンのビルが巨大な城に変貌している。

 

 

 

 

 

 

 

 (続きは近日追加予定