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『異端のネシオ ― World is Colorful』EP0「Zero Island」(2/3)

 
5 years ago 

 

 

 

 ≫ Pacific Ocean

 

 

 

 

 

 「…………………………。」

 

 

 

 明かりの少ない部屋で一人きり、長椅子に座ってうつむく姿は、酷く寂しく見える。

 

 しかし、それは深い悲しみに暮れている訳でもなければ、深い眠りに就いている訳でもなかった。

 

 目を閉じているのは、世界から自分を切り離す為じゃない。

 

 

 より深く――世界と繋がる為だ。

 

 

 かの有名なフランスの画家、ポール・ゴーギャンも言っていたように、自分は見る為に目を閉じる。

 

 目を閉じていても――"世界の色"は感じられる。

 

 ほら、風に乗って流れてくる爽やかな潮の香りや、絶え間なく鳴り響く船のエンジン音、それに混ざる水飛沫の音。

 感覚が研ぎ澄まされていることで、どれも鮮明に伝わってくる。これだけでも十分な程に濃い色材だ。

 

 早速、それらを使い、頭の中に描いてみよう。

 きっと直接見るよりも、面白い絵が出来上がる。

 

 

 ………………。

 

 

 薄暗く、少し冷たい色の檻。

 アジアアメリオーストラリアなど、地球に存在する六つの大陸の内、五つに囲まれている広大なる海――太平洋

 その海上を走る一隻の護送船の中に、ネシオはいた。

 彼は割り当てられた部屋の中、頭の中で優雅に筆を走らせ、一つの作品を作り上げていく。

 

 ………………。

 

 途中で手を休めたりはしない。

 

 ………………。

 

 迷いはあってはならない。

 

 ………………。

 

 一度作った形はそのままに、一度塗った色はそのままに、思うがままに我儘に、自由に筆を踊らせる。

 そして最後に――全てを受け入れるのだ。

 

 

 ………………。

 

 

 ………………。

 

 

 「…………はぁ……。」

 

 穏やかな旅ではないが、だからこそ感じ取れる色もあった。

 キャンバスに完成した絵は、思わず溜息が出るほど、満足のいく出来だ。

 ネシオは姿勢を正し、脳内にあるそれをまじまじと見つめた。

 

 青く白い風の海の中、何処までも真っ直ぐ突き進む、不可視の船……。

 

 明るいようで何処か暗さのある、とても幻想的な絵だ。

 

 (Beautiful…… .(美しい……。))

 

 タイトルはあえて付けない。

 これは四角い枠に囚われるべきものではない。

 境界線などなく、世界の一部となってほしい……。

 

 そんな願いを静かに抱き、ネシオは一旦その絵を頭の奥にしまい込んだ。

 そして目を開け、携帯のホーム画面に表示された時刻を確認する。

 陸を離れてから二時間。到着まではまだ少し時間がある。

 

 「ふー……。」

 

 長椅子に深く腰掛けながら、壁紙も棚も絨毯も無い殺風景な部屋を見回す。

 この船は自動操縦で、今現在、乗っているのは自分一人だけ。

 

 ……話し相手がいないというのは、悲しいことだ。

 

 退屈したネシオは、パチンと指を鳴らす。

 すると不思議なことに、目の前の壁にカラーノイズが走り、何かが映り、音が聞こえ出した。

 

 それは――なんとTV番組。

 

 先程まで何の変哲もなかった壁の一部が、突然、テレビ画面へと変化し、リアルタイムな番組を映し出した。少しノイズが入っているが、十分見れる程だ。

 勿論、この船にこんな機能は無い。

 

 彼は魔法でも使えるのか――。それはある意味、正解だ。

 

 これは……彼の能力。

 

 異能の力。

 

 そう、この世界には、異能と呼ばれる不思議な力が存在している。

 手を触れずに物を動かしたり、人の心を読んだり、炎を自由自在に操るなど、所謂、超能力というやつだ

 

 しかし、一部の者達だけが特別な訳ではない。

 

 この世界に住む人々は、誰一人として例外はなく、全員何かしらの異能を持っている、持つ可能性を秘めている。

 

 この世界は――異能力者で溢れているのだ。

 

 しかし、その原因、原理は一切不明。

 最初の内は数が少なかったというが、一人目が確認されてから数週間。隠蔽が間に合わないほどのスピードで全世界へと広がり、各国の政府は対応に困り果てたという。

 それまでの常識からすれば、超能力は、アニメや漫画など、架空の世界の出来事に過ぎなかったが、誰もが自分の中に生まれたそれをはっきりと認識し、その存在を気にせず過ごすことができなくなった。

 今では《国際異能機関》なんてものが出来上がり、それに所属する人間によって、人々が持つ異能の検査や、危険度の高い異能力者の監視・鎮圧が行われている。

 能力者の出現後、世界各地で大規模な混乱や紛争が巻き起こったが、彼らの御蔭でひとまず人類滅亡という最悪は免れた。

 何もかもが終わってもおかしくなかったが、ギリギリ踏み止まったのだ。

 やはり、世界はそう簡単には壊れない。ドストエフスキーも言っていたように、人間とは、どんなことにもすぐに慣れる生き物なのだ。

 

 既に異常は日常と化している。

 異能は人間社会に溶け込み、当たり前にあるものとして扱われている。

 今の時代で生まれた人間にとっては、異能の無い世界など、想像がつかない。

 

 「………………。」

 

 しかし、今のこの世界が好きだと言う人間は、どれくらいいるだろうか。

 やはり、神に選ばれなかった人間や、この世を支配した気でいた人間にとっては、昔の世界――異能の無い世界の方がマシだと言うだろうか。

 

 

 俺みたいな化け物・・・がいる世界では、怖くて眠れないだろうか……?

 

 

 「………フフフ。」

 

 この護送船は、国際異能機関のもの。

 ネシオの乗船は、彼が危険な能力者で、何かしらの罪を犯したことを示していた。

 

 ――しかし手錠など、彼の体を拘束するものはない。

 好きな物を持ち込めるし、自由に体を伸ばし、くつろぐことができている。

 

 何故か? その答えは一つ――。意味がないからだ。

 

 彼は能力者の中でも、最も危険な存在とされる……Z級能力者の一人。

 それを何処かに無理矢理縛り付けておくことなど、現代の技術では到底できない。

 ネシオはあくまで、自分で望んでこの船に乗っている。

 直接飛んでいくこともできるが、これに乗っていく者達の気持ちを味わいたかったのだ。

 変わり者と思われるかもしれないが、昔からだ。言われ慣れてる。

 

 そんなことより……。

 

 (I can't wait…… . (楽しみだ……。))

 

 椅子に寝転び、ネシオは期待に胸を膨らませる。

 

 この船の目的地。

 それは太平洋に浮かぶ人工の島――オーセステラ

 そこにはハイゼンスという――大罪を犯した異能力者や、Z級能力者を収容する為の施設が存在している。

 

 (Osestella……Hizense…… . (オーセステラ……ハイゼンス……。))

 

 孤島の刑務所と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、かつて世界で最も脱獄の難しい刑務所と言われ恐れられた、アルカトラズだろう。

 今はもう閉鎖され、ただの観光地となっているが、スカーフェイスの異名を持つ、シカゴマフィアボス――アル・アポネや、服役中に鳥類とその病気の研究で国際的な権威となったロバート・ストラウドなど、有名な凶悪犯罪者達が投獄されていた場所だ。

 

 それはサンフランシスコ市から2.4kmの海に浮かぶ断崖絶壁の島。

 周囲の海は冷たく、潮の流れは速く、脱獄に成功し、生き延びた者はいないとされる。聞けば聞くほど、入りたくない場所だ。

 

 ……だが、ハイゼンスはそんな地獄のようなアルカトラズ刑務所とは似ても似つかない。

 何故なら、犯罪者に罰を与えることを目的とした施設ではないからだ。

 

 よく知る者の間では、地獄ではなく……、楽園。そう呼ばれている。

 

 胡散臭いかもしれないが、実際、ハイゼンスに入って逃げ出そうとした人間は、今まで一人も出ていない。

 

 アルカトラズよりは、ストーストレムが近いだろうか。

 ハイゼンスが作られてからは影が薄くなっているが、デンマーク南東部ファルスター島に、再犯率を下げることをコンセプトに設計された刑務所が存在するのだ。

 それがストーストレム刑務所

 かつて地球上で最も人道的な刑務所と呼ばれたそれは、外観からして刑務所のイメージとは大きくかけ離れている。

 イギリスのあるメディアによれば、それは「シンプルなスカンジナビア風(北欧風)の外観を持つ、大学のキャンパスのようだ」という。

 その内部がどうなっているかというと、大きな窓やベッド、テレビなどが備え付けられた広々とした独房に、他の受刑者と料理や世間話を楽しめる共有スペース、プライベートが確保されたバスルームなど、これまた刑務所の堅く冷たいイメージを覆す、快適な空間となっている。

 この刑務所の設計を手掛けたデザイナーのマッツ・マンドラップは、「過酷で刺激の少ない環境が、より多くの再犯者を生んでいる」と語っている。これは統計データからも明らかなことだ。

 中々驚きだろう。

 ストーストレムに収容されるのは、ほとんどが暴行罪で捕まった者達だが、犯罪者に可能な限り自由を認めるという試みは、非常に画期的なものだ。

 デンマークは、2016年国連が行った幸福度調査で一位を獲得した国でもある。

 こういったアイデアが生まれ、それが通るのも納得というか、流石というべきだろう。

 

 ――ただ、ハイゼンスの事情は少し違う。

 

 Z級能力者は、どうやっても手に負えない。

 世界を滅ぼしかねないほどの力を持つ彼らは、本人にその気がなくても、戦術核が歩き回っているようなもの。能力が弱まった例も無いし、共存は不可能と言える。

 だが、何をやっても死なない為、処分はできず、何処かに閉じ込め続けておくことは、本人の協力がない限り、困難。

 だからハイゼンスでは、ストーストレムのような形が取られている。

 要は、衣食住を保証する、望みも可能な限り叶えてやるから、大人しくしていてほしいということだ。笑えるだろう?

 表向きには、ハイゼンスにはZ級能力者達の力を抑えることができる設備があると言っているが、実際は、Z級能力者達の機嫌を損ねないよう、看守達が必死に彼らの要望に応え、暴走を防いでいるのだ。

 

 ……ただ、全員が全員、傲岸不遜な態度を取っている訳ではないらしい。

 彼らの中には僅かだが、有事の際、国際異能機関に協力し、暴走する能力者の鎮圧などに手を貸す者もいる。

 Z級能力者は総じて"人格破綻者"だと聞いているが、中には話せる奴もいるということだろうか。

 

 ネシオは自分のことを考える。

 

 「……フフ。」

 

 俺は絶対に手を貸さない・・・・・・・・・・・な。

 

 それだけは確かだった。

 

 まぁ、Z級能力者の力を抑える方法が本当に無い訳じゃない。

 単純な話、Z級能力者Z級能力者の力を抑えてしまえばいい。

 

 ……だが、それはあくまでも最終手段。

 

 大事なことは今も昔も変わらない。

 

 上から押さえ付ける……そんな方法しか取れないのであれば、真の平和など、夢のまた夢だ。

 

 

 

 Apaga el gris de tu vida y enciende los colores que llevas adentro.

 (あなたの人生の灰色を消してごらん。そして内に秘めたカラーで彩るんだ。)

 

 

 

 ≫ Osestella

 

 

 

 ハイゼンスのあるオーセステラが近付き、窓の外にちらほら白い構造物が見え始めた。

 長い支柱の先端に三枚羽根のプロペラ……。あれは風力発電風車か。

 陸地の物と比べるとかなり大きく、それが浮体の上に幾つも並んで回っている。その姿は、中々壮観な光景だ。

 オーセステラは大陸からかなり距離の離れた島だが、必要なエネルギーはあれの他にも宇宙太陽光発電や、海洋温度差発電といった再生可能エネルギーまかなわれていると聞く。

 島の上には食料を生産する施設や、様々な娯楽施設もあり、例え、外部との繋がりが絶たれたとしても、人間が快適に暮らしていけるだけの設備が整っているという。

 流石、楽園と言われるだけのことはある。

 今ではこのような島は世界に幾つも存在するが、住む人間が住む人間だ。一番力が入れられているのはここだろう。

 ネシオはガラスに顔を近付け、景色をよく観察する。

 窓からは位置的にハイゼンスの姿は見れなかったが、船ごと中に入ったらしく、薄暗い通路を進んでいく。もうすぐ到着か。

 

 「…………。」

 

 ネシオは再び目を閉じ、集中した。

 

 オーセステラの中心。白い壁に覆われたハイゼンスの内部を、自分はまだ見たことがない。

 

 未知の色の存在を強く感じる……。

 

 「…………。」

 

 ネシオは何かに引かれるように椅子から立ち上がると、ロックのかかった部屋の扉に近付き、その表面にカラーノイズを走らせた。

 

 《ジジッ……》

 

 すると不思議なことに、扉はすんなりと開き、廊下に出た彼は船の進行方向に向かって歩いていく。

 そして船が停止したところで、カラーノイズのかかった壁に向かってジャンプ。

 そのままそこを通り抜けたネシオは、華麗に船外に着地し、顔を上げた。

 

 「……………。」

 

 突き刺さる大量の視線――。

 出迎えなど特に期待していなかったが、船着場には白い制服を着た職員が集まっていた。

 一番前には、サイバーサングラスをかけた白髪の男が立っている。恐らくここの責任者だろう。

 

 「hhh……Sorry. Couldn't wait. (フフフ……悪いな。待ち切れなかった。)」

 

 「……Don't care. (……別に気にしていない。)」

 

 サイバーサングラスの男は、他の職員と違い、特に動揺や緊張をした様子はなく、ネシオに背を向ける。

 

 「Follow me.(ついてこい。)」

 

 ……。どうやら部屋までは彼が案内してくれるらしい。

 男が歩き出すと、職員達は道を開け、左右に並んだ。

 ネシオは歩きながら彼らの顔を眺めてみるが、皆一様に顔をしかめている。

 伝わってくるのは、怒りや憎しみ、悲しみといった負の感情ばかり。

 ……まぁ、当然のこと・・・・・か。

 

 「フフフ……。」

 

 思わず笑みが零れてしまう。

 それを見た職員達は、目を逸らすか、不快な表情を浮かべながら、ネシオを見送った。

 

 「………………。」

 

 一方、サイバーサングラスの男は、機械のような無表情でネシオハイゼンスの奥へと案内していく。

 何を考えているのかは分からないが、彼とは仲良くやれそうだ。

 そんなことを思いながら、白く長い通路をしばらく歩いていくと、Z級能力者専用の区画へと辿り着く。

 

 そこにあったのは、見上げるほどの大きな扉。

 形は丸く、まるで巨大な金庫のようだ。

 

 《ゴゴゴゴゴゴゴゴ……》

 

 サイバーサングラスの男が認証を済ませると、扉は音を立ててゆっくりと左右にスライドし、開いていく。

 

 《ガコン》

 

 この先だ。

 この先から強大な色を感じる。

 

 男と共に現れた通路を進んでいくと、割と開けた場所に出た。

 廊下は左右に分かれている。

 正面にはYと描かれた扉があったが、男はそれを無視し、左の方へと進んだ。

 

 「…………。」

 

 通路はリングになっているようで、内側にはエレベーターらしき扉、外側にはZ級能力者達の独房が並んでいた。

 それぞれの部屋の扉には、大きくアルファベットが描かれており、A……C……Eと、一つ飛ばしになっている。恐らくもう片側はB……D……Fという順になっているのだろう。

 Yの位置だけ中央なのが気になるが、部屋の数は全部で26……。

 確か現在ここに収容されているZ級能力者の数は11人で、自分が入れば12。大体半分が埋まっていることになる。

 

 「This is your room. (ここがお前の部屋だ。)」

 

 男に促され、ネシオは案内された部屋の前に立つ。

 丁度、中央を挟み入口の反対側で、扉にはのマークが描かれている。

 男が壁の認証装置に手をかざすと、その扉がスライドし、開いた。

 

 「You can go out of the room. (外に出てもいい。)

  Free to use the facility and talk to someone. (施設を利用するのも、誰と何を話すのも自由だ。)

  However, all actions are monitored. (ただし、全ての行動は監視される。)」

 

 「Okay, I see. (OK、分かった。)」

 

 詳しい説明は事前に受けているので、簡単な確認のみで終わり、ネシオは部屋の中へと入る。

 しかし、彼は扉の所で一旦、足を止め、振り返った。

 

 「Oh……I have one question for you.(おっと……、一つ聞きたいことがある。)」

 

 「What ?(何だ?)」

 

 

 「Are you……scared of me? (お前は……俺が怖いか?)」

 

 …………。

 しばしその場を沈黙が支配した。

 

 「……I have no feeling of fear. (……私に恐怖の感情はない。)」

 

 男はそう答えると、入口に向かって歩いていく。

 

  …………。

 

 ハイゼンス看守長――ルドル・F・ハイドゲート

 

 (He has demons――. (悪魔を飼う男――。))

 

 ネシオは薄く笑みを浮かべると、部屋に入った。

 

 《ウィーン……》

 

 中に入ると、すぐに扉が閉まったが、ロックされた訳ではなさそうだ。

 流石に深夜は外出が制限されるだろうが、話に聞いていた通り、可能な限りの自由が認められているようだ。

 

 ネシオは部屋の中を見回す。

 

 広い。

 

 想像していたよりもずっと広い。

 部屋の広さだけなら、高級ホテルのスイートルームのようだ。これからここをタダで使えるとは素晴らしい。

 見ると、部屋の奥にはあらかじめ送っておいた大量の荷物が置かれていた。

 ネシオは早速、その内の一つを開封し、中の物を取り出していく。

 初めに取り出したのは、自分のお気に入りである――稲妻の形をした黒いエレキギター

 手に取ると持ち主を認識し、青く発光する。弦に触れれば今にもイカした音を響かせそうだ。

 こいつがあれば、何処にいても退屈しない。

 ネシオは周囲の様子を確認する。

 他のZ級能力者達の生活音が全く聞こえてこないことから、壁の遮音性能はかなりのものと見ていいだろう。練習には最適の環境だ。

 しかし――ライブオーディエンスがいなければ盛り上がらない。

 まず優先すべきは、人間関係の構築だろう。

 ネシオエレキギターを壁に立てかけ、再び箱の中の物を漁り出した。

 

 「…………。」

 

 部屋が広いのは良い。

 だが、壁や床は一面真っ白で、家具は最低限の物しか置かれていない。

 

 「Need to makeover. (模様替えの必要があるな。)」

 

 ネシオは壁に近付き、考える。

 ポスターはあるが、壁を埋めるのには枚数が足りない。

 

 「(I know…… .(そうだ……。))」

 

 ネシオは部屋全体にカラーノイズを走らせ、色を白から黒に変更。

 更に目の前の壁に絵を出現させた。

 

 それは船の中で思い描いたもの。この人工の楽園、ハイゼンスを彩るに相応しい絵だ。

 

 「…………。」

 

 ネシオはそれをしばらく眺め、やがて満足すると、箱の元に戻り、荷ほどきを再開した。

 だいぶ量が多いので、今日はこの作業だけで終わってしまいそうだ。

 

 「……!」

 

 その時、ネシオは箱の中に一枚の写真を見つけた。

 裏返ったそれを拾い上げ、確認する。

 

 それは集合写真

 そこにはネシオのよく知る顔が並んでいた。

 

 「…………。」

 

 最高の一枚だ。

 これと比べたら、折角のこの絵もかすんでしまう。

 

 ネシオは絵と写真を見比べ、感傷的な気持ちになると、顔を上げ、真っ白な天井を見つめた。

 そして小さく呟く。

 

 「Five years…… . (5年……。)」

 

 ネシオの意識は未来へと向かう。

 

 

 

 

 
5 years later 

 

 

 

 

 ≫ ?????

 

 

 

 「……………………。」

 

 体を包む空気の暖かさと、布団の柔らかさ。

 心地良い温もりの中で身じろいでいると、何処からか歌が聞こえてきた。

 

 「♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪~

  ♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪~♪~」

 

 それはジングルベルの鼻歌……。

 

 誰が歌っているのだろう……?

 

 「……………。」

 

 少年はまどろみから抜け出し、ゆっくりと目を開いた。

 

 見慣れない天井に、オレンジ色の常夜灯。

 体を起こし、辺りを見てみると、そこは見たこともない部屋だった。

 

 一体、いつの間に眠ってしまったのだろうか……。

 

 さっきまでビルの上にいた筈なのに、今は山小屋のような場所にいる。

 窓の外は真っ暗でよく見えないが、白いものがちらついていて、どうやら雪が降っているということが窺える。

 

 「♪♪♪~♪♪♪~♪♪♪~♪♪~

  ♪♪♪~♪♪♪♪~♪♪♪♪♪♪~」

 

 気になる歌は隣の部屋から聞こえてくる。

 何だか良い匂いもする。

 

 少年はベッドから立ち上がり、半開きの扉に向かってふらふらと歩き出した。

 歌と匂いに誘われるまま、扉を開け、部屋を移動する。

 

 「………………。」

 

 その瞬間、冷たく沈んでいた少年の心に暖かな光が灯る。

 

 扉を開けた先は、まるで絵本の世界だった。

 

 部屋全体を彩るクリスマスの装飾。床の上には綺麗な絨毯が敷かれ、その上には木製の机や椅子が並んでいる。また、奥では暖炉の火がパチパチと音を立てながら燃え、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。

 

 「♪♪♪~」

 

 そして――サンタがいた。

 

 いや、正確には、サンタの衣装を着た女の子。髪は緑色で、クリスマスツリーみたいな変わった形をしている。

 

 「…………。」

 

 彼女は丁度オーブンから天板を取り出し、運ぼうとしていたところで、部屋を出た少年と目が合うと、時が止まったかのようにその場に静止した。

 

 「…………ンン?」

 

 少女の鼻歌は止まり、きょとんとして目をぱちくりさせる。

 

 「ン……! ンン~! ンン~!」

 

 と思ったら、すぐに慌てて奥へと駆けていく。

 何に驚くことがあるのか、彼女の持つ天板から幾つかのクッキーが飛び出した。

 

 「Oh. (おっと。)」

 

 しかし、それらは床に落ちる前に静止する。

 

 「Calm down, Merrymas. (落ち着け、リーマス。)

  Dropped cookies. (クッキーが落ちたぞ。)」

 

 奥のテーブルにいた男が椅子から立ち上がり、こちらに来て、空中に散らばったクッキーの一つを手に取った。

 

 全てのクッキーが宙に浮いている……。

 

 その不思議な光景をじっと眺めていると、クッキーの一つが自分のところにもふわりと飛んできた。

 少年はそれを手に取る。

 出来立ての筈だが、何故かそんなに熱くない。

 

 「Santa is out now. (サンタは今、出かけててな。)

  Let's wait while eating cookies. (クッキーでも食べて待とうじゃないか。)」

 

 浮いたクッキーが男がいたテーブルの方へと集まっていく。

 そこには大きな皿が置かれていて、その上には、クッキーが山盛りになっていた。

 少年は渡されたクッキーを試しに食べてみる。

 サクっと音がして口の中に広がる甘み。砂糖とバターの味。

 

 「…………。」

 

 あまりの美味しさに、思わず顔がほころぶ。

 

 「This way. (さぁ、こっちだ。)」

 

 男に案内され、席につき、彼と少女と自分の三人で、山盛りのクッキーを囲んだ。

 

 「ンンン♪」

 

 男にリーマスと呼ばれた少女は、両手で山からクッキーを取り、美味しそうに食べ始めた。

 少年も手を伸ばし、幾つか食べてみる。

 皿の上のクッキーは、丸かったり、四角かったり、色んな形をしていて、どれも違う味がする。

 量に圧倒されるが、これなら飽きることなく食べられそうだ。

 

 「hhh……It's like Every Flavor Beans in the "Harry Potter", right ?(フフフ、まるでハリーポッター百味ビーンズのようだろう?)」

 

 男はにやにやしながら二人の様子を眺める。

 その間も、少年とリーマスはクッキーの山を取り合うように手を伸ばす。

 

 「Actually, there is only one ridiculously bad cookie in it.(実はこの中に一枚だけ、とんでもなく不味いクッキーが紛れ込んでいるんだ。)」

 

 「…………!?」

 

 少年の手が止まる。

 

 「hahaha. scared? (ハハハ。怖いだろう?)

  Let's eat cookies one by one in turn. (三人で順番に一枚ずつ食べていこう。)」

 

 男はそう言って、クッキーの山から一枚を取り、食べた。

 それに続き、少女も一枚を取り、食べる。

 次は自分の番だ。

 少年はクッキーの山をよく観察し、星の形をした茶色いクッキーを手に取った。

 一口かじると、想像通り、チョコレートの味。

 

 「Yes……, take a good look at each one and taste it well. (そう、一つ一つをよく見て、よく味わうんだ。)」

  

 男はまた一つクッキーを手に取る。

 

 「……By the way, I haven't introduced myself yet. (……そういえば、自己紹介がまだだったな。)

  I'm Nesio. This is Merrymas. (俺はネシオ。こっちはリーマス。)

  What's your name ? (お前は?)」

 

 「Azul…… .(アズル……。)」

 

 「Azul……Sky blue…… . That's a perfect name for you.(アズル……空の色か……。ぴったりの名前だな。」

 

 話しながら、クッキーを食べていく。

 また自分の番が回ってきたアズルは、今度は赤い色をしたクッキーを手に取った。

 クランベリージャムのような味がしそうだ。

 

 「Red…… . I like red. (赤か……。俺の好きな色だ。)

  ……Because she was always by my side. (……あいつは、いつも傍にいてくれたからな。)」

  

 ネシオアズルと同じ、赤い色のクッキーを手に取り、口に運ぶ。

 

 「She likes money and jewelry, but I like her for her faults. (宝石好きなのが玉にきずだが、俺は欠点がある方が好きなんだ。)

  Don't you think so ? (そう思わないか?)」

 

 「ンンン♪」

 

 メリーマスは頷きながら、また一つクッキーを取る。

 今度は水色のクッキーだ。

 

 「Light blue. It's an unappetizing color, but I like it. (水色。中々食欲をそそらないだろうが、俺は水色も好きだ。)

  It has the image of the sad rain, but when it passes by, a clear sky spreads over. (悲しい雨のイメージもあるが、過ぎ去れば晴れやかな空が広がる。)

  He overcame sadness and grew up. (あいつも悲しみを乗り越えて成長した。)」

 

 ネシオの独り言が続く中、アズルは黄色いクッキーを手に取る。

 

 「Yellow. It's a very bright color. (黄色。とても明るい色だ。)

  She is quiet, but she likes cleaning and kids. (あいつは物静かだが、掃除が好きで、子ども好きなところもあった。)

  Being with her makes me feel better. (一緒にいると気持ちが和らぐんだ。)

 

 ネシオは紫のクッキーを取る。

 

 「Purple. It's a two-sided color that is completed by mixing red and blue.(紫。赤と青が混ざり合うことで完成する、二面性のある色だ。)

  He is usually cool and calm, but riding a motorcycle quickly changes into a hot-blooded man. (あいつも……普段はクールで落ち着いているが、バイクに乗れば熱く激しい性格に早変わりする。)」

 

 ネシオはクッキーを半分に割り、一つをリーマスに投げた。

 すると彼女は、それを口でキャッチする。

 

 「ンン♪」

 

 そのままリーマスがクッキーを食べたので、アズルは次のクッキーを選ぶ。

 焦げたように真っ黒な色。またチョコレートだろうか?

 アズルネシオの反応を窺う。

 

 「Black…… . It has a strong image of darkness, but it is also a color that is completed by mixing various colors. (黒。闇のイメージが強いが、色んな色が混ざり合うことで完成する色でもある。)

  It's my favorite color. (俺の一番好きな色だ。)

  It's also her color wrapped in a mysterious veil. (そして神秘のベールに包まれたあいつの色でもある。」

 

 「What are you talking about ?(さっきから何のこと?)」

 

 「My fam. I'm separated from them now. (俺の仲間の話さ。今は離れ離れなんだがな。

  I wonder what they are doing now…… . (皆、今頃どうしているだろうか……。)」

 

 「What happened ? (何かあったの?)」

 

 「……Yes. Terrible thing happened. (……あった。大変なことが起きた。)

  So I didn't have time to talk to them slowly. (だからゆっくり話す時間はなかった。)

  Maybe they're angry that I'm gone. (皆、勝手にいなくなった俺のことを怒っているだろう。)」

 

 ネシオは顔を暗くする。

 

 「But I still can't tell anyone why. (でも……今も理由を説明することはできない。)

  I'm going to see them someday, but what should I apologize for at that time ?(いずれ彼らには会いに行く予定だが、その時、何と言って謝ったらいいだろうか?)」

 

 「…………。」

 

 ネシオの悩みを聞いたアズルは、少し考え込み、首を傾げながら答えた。

 

 「……"Sorry ?"」

 

 「hhh……That's normal. (フフフ……、普通だな。)」

 

 ネシオは笑いながらも、顔を伏せる。

 

 「You're right…… . (そうだな……。普通にか。)」

 

 ……俺には、それが一番難しいんだ。