ネシオのブログ

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『異端のネシオ ― World is Colorful』EP0「Zero Island」(1/3)

 

 

 異能力者の溢れた世界で――

         異端者達は笑う――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異端のネシオ 
-World is Colorful-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-Zero Island-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 December 24th, 11:20 pm, New York

 

 

 《フオオオオオオオオオゥゥゥゥゥゥ…………》

 

 上空より下界を見下ろすと、そこにはいつだって百万ドルの景色が広がっている。

 青々とした海。赤く煮え滾る山。緑豊かな森。黄色く荒れ果てた大地。全てが素晴らしき、この世界の色。

 

 

 World is Colorful.

 

 

 は――いつもそれを感じていた。

 

 世界はこんなにも綺麗だ。

 例えそれらが踏みにじられる光景ですら、美しいと思える……。

 

 

 

 「…………フ。」

 

 

 男は目を閉じ、自嘲的な笑みを浮かべる。

 

 

 ――しかし、今日はいつもとは違う。

 

 

 12月24日クリスマス・イヴ――。

 

 今日という特別な日には、何もかもが色濃く映り、心により純粋な――深い感動を与えてくれるのだ。

 男は目を見開き、その青い瞳に幾千もの光を取り込んでいく。

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 装飾を実らすオウシュウトウヒ。壁面を流れる光のアート。輝くオブジェの数々。

 今宵、ミッドタウンは溢れんばかりのクリスマスデコレーションに彩られ、幻想的な雰囲気に包まれている。

 

 吸い込まれたくなるほどの美しい世界。男はそこに向かって身を投げた。

 

 《フュオオオオオオオオオ――――》

 

 上空より、雲を突き抜け降下していく黒い影。

 ロングコートと黄金色のイヤリングが、風に煽られ、激しく揺れている。

 冷たい空気が全身を駆け抜けていくが、男の表情が凍りつくことはなかった。

 

 そして――

 

 《ダンッ

 

 目的地の手前で減速し、彼はロックフェラー・センターの中心――コムキャストビルの上に降り立った。

 

 「ふー…………。」

 

 70階建ての高層ビル。その屋上展望台――トップ・オブ・ザ・ロック。ここは地上から約260m。360度ニューヨークの絶景を見渡せる最高の場所。旅行者に人気の観光スポットの一つだ。

 男は白い息を吐きながら、透明な仕切りへと近付き、眼下に広がる街を見下ろす。 

 目がチカチカするほどに飾られた大量のイルミネーション。

 立ち並ぶビルの一つ一つの窓の明かりも、その一部ではないかと思えるくらい綺麗で、見事に調和している。

 

 「………………。」

 

 そんな景色をじっと眺めていると、頭の中に蘇ってくるものがある。

 

 (That brings back memories…… .(懐かしいな……))

 

 男は目を閉じ、昔の思い出に浸り始めた。

 静かなクリスマスソングと共に流れていく、数多の記憶。

 彼の表情はとても穏やかで、陰ることは一切なかった。

 楽しかったことも……、悲しかったことも……、彼にとっては全て良い思い出なのだ。

 

 例え……、それが災厄・・と呼ばれた出来事であったとしても……。

 

 「……………。」

 

 男の名は、ネシオ・スペクトラ

 ある目的・・・・を果たす為、五年ぶり・・・・に故郷に戻ってきた彼は、与えられた使命・・・・・・・を忘れ、クリスマスムード溢れる街に漂うおごそかな空気を楽しんでいた。

 日本では様々なイベントで盛り上がるクリスマス・イヴだが、こちらでは既に街の賑わいは冷め、人影はまばらになっている。

 キリスト教が人口の大半を占めるここアメリでは、クリスマスとはキリストの降誕を祝う祭日であり、親戚、家族が一堂に会し、一緒に過ごすのが常識なのだ。

 今頃、子ども達は、サンタクロースからのプレゼントに期待を膨らませながら眠りに就いていることだろう……。そんな彼らの為に、大人達は道化を演じるのだ。

 

 勿論、そんな風習を気にせず過ごすのもいいだろう。

 

 ただ――

 

 

 いつもと違う世界を楽しまないのは――勿体ないことだ。

 

 

 ネシオはビルの屋上から飛び立ち、南の方角にある建物を目指し、飛行する。

 彼の視線の先にあるのは、ニューヨークの象徴――エンパイア・ステート・ビル

 現在は赤と緑のクリスマスカラーにライトアップされ、摩天楼の中でも一際強い存在感を放っている。

 

 《タッ

 

 ネシオはその頂部の尖塔付近に立ち、視線を横に向ける。

 そこには青いニット帽を被った少年が一人、縁に腰掛け、夜景を眺めていた。

 年は六つほどで、顔立ちは年相応の幼さ。

 

 彼は何故こんなところに一人でいるのだろうか。

 

 疑問に思ったネシオは、彼の近くで夜景を眺めてみる。

 地上から約390m。ここから見る景色も中々のものだ。

 

 「……!」

 

 そこで、彼はふと思い付き――

 

 《カシャ

 

 携帯にその景色を収める。

 そして、写真をメールに添付し、何処かへと送信する。

 

 「ふっ……。」

 

 100万ドル分の宝石が散りばめられたかのような夜景。

 これがもし本当に宝石ならば、ミスティ・・・・はしばらく眠れない夜を過ごすことだろう。

 

 笑みを浮かべながら携帯をしまうネシオ

 彼は再び少年の方に顔を向ける。

 

 「……………。」

 

 少年の顔は、何処か暗い。

 この景色を目にしても、彼の心に巣食う闇は晴れないようだ。

 ネシオは彼に近付き、少し離れた場所に腰を掛けた。

 そして、静かにクリスマスソングを口ずさむ。

 

 「………………………Where are you, Christmas……?

  ……Why can't I find you……?」

 

 2000年にリリースされた、フェイス・ヒルの『Where Are You Christmas ?』。

 様々なアーティストがカバーしている、クリスマスの定番曲だ。

 

 「Why have you gone away…… ?」

 「…………。」

 

 歌っている最中、少年の様子をうかがうが……。

 幾つかの部分で反応している。

 そこから彼の事情はある程度、察することができた。

 

 歌い終わると、少年の方から声を掛けてくる。

 

 「Are you alone, too ?(お兄さんも一人?)」

 

 「Yes, but I'm not alone now.(さっきまでな。)」

 

 少年は一度もこちらを見なかったが、ちゃんとこちらの存在を認識していたようだ。

 さっきまでと比べ、心なしか表情が和らいでいる。

 

 「Did you quarrel with your family ?(家族と喧嘩したか?)」

 

 「Berry is bad.(ベリーが悪いんだ。)」

 

 「What did Berry do ?(ベリーは何をした?)」

 

 「Even though I didn't break the statue, Berry said I was the culprit.(像を割ったのは僕じゃないのに、ベリーは僕が犯人だって……。)」

 

 「hhh……It's sad not to be trusted. I had a similar experience a long time ago.(フフフ、信用されないとは悲しいことだ。俺も昔、同じような経験をした。)」

 

 ネシオの中に、ある一人の人物の顔が浮かぶ。

 

 「Berry will never get a present from Santa.(ベリーは絶対サンタからプレゼント貰えないよ。)」

 

 サンタクロース……。

 成程、それが少年にとっての最後の頼みの綱。

 『Miracle on 34th Street三十四丁目の奇蹟)』では、彼は裁かれそうになったが、今度の仕事は裁判官か……。やれやれ……。

 

 「Don't be so sure. There are various Santas in the world. Some Santas bring gifts to good children, while others bring gifts to bad children.(それはどうかな。サンタにも色んな奴がいる。良い子にプレゼントを持ってくるサンタもいれば、悪い子に持ってくるサンタもいる。)」

 

 「Is that so ? (そうなの?)」

 

 「Are you not convinced ? (納得いかないか?)」

 

 少年は頷く。

 

 「……Then , let's go ask Santa. (……なら、サンタに直接聞きに行こう。)」

 

 「What ? (えっ?)」

 

 「I know where Santa is. (サンタに会える場所を知ってるんだ。)

  I'm going to see him now…… .(これから会いに行く予定だったんだが……。)

  Will you come ? (お前もついてくるか?)」

 

 ネシオは手を差し出す。

 普通なら、こんな怪しげな誘いに乗ることはないだろうが……。

 

 少年は、迷わず彼の手を取った。

 

 好奇心がそうさせたのか、それとも自暴自棄になったのかは分からないが……。

 どっちだって構わない。彼はこちらの世界に足を踏み入れた――。

 

 「…………?」

 

 その瞬間、少年は抗い難い眠気に襲われ、その場に倒れてしまう。

 ネシオはその小さな体を抱き留めた。

 

 「Welcome to the Island…… . (ようこそ、楽園へ……。)」

 

 そして歓迎の言葉を送り、目的地のある方向へ目を向ける。

 

 《ピロン♪

 

 「……!」

 

 その時、メールの着信音が鳴った。

 ネシオは携帯を取り出し、届いたメールを確認する。

 

 

 【 I can't believe my eyes. 

 

 

 「フッ……。」

 

 本当に信じられないことは、これから起こる。

 

 彼は小さく笑うと、少年を抱き抱え、エンパイア・ステートから飛び立った。

 

 「…………。」

 

 吹き荒れる冷たい風から少年を守りつつ、ミッドタウンの空を飛ぶネシオ

 ふと彼は、腕の中の少年に目を移した。

 

 ……。とても似ている――。

 

 名前も知らない幼い少年の、穏やかな寝顔。

 それを眺めながら、ネシオは思い出した。

 

 5年前――"楽園"と呼ばれたあの場所で過ごした日々を――