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『異端のネシオ』3Hz「異常性クラスメート(後編)」(2)

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 A lie can make it half way around the world before the truth has time to put its boots on.

 (真実が靴を履く前に、嘘は世界を半周できる。)

 

 

 

 

 

 

 

 問題――

 

 普通に生きていて、危険なことに巻き込まれる確率――というのは、一体何パーセントくらいか?

 

 そう聞かれて、パッと答えを出せる人間は、恐らくいないだろう。

 何故なら普通の基準は、人それぞれ。何を危険とするかでも大きく変わる。

 しかし、よく考えた上で、1%……5%という答えを出したなら、それは現実逃避。

 

 今の世の中では――

 

 (危険……。)

 

 …………。

 あまり真面目に考えるのは精神衛生上よろしくないが、どうしても考えてしまう。

 

 少なくとも、昔の方がずっと低かった筈だと。

 

 世界が変わってしまう前――

 異能なんてものが出現する前――

 

 まぁ……勿論、歴史は学んでいるし、それも決して素晴らしい世界ではなかったと分かっている。その時はその時で別の問題があっただろうし、もしその時代に生きていたら、異能のある世界に憧れを抱いたかもしれない。

 

 けれど……

 

 「遅い!!」《ダンッ!

 

 今のこの状況――

 

 異能が無ければ、学生の身で殺人事件の調査に首を突っ込まされること・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんて、絶対に無かっただろう……。

 

 「なぁ、10時っつったよな? 俺、10時っつったよな? キレていいか?」

 

 「まぁ、落ち着けって。流石に日付は間違えねーだろ。」

 

 29日・午前10時過ぎ――

 死瑪しば 遊餓ゆうがのイライラは頂点に達していた。

 東京都・新宿区・歌舞伎町一丁目にあるアミューズメントカジノトロピカル・クイーン」裏手にあるビルの中――。今日はこことホストクラブで起こった殺人事件に関する調査報告会の予定だったのだが、本庄ほんじょうが遅刻していた。

 

 「折角、日曜にしてやったのに、クソ女共……。」

 

 机を蹴り、不満を露わに。

 そのイライラの原因はもう一つあった。

 

 「へー、本物は若干顔つきが違うかも。こういうの平気っぽい?」

 

 「意外と筋肉……。良いお尻してますねぇ。」

 

 セクハラ……いや、これは……

 

 「キャバクラじゃねーんだぞ……。

  お前ら一応、殺人事件の容疑者だってこと分かってんのか?」

 

 「だって、私ヤってないし。」

 

 「私もです。」

 

 「いやぁ、俺は危険な香りのする女の方が好みだぜ。」

 

 

 三ツ矢はだいぶ楽しんでいる。

 ニートラップとか、普通なら死瑪の言う通り、警戒すべきなんだろうが……。

 今のところ、特に危険は感じられない。《危険予知》異能は発動しない。

 まぁ、こんな状況で頼りになるものでもないが……。

 

 「私は純粋にお礼の気持ち、だよ?」

 

 「そうそう。頑張ってくれてるみたいだからね♪

  肩の力抜きなよ♪」

 

 事件の容疑者である10人の風俗嬢達

 今その内、カリン・モモ・メロン・ココナの4人がこの場にいる。

 

 「未成年をたぶらかすな、年増共。」

 

 「はい、ざんねーん! 私、21でしたー!」

 

 「私、19です……///」

 

 「え。」

 

 カリンモモが年齢をカミングアウトする。間に挟まれていた幽鵡かすむは反応に困った。

 

 「ふっ。俺はそのくらいだと思ってたぜ。」

 

 「ちなみに私は24ね。メロン23

  あっ、Dちゃん30行ってるけど――」

 

 「ちょっ、ココナ! 喋り過ぎ。」

 

 「あっ、あはは♪ ごめん。」

 

 「はぁぁ……。」

 

 死瑪は大きく溜息を吐くと、携帯を眺めた。

 

 「トラブルあっても間に合わせた俺がバカみてーじゃねーか。」

 

 「ん?」

 

 「来る途中にちょっとな。

  事件とは関係ない。」

 

 《ガチャ

 

 その時、扉が開いた。

 

 「ごめ~ん☆ 待ってた?」

 

 甘い声を出しながら入ってきたのは、本庄――ではなく、櫻井さくらい 真実まざね

 ――と、後ろにもう一人。もしかして、雑誌記者をしているというか。

 髪も服も全身桜色なと違い、黒髪でくたびれたスーツ姿。

 

 「期待してなかった奴が来たか。」

 

 「大変だったんだよ。お姉ちゃん、フラフラしてちっとも真っ直ぐ歩かないから。」

 

 「へへへ……。」

 

 ニコニコしながら機敏な動作でソファに腰を下ろす。

 確かに、何か挙動がいちいち不安になる人だ。

 

 「さて、これで本格的に女共が遅刻だな。

  流石にもう待てないから始めるぞ。」

 

 「えっと……、どっから話せば?」

 

 「忘れてるだろうから、まず事件の概要からだ。

  起きたのは23日・月曜日午後11時頃。」

 

 死瑪が資料をカスムミツヤマザネの元に滑らせる。

 

 「殺されたのは、歌舞伎町を支配する虎門組新人ヤクザ二人

  現場は、この建物の1階――赤ちゃん部屋から入れる風呂場と、ホストクラブキング・フリジッド」の地下にあるワインセラー

  二人共、背後から心臓を刃物で一突きにされ、倒れていた。」

 

 頭の中で想像してみる。

 風呂場ならシャワーを出している最中、犯人の接近に気付かなくてもおかしくはない。

 しかし、ワインセラーの方は気付かれず忍び寄るのは難しい気がする。

 あと――

 

 「刃物で一突きって簡単に言ってるけど、それだけならしばらく意識はあるよな?

  殴られて気絶でもしてたのか?」

 

 幽鵡は早速、疑問をぶつけてみる。

 

 「悲鳴を聞いたなんて話は上がっていない。

  そして、血の広がり方からして、どうも刺された位置から移動もしてないみたいだ。」

 

 動けず、声も上げられない、か……

 って、そんな異能をつい最近、身内が経験したんだが……。

 

 「DD……出水いずみ ダイヤ触れたものを硬質化させる異能《ダイヤモンドコーティング》なら、そんな状態にすることは一応、可能だよな。

  確かDDと一緒に行動してたのは……」

 

 「私。」

 

 カリンが手を挙げる。

 

 「言っておくけど、ダイヤっちは絶対、犯人じゃないから。

  硬質化してたら刃物なんて刺せないでしょ。」

 

 「刺した後に硬質化。」

 

 「そもそも風呂場に行ってない。」

 

 「…………。」

 

 カリン死瑪の間に険悪なムードが漂う。

 

 「えっと……凶器は具体的に何か分かってるのか?」

 

 「さぁな。

  だが、硬質化の能力があれば、ペラペラの紙すら刃物になる。今のところ、一番怪しいと言わざるを得ないな。」

 

 「Dちゃん、犯人なの?」

 

 「いやいや、メロン。まだ決まってないって。」

 

 ココナが慌てて、ツッコミを入れる。

 だが、可能性が高いのは事実。

 

 「そういや、発見時の状況は?」

 

 死瑪が質問する。

 

 「えっと……、メロンプルーンが入ってた時だったから……。」

 

 視線がメロンに集まる。

 

 「確か順番は、DD・カリンココナ・モモメロン・プルーンだったな。発見したのは最後の組。」

 

 「どうだった? メロン。」

 

 「えっとねぇ……。

  みんなで行ったよ。一斉に。」

 

 誰か一人が先に入ったりはなかったと。

 

 「う~ん……。」

 

 「なぁ、俺からも気になったこといいか?」

 

 三ツ矢が手を挙げる。

 

 「傷の数が妙っつーか、人を殺そうって割には、たった1回しか刺してないだろ。

  結果的には、それでどっちも死んでるんだが、ちょっと納得できなくてな。」

 

 確かに……犯人の心理がよく分からない。

  

 「1回で確実に殺せる自信があったのか。殺せなくてもよかったのか。それとも複数回刺す余裕がなかったのか。」

 

 死瑪が可能性を列挙する。

 

 「死因は間違いなく、刃物による失血なんだよな?」

 

 「ああ。毒が塗られてたってこともない。」

 

 「…………。」

 

 トロピカル・クイーンDDが一番可能性が高いとして、キング・フリジッドの方はどうなのだろうか。

 やはり、第一発見者レード

 能力は確か気温や摩擦を0にする【氷の大地】。

 凶器を持っていなかったという話だが、氷のナイフで刺した後、それを溶かしたりすればいいだけ。相手を拘束する方法も何かあるだろう。

 

 「はぁ……。絞れないな。」

 

 幽鵡は溜息を吐く。

 

 「面倒な事件だ。周辺でもおかしなことが起こってる。

  それが殺人と関係しているのか、してないのか。

  ハッキリさせる為にも、話を聞かせてもらおうか。」

 

 死瑪の視線がマザネの姉に向く。

 

 「事件の起きた日、あんたの歌舞伎町での行動を話せ。」

 

 「お姉ちゃん?」

 

 「あっ、大丈夫。聞かれると思って、まとめて来たよっ!」

 

 鞄をごそごそ漁り、中から一枚の紙を取り出す。

 それを受け取った死瑪は、ざっと目を通してから、全員が見れるように机の上に置いた。

 

 「議員のスキャンダル狙いか。」

 

 「あ、何だっけ? 確か野党の議員が失踪したとか。」

 

 「そう! ざんき新閃組しんせんぐみっていう泉渇いずみかわ ばつ議員

  最近、よくここに来るっていうから、もしかしてと思って♪」

 

 マザネの姉は目を輝かせながら語る。よくそんな危ない橋を……

 

 「ん、これ。金刀峰ことみね 機先きせんってのは誰なんだ?」

 

 三ツ矢が指差す。

 見ると、泉渇議員の横に別の名前が書かれている。

 

 「あぁ、それ。最初は誰か分かんなくて、後から調べて――」

 

 「分かってる。俺も色々聞き込んで、泉渇がこの金刀峰って奴の付き添いで来てたことの確認を取った。

  問題は、それが記事に書かれてなかったことだ。」

 

 「あー、それは……」

 

 「脚色したな?」

 

 死瑪に睨まれ、目を逸らすマザネの姉

 

 「この行動表を見る限り、建物の中には入れてないみたいだし、全く裏は取れてないみたいだな。」

 

 「いや、だって、一見真面目そうな泉渇議員に風俗通いの疑いが!?って、その方がほら、分かるでしょ!?」

 

 「実際どうだったんだ?」

 

 死瑪風俗嬢達に詳細を尋ねる。

 

 「えっと……」

 

 「泉渇議員は待ってただけだよ。」

 

 「ココナ! だからすぐ言わない!」

 

 「え、でも……」

 

 とにかくガセ情報だったようだ。

 

 「ちなみに、二人の異能も調べておいた。

  泉渇の方は水分を奪い取り、水の刀を作り出す【抜水ばっすい】。

  そして、金刀峰の方は、相手より素早く行動できる【先駆せんく】。

  どっちもB級能力。」

 

 「水の刀……。」

 

 「まぁ、凶器になり得るな。現場に入れたかはともかく。」

 

 「でも、失踪してるってのは、かなり怪しいんだよな。」

 

 三ツ矢の言う通り。帰る姿は確認されていたらしいが、その後、一体何処へ消えたのか。

 

 「あれ? 前来た時、死瑪君、心当たりがあるって言ってなかった?

  結局、どうだったの?」

 

 マザネが尋ねる。

  

 「ああ。別件・・で捕まえた奴らの中に、人間を赤ん坊の状態に戻しちまう能力持ちがいたんだ。

  そいつの仕業かと思ったんだが、当てが外れた。」

 

 記事に書かれていた、赤ん坊が捨てられていた件。

 酷い話だが、客や事件との関係は確認できなかった。

 

 「ま、場所が場所だし、偶然でもおかしくないだろ。」

 

 「…………。」

 

 《ガチャ

 

 議論がちょうど止まった時、また扉が開いた。遅れてた二人が来たようだ。

 

 「あ、もう始めてた?」

 

 「始めてたじゃねーよ。恥を知れ。」

 

 「しょうがないでしょ。しもちゃんのお父さん捜してたんだから。」

  

 「ふわぁぁ……」

 

 本庄の後ろから現れた霜之口が床に倒れ込む。

 

 「鳥のフンの真似か?」

 

 「見つかんなかったの!!」

 

 「え。」

 

 地面に落ちたソフトクリームみたいになりながら、霜之口わめく。

 

 「それはもう失踪なんじゃないのか……?」

 

 「被害者が二人、失踪者が二人か……。」

 

 幽鵡三ツ矢は同じことを考える。

 

 「まぁいい。お前達には被害者の身辺調査を任せた筈だ。」

 

 「はいはい、話――」

 

 「期待してなかったから、俺が全部調べておいたが――」

 

 「……。」

 

 「合ってるか確かめる。喋り疲れたからさっさと話せ。」

 

 相変わらず、言わなくてもいいことを言う。

 やる気が一気に削がれた本庄だが、文句は言えず、素直に被害者の情報を吐いた。

 古形ふるかた 任一郎にんいちろう在日韓国人で、本名は 人昊インホ고 인호)。

 二か月前に虎門組に入った新人で、まだまだ研修期間だったそう。

 

 そして――

 

 「同一人物……?」

 

 「そう。被害者の能力は自分の分身を一体だけ作れる【任形にんぎょう】。

  死体の内、一つは分身だったってワケ。」

 

 「それは死者としてカウントするのか?」

 

 「ん~、まぁ、どっちも背中刺されて血を流して倒れてた訳だし……」

 

 「んっ、ん!」

 

 咳払いする死瑪

 

 「あー、本体はどっちなんだ?」

 

 「そりゃ風俗見回りじゃ決まってるだろ。」

 

 三ツ矢がニヤニヤしながら言う。

 

 「いや、分身にも色んなタイプがあるからさ……。」

 

 「私の調べだと、分身は簡単な命令を聞かせられるタイプで、消す時に記憶が本体に吸収される感じ。出すのは近くだけど、消すのは距離が離れててもできるって。」

 

 「分身に何かあった時、本体はすぐに気付ける?」

 

 「それはちょっと分かんないかな……。」

 

 「……。俺が昔、会ったタイプは、分身と痛覚を共有してたから、危険にはすぐに気付いたけど……。」

 

 あまり思い出したくない幽鵡だったが、一応、話しておく。

 

 「ふー……。例え、分身能力者を100人集めたとしても、全く同じ能力はないだろうよ。

  異能は千差万別で、肉体や精神と同じく日々変化している。

  だから殺された時も情報通りの仕様だったかどうか分からない。」

 

 「う~ん……。」

 

 つまり、他人のはあまり参考にならない、と。

 まさか自分の分身に殺されるなんて、そんなホラーはないと思いたいが。

 

 「はー、何か可能性が広がるばかりだな……。」

  

 「諦めるのは早い。まだ話を聞けてない連中がいる。」

 

 死瑪は携帯の時刻表示を確認すると、もう少しここで待つよう言ってきた。

 

 「ところで今、虎門組は?

  そろそろ一人、二人シメられてるんじゃないの?」

 

 マザネがあっけらかんと言う。

 

 「幾ら味方を拷問したところで無駄だとは思うが……。

  克生かつきの話を聞く限り、日常茶飯事らしいな。」

 

 「怖い!」

 

 「っ!」

 

 胸を押し付けようとしてきた霜之口をかわし、幽鵡はソファの上に立つ。

 

 「「おお~」」

 

 風俗嬢達の拍手に包まれる。

 

 「そ、そんなのがトップで組織としてまとまれるのか……?」

 

 「逆だな。

  寧ろそんなのじゃなきゃ務まらない。人類全員が素で武器を手にしている今の時代は特にな。」

 

 「…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ≫ 新宿・歌舞伎町・某所

 

 

 

 同刻――とある建物の一室で、それ・・は行われていた。

 

 「ンン~!! ン~!!」

 

 光に照らされた、暗いホールの中央。

 口にテープを張られた、まだ高校生か大学生くらいの少年が、ワイヤーで天井から吊るされもがいている。

 その体の周りには血の滴る大量の生肉が巻き付けられ、さながらケバブのような……、言葉を発せず、ロクに身動きも取れない状態。

 しかし、少年の恐怖はそれよりも周囲の状況にあった。

 

 《ヴゥゥゥ……ヴゥゥゥ……!

 

 聞こえてくる低い唸り声に、全身の毛が逆立つ。

 強烈な捕食者の気配に、これから何が起きるか、容易に想像できてしまう。

 壁に取り付けられたカメラの向こう側では、この状況を作り出した男が残忍な笑みを浮かべていた。

 

 《ギィィィィィィ……

 

 期待に応えるべく、ゆっくりと開かれていく重い金属の扉。

 奥から現れたのは、言わずもがな二体の猛獣。

 巨大な熊――それは北米に生息するヒグマの亜種・ハイイログマ。

 血の匂いを嗅ぎ付けた二頭は、すぐさま走り出す!

 

 「ンンン~!!」

 

 横から来た強い衝撃――

 

 腹を空かせた二頭の突進を受け、肉の巻かれた少年は大きく宙を揺れ動く。

 右へ。そして、左へ。

 やがて牙や爪が肉の壁に食い込み、引き裂かれ始める。

 

 その狂気染みた光景を目にし、叫ぶ男が一人――

 

 「ヤメロ! 謝ル! ヤメテ!」

 

 片言の日本語で必死に許しを乞う。

 そんな彼は、体長3mを超える巨大な虎の前足に押さえ付けられ、身動きが取れない。

 

 「ふっ……」

 

 そこで思わず笑いを漏らしたのは、竜と虎が描かれた金屏風きんびょうぶの前に座している、虎柄のジャケットを着込んだ巨漢。

 

 虎門組・組長――琥雲くぐも 竜虎りゅうこう

 

 「聞き間違いかぁ? なぁ、虎八とらはち。」

 

 《Grrrr……!》

 

 前足の力が強まり、皮膚に爪が食い込む。

 

 「アぁっ!!」

 

 「ありがとうございます、だ。

  代わりにしつけてやってんだからよ。」

  

 竜虎菟は男の前髪を掴むと、至近距離でその鋭い眼光を浴びせる。

 

 「あんな半グレ種を放し飼いにしてちゃあなぁ……。

  責任を果たせねぇ奴に飼い主を名乗る資格はねぇ。」

 

 《ブチッ!!》「アアアッ!!」

 

 鷲掴みにされた前髪が頭皮ごと引っこ抜かれ、男は痛みにもだえる。

 

 「なぁに、あいつらが満足したら返してやるよ。

  どの程度残るかは分からねぇけどな。」

 

 「組長! ――うわっ!」

 

 その時、眼鏡をかけたオールバックの組員が部屋に入ってきて、絶句する。

 

 「おぉ、青巨しょうご。レストランで暴れた奴ら、残りは見つかったか?」

 

 「はい。でも……、珍しいっすね。この程度の連中に。」

 

 「気晴らしだ、気晴らし。

  最近、ウチの若ぇのが何処の馬の骨とも知れねぇ奴らに二人も食われちまったからな。

  まぁ、ちょうどいいさ。こいつらも上等な肉ばっかじゃ飽きるだろうし、たまにはジャンクもやらねぇとな。」

 

 「ッ……」

 

 「ん?」

 

 その時、背中に感じる視線の変化を感じ取った竜虎菟は振り返る。

 

 「何だ。良ィ目できるじゃねぇか……。」

 

 床に這いつくばる男の目には、先ほどまでとは違い、殺気がこもっていた。

 

 当然――

 このまま謝り続けても、100%助からない。

 

 「そうだ。お前が取るべき行動は謝罪じゃねぇ。

  どうしても守りたいものがあるなら、命を賭けなきゃなぁ。」

 

 言い終わるが早いか、虎八の前足の力が弱まり、男は自由となる。

 深く考える余地なし――

 チャンスを逃さず、脱した男は、ドアの前に立つ二人に向けて足を踏み出す。

 右手を伸ばし、何らかの異能か――!?

 

 《ブンッ……!!

 

 だが、触れようとした時、視界が回る。

 

 「……!?」

 

 投げ飛ばされたか――

 

 そう思った次の瞬間、男は頭を失くし、倒れた自分の体を目撃する。

 

 「獣の世界――

  最後の一瞬まで味わえよ。」

 

 《GRAAAA!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ≫ 新宿・歌舞伎町一丁目・ビル

 

 

 

 凄惨な光景がありありと目に浮かぶ。

 

 「連中が赤ん坊になりたくなる気持ちも、まぁ分からなくはない。」

 

 「気を抜いたら動物の餌か……。」

 

 カタギだろうと、女子供だろうと関係ない。踏み込めば、弱者は容赦なく淘汰される。

 

 弱肉強食――

 

 そんな環境で呑気に談笑していられる風俗嬢達は異常なのか。それとも、ただの馬鹿なのか。

 虎の尾を踏み付けたのは、一体誰なのか――

 

 「…………。」

 

 「さて、そろそろ時間だ。

  移動するぞ。」

 

 死瑪の指示で、幽鵡達は立ち上がる。

 風俗嬢達をその場に残し、向かうのは新宿駅

 

 果たして、罠にかかってくれるか……。

 

 

 

 

 

 

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