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《私のデッキは少々複雑な為、ご了承願います。
《キーピッカー・アンゴール-
[巧独のシケイダ Rank 1・GUARD 300]―召喚石 2/3
[螺旋のスキュタレー Rank 2・GUARD 900]―召喚石 1/3
暗間の場に白い輪郭を持つセミと、目の描かれたプレートが巻き付く円筒が出現する。
《暗号デッキ……。
若干性癖も入ってる気がするな……。》
《《螺旋のスキュタレー》のスキルを発動します。
このユニットよりRankの高い自分ユニット1体を選択し、《スキュタレー》のRankを自身のRank以上、対象ユニットのRank以下の範囲で操作。
《バグエラー・マトリックス・ハイゼン》を選択し、《スキュタレー》のRankを2から8に変更します。》
《シュインッ……!》【螺旋のスキュタレー Rank 2 → 8】
円筒が四倍に伸び、それに合わせてプレートも成長する。
《限無さんのユニット、使わせていただきますね。》
《借りパクはナシだぞ。》
《《ハイゼン》のスキルで、ソウルエリアの《バグエラー・ステルス》を蘇生。
サモンタイプ:オーバー。
Rank 8の《スキュタレー》を基底とし、Rank 3の《ステルス》、Rank 1の《シケイダ》をオーバーライド。
超乗召喚 》
暗間のフィールドに仮面とドレスを身に纏った女性ユニットが姿を現す……
《《キーピッカー・アンゴール-魅惑のドラベッラ》。》
【Rank X8・POWER 2800】
《そして、ソウルエリアに送られた《シケイダ》のスキル。
デッキから同名ユニット1体をコスト無しで召喚できます。》
[巧独のシケイダ Rank 1・GUARD 300]
《《ドラベッラ》のスキル発動。
デッキの上から3枚めくり、【キーピッカー・アンゴール】シリーズのカードがあれば、1枚を手札に加えます。
《オルタネイト・ピッキング》を手札に加え、そのまま発動。
《ドラベッラ》のRankをX8からX4に下げ、《シケイダ》のRankを1から5に上げます。》
《ゴゴゴゴゴゴ……!》
ユニットのRankが変更された瞬間、暗間の背後にリングを纏う塔が出現する。
《タワーか。》
《はい。自分ユニットのRankが合計10以上変化したターン、タワー《ハノイの塔》が起動し
存在する間、相手はこちらにユニットがいる限り、直接攻撃できなくなり、Rankが一番低いユニットにしか攻撃できません。》
中々の防御性能――
しかし、勿論、長くは維持できず、起動後、次の自分ターンの終わりに破壊されるようだ。
《私は更に《エコノミー・ピッキング》を発動。
これはターン終了時まで相手の場のユニット1体のRankを、自分の場のRank 9以下のユニット1体のRank分アップまたはダウンさせます。
Rank 5になっている《シケイダ》を選択し、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》のRankをX8からX3にダウン。》
《これで直接攻撃できるな。》
《《魅惑のドラベッラ》、《バグエラー・マトリックス・ハイゼン》でダイレクトアタック。》
《ヴィヴィヴィヴィヴィ!! ドドドド!!》
POWERの高い《ドラベッラ》の攻撃は、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》にガードされる。【ランサム・ドラゴン・ハイブリッド GUARD 4000 - 2800 = 1200】
だが、これでGUARDの数値にはもう余裕が無い。
《ハイゼン》の直接攻撃はそのまま通り、HAIGAはその衝撃で大きく後退する。
【HAIGA LP 5000 - 2400 = 2600】
《メインフェイズ2、Rank X4の《ドラベッラ》を基底とし、Rank 5の《シケイダ》をオーバーライド。
《キーピッカー・アンゴール-超特のディフィー・ヘルマン》を超乗召喚。
このユニットが存在する限り、【キーピッカー・アンゴール】ユニットはカード効果の対象になりません。》
《おお……ガチガチだな。》
黒い服に身を包んだ老紳士が、自身とデッキから呼び出された3体目の《シケイダ》に鍵マークを浮かび上がらせる。
シリーズの違う《ハイゼン》は対象外だが、元々対象に取る効果を無効にできる為、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》の効果を受けない。
《ターンエンドです。》
まさに鉄壁のセキュリティ。
(流石、大手サイバーセキュリティ会社の社長の娘……。任せて安心か。)
一瞬、余裕勝ちの未来が見えた。
しかし、すぐに相手が未知の実力者であることを思い出す。
《GA……!》
壊れたような音。
無機質な機械に突然、感情が宿ったかのように、HAIGAは震え出した。
《GAGAGAGAGAGAGA!》
まるで笑っているかのよう。限無と暗間は、その振る舞いがただの虚勢ではないことを感じ取る。
【PLAY・SKILL CARD《論理爆弾》】
《ん……!?》
ターンの開始とほぼ同時にスキルカードが発動され、限無のデッキの残り枚数が1増える。
【SUMMON 《マリスウェア・トロイ》】
【SKILL《マリスウェア・トロイ》】
【TURN END】
《おいおい……。》
あまりにも早過ぎるターンエンド。勝負を捨てた訳ではなく、寧ろ勝利を確信した動き。
《仕込まれましたか。》
《みたいだ。集中狙いしてきやがって……。》
効果を確認したところ、恐ろしいことが書かれていた。
スキルカード《論理爆弾》
相手のデッキに爆弾カードを仕込み、手札に加わった瞬間、起爆 残りデッキの枚数×100のダメージを与える。
《これは……2対1の変則ルールを利用してきたようですね。
こちらはライフ共有、デッキの残り枚数は合算。》
《つまり、引いた瞬間終わり。》
《はい。そして今、《マリスウェア・トロイ》のスキルでデッキトップに《論理爆弾》が置かれました。》
《ふ~ん……。》
これで負けたらトラウマもの。
限無はソウルエリアの《バグエラー・ブルーム》を確認する。
《そのユニットが持っているのは、ソウルエリアのユニット3体をデッキに戻し、1枚ドローするスキルですね。》
《ああ……これで確実な敗北は避けられる。が、ドローフェイズのドローと合わせて2枚引く。お祈りタイムだ。》
《ふ~……。》
久々に味わう緊張。裏技が使えない勝負は心臓に悪い。
デジタルカードゲームも色んなものに手を出してるが、戻したカードがすぐ帰ってくるなんてざらにある現象。ここ一番でそれが起こらなければ……
《…………。》
泣いても笑ってもシャッフルは終わっている。
限無は心の準備を終え、2枚のカードを引く。
《ジリジリジリ……!》
《……!》
引いたカードの内、1枚が消滅する。
どっち……!?
暗間の視線が突き刺さる。
《ふっ……、《バグエラー・インフィニティ》を召喚!》
【Rank 8・POWER 3000】―召喚石 0/3
何も無い……! 消滅したのは使用不能カード!
《更に《ハイゼン》のスキルでソウルエリアの《バグエラー・クラッシュ》を蘇生し、2体の【バグエラー】を《ハイゼン》にオーバーライド!
現れろ、全てを破壊し尽くす狂暴 !》
光に包まれた《ハイゼン》が巨大化し、細身の魔術師の姿から野蛮な狂戦士へと変わる……!
《《バグエラー・デストロイヤー・ヒンデン》!!》
【Rank X8・POWER 3300】
最後に決めるのは、ヒンデンバグ。意趣返しのつもりならば、面白い。
《ズガァァン!!》
スキルにより、《シケイダ》と《マリスウェア・トロイ》を破壊。
そのまま《ヒンデン》は、《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》に狙いを定める。
《素材となった《バグエラー・インフィニティ》のスキルにより、《ヒンデン》のPOWERは攻撃時に倍。
GGだ、《ヒンデンブルク・ディザスター》!!》
《ヒンデン》の持つ巨大な拳が《ランサム・ドラゴン・ハイブリッド》に突き刺さり、爆発する。
《ズガァァァアン!!》
《GA!GAッ! GAッ!!》
巻き込まれたHAIGAは消滅。後には小さなボックスが残されるのだった。
【HAIGA LP 2600 - 2600 = 0】
《…………。》
限無と暗間はすぐにそのボックスを回収する。
《これも暗号か……?》
《…………。》
《何だ? まだ信じ切れないか?》
《いえ、正直そこまで手応えを感じなかったものですから。良いものかどうか。》
《はぁ……、X基準では大したことのない情報でも、今の俺達には必要だ。解析は任せる。》
《……了解。》
暗間は箱を受け取り、共にホームへと帰還する。
二人……いや、三人がかりだったが、Xとのゲームに勝利。
後はこの箱がびっくり箱でないことを祈るだけだ。
一度きりの勝ちなら運や要領で実現できますが、勝ち続ける「強さ」を手に入れるには、それなりのやり方が必要になってきます。
【AM11:20】【歌舞伎町】
ブラックボックス。密封された果実の園。
長きに渡り熟成された秘蔵の底に、今、穴が開き、流れ出したその蜜は、暗く深い谷へと落ち、傷ついた乙女の心を癒す。
「変わった飲み方するんだな……。」
「ふふん♪ 試してみるぅ?」
唇の端を舐めながら、煽情的な視線を向けてくる
上機嫌に果実酒を味わう彼女は、既に酔っていた。
「うぇーいwww! もう一杯www!」
隣はもっと酔っていた。メクの方は、もう6杯目だ。
「そろそろ喋る気になったか?」
「ん~? 事件のことぉ? 私ら何にも知らないけど?」
「前髪長いからさwww! ギャッハッハwww!!」
「……口割らせる前に水割りするか。」
「
コップを手に取りかけた死瑪を押さえるミツヤ。
穴場という話だが、そこら中、骨だらけだし、マスターは何か骸骨だし、ヤバいところに来てしまった。
「ん? 何かそれ歯浮いてないか?」
「これ砂糖。」
「クックック……」
益田はさっきからずっと笑っている。
こいつは……突然、首突っ込んできて、勝手に逝きかけるし、どういうつもりなんだか……。
何となく分かるが、分かりたくはなかった。
「はぁ……、酒で記憶が飛んでなけりゃ、店での行動くらい話せるだろ。何度も来てたことはレードから聞いてる。」
「へー、あの酒クズ私らのこと売ったってさ。」
「流石www、解釈一致だしwww」
そりゃ殺人の容疑がかかってれば、クズにもなるだろう。それとも普段からそうなのか。
「飲むと性格変わるのよね~、あのクズ。」
「そうそう。お前の酒は俺のもの~!って、クソジャイアルコニズム発揮してくるから、キケンなイッキ飲みで犯罪気分味わいたい時はガチオススメwww。」
「…………。」
刺激を求める客……。
毎回、自分から酒を飲むなら酒には相当強いだろう。
酔えば本性が出ると言っても、レードはホストだし、二面性のあるキャラを演じてるだけの可能性もありそうだ。
「死体発見時には酔ってたか……。」
「ん?」
「いや、こいつらが帰った後、酔いを冷ます為にワインセラーに行ったんだろう。
外は物騒だし、あそこは十分涼しいからな。」
「追加って可能性もあるぜ。」
「どっちでもいい。とにかくこれでレードが犯人って可能性は更に低くなった。
酔っ払いは犯行計画に組み込めないだろう。」
「ワインセラーに忍び込まれたことにキレて刺し殺したって線は……ないか。」
笑って自分の案を却下するミツヤ。
確かに酔っ払いだったら何をするか分からない。けど、そんなしょうもない真相だったら警察や虎門組は苦労しないだろう。
悲しいが、早く解放される為には自分も何か案を出すべきか。
「あー、俺からも一つ。
被害者は見回り中だったって話だけど、ワインセラーの中まで普通調べるか?」
「その辺りは
一応、メッセージ送っておく。」
「ねー、私ら疑うより、
「……
「誰だ?」
「最近まで少年院に入ってた奴だ。」
「地味なハロウィンが飽き飽きだからって、警察相手はハジケ過ぎよねぇ。」
「何人かに怪我させて、異能も使ったみたいだし、自業自得っしょ。」
「まぁたった半年で出てきてるけどな。
歌舞伎町にも来たのか?」
「うん。顔見に行った時に聞いた。」
「あいつ妙にへらへら笑ってて、キッモいの。キチ過ぎたんだけどwww。」
笑ってた……。
それは早く出られて上機嫌といったところ、か? 確かにまた何かやらかしそうな気はする。
「分かった。気に留めておく。」
琥雲へのメッセージを打ち終わった死瑪は、携帯をしまうと背もたれに体を預けた。
後の会話は俺達に託したようだ。
「じゃね~。」
その後、ミツヤ主導で幾らか会話をし、二人とは別れた。
一時はどうなることかと思ったが、ミツヤの御蔭で円満に別れることができた。
まぁ、ちゃっかり連絡先を入手してるから、また会う機会があるかもしれないが……。
「さて、次はお前だ。」
「ククク、待ってたぜぇ、この時をな。」
益田が二人が去った後のソファに座る。いよいよか。
正直、今は二人よりこっちが重要なんだよな。
「さっき外で言ったこと本当だろうな?」
「異能《痛覚接続》だっけか?
お前、事件の被害者のこと知ってるのか?」
「いや? 何も目撃はしてねぇ。ただ……
そいつらが
事件の夜、被害者達の身に何が起こったのかを知る有力な手がかり。痛みの記憶……。
それはつまり……死の苦痛を益田も味わったってことなんだろうか?
「へへへへ……」
それで恍惚としていられるのだから狂っている。
「おい、ボケた笑いしてねーで、さっさと話せ。」
「へへっ、じゃあ、まずはアレだなァ。
ちょうど店の手伝いが終わって、裏の方歩いてたんだが、来たんだよ、その時、
「腹痛?」
「すかさず深く繋げたぜ。肌に風を感じたから外だと思うが、体は反射的にトイレを目指した。」
「う〇この話する気か?」
「そう思うだろ?
「…………。」
「成程……。」
何だ。何の話が始まったんだ?
「俺も失禁しちまってなぁ。腰砕けとはまさにあのことだった。」
「男の身でお前……。」
「まさか、例の赤ん坊か?」
「あ。」
そう言えば、トロピカル・クイーンの近くに捨てられていたという話があった。
その場で出産してたのか……。
「で、まだ終わりじゃなくてな。
余韻を味わい、そのまま繋ぎっ放しにしてたら今度は喉を切り裂かれ、別の場所から背中の痛みがやってきたんだ。
あの感じはナイフ。二人分は流石に気絶しそうだったぜ。」
「随分カオスな展開だな。
子どもを産んだ直後に通り魔かよ。」
「いや、女の死体が出たなんて話は聞いてない。
持ち去られたか……?」
死瑪が考え込む。
どうやら単に赤ん坊を捨てただけの事件じゃなさそうだ。凶器が同じナイフなら、トロピカル・クイーンの事件と何か繋がりが……?
「お前そこまで感じといて犯人も被害者も見てないのか。」
「わりぃな。トイレっつったろ。」
うん。まぁ、運が良かった方かもしれない。益田が感じていなかったら、分からなかったことだ。
「まぁ、監視カメラが見てれば、警察が動いてるんじゃねーか?」
「だといいがな。ん?」
その時、マスターが近くに立ってることに気付いた。
誰も何も注文してない筈だが……
顔は骸骨のマスクに覆われ、相変わらず表情は窺い知れない。
「あの、何か?」
ひと声かけると、マスターは服の下から1枚の写真を取り出し、それをテーブルの上に置いた。
その後、すぐに去っていく。
「これ……は……?」
突然のサービス。事件に関する重要な手がかりか。
そこに映っていたものに俺達は驚くが、深く考える前に、ドスの効いた声に体が反応した。
「おい。お前ら 」
◆
店から出た俺達は、そこで別行動をしていたマザネと合流することになった。
「どんな感じ? 首尾は。」
「幾つか分かったことがある。女共が来る前に情報交換と行きたいが……。」
死瑪は近くの壁に背中を預けている少年少女に目を向けた。知らない二人だ。
「ああ、俺んところの奴らだ。気にするな。」
「で、要件はアレか。親父んところの殺された……」
「そう。何でも事件に役立ちそうな情報があれば教えてくれ。」
「ふん……。先に言っておくが、俺は特殊な立場で、あんまりあっちの事情は詳しく知らない。」
又聞きだが、どうも親子関係は良好ではないらしい。良くても気持ち悪いが、琥雲が一方的に嫌っているとのこと。
「このところ、親父んところの連中が立て続けに襲われてる。
俺が聞いた分では、これまでに襲撃は3回で、襲われた3人の内、2人殺されてる。」
「特徴は一致してるのか?」
「ああ、背中を刃物で一突き。
流石に二度もやられて、親父も対抗策を用意したみたいでな。詳しくは知らないが、風俗とホストクラブでの事件以降は犠牲者は出てない。」
「犯人の目星は? 模倣犯が出る可能性はあるか?」
「さぁな。2回目の襲撃以外は警察は知らないし、同じ人間の仕業だってことを知ってるのは一部だけだ。」
連続した事件が同じ犯人の手によるものなのかどうか……。一人だった方がこちらとしてはありがたいが……
「襲撃っていやぁ、昨日の昼のは面白かったな。」
「バカ。関係ねーだろ。」
舎弟の二人が口を挟む。
「何かあったのか?」
「ああ。昨日、アンドロイドレストランで暴れた外国人連中がいてな。
今頃、親父んとこか。」
「え?」
何か嫌な流れ……
「殺されるほどの罪じゃないが、運が無かった。
三度の襲撃事件の所為で、組全体の機嫌が悪いタイミングだったからな。」
「食われたか……。」
「そんなことして大丈夫なのか?」
「ああ、今の日本は、日本人の犯罪に対しては寛容だからな。
まぁでも、親父はあれで命を大切にしてるつもりだ。
弱者は強者に食らわれることで、その強者の一部となって生き続ける。
他所に迷惑かけるなら、動物の餌にしちまうのが一番って本気で思ってるからな。」
「…………。」
ほんと、野生に生きている。
「で……、殺された奴らは前も言ったが、下っ端も下っ端。新入り連中だ。
そういや、何か変な場所で殺されてたって聞いたが……」
「プレイルーム横の風呂場と、ワインセラー。分身の方は、見回り中だったって話だ。」
「いや、それは変だ。
襲撃が始まってから、見回りは必ず二人以上で行うように指示されてる。」
「あ、やっぱり見回り中じゃなかったのか。
じゃあ、別の目的で……?」
「ワインセラーに行くとしたら、目的は酒だろうな。」
「分身が酒を飲むのか?」
「持って帰るに決まってるだろ。」
「ってことは……」
ミツヤと話していて、何か見えそうになってきた。
「やっぱ赤ちゃんプレイっつっても、大の大人がミルクはな。俺なら満足できねぇよ。」
「いや、あの哺乳瓶の中身は酒だぞ。ミルクのリキュールって話だ。」
「あん?」
またか。
「ってことは、酔ってたってことか、あいつら。
どうりで記憶力が死んでる訳だ。」
死瑪が呆れた様子で吐き捨てる。
「あのな。シラフで赤ん坊になってたら、流石にヤベーよ。」
琥雲のツッコミから考える。
そうなると、酒の度数は相当に高いか。
「なぁ、確か分身は簡単な命令を聞かせられる……だったよな?」
何か気付いた様子の幽鵡に全員が注目する。
「酔っ払って、もっと高い酒持ってこい。みたいな命令出したとか?」
「…………。」
ちょっと。沈黙されると不安になる。
「あるかもな。別にプレイルームに入った後じゃなくてもいい。入る前に何処かで酔ってれば、そういう展開に繋がる。分身も酔いでおかしくなってたかもしれない。」
「記憶の中にある高い酒ってのが、キング・フリジッドのワインセラーであってもおかしくないな。
って、じゃあ、やっぱワイン盗まれそうになったレードがブチ切れたんじゃねーか? 分身って分かったなら躊躇もないだろ。」
「そんなバカみたいなこと……。」
起きてもおかしくないから本当に酒は怖い。大人になっても絶対飲みたくないな。
「そうだ。
自分の勘に自信ありげなミツヤが琥雲に尋ねる。
「それは知らん。逆らわない限りは好きにやらせてるだろ。
親父にとっちゃ、組の人間のほとんどは動物の餌だ。」
琥雲は顔を
「寧ろ問題を起こすことを期待している節がありそうだな。」
「ああ、そうだよ。馬鹿なペットを虐めて遊ぶ。
気分次第で脅かしたり、甘やかしたり……、俺を産ませた女にだって……!」
「あ。」
「おい。」
ヤバい雰囲気を感じ取ったミツヤが後退し、死瑪が琥雲の肩に手を置く。
「はぁ……はぁ……! クソ! 何かねーか!?」
どうにも抑え切れない様子で、生贄を求めてくる。
眼光は獣のそれ。髪の毛は逆立ち始め、見る者を威圧する。
当然、猛獣の前で恐れを成して逃げ出すのは危険である。
とはいえ、このまま傍で固まっているのも危険。天に祈るしかないのか !
「うひゃひゃひゃひゃ!! ごぼぉ!!」
その時、店の中から喜々として飛び出してきた益田が琥雲の鉄拳の餌食となった。
激しく回転し、逆戻り。一瞬の出来事であった。
「はー……。」
変態はこういう時に役に立つ。
琥雲は何とか怒りを発散できたようで、息を吐き、元の状態に戻った。
「すまん。何の話してたんだっけか?」
「シャブやるのと、バブやるの、どっちがマシかって話だ。」
「あー……。薬物に関しては、親父は嫌ってる。
ガス抜きなら、女達の仕事だ。」
「それってトロピカル・クイーンの人達のことだよな?」
一応、確認しておく。
「サポートはだいぶ手厚いみたいだ。子どもを作れば、親父は寧ろ喜ぶ。」
「母乳プレイとかできるしな。」
「黙れ。」
死瑪が不快そうにキレる。
「まぁ、お前らが仲良くしてる風俗嬢達は特別扱いみたいだな。汚れ仕事はちゃんと専門の連中に任せるようにしてる。」
「…………。」
捨てられていた赤ん坊と関係あるかもしれないと考えていたが、厳格に管理されてるのなら、犯人が風俗嬢という可能性は、もしかして低いのだろうか?
「はいはい。ちょっといい?」
そこでマザネが割り込んできた。
「良くない。」
「えー、行き詰まる前にとっておきの情報欲しくな~い?
ちょうど被害者の嗜好に注目してるみたいだしさ。」
今更、何だ。
「また姉の飛ばし記事じゃないだろうな?」
「違う違う♪ お間抜けなお姉ちゃんと違って、今度はちゃんと僕が調べてきたんだから♪」
死瑪に睨まれてもマザネは調子を崩さない。
妙に話したそうで、またロクでもない秘密を予感させる。だが、手がかりは多ければ多い方が良いのは事実。
「はぁ……、何だ?」
「ふふん♪ これは全国的に活動中のパパ活女子りりーちゃんからの情報なんだけどね。」
いきなり情報元が怪しい。
「ほら、やっぱり行動を読むなら、性癖は知っとかないといけないじゃん?
心配しなくてもちゃんと裏取りしたから、信用してよ。」
「もったいぶってないで、さっさと話せ。」
「とっても興味深いものだよ。これ何だか分かる?」
マザネは袖の下から長方形の包装を取り出した。
PTPシート? そこには黄色い錠剤が規則正しく並んでいた。
「今、覚せい剤はNGって流れだったんだがな。」
「もー、勘違いしないでよ。
「え。」
勃起不全……
「被害者の持ってたものと同じもの。
つまり、コ・インホはインポだったんだよ!」
何故か目を輝かせるマザネ。失礼極まりない。
「はぁ、韓国人はインポが多いって聞くが、そうか。」
「俺は違うぞ。いッ」
軍鶏の少年が白髪の女子に殴られる。
「んな情報、何の役に立つんだよ。」
「勃ったってことだろ。
つまり、インホは薬無しじゃ、DDがいる時にしか射精できなかったんだな。」
「あ。《ダイヤモンドコーティング》の異能……。」
「そういうことだ。ようやく繋がりが見えてきた。」
「物理的にも繋がってるかも!」
「お前はついてくるな。」
「えー、何でぇ! 折角、調べてあげたのに!」
「これ以上は余計だ。」
死瑪は、用済みといった様子でマザネを突き放す。
「待て。
お前ら、今のところ、誰だ一番怪しいと思ってるんだ?」
琥雲が質問してくる。
「今の流れで分かるだろ。」
「そうか。なら一応、この話もしておくか……。
コジインって分かるか?」
「児童養護施設だろ。」
「虎の院で虎児院だ。組のシノギの一つ。実際の名前は確か、虎児の家とかだったか。」
琥雲が話したのは意外な事実。
「ダイヤって奴はそこの出だ。」
「孤児院の……」
だからより怪しいという訳でもないが……
「成程。親の愛を知らないのなら、周りとは、何処か違う感覚を持って生きてるかもな。」
親の愛を知らなそうな死瑪が言うと説得力がある。
「悪いな。色々喋ってもらって。」
「いや、いい。親父が出し抜かれるところを見れるんなら、幾らでも協力してやる。」
琥雲は意外と楽しんでるのかもしれない。
「で、DDがクロって結論出していいのか?」
「一度問い詰めてみたいところだな。
すまん、琥雲。居場所分かるか?」
「……。確実に連絡が取れるのは、オーナーの
だが、中々自分の領域から出てこないことで有名だ。」
「領域って?」
「異能によって作られた空間……。異界だ。
入り方は勿論、知らないぞ。」
「いや、そこまで分かれば十分だ。」
何か手があるのか。死瑪は会話を打ち切る。
「ココナ辺りなら口滑らせそうだよな。」
あぁ、確かに。
「女共に頼るのはナシだ。味方をされちゃ堪らん。」
「じゃあ、どうすんだ?」
「これを使う。」
死瑪はいつの間にか手にがらがらを握っていた。
「は?」
「言っておくが、ヤクザ共をあやす訳じゃないぞ。
これはある女から奪った特殊な道具で、空間に穴を開けられる。」
「異界を探れるって訳か。」
「行くぞ。多分、トロピカル・クイーンの近くだ。」
《ブゥゥゥン!! ブゥゥゥン!!》
その時、死瑪の携帯が突然鳴り出した。
「すまん、
死瑪は壁に背を預けると、電話に出た。
「どうした?」
《今朝、お前が大学生達と発見したもののことだ。
犯罪支援アプリと関係している可能性が高くなってきた。》
◆
≫ 東京都・港区・零宝ビル最上階
《そうか。こっちは今のところ順調だ。異界に入る予定だから、しばらく連絡取れなくなるかもしれないが。》
「なら良いタイミングだったか。こちらは今、
何かあればそっちにも影響が出るかもしれん。気を付けろ。」
《分かった。もしリストが手に入ったら送っといてくれ。》
そこで通話を終え、億卍は再び無言の作業に入る。
「…………。」
「忙しくなってきたみたいだね。」
「暇そうだな。」
「まだ僕の出番じゃないだろう? 早く舞台に上がらせてほしいものだよ。」
「悪魔では力不足か?」
今朝10時前。
死瑪から千代田区のとあるビルで不審なアンテナを発見したとの情報が入った。
恐らくは悪魔……。
そこで、見たものの名前や性別を見抜くことができる異能《性名判断》を持つマザネに協力を依頼した。
壊れたパラボラアンテナの正体は、悪魔パラボラー。
既に力を失い、存在が消えかかっていた為、何をしていたかは不明だが、二人の大学生に提供された情報から、犯罪支援アプリとの関係が強く疑われた。
「悪魔・妖怪・神……人間の想像力は本当に豊かで、本当に素晴らしいね。」
「…………。」
今や想像が現実世界に飛び出し、悪さをする時代となった。
それらは異能力者の集合無意識。認知から生まれたとする説が巷では有力だが、自分は半信半疑だ。
例えば、悪魔にはある共通点がある。
それは肉体を持たない……精神生命体と言うべき存在であり、ホームである魔界ではともかく、現世では存在が安定しない為、強く影響を及ぼすには、そこに住む生き物の協力を得る必要がある。
契約という形を取る為、意思疎通の図れない相手では駄目で、一度成立すれば、それに逆らうことができない。
何か別の大きな力が働いている可能性もある。
「悪魔については本能で人々を堕落させる為に動くけど、交流が進むと人間に影響されて、多様な考えを持ち始めるそうだよ。
彼……パラボラー君の場合はどうだろうね?」
「…………。」
消滅すれば、契約も無効となる。
犯罪支援アプリと関わりがあったのなら、これでアプリの不可思議な力も失われる。
後は大本の契約者を探し出し、経緯や契約内容を詳しく聞き出すだけ……
(その筈だったが……)
どうにもまだアプリが一部で稼働している節がある。
現在進行形で被害に遭っている人間がいるのだ。
「はぁ……、読み切れんな。」
だが、これを解決しなければ、他の問題に取り掛かることができない。
(最悪、あいつを動かす必要があるか……。)
いや、もしかしたら既に動いているかもしれない。
この混沌とした状況では。
金で直接動かせるような人間ではない以上、そうであってくれた方がありがたいが……
(賭けになってしまうな……)
億卍はギリギリまで表舞台に立つ人間達の力を信じたかった。
歯車は十分だ。
どうか上手く噛み合ってくれることを祈る。