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『異端のネシオ ― World is Colorful』EP0「Zero Island」(3/3)

 

 Die Erinnerung ist das einzige Paradies,woraus dem wir nicht vertrieben werden konnen.

 (我々が追い出されずに済む唯一の楽園は思い出である。)

Jean Paul(ジャン・パウル

 

 

 

 

 ≫ December 24th, 8:30 pm, Hizense

 

 

 

 《ジジッ……》《ウィーン……!》

 

 いかなセキュリティであろうと、Z級能力者の前では意味を成さない。

 カラーノイズでYルームのロックを解除し、入室したネシオは、薄暗い部屋の中を真っ直ぐ進んでいく。

 そこは子ども部屋のようなデザインの部屋。中心にあるベッドだけが淡い光に照らされている。

 ネシオはそのベッドに寄り添うと、横たわる一人の幼い少年に声をかけた。

 

 「Yuhim…… . Yuhim, Remember……? (ユヒム……。ユヒム、覚えているかな……?)」

 

 「……………。」

 

 ナイトキャップを被り寝ている、五歳くらいの少年。

 彼は呼びかけに反応することなく、目を閉じたまま、身じろぎひとつしない。

 

 「Counting on you…… . (頼んだよ……。)」

 

 しかし、ネシオが話し終えると、少年はゆっくりと口を開き……。

 

 「Yawn…… .(ふわぁぁ……)」

 

 大きなあくびをした。

 

 すると、それに合わせ、不思議な波動が周囲に放たれ、空間が歪んでいく。

 

 ネシオはその光景を、笑みを浮かべながら見守った。

 

 

 

 

 
5 years ago 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 ハイゼンスに収容されているZ級能力者11人

 

 彼らと共に過ごした時間は、とても刺激的で、鮮やかな色に満ちていた。

 

 《ウィーン……!》

 

 「Nesio! Oh,my God! HELL isn't anywhere !!(ネシオ! 大変だ! ヘルちゃんがいない!!)」

 

 例えば、彼――ヘルマン・エラー・ラッフィング

 不気味な笑顔と芝居口調が特徴的な、愉快な男だ。

 

 「Run away again ? (また逃げ出したのか?)」

 

 「Ah……HELL!  I don't know what would happen to her if she was found by Ena or Raise……!? (ああ……ヘルちゃん! もし、エナレイズに見つかったら何をされるか……!?)

  Will you help !?(ネシオも探してくれないかい!?)」

 

 「Of course. (いいぞ。)」

 

 茶番と分かっていても、付き合うのが真の友。

 

 ヘルマンは自分がこのハイゼンスで最初に出会ったZ級能力者であり、最初にできた友達だった。

 スマイリーフェイスのような飾りの付いたシルクハットを被り、マジシャンスーツを着込んだ彼は、実はアメリで有名なサーカス団マジシャンを務めていたことがあり、自分も昔、ショーを見に行ったことがあって、だから彼のことはよく知っていた。

 

 「Ena~!?(エナ~!?)」

 

 ヘルマンと共にEルームに向かう。

 

 《ウィーン……!》

 

 「あぐっ、あぐっ、あぐっ……!」

 

 扉を開けた瞬間、漂う異臭。聞こえてくる唸り声と汚い咀嚼そしゃく音。

 どうやらエナは食事中のようだ。部屋の奥の方でこちらに背を向けて座り込んでいる。

 

 「Ena! Did HELL come here !? (エナ! ここにヘルちゃんは来なかったかい!?)」

 

 「ううう……。」

 

 ミンチ肉のような赤黒い髪に、灰色のワンピース――彼女がEルームの主、エナ・リーフだ。

 

 「On, no! Ena is crazy about eating! That meat isn't HELL, right !? (ああっ、駄目だ! エナちゃん、食べるのに夢中だよ! その肉、ヘルちゃんじゃないよね!?)」

 

 ヘルマンは彼女の周囲に散らばった肉の塊を漁り始める。

 パッと見、ヘルちゃんの姿は確認できない。

 

 「うーっ……。」

 

 肉を取られると思ったのか、エナが鋭い眼でヘルマンを睨み付ける。

 

 彼女の好物は肉。

 肉だが……、ただの肉じゃない。

 

 カニバリストである彼女には、限りなく人間に近く加工された肉が与えられている。

 ここに来る前に人の肉を食べ続けた所為で、頭が少し変になっているが、不老不死であるZ級能力者にとっては大した問題じゃない。

 

 「Ena. Eat me. (エナ。俺を食べていいぞ。)」

 

 「うう…………?」

 

 ネシオを見たエナは、口から肉の塊をボトリと落とした。

  

 「あうう……。」

 

 《ズシャアアア!!

 

 すると、彼女の背中から赤い根のようなものが勢いよく飛び出し、こちらに向かってくる。

 

 これが彼女の能力。

 

 赤い根を周囲に伸ばすことで、あらゆるモノを食らい、自分の栄養に変換することができる。

 

 「…………。」

 

 ネシオのエネルギーを吸い取ったエナは、段々と正気を取り戻していく。

 立ち上がった彼女は、片手で口元の汚れを拭い、静かに周囲の様子を確認した。

 

 「Phew……,  I did it again.(ふぅ……、またこんなに汚してしまいました。)」

 

 さっきまでモンスターのように肉にかぶりついていたエナの口から、ようやく人の言葉が飛び出す。

 彼女の脳は、能力を使用している間だけ、正常な状態に戻る。

 本来の彼女は、とてもしとやかなのだ。

 

 「Ena!  Did you see HELL !? (エナちゃんヘルちゃんを見なかったかい!?)」

 「I don't know.  I'm going to clean the room, so please leave Herman ? (知りません。これから掃除をしなくてはならないので、ヘルマンは出ていっていただけますか?)」

 「Oh, terrible! but will do! (ああっ、酷い! でもそうするよ!)」

 

 ヘルマンは部屋を出ていってしまう。

 

 「Nesio!  I'm going to see Raise and Ryan's room, so you should look into the other rooms! (ネシオレイズライアンのところを見てくるから、他の部屋を頼むよ!)」

 

 やれやれ、忙しいことだ。

 

 「Sorry, Ena. I also have to find HELL. (悪い、エナ。俺もヘルちゃんを探さなくてはいけないんだ。)」

 

 「Is that so?  Then……Huh, cleaning is postponed…… . (そうなのですか。なら……はぁ、掃除は後回しですね……。)」

 「If Herman finds his pet, I'll be back. (見つかったら、また来るさ。)」

 

 そう言って、ネシオエナの部屋を出た。

 

 さて……。

 

 Eルームから出たネシオは、迷わずYルームを目指し、歩く。

 

 

 《ジジッ……》《ウィーン……!》

 

 扉を開け、中に入ると、部屋中心のベッドの上で、少年と黒い猫が仲良く眠っている姿が見えた。

 

 「ふっ……。」

 

 やはり、ここにいた。

 

 ネシオは静かにベッドに近付き、二人の幸せそうな寝顔を眺めた。

 

 よく眠っている……。

 

 彼らの世界を壊すなど、俺にはできない。

 

 ネシオはベッドの周りにカラーノイズを走らせ、カーテンを出現させた。これで入口からは見えない。

 

 

 (Good night.(お休み。))

 

 ネシオは心の中で小さく呟く。

 

 

 このことは、しばらく内緒だ。 

 

 

 

 
5 years later 

 

 

 

 

 ≫ December 24th, Santa's House

 

 

 三人でテーブルを囲み、談笑しながら順番にクッキーを食べること数分。皿の上のクッキーは、だいぶ少なくなってきた。

 未だ誰もハズレを引かないが、山が小さくなり、奥の方に隠れていた、より変わった色や形をしたクッキーが顔を出したことで、段々と食べるスピードは落ちていく。慎重にならざるを得ない。

 

 「ンン♪」

 

 そんな時、リーマスが山の中からとても綺麗なクッキーを見つけた。

 

 「Rainbow…… .(虹色……。)」

 

 七色のクッキー。どんな味かは全く想像がつかない。一見、不味くはなさそうだが……。

 

 リーマスはそれを口の中に放り込み、幸せそうな表情で噛み砕いていく。

 アズルは少し羨ましそうにそれを見つめた。

 

 「ン!?」

 

 ――が。彼女は突然、青褪め、激しく苦しみ出した……!

 

 「ンン~!?」

 

 《バターン!!

 

 「hahaha.  Merrymas seems to have lost.(ハハハ。どうやら、リーマスが引いてしまったようだな。)」

 

 椅子ごとひっくり返ったリーマスは目を回している。

 少し可哀想だが……、これで安心して残りのクッキーを食べられる。

 

 《ゴソゴソ……

 

 「…………?」

 

 そんな時だった。

 外から何かの物音が聞こえ、ネシオアズルは外に繋がる扉に注目する。

 

 もしや……。

 

 

 《ガチャ……》

 

 「…………!」

 

 扉が開き、現れたのは、赤い帽子に白い髭、そして、赤い服を着た老人。

 

 アズルは目を見開いた。

 

 その姿は疑う余地もないほどに、サンタクロースであった。

 

 「Real……? (本物……?)」

 

 「Yes. (ああ。)」

 

 アズルは慌ててクッキーを飲み込み、姿勢を正した。

 

 

 「ho-ho-ho…… . Did you like it ? Azul.(ほっほっほ……。クッキーは美味しかったかな? アズル。)

 

 腰を屈め、サンタクロースアズルに尋ねる。

 彼は緊張しながら無言で頷いた。

 

 「Do you know me ? (僕のこと分かるの?)」

 

 「Yes, I know your worries. (勿論、君の悩みも知っているよ。)」

 

 サンタクロースは柔和な笑みを浮かべ、頷く。

 

 「Really ? (本当?)」

 

 「Yeah, I know many other things.(ああ、他にも色んなことを知っている。)

  You haven't broken the statue. And your family is worried about you.(像を割ったのは君じゃないことも、家族が君を心配していることも。)

  Everyone knows. You are a good boy. (皆、ちゃんと分かっているよ。君は良い子だ。)」

 

 頭を撫でられ、アズルは少し安心した表情になる。

 サンタクロースの格好をした大人はこれまで何度か見たことがあるが、目の前の老人がまとう雰囲気は、そのどれとも違う。

 上手く言い表せない。本物だけが持つオーラを、アズルはひしひしと感じた。

 

 「I'm going to work again. I'll take you home.(これからまた仕事なんだ。ついでに家まで送ってあげよう。)」

 

 サンタクロースアズルに手を差し出す。

 彼はその手を取り、椅子から降りた。

 

 「Azul. Take this. (おっと、アズル。これを持っていけ。)」

 

 ネシオが手を動かすと、皿の上の余ったクッキーがまとまり、袋に包まれた。

 ふわふわと飛んできたので、アズルはそれを両手で受け止める。

 

 「Present.(お土産だ。)」

 

 「Thanks……!(ありがとう……!)」

 

 アズルはようやく曇りのない笑顔を見せる。

 

 「h…… . Hey, Merrymas. Time for work. Wake up. (ふっ……。おい、リーマス。仕事だぞ。寝てる場合じゃない。)」

 

 ネシオがそう言うと、倒れていたリーマスが飛び起き、大急ぎで小屋を出ていく。

 アズル達もその後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 Christmas is doing a little something extra for someone.

 (クリスマスとは、普段よりもう少し誰かのために何かしてあげること。)

 

 

 

 

 

 

 

 ≫ December 24th, 8:31 pm, Hizense

 

 

 「……………。」

 

 あの日から5年――。

 

 大罪人ネシオ・スペクトラハイゼンスに収監されてから、何かが変だと思い続け、5年の月日が流れた。

 

 「Zzz…… .」

 

 そして、今日この時、は己の直感が正しかったことを知る。

 

 「………………。」

 

 床に倒れた職員を抱き起こし、状態を確認する。

 幾ら揺さぶっても起きる気配はない。

 気持ち良さそうに眠っているが、これは睡眠薬を盛られた訳ではなく……

 

 

 (Z-Class…… .(Z級能力……。))

 

 

 ハイゼンス看守長ルドル・F・ハイドゲートが異変に気付くのは早かった。

 

 穏やかに始まったクリスマスの夜。休暇を返上して能力者達の監視を行っていた職員達、及びS級以下の能力者達が一斉に昏倒し、自室でブラックコーヒーたしなんでいた自分も突如、強烈な睡魔に襲われ、カップを落としかけた。

 

 異能の力――それもZ級能力者の力であることはすぐに分かった。

 

 この能力はYルームに収容されている少年。ユヒム・スリー・リピートの能力――【A Dream within a Dream】。

 

 あらゆる生物を夢の世界に閉じ込める、恐るべき能力だ。

 

 ルドルはすぐに自分の頭に手を当て、自分の異能で問題を解決した。

 

 「…………。」

 

 間一髪、睡魔から逃れた彼は、その後、部屋を出て、状況を確認しながら通路を走った。

 緊急事態であることは明白だが、恐怖はなく、原因である能力者の元へ急行する。

 彼は今、Z級能力者達の収容区画の扉を開け、ユヒムの部屋を目指していた。

 

 「Hey. (やぁ。)」

 

 そんなルドルの前に、一人の男が立ち塞がった。

 

 ヘルマン・エラー・ラッフィング……。

 

 Yルームの扉を背に、ニヤニヤと笑いながら、薄気味の悪い声で話しかけてくる。

 

 「Nesio is on the top floor. (ネシオなら上だよ。)」

 

 「……What are you thinking. (……何のつもりだ?)」

 

 「I'm going to sleep. Yawn…… . Because I'm sleepy. (寝るつもりさ。ふわぁぁ……。眠たいからね。)

  Happy Holidays. (それじゃ、ハッピーホリデーズ。)」

 

 眠そうな声を出し、自分の部屋の方へと去っていくヘルマン

 

 (As I thought…… .(やはり、ネシオか。))

 

 ルドルはすぐに近くのエレベーターに乗り、最上階へのボタンを押した。

 

 ハイゼンスの中心にそびえ立つ塔。その一番上に存在するのは、天文台

 この状況で呑気に天体観測でもしているというのか。

 

 目的が分からない。

 

 《ウィーン……!》

 

 エレベーターの扉が開くと、そこには望遠鏡を覗き込むネシオの姿があった。

 他には誰もいない。

 

 「What are you doing. (何をしている?)」

 

 「Looking for a star of Bethlehem. (ベツレヘムの星を探しているのさ。)」

 

 …………。

 

 「Cloudy today. (今日は曇っているぞ。)」

 

 「hhh…… . (フフフ……。)」

 

 ネシオは小さく笑いながら振り返る。

 

 「Just because I'm looking into a telescope, doesn't mean I'm looking at space.(望遠鏡を覗いているからといって、宇宙を見ているとは限らない。)

  You should know that well.(そんなことはよく分かっている筈だ。)」

 

 「……………。」

 

 では、一体何を見ていたというのか。

 

 ベツレヘムの星……。確かクリスマスツリーの上に飾られる星がそう呼ばれていたか……。

 

 「You move your brain to another place and escape from sleep. That's pretty interesting. (自分の脳を別の場所に移して睡魔から逃れる……。中々面白いことをする。)

  If you want to do it, you can move your heart. (やろうと思えば、心臓も可能なんだろうな。)」

 

 ネシオは数歩歩いた後、再びこちらを振り返った。

 

 「But it's useless in front of me. Are you scared ?(だが俺の前では無駄なこと。怖くないのか?)」

 

 「Shut up.(質問をするのはこっちだ。)

  Did you make Yuhim use psychic powers ?(ユヒムに能力を使わせたのはお前だな?)」

 

 「Yeah, isn't it sad that they can't meet their family at work at such an important time ?(ああ。こんな大事な時期に仕事で家族と会えないなんて悲しいだろ?)

  That's why I'm showing them dreams. (だから見せてやってるのさ。)」

 

 …………あくまで善意だというのか。

 

 それで納得すると思っているのか。

 

 「That was a strange question. Didn't you guys monitor all my actions ? (しかし、おかしな話だ。お前達は俺の行動を全て監視してるんじゃなかったのか?)」

 

 「…………。」

 

 監視を潜り抜ける手段など幾らでもある。

 テレパシーでも、夢の中でも。Z級能力者には何でもできてしまう。

  

 この世界をどうすることも……。

 

 「What did you talk to him ?(彼と何を話した?)」

 

 「……As I thought, you are different from other staff. (……お前はやっぱり他の職員と違うな。)

  You are not afraid of Z-Class Psychics at all. On the contrary, you seem to have a strong interest in us.(Z級能力者を全く恐れていない。それどころか、強い興味を持っているようだ。)

  Very calm, even though Z-Class Psychics may jailbreak in groups.(Z級能力者達が集団脱獄してもおかしくない状況なのに、お前は冷静だ。)

  It's true that you don't feel scared. (恐怖を感じないというのは、本当なんだろうな。)」

 

 ネシオは興味深そうにルドルを見つめる。

 

 「What is your true purpose ? (お前の本当の目的は何だ?)」

 

 ルドルは引き下がらず、質問を続ける。

 

 「h……, I lived here for five years. (フ……、5年も世話になった場所だ。)

  I feel unconfortable to go out silently. Is it natural to think so ? (黙って出ていくのは気が引ける。そう思うのは当然だろう?)」

 

 「…………。」

 

 やはり、そうか。

 

 「Cause disaster again ? (繰り返すつもりか?)」

 

 「What do you think ? (どう思う?)」

 

 …………。

 

 「For five years I've been watching you. (この5年間、私はずっとお前を見てきた。)

  But I don't know.(しかし、分からない。)

  You seemed to be trying to lead the other psychics in the right direction, but you also seemed to be cleverly deceiving and using them.(他の能力者を良い方向へ導こうとしているようにも見えれば、言葉巧みに騙し、利用しているようにも見えた。)」

 

 ルドルは淡々と述べる。

 

 「……Well, No wonder you think so. (……まぁ、そう思うのも無理はないな。)」

 

 ネシオは天を仰ぎ、少し儚げな表情を浮かべた。

 

 「Because……(なんせ……)

 

  I'm a felon who has extinguished one city……with all the people who live there.(一つの街を……そこに暮らす人間ごと消滅させた重罪人だからな……俺は。)」

 

 「…………。」

 

 「Perhaps some of their family members, lovers, friends, or acquaintances were involved. (もしかしたら、彼らの家族か、恋人か、友人か、知り合いか。何人か巻き添えになっていたかもしれない。)

  I'm really sorry. (本当に申し訳ないことをした。)」

 

 …………。

 

 もし本当に謝罪の意思があるならば、こんな場所で言うまい。

 

 「Do you have any regrets ? (後悔はあるのか?)」

 

 「Regret ? No, that is a good memory. (後悔? いや、あれは良い思い出だよ。)」

 

 …………。

 

 やはり、Z級能力者は普通ではない。異常だ。根本的なところで相容れない。

 

 「Well good. It doesn't matter if you are a good person or a bad person.(まぁいい。お前が善人か悪人かはどうでもいいことだ。)

  Z-Class Psychic Powers may run out of control regardless of the person's will.(Z級能力は本人の意思と関係無く暴走することもある。)

  I can't get you out of here.(お前をここから出す訳にはいかない。)」

 

 「Even if you can stop me ? (止められるとでも?)」

 

 「I have no choice but to do it. ……Also for them. (やるしかあるまい。……彼らの為にも。)」

 

 ルドルネシオから目を逸らし、床を見つめた。

 

 「I can understand sadness and anger without feeling fear. (恐怖は感じなくとも、悲しみや怒りを理解することはできる。)」

 

 再び視線が合わさった瞬間、サイバーサングラスに隠されたルドルの瞳が怪しく輝いた。

 すると――彼の背後に不気味な装飾の施された扉が出現し――

 

 《ギイィィ……》

 

 開かれたその先にある闇から、異形の怪物が姿を現した。

 

 「Devil…… . That is your power.(悪魔か……。それがお前の能力。)」

 

 

 

 

S-ClassDevils Gate

 

 

 

 

 扉が消えると同時に、大男の姿をした悪魔が唸り声を上げ、ネシオに殴りかかる。

 

 《ゴゥゥン!!

 

 闇を纏わせ、勢いよく放たれる拳……!

 ネシオはそれを体を捻ってかわすと、続けざまに放たれた二発目を上に飛んで回避。カラーノイズを走らせた天井を通り抜け、ハイゼンスの外に脱出する。

 しかし、間髪容れず、天文台の真上、目の前の床に扉が出現……!

 それが勢いよく開き、中から背に赤い翼を生やしたルドルが飛び出した。

 

 《ビュオオオッ!!

 

 羽ばたきと同時に巻き起こる爆風!

 ネシオは姿勢を低くし、その場に留まろうとする。

 

 が、次の瞬間――!

 

 《ボォォン!!

 

 ネシオの体が突如、爆発し、炎上!

 彼の体は激しい炎に包まれ、見えなくなる。

 

 「…………。」

 

 だが、燃え尽きた訳ではあるまい。

 ルドルは炎を透視し、確認するが、既にそこにネシオの姿はなかった。

 

 「…………!」

 

 背後に気配を感じたルドルは、すぐに稲妻を呼び寄せ、放出。

 

 《ビシャァン!!

 

 雷撃がネシオの体を貫く――!

 

 ――が、僅かに仰け反った後、彼は平気な顔でそれを身に纏い、跳ね返した。

 

 《シュンッ!

 

 返された雷撃を喰らう寸前、ルドルの姿が消え、ネシオの背後に出現する。

 

 向こうも瞬間移動……!

 

 「……!?」

 

 しかし、振り返ったそこにルドルの姿はなかった。

 気配も消えた。

 

 (Invisible…… . (透明化……。))

 

 確かバエルという悪魔の力だったか。これでは姿も声も認識できない。

 だが、存在が消えた訳でないのなら……。

 

 ネシオは斜め右上に雷撃を放つ。

 

 《ビシャァン!!

 

 「…………ッ!!」

 

 翼を破壊され、落ちていくルドル

 

 「It just happened. (偶然当たった。)」

 

 《シュンッ!

 

 再び瞬間移動し、天文台の上に出現するルドル

 雷撃により、受けた傷がみるみる回復していく。

 

 「Oh, amazing. (やれやれ、そんなこともできるのか。)」

 

 ネシオもまた天文台の上に着地し、小休止する。

  

 「…………!」

 

 ルドルの瞳がネシオを捉え、強く輝く。

 

 《バキバキバキ!!

 

 一瞬でネシオの周囲が石化。だが、彼には何の影響もない。

 

 「Why don't you tell the devil about my weaknesses and the future ? Can't you ?(悪魔に俺の弱点や、未来を教えてもらったらどうだ? できないのか?)」

 

 「…………。」

 

 確かに、悪魔の力ならば、相手の弱点を見抜いたり、心を読んだり、未来を知ることができる。

 だが、Z級能力者の前では正確な情報が得られないことは、既に経験済みだった。

 悪魔の力を以ってしても、彼らを理解することはできない。

 

 「Is the show over ? (ショーはもう終わりかな?)」

 

 「Not yet. (いや、まだだ。)」

 

 《カッ!!

 

 ルドルの瞳が一際強く輝き、ネシオはこれまでにない強大な気配を空に感じた。

 

 《ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 

 見上げると、そこには黒雲を押し退け、全てを飲み込もうとするかのような巨大な扉が現れていた。

 その隙間から大きな腕が伸び、重い扉を掴んで開いていく。

 

 「Satan…… . (サタンを出したか……。)」

 

 山羊ヤギの角と、蝙蝠コウモリの翼を持つ、悪魔の王。

 

 凍えるような冷たい風が吹き荒れ、ネシオを激しく威圧する。

 

 「ふ……。」

 

 しかし、ネシオおくすることなく、飛翔。

 

 「グオオオオオオ!!

 

 声を上げ、ネシオ目がけて拳を振るうサタン

 

 《ジジジジジ!!

 

 それを片手で受け止めるネシオ

 カラーノイズが激しくほとばしり、花火のように夜の暗闇を照らす。

 

 力は互角か――。

 

 ルドルがそう思った時だった。

 

 《ジ……ジジジ! ジジジザザザザ!!

 

 「…………!」

 

 サタンとせめぎ合うネシオの背中から、ドス黒い液体のようなものが噴き出す。

 それは羽のように広がるが、常に流動しており、形は定まらない。

 

 《ザ……ザザザ……ザザザアァァァァ!!

 

 そして、その上にカラーノイズが走る。

 

 「It's been a long time.(この羽を出すのは久しぶりだ。)」

 

 

 

 

Z-ClassColor Noise Butterfly

 

 

 

 

 「Now, What do I look like to you ? (さぁ……お前には、俺が何に見える?)」

 

 「……?」

 

 形を変化させ続ける羽。

 だが、ルドルの目に映るその羽は、他の誰もが感じ取ることができない形へと変化していた。

 

 (Devil…… . (悪魔……。))

 

 そう。

 

 今この時、俺はお前で、お前は俺なのだ。

 

 《バァァン!!

 

 弾けるような音と共に、ネシオの姿が視界から消え去る。

 

 ルドルは悪魔の目で彼の姿を探すが、何処にも見当たらない。

 

 逃げられたのか……?

 

 「W h a t  a r e  y o u  l o o k i n g  a t  ? (何  処  を  見  て  る  ?)

 

 「……?」

 

 自分の内側から聞こえてくるような声。

 

 「I ' m  h e r e  . (こ  こ  だ  。)

 

 見上げたそこにいるのはサタンだ。

 

 まさか……、サタンが喋っているのか。

 

 「S u r p r i s e d  ? (驚  い  た  か  ?)

 

 まるでネシオが乗り移っているかのように。

 

 「Y o u  d o n ' t  k n o w  w h a t ' s  g o i n g  o n  ?(何  が  起  こ  っ  て  い  る  か  分  か  ら  な  い  だ  ろ  う  ?)

 

 サタンは笑みを浮かべていた。

 

 「B u t  d o n ' t  w o r r y  .  N o  o n e  k n o w s .(だ  が  安  心  し  ろ  。分  か  る  奴  な  ん  て  い  な  い  。)

 

 サタンの巨大な体がカラーノイズに包まれ消えていく。

 

 「………………。」

 

 ルドルはその様子を呆然と見つめた。

 

 これがネシオ・スペクトラZ級能力なのか……?

 

 彼は再び目の前に現れたネシオの姿を見て、溜息を吐いた。

 

 もう戦意はない。

 

 それを感じ取ったネシオは、肩の力を抜き、静かに話し出した。

 

 「Some people don't feel scared.(恐怖を感じない人々がいる。)

  …………Urbach-Wiethe disease.(…………ウルバッハ・ビーテ病か。)」

 

 脳の扁桃体へんとうたいが破壊されることにより、恐怖を感じなくなる、非常に珍しい病。

 

 「Instead of being scared, they are curious. (患者は恐怖を感じないどころか、寧ろ好奇心を覚えてしまう。)

  You're wondering why I did that and why I was quiet at Hizense for five years. (お前は気になるんだ。俺が何故あんなことをしたのか。何故5年もハイゼンスで大人しくしていたのか。

  You can't help but want to know.(知りたくて知りたくてしょうがない。)」

 

 「That's it. (そうだ。)」

 

 ルドルは自分の本心を明かすことにすら恐怖はなかった。

 

 「But here I can't serve my purpose.(しかし、ここにいては、俺は目的を果たすことができない。)

  You'll never know the truth.(お前が真相を知ることもない。)」

 

 ネシオは真っ直ぐルドルを見つめる。

 

 「Don't worry. I will never do that again. (安心しろ。繰り返しはしない。もう二度とあんなことは。)」

 

 「…………。」

 

 「Promise. (約束だ。)」

 

 ルドルは視線を逸らし、虚空を見つめた。

 

 「………… . As a general rule, we don't stop the jailbreak of Z-Class Psychics.(…………。原則として、我々はZ級能力者の脱獄を止めない。)」

 

 ルドルネシオに背を向けた。

 

 「h……See you. (ふ……じゃあな。)」

 

 ネシオハイゼンスから飛び立ち、灰色の雲の上へと姿を消した。

 

 「…………。」

 

 もし、世界を破壊する意思があるならば、容赦などする筈がない。

 本気を出されていれば、無事では済まなかっただろう。

 

 …………。

 

 異常者相手には甘い考えかもしれないが、ルドルはそう思うことにした。

 いずれにしろ、自分にこれ以上干渉する資格はないのだから。

 

 《ギィィィ……バタン……!

 

 …………。

 

 ………………。

 

 …………………………。

 

 

 海の上にある、この世に居場所を無くした者達の為の楽園――ハイゼンス

 

 そこでは何でも手に入り、ありとあらゆる欲望を満たすことが可能だった。

 

 

 しかし、ある日――そんな楽園から脱出する者が現れた――

 

 

 その名は、ネシオ・スペクトラ

 

 

 「Yes……, I'm heretical that I can't help it. Rudol.(そう……、どうしようもないほどに、俺は異端なんだよ。ルドル。)」

 

 

 

 

 

 

 Я думаю, что если дьявол не существует и, стало быть, создал его человек, то создал он его по своему образу и подобию.

 (悪魔というものが実際に存在せず、ただ人間が創ったものだとすれば、悪魔は人間そっくりに創られているに違いない。)

Фёдор Миха́йлович Достое́вский(フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー

 

 

 

 

 ≫ December 24th, 11:55 pm

 

 

 子どもの頃に聞かされる、不思議なお話。

 

 クリスマスの夜、サンタクロースが良い子のところにプレゼントを運んでくる。

 

 そんな、年を重ねるにつれ、誰もが気に留めなくなるようなファンタジー

 

 俺は今でもその話を信じている。

 

 ネシオは上空から沢山の民家を眺めながら、穏やかな笑みを浮かべた。

 彼の傍には、空飛ぶソリに乗るサンタクロースと、それを引く沢山のトナカイの姿があった。

 勿論、アズルリーマスも一緒だ。

 二人はサンタの仕事を手伝い、妖精達が作ったプレゼントを次々と町に向かって投げている。

 手から離れたそれらは、ふわふわと宙に浮き、子ども達の元へと飛んでいく。

 

 とても面白い光景だ。

 

 しかし、これを見ることができるのは、サンタの魔法を受けた者のみ。

 

 ネシオ達はまるで夢のような時間を過ごしていた。

 

 「♪ ♪♪♪ ♪ ♪ ♪ ~ ♪♪♪♪♪ ♪ ♪ ~」

 

 『Rudolph the Red-Nosed Reindeer赤鼻のトナカイ)』を口ずさみながら、体を揺らすリーマス

  アズルも屈託のない笑顔を浮かべ、サンタクロースもその様子に大層嬉しそうな声を上げる。

 

 あぁ……。

 

 これこそWorld is Colorful。

 

 彼も感じてくれただろうか? この世界の素晴らしさを。

 

 別れる際に見た彼の表情は、確かな決意と自信、喜びで満ちていた。

 

 ネシオリーマスは、彼が家に戻り、家族に抱き締められる様子を見届ける。

 

 「………………。」

 

 俺はサンタクロースがいると信じている。

 一人じゃなくて、世界に沢山いると知っている。

 働き者もいれば、怠け者もいるし、良い子にプレゼントを持ってくる者もいれば、悪い子に持ってくる者もいる。

 彼らは目には見えない。近くにはいるけれど、真実を見抜く目を持たないから、間違う時もある。

 

 そう、サンタクロースは、人々の心の中で確かに生きているのだ。

 

 ただ、それでも本物になりたいと願うあまり、その力を手に入れてしまった変わり者もいるが……。

 

 ネシオサンタの背を見つめる。

 

 彼は子どもの笑顔が大好きだ。

 

 だから、全ての子どもがプレゼントを貰えるように努力している。

 

 本当に大事なのは、プレゼントを配ることじゃなく――

 

 子ども達を心から笑顔にすることなのだ。

 

 

 

 

 
Epilogue

 

 

 

 ≫ December 24th, Santa's House

 

 

 アズルを家まで送り届けた後、山小屋に戻ったネシオは、サンタとホットミルクを飲みながら、事の顛末について語り合っていた。

 

 「Azul seems to have made up with his family.(アズルは無事、家族と仲直りできたようだ。)」

 

 「Ho Ho, it was really good.(ああ、本当に良かった。)」

 

 二人は満足気に笑う。

 

 アズルに罪を押し付けたという姉のベリーは、弟が帰って来ないことで不安になり、本当のことを父親に打ち明けた。彼らは本来、仲の良い姉弟だったのだ。

 

 「What he wanted was trust, without having to look at Merrymas's psychic powers.(リーマスの能力で調べるまでもなく、アズルが欲しかったのは、信用だ。)

  He wanted someone who would trust him rather than a present.(プレゼントよりも、自分を信用してくれる人間を欲していた。)

  So I brought him here.(だからここに連れてきた。)

  Because you're more suitable than me.(俺よりも、あんたが適任だからな。)」

 

 「But that's not all, right ?(でも、それだけじゃないだろう?)」

 

 「………………Yes.(………………あぁ。)」

 

 

 俺が、関わらずにはいられなかった。

 

 例え何もしなくても、大事には至らないと分かっていたとしても。

 

 そんな展開は望まない。

 

 「Because I'm noise.(俺はノイズだからな。)」

 

 何かに影響を与えずにはいられない。歪めずにはいられない。

 

 「Don't think of me as a good man. This time it just happened to be distorted in the right direction. (俺を善人と思わないことだ。今回はたまたま良い方向に歪んだだけさ。)」

 

 「…………。」

 

 サンタは静かにネシオの話に相槌を打った。

 

 「Well, I can't stay this way forever.(さて、いつまでもこうしてはいられない。)

  I'm already an adult.(俺ももう大人だからな。)」

 

 ネシオはミルクを飲み干すと、椅子から立ち上がり、扉の方へと歩いた。

 

 「Come on, Merrymas. (行くぞ、リーマス。)」

 

 「ンン♪」

 

 ネシオに声を掛けられ、返事をするリーマス

 すると彼女は宙に浮いて光に包まれ、ネズミともムササビともつかない姿に変身。ネシオの肩に飛び乗った。

 

 「Oh. (おっと。)」

 

 「uh ? (ん?)」

 

 呼び止められ、扉の前で振り向くネシオ

 するとサンタは穏やかな笑みを浮かべたまま――

 

 「……Merry Christmas. And……Happy Birthday. Nesio.(……メリークリスマス。そして……ハッピーバースデイ。ネシオ。)」

 

 祝福の言葉を贈った。

 

 「…………h, I can't thank you enough. (ふ……、感謝し切れないな。)」

 

 形を持たないプレゼント。

 

 それを受け取り、サンタの家から出たネシオは、リーマスを肩に乗せたまま、上空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 「…………。」

 

 冷たい風を受けながら、次の目的地を目指すネシオ

 

 眼下には雪の降り積もった山々。

 

 クリスマスを彩るに相応しい景色。

 

 それを眺めながら、彼は思う。

 

 

 これは戦いだ。

 

 

 いつかゼロ・・に戻る為の戦い。

 

 

 (I won't end it. (最後になんてさせはしないさ。))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五年前のクリスマス・イヴ――。

 

 ある一人の能力者の力によって、アメリ最大の都市、ニューヨークが壊滅した。

 

 …………。

 

 生き残ったのは、犯人を除いてたった一人――。

 

 

 この事件は、聖夜に起こった人類史上最悪の事件として、人々の心に刻まれている。

 

 

 

 

 (World is Colorful EP 0 ―― END