ネシオのブログ

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『異端のネシオ』1Hz「True or False」(1/3)

 

 This world is in a cage.

 

 FACT CHECK…………TRUE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1Hz ― True or False ― 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((((( 真 ))))) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((((( 偽 ))))) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 True or False.  真か偽か。それはとても重要なことだ。

 

 情報化社会と呼ばれる現代。インターネットや携帯電話、SNSなどのソーシャルメディアは身の回りの至るところに浸透しており、世の中に溢れる様々な情報を、誰もが瞬時に入手し、発信することが可能となっている。

 個人の持つ情報の量は、昔と比べ圧倒的に増え、人々はより多様な考えと価値感を持つようになり、社会は目まぐるしい変化を遂げた。

 今や情報は、人々の意思決定と行動に多大なる影響を与える、有形物と同等以上の価値を持つ存在なのだ。

 

 だからこそ、その真贋しんがんは見極められなくてはならない。

 

 広大なるネットを飛び交う大量の情報。日々、それを目にしていれば、正しいものばかりでないことにすぐに気付くだろう。

 情報の中には、真と偽が混在しているのだ。

 例えばそれは、思想や経済的事情を背景とする偏見や脚色。承認欲求からくる誇張や悪意あるデマ。

 数ある情報媒体は利便性もある一方で、誤った情報、真偽の不確かな情報を広め、人々の間に大きな混乱をもたらすリスクも秘めている。

 もしそういった情報に流されてしまえば、最悪、取り返しのつかない事態に陥る可能性もあるだろう。

 それを完全に無くすことはできない。

 故に、日々見聞きする情報の中に、どれだけの真実が含まれているのか、或いは偽りが含まれているのかを判断し、取捨選択していく能力は、この先の時代を生き抜く上で、とても重要な力と言える。

 

 ………………。

 

 

 お前は持っているか? 真実を見抜く目を。

 

 やがて訪れる、超情報化社会に立ち向かう意思を――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ 天至てんし21年・5月27日(金) ◇

 

 

 ≫ 東京都・才機さいき大学

 

 

 「え~、では、今日はここまでにします。」((( 真 )))

 

 教授が講義の終了を告げると、学生達はそれぞれ荷物をまとめ、席を立ち、講義室を出ていく。

 本来の終了時刻より、少し早めの解放。

 すぐに廊下は騒がしくなり、近くを通りがかった夙吹はやぶき 創太そうたは、立ち止まってその様子に目を向けた。

 皆、今年の春に入学したばかりの一年生。表情や言動からは、まだ新たな環境への期待や不安が見て取れる。

 

 

 「次の講義何?――」((( 真 )))

 

 「レポートいつまでだっけ?――」(( 真 ))

 

 「四限目あるからまた今度――」((( 真 )))

 

 

 「…………。」

 

 廊下で飛び交う様々な声。

 それを聞いた創太は、脳に響く真実・・に顔をしかめると、足早にその場を去った。

 

 (くだらない……。)

 

 心の中で毒づきながら。

 

 

 

 

 

 

 ≫ 才機大学・ロボット工学研究棟・六階・宰波さいば研究室

 

 

 五月下旬。爽やかな初夏の風が吹く過ごしやすい季節。

 都内の名門、才機大学研究棟では、大学生活四年目を迎えた学生達が、各々が希望し、配属となった研究室にて、卒業研究いそしんでいた。

 

 春から夏へ、季節の変わり目であるこの時期、そろそろ研究テーマも決まって、具体的な作業に着手し始める者が増えてくる。

 そんな中、既にほとんどの作業を終えてしまい、暇を持て余す者も一定数存在する。

 夙吹 創太も、そんな学生の内の一人であった。

 彼はこの日、他の用事のついでに研究室に顔を出し、仲間達の様子を見て回ることにしていた。

 まだ形になっていないものもあると思うが、全員テーマは決まっており、各自、資料集めやプログラミングなどの作業を進めていることだろう。

 先週あった進捗報告の時にも顔を出したが、皆、研究の背景や目的がはっきりしていて良かった。

 全員成績優秀者であり、それでいて、議論は双方向でスムーズ。やはり、CIConversational Intelligence:会話の知能指数)が高い者達とのやり取りは心地が良い。

 創太は有意義な時間を過ごせたことを嬉しく思っていた。

 これも三年間で納得いく人間関係を構築したことと、研究室選びの際に下調べや情報操作を入念に行った結果だ。決して運が良かった訳ではない。

 

 創太は扉の横の装置にIC学生証をかざし、研究室の中へと入った。

 ここ宰波研究室では、ヒューマノイドドローンなどのロボットだけではなく、AIXRクロスリアリティ)、身体拡張技術なども扱っている。

 教授は少し変わった人物だが、厳し過ぎず、優し過ぎない人柄で、学生の自由を尊重し、研究テーマの選択には特に縛りを設けていない。

 その為、割と幅広い趣味を持った者達が集まる傾向にある。

 

 様子を見て回っていると、画面の中を走る何台もの車に目が留まった。

 パソコンと向き合い、真面目に卒業研究を進めている学生の中で、ただ一人ゲームのコントローラーを持ち、遊んでいるかのように見える生徒がいる。

 彼の名は限無きりなし 零一れいいち 。かなりのゲーム好きで、卒業研究の内容もそれに関するものだ。

 

 「…………。」

 

 集中している時に話しかけるのはマナー違反である為、試合が終わるのを待ってから声をかける。

 

 「順調か?」

 

 「……ああ。俺もさっさと終わらせて、早くに趣味に没頭したいからな。新作が溜まってるんだ。」((( 真 )))

 

 零一は肩をほぐしながら答える。

 彼はあらゆるメーカーから発売されたゲームの、ほぼ全てを実績コンプリートまで遊び尽くすという超が付くほどのヘビーゲーマー

 目の下に出来た深いくまが、その努力を物語っている。

 

 「MCS-AI動的連携モデルを取り入れた、プレイヤーのモチベーションを維持する3Dレースゲームと、最適なコントローラーの制作だったな。」

 

 見た感じ、ほとんど出来上がっているように思える。

 グラフィックエフェクトUIUser Interface:ユーザーインターフェース)、どれをとっても大手メーカーのものと比べて遜色ない出来だ。横から見ているだけでも面白さが伝わってくる。

 

 「プレイヤーの感情や実力に合わせた難易度や報酬の調整、ゲームバランスやテンポを考慮した適切なランダム性の導入により、コミットメントエスカレーションを引き起こす。

  まぁ、一応、四年間の集大成だからな。可能な限り、プロシージャルに、良いものに仕上げるさ。」((( 真 )))

 

 

 彼は気分転換や暇つぶし程度の軽い気持ちで参加したe-sportsの大会や、ネットのゲームコンテストで優勝してしまうほどの天才だ。

 急いでも手を抜くといったことはないだろう。中間発表会が楽しみだ。

 

 「テスターが必要になったら呼んでくれ。」

 

 「ああ。その時は声かけるから頼んだ。」((( 真 )))

 

 限無と話し終えた創太は、次に近くの席の整備士のような服を着た男子に声をかけた。

 

 「新械しんかいは、違法フライトを防ぐ、法律遵守型ドローンの製作とナビアプリの開発だったな。」

 

 「ルールが複雑なこともあり、間違う奴が多いからな。境界線を分かりやすく示して、コンプライアンス意識を向上させる。」((( )))

 

 新械しんかい 飛行とびゆき。彼は何十機ものドローン保有しているマニアで、度々、FPVドローンレースの大会に出場しては、優勝をもぎ取ってくる実力者だ。

 操縦に関しては自分も腕に自信があるが、やはりカスタマイズのセンスや実戦の中で磨かれるスキルの面では敵わない。

 

 「安全性という面においても、操縦者の意識の向上は不可欠だ。多くが正しい知識を身に付ければ、少しは事故も減るだろう。」

 

 「真面目に守ってるこっちまで白い目で見られてはたまらないからな。」((( )))

 

 速度や高度はセンサーで検出。飛行禁止区域DIDDensely Inhabited District:人口集中地区)マップと位置情報があれば避けられる。

 他は工夫次第だ。

 

 「ワタシのも見てください! ソータさん!」

 

 「ん。」

 

 新械と話していると、金髪白衣姿の少女が奥の方からやってきた。後ろに何体か、キューブ型の小さなロボットを引き連れている。

 彼女はキャリー・ブレーニャニュージーランドからの留学生だ。

 メカオタクで日本のロボットアニメが好きらしく、卒業研究にもその趣味が現れている。

 

 「チェーンジ! フローレス・ワン!」((( )))

 

 キャリーが片腕を上げてそう叫ぶと、周囲のロボット達が一斉に反応し、一箇所に集まって合体。犬のような姿となって、研究室を走り回った。

 

 「音声認識機能を搭載した、モジュール型ロボットの開発だったな。」

 

 複数のロボットが合体と分離を繰り返し、自由自在に形を変えながら目的を遂行する。

 それを声で動かせるとなると、まさに特撮アニメに出てくるような合体ロボットという感じがする。

 

 「まだ試作段階でバリエーションは少ないですが、最終的には人型にもなる予定です!」((( )))

 

 「ブロック毎に色も変わるのか、だいぶ見た目がいい。」

 

 「マインクラフトみたいだよな。」((( )))

 

 限無も興味があるようで、ロボット達をまじまじと見つめている。

 

 こういったものは大体、災害現場や宇宙など、未知の環境での調査に用いられるが、キャリーは普段の生活の中でも人間をサポートできるような、より汎用性の高いものに仕上げるつもりらしい。

 何処までのものができるか見物だ。

 創太はしばらくロボットを眺めた後、研究室の奥へと向かった。

 

 「暗間くらまも、特に問題なさそうだな。」

 

 「…………。」

 

 一番奥の席の女子学生は、こちらの問いかけに対し、静かに頷く。

 陰で一人黙々と作業している彼女の名は、暗間くらま 量子りょうこ

 無口でコミュニケーションが取り辛いが、フラッシュ暗算が得意だったり、プログラミングスキルが高かったりと、意外な特技を持っている。

 卒業研究の内容は、児童を危険から守る犬型護衛ロボットの開発。

 特につまずいているようには見えないし、邪魔しないでおこう。

 

 暗間の研究の確認を済ませた創太は、中央まで戻り、もう一度研究室の中を見回した。

 

 「機知神きしがみは、今日は来てないか?」

 

 「いや、グラウンドの方だと思うぞ。」(( ))

 

 問いに対し、新械が窓の外を見ながら答える。

 創太は場所を移動することにした。

 

 

 

 ≫ 才機大学・グラウンド

 

 

 穏やかな日差しの中、サッカーボールを蹴りながら、体を動かす学生達。

 グラウンドでは、ちょうど何処かの学部の一年生達が、体育の授業を受けている最中であった。

 

 その近く、集団から少し離れた場所に、白と青のプロテクタージャケットを着た機知神きしがみ 速人はやとがいた。

 近付くとこちらに気付き、彼の方から声をかけてくる。

 

 「よぉ、夙吹。来てたんだな。」 (( ))

 

 筋骨隆々で、精悍な顔立ち。体育学部ではなくロボット工学部に所属しているのが不思議なほど、機知神はスポーツ万能な学生だ。

 

 「どうだ? 中々良く出来てるだろう?」(( ))

 

 彼は自作のロボットと共に準備体操中で、先ほどから屈伸や伸脚などの運動を行っている。

 彼の卒業研究は、現代人の運動不足の解消を目的とする、サポーターロボットの開発。

 スポーツウェアを着た男性型のロボットが、いつでも都合の良い時に、トレーニングに付き合ってくれるのだ。

 

 「うん。こうして目の前で実演されると分かりやすい。」

 

 「本当なら、見た目をえろい美女にしたかったんだがな。

  ハハハ!!」((( )))

 

 ……それは流石に自重するだろう。

 

 「まだ喋りはしないが、いずれ人間の動きを見て、的確なアドバイスを出せるようにするつもりだ。

  後、やる気を引き出す声かけとかもしっかりな。」((( )))

 

 「ベップトークか。」

 

 相手の緊張や不安といったネガティブな感情をやる気に変え、潜在能力を最大限に引き出す話術。

 スポーツに限らず、ビジネスや政治にも取り入れられているもので、自分もたまに意識することがある。

 

 「今は他に何ができるんだ?」

 

 「少し走るのと、キャッチボール、サッカーのパス練辺りだな。

  夙吹も暇なら一緒にどうだ?」 ((( )))

  

 「ああ、面白そうだ。」

 

 普段から自宅近くのスポーツジムに通っているので、運動不足といったことはないが、折角の誘いだ。

 次の予定までまだ時間があるし、ここで暇をつぶすことにしよう。

 

 創太はグローブをはめ、野球ボールを拾うと、まずは軽めにロボットの胸目がけて投げた。

 するとロボットは、球をすんなりキャッチし、同じように取りやすい球を返してくる。

 視覚情報処理の速度は十分、キャッチから投球までの動作にも問題はない。

 

 「球速は、距離や相手の実力に合わせて調整される。先行研究は多いからな、ここまでのものは簡単に作れる。」 ((( )))

 

 「次は少し強めに投げてみるか。」

 

 創太は先ほどよりも軸足に体重を乗せ、ボールを投げた。

 少し位置もずらしてみたが、ロボットはしっかり対応する。

 それから何度か投球・捕球を繰り返していくと、段々と返ってくる球の速度も速くなってきた。

 

 「んっ。」

 

 そんな時、勢い余ったのか、ロボットの手からボールがすっぽ抜け、あらぬ方向に飛んでいく。

 

 「おっ――」((( )))

 

 その瞬間、機知神の姿が消え――。

 

 《シュンッ!!

 

 「――っと。」((( )))

 

 ボールの目の前まで移動し、キャッチ。

 普通では有り得ないスピードだ。

 

 「まぁ、こういうことはある。余裕があれば、自分で拾いに行くようにさせるが――」((( )))

 

 「…………。」

 

 「ん? どうした?」(( ))

 

 「いや、少し考えたいことができた。機知神はまだここにいるのか?」

 

 「ああ、素人の動きも参考になるからな。」((( )))

 

 「また時間ができたら付き合うよ。」

 

 創太はグローブを外すと、機知神と別れ、グラウンドを後にした。

 

 (不思議なものだ……。)

 

 

 

 

 ≫ 才機大学・図書館

 

 

 《ピッ! シャキ!

 

 IC学生証をかざし、入館ゲートを通った創太は、階段を上り二階へ行く。

 そこには何人かの学生が居たが、全員マナ―を守り静かに過ごしている。

 ゆっくり考え事をするには、最適の場所だ。

  

 「…………。」

 

 本棚から適当に本を選んだ創太は、閲覧スペースにて腰を下ろす。

 そして、自分が持ってきた本の表紙に目を落とした。

 

 『異能と経済』。

 

 異能……。

 

 言葉の意味は、人より優れた才能、独特な能力。

 

 或いは……。

 

 「…………。」

 

 夙吹 創太は想う。

 

 二十二年前の世界。自分が見たことの無い、異能の無い世界・・・・・・・を。

 

 

 

 

 

 

 真実の存在を知るためには、己の内に沈黙を育まなければならない。

 

 

 

 

 

 

 日本首都東京

 

 二十年前、新政府・・・によって大規模な都市改造計画が実行されたことにより、その様相は大きく様変わりした。

 道路、建物、鉄道など、インフラのほとんどが新調され、大幅に地図が書き換わることになったのだ。

 そして、その変化は東京だけに留まらず、波紋のように日本全体に広がっていき、今も尚、続いている。

 

 日本新――。

 

 その原因となった出来事が、世界に起きた大異変・・・

 

 二十二年前、年の終わり、世界各地で超常的な力を発現させる人間が多数確認され始め、それから僅か数週間で爆発的に増加。

 それはパンデミック以上の何かであったのは間違いなく、翌年には、ほぼ全ての人類が何かしらの異能を持っている状態になっていたという。

 

 嵐のような急激な変化。それは人々の間に大きな混乱をもたらし、世界はかつてないほどの危機に見舞われた。

 異能による巧妙な犯罪、予期せぬ事故、大規模な紛争、災害の頻発。

 各国政府の対応も遅れに遅れ、結果として、何十億もの人間が死に、世界の都市機能は麻痺し、幾つかの国は消滅することになった。

 当時は、誰もが人類の滅亡を予感していたという。

 

 しかし、ある日、そんな状況を救う救世主が現れた。

 

 国際異能機関――ISNO

 

 アルター・スペクトラという能力者を中心に設立されたそれは、世界各地で暴走する能力者達の監視・鎮圧を行い、平和と安全の維持に努めた。

 彼らの行動は素早く、自分が物心つく頃にはもう、混沌に満ちた世界の新たなるリーダーとして、確固たる地位を確立しており、全ての人々は彼らの手で管理され、危険な能力を持つ者には相応の監視・制限がつけられるようになっていた。

 

 ………………。

 

 この俺も、そんな籠の中で暮らす、今や珍しくもない異能力者の一人。

 発現した能力は、沈黙していることを条件に、人の発言の真偽を見抜く【True or False】。

 正確には、その人間が自らの言葉を真実と考え発信しているか、否かが分かる。

 

 ((( )))

 

 ((( )))

 

 波紋の大きさは感情の強さを表し、発言にどの程度の自信を持っているかどうかまで分かる。

 

 まさに普通でない力。異能力

 

 今ではすっかり当たり前のものと化しているが、未だに原因・原理は不明であり、異能は人類にとって不利益なものだとして、使用を控えるよう呼び掛ける者も少なくない。

 まぁ、後ろ暗い秘密を抱えているであろう権力者達が、自分の頭の中身を勝手に覗き見られたり、気が付かない内に操られたりすることがある状況を、よしとする筈がないのだ。

 異能に関する法律は、そういった事情もあり、かなり厳しめに作られている。

 例えば経済活動においては、異能を使用して利益を得た場合、その度合いに応じて税金が取られる。

 場合によっては、稼ぎの9割以上が国に取られることもあるぐらいだ。

 異能の存在が、どれだけ人を脅かすか、社会のバランスを崩壊させかねないか、よく分かるだろう。

 

 しかし、それでも俺は、話に聞く昔の世界よりも、今の世界の方が好きだ。

 理由は色々あるが、一番は、人間一人一人の力が増したこと。

 異能力は、人々の目の前にあった分厚い壁を壊してくれたように感じるのだ。

 識者に聞けば、昔に比べ、物事に挑戦する人間が増えたという。

 それまではやりたいことがあっても、妨げとなる問題があり、行動できずにいた人々が、思うように動けるようになったのだ。

 勿論、それで良い結果をもたらす者達ばかりではないが、人々の中に希望が生まれたのは非常に大きい。

 だから、俺は……。

 

 …………。

 

 創太はそっと本を閉じると、それを元の場所に戻し、静かに図書館を後にした。

 

 何度考えても、結論はやはり変わらない。

 

 (無知は悪であり、人は悪を克服するべきなのだ。)

 

 

 

 ≫ 東京都中野区

 

 

 

 とはいえ、一介の大学生である自分にできることは限られている。

 創太は電車に揺られながら、携帯の画面に目を落とした。

 

 俺、夙吹 創太は、東京国立大学の一つである才機大学に通う学生だ。

 質の低い教育を受けるのは、もううんざりなのだが、就職に有利になるのは間違いなく、親にも大学まで卒業するよう言われているので、それに従い通っている。

 今はもう親元から離れて暮らしていて、滅多に会う機会はないが、母のことはよく覚えている。

 母親は独立系SIerの社長を務めており、俺は幼い頃より、彼女から多くの情報を与えられ、幅広い知識を身に付けるのと同時に、情報への抵抗力を鍛えられた。

 閲覧できる情報に制限などなかったし、知りたいと思ったことは何でも知ることができた。

 母の言葉はよく覚えている。

 

 「人は知識を得るだけでは悪魔になる。心が清らかなだけでは奴隷になる。

  だからあなたは、蛇のように賢く、鳩のように素直な人間になりなさい。」((( )))

 

 最後のは、イエス・キリストの言葉だった。

 その意味は、賢く、謙虚であれということ。

 頭が良いだけでは人を裁き、素直なだけでは周囲に流され、いいように利用されてしまう。

 母は、自分のような人間にはなるな・・・・・・・・・・・・・と言っていたのだ。

 能力至上主義者で、成果を上げない人間は容赦なく切り捨てるような性格。

 彼女は自分が悪魔であることをよく理解していた。

 

 学校の教師であった父は、そんな彼女の教育方針に耐え兼ね、妹を連れて出ていったが、俺は彼女の下で学ぶ道を選んだ。

 その結果、俺は名門大学に早期入学し、成績もトップとなり、卒業も就職も間近に控えるに至った。

 傍から見ればスパルタ教育だったのかもしれないが、彼女の正しさは俺が証明している。

 無論、完璧ではないが、異能マザーブレイン】によって周囲の人間から自動的に情報を収集できる彼女の教えは、大いに糧となった。

 選択に後悔はない。

 

 電車から降りた創太は、駅から出ると、改めて携帯のアプリを立ち上げ、最新のニュースを確認した。

 今日も種々様々な情報が溢れている。

 

 (さて……。)

 

 人間を誤った方向へ導く偽りの情報には、消えてもらおうか。

 

 

 

 

 

 You must look at facts, because they look at you.

 (人間は事実を見なければならない、事実が人間を見ているからだ。)

 

 

 

 

 

 

 ≫ 東京都中野区桃風ももかぜ

 

 

 午後四時過ぎ。

 大学から自宅に戻った創太は、約束の時間に隣の家を訪れ、家庭教師の仕事を行っていた。

 

 「っ…………はぁ……。」

 

 大きく伸びをしながら、椅子にもたれるワンカールヘアの少女。

 彼女は桃風ももかぜ 無音むおん。都内の通信制高校に通う三年生だ。

 

 「提出、終わったか?」

 

 「うん。全部解けたよ。」(( ))

 

 「英語もすっかり慣れたみたいだな。」

 

 ケアレスミスも少なく、小テストの点数も毎回9割以上。

 平均以下だった最初の頃と比べたら、凄まじい成長ぶりだ。

 

 創太は真面目に机に向かう無音の姿を見て、感慨深い気持ちになった。

 

 今時、在宅で学習する人間は珍しくないが、彼女の場合、集団生活が苦手で、中学卒業後から引きこもりになってしまったという暗い事情があった。

 というのも、彼女は人とは違う特異な感覚――共感覚シナスタジア)の持ち主であり、音に色を感じることができ、また、聴こえた音の音階を正確に判別する絶対音感も合わせ持った、極めて特殊な人間だ。

 周りと違う感覚を持つが故に、喜びも苦しみも理解されないという悲しみ。

 共感覚絶対孤独と呼ばれることもあり、彼女もまた、その例に漏れなかった。

 おまけに地毛の色がピンクでは、余計に辛いだろう。

 

 創太はドレッサーの鏡に映った自分の姿を見つめる。

 人間の体に起きた異変は、実は異能だけではない。

 DNAにも異常が発生し、これまでに確認されなかった身体的特徴が現れるようになった。

 髪の色は、その最たる例だ。

 自分の場合、母親と同じ群青色で落ち着いている方だが、明るめの色は目立つ分、苦労が多いと聞く。

 あまり突っ込んだ質問をしたことはないが、散々嫌な思いをしてきたのだろう。

 引きこもりになるのも、避け難い運命だったのだと感じる。

 

 そんな無音の家庭教師をすることになった理由だが、きっかけは彼女の両親との会話だった。

 彼らは娘と違い社交的な性格で、家が隣ということもあり、元々何度か話す機会があったのだが、二年前、ちょうど今ぐらいの時期に、引きこもってしまった娘のことを相談されたのだ。

 彼らはずっと家にこもって、全く人と接しなくなった、そんな娘の将来を不安視していた。

 せめて高校までは卒業させたいとのことで、通信制の高校に通わせたのはいいものの、ほとんどサボってばかりで困っているという。

 確かに、話を聞く限りでは、放っておけばロクなことにはならない。

 彼らの考えには少し疑問があった為、まずはその誤った認識を正すことにした。

 

 知らないというのは、やはり罪なのだ。

 

 俺は彼らに問うた。

 

 娘をどうしたいのか?

 周りに合わせようと思うあまり、大事なことをおろそかにしていないだろうか?と。

 

 彼らは案の定、理解していなかった。

 

 能天気な話だが、小学校六年間、中学校三年間の義務教育を終えた後、少しでもいい高校、いい大学に入っていくというのが、人生に成功する為の理想的なルートなのだと、多くの人々が思うところだろう。

 しかし、その認識は正しくない。

 日本の教育システムには致命的な欠陥があり、ただ子どもを用意されたレールの上に乗せて送り出すだけでは駄目なのだ。

 

 例えば一人の教師が大勢の生徒の前で授業を行うという形式は、当たり前のものとして定着しているが、これは明治初頭、産業革命の時代に、工場労働者という単調な作業を行わせるのに適した人間を生み出すのに、効率が良いからという理由で導入されたものだ。あまりにも古過ぎる。

 今ではほとんどの人間はオフィスで働くようになり、コミュニケーションスキルリーダーシップなどといった能力を持つ人間が重宝されるようになっている。

 アメリカは時代に合わせて教育方法を変化させ、ディスカッショングループワークが中心の授業を行っているというのに、日本は昔ながらの画一的な教育システムのままで、子ども達の個性問題解決能力といった、今の時代に求められる能力を、長期的・段階的に発達させていくことが非常に難しいのだ。

 また、子ども達を逃げ場のない閉鎖空間に押し込めるのも間違っている。

 精神的に未熟であるが故に、同調圧力が起きやすく、異質なものを排除しようとしてしまうからだ。

 目の前で差別やいじめが起きれば、子ども達は当然の如く、人と違うことを恐れるようになる。

 忍耐力や空気を読む能力は磨かれるかもしれないが、そんな環境で独創性や革新性が健全に育つだろうか?

 

 自由が縛られれば、それだけ夢を諦める子どもが増える。

 成績を良くする為の勉強、受験に受かる為の勉強など、大した価値にはならないというのに。

 一番大切なのは、いかに子どもに好きなこと、得意なことを見つけさせ、夢の実現に必要な能力を伸ばしてやるかということ。

 成績や学歴を重視する人間はいるが、夢を持たない人間が、勉強する意味や生きる意味を見出せるだろうか?

 例え大学まで行って卒業することができても、その先、何の変哲もない量産型、替えの幾らでもきく社会の歯車として生きていくハメになるのではないか?

 俺はそんな人間を何人も知っている。

 

 

 ――とまぁ、そのような話を無音の両親にしたところ、随分と感銘を受けたようで、娘の家庭教師を頼まれるほど、深い付き合いになった。

 こちらとしても、共感覚に勉強を教えるというのは、願ってもない機会。良い刺激になると思い、二つ返事で引き受けた。

 相手が異性ということで少し緊張はしたが、幸運にもフィーリングが合い、今もこうして一週間に一、二回ほど、勉強を見に来ている。

 最初の内は、学校の勉強など自分の将来の役に立たないと言って、後ろ向きだった無音だが、段々と心境が変化し、机に向かうようになった。

 どうやってやる気を引き出したかというと、俺は最初、勉強を強要せず、興味を引く話題で会話を重ね、仲を深めることを優先した。

 趣味を尋ねたところ、どうやら昔から音楽が好きで、中学一年の頃からDTMDesk Top Music : デスクトップミュージック)にハマっているとのことだった。

 音に色を感じる色聴の人間が、音楽に癒されるという話は聞いたことがあり、俺は早速、彼女の教育プランを考えた。

 

 学校が用意した資料をなぞるだけの授業は駄目だ。

 なるべく音楽――彼女の好きなものと結び付けて教えることを心がけ、初めの数ヶ月は色んなことを試しながら、より効果的な方法を模索した。

 彼女の本音は異能で知ることができるので、フィードバックは正しく受け取り、比較的得意な科目で達成感や成熟感を味わわせていった。

 思考力や発想力を高めることは、創作活動にも大いにプラスになる。

 学べばより作品の質が上がるということを実感させれば、苦手科目にも多少身が入るようになるだろうと思った。

 

 かくして、試みは成功し、彼女が真剣に勉強に打ち込むようになってからは、レポートの再提出が無くなり、テストの点数が倍以上に跳ね上がった。

 元々、無音共感覚持ちということもあり、IQが高く、真面目に勉強すればどの教科もそれなりの点数を取れるだけのポテンシャルがあったのだ。

 娘の成長には両親も大喜びで、何度もバイト代の話をされたが、他に十分なものを受け取っているので断った。

 

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 「あっ、また新しい曲作ったから、これ聴いてみて。」((( )))

 

 端末に音楽ファイルがシェアされる。

 

 ――そう、見返りは金ではなく、音楽。

 

 自分も彼女と同様、昔から音楽が好きで、勉強や瞑想の際にも、集中力を高めたり、リラックスする目的で聴くことが多い。

 作業している時に流すBGMは、なるべく情報の少ないもの――歌詞がなく、落ち着いたものが望ましく、無音はそういった曲を作るのが得意だった。

 勿論、気分が上がる曲も好きだが、同じ曲ばかり聴いていると飽きが来るので、定期的にタダで新曲を提供してくれる彼女の存在は、とてもありがたかった。

 

 「いいな。また毛色が違う。」

 

 「後でオトノセアの方でも公開するつもり。」((( )))

 

 オトノセア

 

 たまに覗くが、あらゆる曲をVR空間――好きな風景の中で楽しむことができるというサービス。

 ユーザーがオリジナルの楽曲を投稿することもでき、無音はそこで自作のBGMを公開している。

 サービス自体の知名度は高くはないが、上質な音楽を作ることで多くのユーザーから高評価を貰い、去年から彼女に曲の制作を依頼する人間も現れた。共感覚絶対音感持ちということも、良いセールスポイントになっている。

  人前に出るのが苦手な彼女は、これが自分の天職だとし、毎日、曲作りに励んでいるが、俺としては、更に先へと進んでもらいたい。

 陰で細々と活動するのも一つの道ではあるが、変化が無ければいずれ淘汰される。

 時間には余裕があるし、そろそろ外へ連れ出してみるのもいいかもしれない。

 

 創太は彼女の曲を聴きながら、そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 教育とは、機械を造る事ではなく、人間を創る事である。

 

 

 

 

 

 ≫ 東京都中野区夙吹家

 

 

 午後六時――。

 

 「あ、お兄ちゃんお帰り♪」((( )))

 

 「……………。」

 

 自宅に戻ると、妹が帰ってきていた。

 

 夙吹はやぶき 結火むすび

 

 父親に引き取られはしたが、才機大学に入学することになり、今年の三月――約二ヶ月ほど前から一緒に住んでいる。

 

 「夕食出来てるけど、食べる?」(( ))

 

 「毒物や劇物を入れてなければな。」

 

 「あぁ………入れてないよ。ねぇ、それ毎回聞くのやめない?」(((  ))) (

 

 苦笑いをしながら、文句を言う結火

 嫌なら出て行けと言いたいところだが、あまり無駄な会話をして時間と体力を消耗したくはない。

 

 創太は洗面所で手洗いを済ませた後、ダイニングのテーブルにつき、置かれていた魚料理を食べ始めた。

 

 「それ新しく挑戦したやつなんだけど、美味しい?」((( )))(( ))

 

 「味より栄養だ。後でレシピを見せるように。」

 

 「分かってるよぉ。」((( )))

 

 今のところ、特に問題は起こさず、真面目に家事もやっているが、過去の出来事が尾を引いており、どうにも信用できない。

 親が離婚する前、一緒に暮らしていた頃の妹は、お世辞にも頭が良いとは言えず、学校でも問題行動が絶えなかった。

 それも単なる不良少女の範疇に収まらず、犯罪に片足を突っ込んでおり、救いようがなかった。

 だから合格の話を聞いた時、耳だけでなく、異能を疑った。

 妹は少々、厄介な能力・・・・・を持っており、初めはその能力を使って試験を突破したのではないかと思ったが、調査の結果、その読みは外れた。

 

 環境が変わって、妹もそれなりに変わったのか。

 ひとまずは実力を認め、家に入ることを許可したが、言動は注視している。

 

 《続いてのニュースです。本日午後四時頃、西東京市にある龍屋敷の庭園内で、身元不明の男性の遺体が発見されました。》

 

 「ん? またか……。」

 

 箸を動かしつつ、テレビを眺めていると、気になるニュースが流れた。

 

 「龍屋敷って……。確か去年の夏にお爺さんが殺されたってところだよね?」(( ))

 

 「ん…………ああ。」

 

 祖父――龍双院りゅうそういん 竜儀りゅうぎを殺害した疑いで、姪の龍双院りゅうそういん 礼花れいか が逮捕。

 

 名家で起きた、異能を用いた凄惨な殺人事件ということで、あの時はテレビもネットもちょっとした騒ぎになった。

 

 「あれ結末ぼやけてるけど、何だったの? 遺産の相続争い?」 ( ) (

 

 「さぁな。」

 

 「裁判の傍聴とかしなかったんだ?」(

 

 「興味あるのか?」

 

 「兄さんはないの?」(

 

 「……優先順位が低いだけだ。」

 

 創太は素早く夕食を済ませると、食器を片付け、二階へ上がった。

 これ以上、妹と無駄な会話をする気はなく、貴重な情報を渡すつもりもない。

 自分の部屋に入った創太は、ノートPCを立ち上げ、作業を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 ≫ 夙吹家・二階・夙吹 創太の部屋

 

 

 《~~~~♪ ~~~~♪》

 

 ヘッドホンで無音に貰ったBGMを聴きながら、ポータルサイトやSNSを巡り、新しい情報をチェックしていく。

 

 よくネットはデマが多く、テレビや新聞の情報の方が安心できると言う人間がいるが、金の絡んだメディアは偏る時はかなり偏る。

 公平公正な報道うたっていたとしても、スポンサー権力者の意向を忖度そんたくする為、絶対ではない。

 映像のクオリティの高さや、説明が分かりやすいという点は評価できるが、社会の仕組みに縛られ、中々、理想を実現できないでいる。

 結局のところ、何が正しいかを判断する為には、複数のメディアが発信する情報を、分析しなければならない。

 ならばコンテンツの量や更新スピードが優れ、集合知もあるネットの方が、よっぽど情報を収集する為のツールとして優れている。

 集合知というのは、集団的知性とも呼ばれる、多くの人間の知識が集まることで得られる、より高度な知性のことだ。

 大抵の情報は、この集合知というふるいにかけられ、時間が経つにつれ、真実と偽りに寄り分けられていく。

 政治や社会問題など、はっきりとした答えがないものについては、価値感の相違から感情的な意見のぶつかり合いになりやすく、そういった点で、完璧とは言えないが、ある調査では、専門家一人の意見よりも、多数の一般人の意見を取り入れた答えの方が、優れたものになるという結果が出ている。

 それは知識や思想に偏りがある集団では駄目で、重要なのは、多様性

 ネットには、年齢、国籍、職業、経験の異なる不特定多数のユーザーが参加しており、当然、それぞれの意見はバラバラだ。

 だがだからこそ、導かれる答えに期待が持てる。

 

 「……………。」

 

 創太は昔から思っていた。

 もし、この集合知の精度をもっと高めることができたら、と。

 

 やるべきことは分かり切っていた。

 

 創太はマウスを操作し、あるページを開く。

 

 (この情報……確かめてみるか。)

 

 

 

 

 

 

 

  ◇ 天至てんし21年・5月28日(土) ◇

 

 

 

 ≫ 東京都新宿区・某所

 

 

 「………………。」

 

 深夜。新宿歌舞伎町

 とあるビルの屋上にて、人相の悪い男が一人――ネオン輝く美しい街を見下ろしていた。

 

 「はぁ……はぁ……。」

 

 その視線の先には、手に血の滴るナイフを持ち、荒い息を吐く少年の姿。

 彼は凶器をバッグにしまうと、すぐにその場から逃げていく。

 

 「フッ……。」

 

 男の口元が歪み、その手に緑色発光する怪しげな銃が出現する。

 

 「13点。」

 

 

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 彼はそれを、自らの頭に突き付けた。

 

 そして――。

 

 《バァァンッ!!

 

 渇いた音が、眠らぬ街に木霊した。