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『異端のネシオ』3Hz「異常性クラスメート(後編)」(4)

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 ―【TURN 4暗間くらま 量子りょうこ 【LP 5000】―

 

 

 

 《私のデッキは少々複雑な為、ご了承願います。

  《キーピッカー・アンゴール-巧独こうどくのシケイダ》、《螺旋のスキュタレー》を召喚。

 

 

 [巧独のシケイダ Rank 1・GUARD 300]―召喚石 2/3

 

 [螺旋のスキュタレー Rank 2・GUARD 900]―召喚石 1/3

 

 

 暗間の場に白い輪郭を持つセミと、目の描かれたプレートが巻き付く円筒が出現する。

 

 

 《暗号デッキ……。

  若干性癖も入ってる気がするな……。

 

 《《螺旋のスキュタレー》のスキルを発動します。

  このユニットよりRankの高い自分ユニット1体を選択し、《スキュタレー》のRankを自身のRank以上、対象ユニットのRank以下の範囲で操作。

  《バグエラー・マトリックス・ハイゼン》を選択し、《スキュタレー》のRankを2から8に変更します。

 

 

 《シュインッ……!》【螺旋のスキュタレー Rank 2 → 8

 

 

 円筒が四倍に伸び、それに合わせてプレートも成長する。

 

 

 《限無さんのユニット、使わせていただきますね。

 

 《借りパクはナシだぞ。

 

 《《ハイゼン》のスキルで、ソウルエリアの《バグエラー・ステルス》を蘇生。

  サモンタイプ:オーバー。

  Rank 8の《スキュタレー》を基底とし、Rank 3の《ステルス》、Rank 1の《シケイダ》をオーバーライド。

  超乗召喚――

 

 

 暗間のフィールドに仮面とドレスを身に纏った女性ユニットが姿を現す……

 

 

 《《キーピッカー・アンゴール-魅惑のドラベッラ》。

 

 

 【Rank X8・POWER 2800

 

 

 《そして、ソウルエリアに送られた《シケイダ》のスキル。

  デッキから同名ユニット1体をコスト無しで召喚できます。

 

 

 [巧独のシケイダ Rank 1・GUARD 300]

 

 

 《《ドラベッラ》のスキル発動。

  デッキの上から3枚めくり、【キーピッカー・アンゴール】シリーズのカードがあれば、1枚を手札に加えます。

  《オルタネイト・ピッキング》を手札に加え、そのまま発動。

  《ドラベッラ》のRankをX8からX4に下げ、《シケイダ》のRankを1から5に上げます。

 

 《ゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 ユニットRankが変更された瞬間、暗間の背後にリングを纏う塔が出現する。

 

 

 《タワーか。

 

 《はい。自分ユニットのRankが合計10以上変化したターン、タワー《ハノイの塔》が起動し――

  存在する間、相手はこちらにユニットがいる限り、直接攻撃できなくなり、Rankが一番低いユニットにしか攻撃できません。

 

 

 中々の防御性能――

 しかし、勿論、長くは維持できず、起動後、次の自分ターンの終わりに破壊されるようだ。

 

 

 《私は更に《エコノミー・ピッキング》を発動。

  これはターン終了時まで相手の場のユニット1体のRankを、自分の場のRank 9以下のユニット1体のRank分アップまたはダウンさせます。

  Rank 5になっている《シケイダ》を選択し、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》のRankをX8からX3にダウン。

 

 《これで直接攻撃できるな。

 

 《《魅惑のドラベッラ》、《バグエラー・マトリックス・ハイゼン》でダイレクトアタック。

 

 《ヴィヴィヴィヴィヴィ!! ドドドド!!

 

 

 POWERの高い《ドラベッラ》の攻撃は、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》ガードされる。【ランサム・ドラゴン・ハイブリッド GUARD 4000 - 2800 = 1200

 

 だが、これでGUARDの数値にはもう余裕が無い。

 《ハイゼン》直接攻撃はそのまま通り、AIGはその衝撃で大きく後退する。

 

 

 【AIGA LP 5000 - 2400 = 2600

 

  

 《メインフェイズ2、Rank X4の《ドラベッラ》を基底とし、Rank 5の《シケイダ》をオーバーライド。

  《キーピッカー・アンゴール-超特のディフィー・ヘルマン》を超乗召喚。

  このユニットが存在する限り、【キーピッカー・アンゴール】ユニットはカード効果の対象になりません。

 

 《おお……ガチガチだな。

 

 

 黒い服に身を包んだ老紳士が、自身とデッキから呼び出された3体目の《シケイダ》鍵マークを浮かび上がらせる。

 シリーズの違う《ハイゼン》は対象外だが、元々対象に取る効果を無効にできる為、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》の効果を受けない。

 

 

 《ターンエンドです。

 

 

 まさに鉄壁のセキュリティ

 

 

 (流石、大手サイバーセキュリティ会社の社長の娘……。任せて安心か。

 

 

 一瞬、余裕勝ちの未来が見えた。

 ――しかし、すぐに相手が未知の実力者であることを思い出す。

 

 

 《GA……!

 

 

 壊れたような音。

 無機質な機械に突然、感情が宿ったかのように、AIGは震え出した。

 

 

 《GAGAGAGAGAGAGA!

 

 

 まるで笑っているかのよう。限無暗間は、その振る舞いがただの虚勢ではないことを感じ取る。

 

 

 

 ―【TURN 5AIG 【LP 2600】―

 

 

 

 【PLAY・SKILL CARD《論理爆弾

 

 

 《ん……!?

 

 

 ターンの開始とほぼ同時にスキルカードが発動され、限無デッキの残り枚数が1増える。

 

 

 【SUMMON 《マリスウェア・トロイ》

 

 【SKILL《マリスウェア・トロイ》

 

 【TURN END

 

 

 《おいおい……。

 

 

 あまりにも早過ぎるターンエンド。勝負を捨てた訳ではなく、寧ろ勝利を確信した動き。

 

 

 《仕込まれましたか。

 

 《みたいだ。集中狙いしてきやがって……。

 

 

 効果を確認したところ、恐ろしいことが書かれていた。

 

 スキルカード《論理爆弾――

 

 相手のデッキ爆弾カードを仕込み、手札に加わった瞬間、起爆――残りデッキの枚数×100ダメージを与える。

 

 

 《これは……2対1の変則ルールを利用してきたようですね。

  こちらはライフ共有、デッキの残り枚数は合算。

 

 《つまり、引いた瞬間終わり。

 

 《はい。そして今、《マリスウェア・トロイ》のスキルでデッキトップに《論理爆弾》が置かれました。

 

 《ふ~ん……。

 

 

 これで負けたらトラウマもの。

 限無ソウルエリア《バグエラー・ブルーム》を確認する。

 

 

 《そのユニットが持っているのは、ソウルエリアのユニット3体をデッキに戻し、1枚ドローするスキルですね。

 

 《ああ……これで確実な敗北は避けられる。が、ドローフェイズのドローと合わせて2枚引く。お祈りタイムだ。

 

 

 

 ―【TURN 6限無 零一 【LP 5000】―

 

 

 

 《ふ~……。

 

 

 久々に味わう緊張。裏技が使えない勝負は心臓に悪い。

 デジタルカードゲームも色んなものに手を出してるが、戻したカードがすぐ帰ってくるなんてざらにある現象。ここ一番でそれが起こらなければ……

 

 

 《…………。

 

 

 泣いても笑ってもシャッフルは終わっている。

 限無は心の準備を終え、2枚のカードを引く。

 

 

 《ジリジリジリ……!

 

 《……!

 

 

 引いたカードの内、1枚が消滅する。

 

 どっち……!?

 

 暗間の視線が突き刺さる。

 

 

 《ふっ……、《バグエラー・インフィニティ》を召喚!》

 

 

 【Rank 8・POWER 3000―召喚石 0/3

 

 

 何も無い……! 消滅したのは使用不能カード

 

 

 《更に《ハイゼン》のスキルでソウルエリアの《バグエラー・クラッシュ》を蘇生し、2体の【バグエラー】を《ハイゼン》にオーバーライド!

  現れろ、全てを破壊し尽くす狂暴――!

 

 

 光に包まれた《ハイゼン》が巨大化し、細身の魔術師の姿から野蛮な狂戦士へと変わる……!

 

 

 《《バグエラー・デストロイヤー・ヒンデン》!!

 

 

 【Rank X8・POWER 3300

 

 

 最後に決めるのは、ヒンデンバグ。意趣返しのつもりならば、面白い。

 

 

 《ズガァァン!!

 

 

 スキルにより、《シケイダ》《マリスウェア・トロイ》を破壊。

 そのまま《ヒンデン》は、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》に狙いを定める。

 

 

 《素材となった《バグエラー・インフィニティ》のスキルにより、《ヒンデン》のPOWERは攻撃時に倍。

  GGだ、《ヒンデンブルク・ディザスター》!!

 

 

 《ヒンデン》の持つ巨大な拳が《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》に突き刺さり、爆発する。

  

 

 《ズガァァァアン!!

 

 《GA!GAッ! GAッ!!

 

 

 巻き込まれたAIGは消滅。後には小さなボックスが残されるのだった。

 

 

 【AIGA LP 2600 - 2600 = 0

 

 

 

 

WINNER 限無 零一 & 暗間 量子 ―

 

 

 

 

 

 《…………。

 

 

 限無暗間はすぐにそのボックスを回収する。

 

 

 《これも暗号か……?

 

 《…………。

 

 《何だ? まだ信じ切れないか?

 

 《いえ、正直そこまで手応えを感じなかったものですから。良いものかどうか。

 

 《はぁ……、X基準では大したことのない情報でも、今の俺達には必要だ。解析は任せる。

 

 《……了解。

 

 

 暗間は箱を受け取り、共にホームへと帰還する。

 二人……いや、三人がかりだったが、とのゲームに勝利。

 後はこの箱がびっくり箱でないことを祈るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度きりの勝ちなら運や要領で実現できますが、勝ち続ける「強さ」を手に入れるには、それなりのやり方が必要になってきます。

 

梅原 大吾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【AM11:20】【歌舞伎町

 

 

 

 

 ブラックボックス。密封された果実の園。

 長きに渡り熟成された秘蔵の底に、今、穴が開き、流れ出したその蜜は、暗く深い谷へと落ち、傷ついた乙女の心を癒す。

 

 

 「変わった飲み方するんだな……。

 

 「ふふん♪ 試してみるぅ?

 

 

 唇の端を舐めながら、煽情的な視線を向けてくる蓮来はすこ

 上機嫌に果実酒を味わう彼女は、既に酔っていた。

 

 

 「うぇーいwww! もう一杯www!

 

 

 隣はもっと酔っていた。メクの方は、もう6杯目だ。

 

 

 「そろそろ喋る気になったか?

 

 「ん~? 事件のことぉ? 私ら何にも知らないけど?

 

 「前髪長いからさwww! ギャッハッハwww!!

 

 「……口割らせる前に水割りするか。

 

 「死瑪しば、ステイ。ステイだ。

 

 

 コップを手に取りかけた死瑪を押さえるミツヤ

 幽鵡かすむコーヒーを飲みながら、何とか心を落ち着けようとしていた。

 

 益田ますだに紹介されたバーで、億卍おくまんじから得た金で、変な女二人に酒をおごっている。

 

 穴場という話だが、そこら中、骨だらけだし、マスターは何か骸骨だし、ヤバいところに来てしまった。

 

 

 「ん? 何かそれ歯浮いてないか?

 

 「これ砂糖。

 

 「クックック……

 

 

 益田はさっきからずっと笑っている。

 こいつは……突然、首突っ込んできて、勝手に逝きかけるし、どういうつもりなんだか……。

 

 何となく分かるが、分かりたくはなかった。

 

 

 「はぁ……、酒で記憶が飛んでなけりゃ、店での行動くらい話せるだろ。何度も来てたことはレードから聞いてる。

 

 「へー、あの酒クズ私らのこと売ったってさ。

 

 「流石www、解釈一致だしwww

 

 

 そりゃ殺人の容疑がかかってれば、クズにもなるだろう。それとも普段からそうなのか。

 

 

 「飲むと性格変わるのよね~、あのクズ。

 

 「そうそう。お前の酒は俺のもの~!って、クソジャイアルコニズム発揮してくるから、キケンなイッキ飲みで犯罪気分味わいたい時はガチオススメwww。」

 

 「…………。

 

 

 刺激を求める客……。

 毎回、自分から酒を飲むなら酒には相当強いだろう。

 酔えば本性が出ると言っても、レードホストだし、二面性のあるキャラを演じてるだけの可能性もありそうだ。

 

 

 「死体発見時には酔ってたか……。

 

 「ん?

 

 「いや、こいつらが帰った後、酔いを冷ます為にワインセラーに行ったんだろう。

  外は物騒だし、あそこは十分涼しいからな。

 

 「追加って可能性もあるぜ。

 

 「どっちでもいい。とにかくこれでレードが犯人って可能性は更に低くなった。

  酔っ払いは犯行計画に組み込めないだろう。

 

 「ワインセラーに忍び込まれたことにキレて刺し殺したって線は……ないか。

 

 

 笑って自分の案を却下するミツヤ

 確かに酔っ払いだったら何をするか分からない。けど、そんなしょうもない真相だったら警察虎門組は苦労しないだろう。

 悲しいが、早く解放される為には自分も何か案を出すべきか。

 

 

 「あー、俺からも一つ。

  被害者は見回り中だったって話だけど、ワインセラーの中まで普通調べるか?

 

 「その辺りは琥雲くぐもに聞いてみた方がいいな。

  一応、メッセージ送っておく。

 

 「ねー、私ら疑うより、天笠あまがさの奴とか捕まえたら?」

 

 「……天笠あまがさ しゅうのことか?

 

 「誰だ?

 

 「最近まで少年院に入ってた奴だ。

 

 「地味なハロウィンが飽き飽きだからって、警察相手はハジケ過ぎよねぇ。

 

 「何人かに怪我させて、異能も使ったみたいだし、自業自得っしょ。

 

 「まぁたった半年で出てきてるけどな。

  歌舞伎町にも来たのか?

 

 「うん。顔見に行った時に聞いた。

 

 「あいつ妙にへらへら笑ってて、キッモいの。キチ過ぎたんだけどwww。

 

 

 笑ってた……。

 それは早く出られて上機嫌といったところ、か? 確かにまた何かやらかしそうな気はする。

 

 

 「分かった。気に留めておく。

 

 

 琥雲へのメッセージを打ち終わった死瑪は、携帯をしまうと背もたれに体を預けた。

 後の会話は俺達に託したようだ。

 

 

 「じゃね~。

 

 

 その後、ミツヤ主導で幾らか会話をし、二人とは別れた。

 一時はどうなることかと思ったが、ミツヤの御蔭で円満に別れることができた。

 まぁ、ちゃっかり連絡先を入手してるから、また会う機会があるかもしれないが……。

 

 

 「さて、次はお前だ。

 

 「ククク、待ってたぜぇ、この時をな。

 

 

 益田が二人が去った後のソファに座る。いよいよか。

 正直、今は二人よりこっちが重要なんだよな。

 

 

 「さっき外で言ったこと本当だろうな?

 

 「異能《痛覚接続》だっけか?

  お前、事件の被害者のこと知ってるのか?

 

 「いや? 何も目撃はしてねぇ。ただ……

  そいつらがどんな痛みを感じて死んでいったか・・・・・・・・・・・・・・・・。は、よく覚えてるぜ……。

 

 

 事件の夜、被害者達の身に何が起こったのかを知る有力な手がかり。痛みの記憶……。

 それはつまり……死の苦痛益田も味わったってことなんだろうか?

 

 

 「へへへへ……

 

 

 それで恍惚としていられるのだから狂っている。

 

 

 「おい、ボケた笑いしてねーで、さっさと話せ。

 

 「へへっ、じゃあ、まずはアレだなァ。

  ちょうど店の手伝いが終わって、裏の方歩いてたんだが、来たんだよ、その時、尋常じゃないレベルの腹痛・・・・・・・・・・・・がなぁ。

 

 「腹痛?

 

 「すかさず深く繋げたぜ。肌に風を感じたから外だと思うが、体は反射的にトイレを目指した。

 

 「う〇この話する気か?

 

 「そう思うだろ? 出たのは前から・・・・・・・なんだよ。

 

 「…………。

 

 「成程……。

 

 

 何だ。何の話が始まったんだ?

 

 

 「俺も失禁しちまってなぁ。腰砕けとはまさにあのことだった。

 

 「男の身でお前……。

 

 「まさか、例の赤ん坊か?

 

 「あ。

 

 

 そう言えば、トロピカル・クイーンの近くに捨てられていたという話があった。

 その場で出産してたのか……。

 

 

 「で、まだ終わりじゃなくてな。

  余韻を味わい、そのまま繋ぎっ放しにしてたら今度は喉を切り裂かれ、別の場所から背中の痛みがやってきたんだ。

  あの感じはナイフ。二人分は流石に気絶しそうだったぜ。

 

 「随分カオスな展開だな。

  子どもを産んだ直後に通り魔かよ。

  

 「いや、女の死体が出たなんて話は聞いてない。

  持ち去られたか……?

 

 

 死瑪が考え込む。

 どうやら単に赤ん坊を捨てただけの事件じゃなさそうだ。凶器が同じナイフなら、トロピカル・クイーンの事件と何か繋がりが……?

 

 

 「お前そこまで感じといて犯人も被害者も見てないのか。

 

 「わりぃな。トイレっつったろ。

 

 

 うん。まぁ、運が良かった方かもしれない。益田が感じていなかったら、分からなかったことだ。

 

 

 「まぁ、監視カメラが見てれば、警察が動いてるんじゃねーか?

 

 「だといいがな。ん?

 

 

 その時、マスターが近くに立ってることに気付いた。

 誰も何も注文してない筈だが……

 顔は骸骨のマスクに覆われ、相変わらず表情は窺い知れない。

 

 

 「あの、何か?

 

 

 ひと声かけると、マスターは服の下から1枚の写真を取り出し、それをテーブルの上に置いた。

 その後、すぐに去っていく。

 

 

 「これ……は……?

 

 

 突然のサービス。事件に関する重要な手がかりか。

 そこに映っていたものに俺達は驚くが、深く考える前に、ドスの効いた声に体が反応した。

 

 

 「おい。お前ら――

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 

 店から出た俺達は、そこで別行動をしていたマザネと合流することになった。

 

 

 「どんな感じ? 首尾は。

 

 「幾つか分かったことがある。女共が来る前に情報交換と行きたいが……。

 

 

 死瑪は近くの壁に背中を預けている少年少女に目を向けた。知らない二人だ。

 

 

 「ああ、俺んところの奴らだ。気にするな。

 

 

 琥雲くぐもが二人を紹介する。

 軍鶏しゃものような髪色の少年と、切れ長の目をした白髪の少女。どちらも韓国人みたいだ。

 

 

 「で、要件はアレか。親父んところの殺された……

 

 「そう。何でも事件に役立ちそうな情報があれば教えてくれ。

 

 「ふん……。先に言っておくが、俺は特殊な立場で、あんまりあっちの事情は詳しく知らない。

 

 

 又聞きだが、どうも親子関係は良好ではないらしい。良くても気持ち悪いが、琥雲が一方的に嫌っているとのこと。 

 

 

 「このところ、親父んところの連中が立て続けに襲われてる。

  俺が聞いた分では、これまでに襲撃は3回で、襲われた3人の内、2人殺されてる。

 

 「特徴は一致してるのか?

 

 「ああ、背中を刃物で一突き。

  流石に二度もやられて、親父も対抗策を用意したみたいでな。詳しくは知らないが、風俗とホストクラブでの事件以降は犠牲者は出てない。

 

 「犯人の目星は? 模倣犯が出る可能性はあるか?

 

 「さぁな。2回目の襲撃以外は警察は知らないし、同じ人間の仕業だってことを知ってるのは一部だけだ。

  

 

 連続した事件が同じ犯人の手によるものなのかどうか……。一人だった方がこちらとしてはありがたいが……

 

 

 「襲撃っていやぁ、昨日の昼のは面白かったな。

 

 「バカ。関係ねーだろ。

 

 

 舎弟の二人が口を挟む。

 

 

 「何かあったのか?

 

 「ああ。昨日、アンドロイドレストランで暴れた外国人連中がいてな。

  今頃、親父んとこか。

 

 「え?

 

 

 何か嫌な流れ……

 

 

 「殺されるほどの罪じゃないが、運が無かった。

  三度の襲撃事件の所為で、組全体の機嫌が悪いタイミングだったからな。

 

 「食われたか……。

 

 「そんなことして大丈夫なのか?

 

 「ああ、今の日本は、日本人の犯罪に対しては寛容だからな。

  まぁでも、親父はあれで命を大切にしてるつもりだ。

  弱者は強者に食らわれることで、その強者の一部となって生き続ける。

  他所に迷惑かけるなら、動物の餌にしちまうのが一番って本気で思ってるからな。

 

 「…………。

 

 

 ほんと、野生に生きている。

 

 

 「で……、殺された奴らは前も言ったが、下っ端も下っ端。新入り連中だ。

  そういや、何か変な場所で殺されてたって聞いたが……

 

 「プレイルーム横の風呂場と、ワインセラー。分身の方は、見回り中だったって話だ。

 

 「いや、それは変だ。

  襲撃が始まってから、見回りは必ず二人以上で行うように指示されてる。

 

 「あ、やっぱり見回り中じゃなかったのか。

  じゃあ、別の目的で……?

 

 「ワインセラーに行くとしたら、目的は酒だろうな。

 

 「分身が酒を飲むのか?

 

 「持って帰るに決まってるだろ。

 

 「ってことは……

 

 

 ミツヤと話していて、何か見えそうになってきた。

 

 

 「やっぱ赤ちゃんプレイっつっても、大の大人がミルクはな。俺なら満足できねぇよ。

 

 「いや、あの哺乳瓶の中身は酒だぞ。ミルクのリキュールって話だ。

 

 「あん?

 

 

 またか。

 

 

 「ってことは、酔ってたってことか、あいつら。

  どうりで記憶力が死んでる訳だ。

 

 

 死瑪が呆れた様子で吐き捨てる。

 

 

 「あのな。シラフで赤ん坊になってたら、流石にヤベーよ。

 

 

 琥雲のツッコミから考える。

 そうなると、酒の度数は相当に高いか。

 

 

 「なぁ、確か分身は簡単な命令を聞かせられる……だったよな?

 

 

 何か気付いた様子の幽鵡に全員が注目する。

 

 

 「酔っ払って、もっと高い酒持ってこい。みたいな命令出したとか?

 

 「…………。

 

 

 ちょっと。沈黙されると不安になる。

 

 

 「あるかもな。別にプレイルームに入った後じゃなくてもいい。入る前に何処かで酔ってれば、そういう展開に繋がる。分身も酔いでおかしくなってたかもしれない。

 

 「記憶の中にある高い酒ってのが、キング・フリジッドのワインセラーであってもおかしくないな。

  って、じゃあ、やっぱワイン盗まれそうになったレードがブチ切れたんじゃねーか? 分身って分かったなら躊躇もないだろ。

 

 「そんなバカみたいなこと……。

 

 

 起きてもおかしくないから本当に怖い。大人になっても酒は絶対飲みたくないな。

 

 

 

 

 

 (続きは近日追加予定