その劇場に招かれた者は……
やがて蝶となり、世界を変える運命にある……
「………………」
ゆらゆらと……
暖かく……そして柔らかな……何処か懐かしさを覚える心地良さ……
やがて、その揺れが収まると……意識がゆっくりと浮上を始める……
「………………」
長い長い眠りに就いていたかのような……不思議な酩酊感……
血の巡りと共に認識していく……自分という存在の輪郭……
色を持たぬ器……
そして、頭の中に響く何者かの声……
「Wake up.(目覚めよ。)」
…………。
気が付いた時、自分は座した状態で
静まり返った暗い部屋の中、微かな鼓動と息遣いだけが聞こえている。
……ここにいるのは、自分だけなのか。
体は
全身を包み込む空気は暖かく、このままじっとしていれば、またすぐにでも深い眠りに落ちてしまいそうだ。
「………………」
それでいいのか――
自分自身に問いかける。
しかし、答えは返ってこない。
自分は何者なのか。
ここは何処なのか。
これまで何をしていたのか。
全てが記憶から欠落していた。
「………………」
その時、不意に目の前に
目を閉じていても分かる……。暖かな色を持つ光。
ゆっくりと
マッチ棒のような形をした触覚。光を帯びた深紅の羽。それが揺れ動く度に舞い散る火の粉のような
まるで芸術品のように美しいそれは、触れたらすぐに消えてしまいそうな
「………………」
肘掛けから手を離し、ゆっくりと前に伸ばしていく。
蝶は逃げ出すことはなかった。
しかし――
《ジリッ……》
後少しで触れられるというところで、指先に痛みが走り、反射的に手を引っ込めた。
確認すると、指の先が黒く焼け焦げている。
これは……。
「Did I get you ?(びっくりしたかい?)」
「…………!」
声に驚き、正面を見る。
すると――
《カン……!》
――という音と共に、舞台に明かりが灯った。
そこに現れたのは、茶色のスーツに身を包んだ長身の男。
顔に見覚えはなかった。
「Did you wake up ?(目は覚めたかな?)」
「………………。」
男が現れると、蝶は天へと飛んでいく。
すぐに目で追うと、その先でそれは燃え尽きるように消えてしまった。
「That Butterfly seems to have died.(命を終えたようだ。)
……Don't worry about it.(……気にしなくていい。)
That fulfilled its mission.(あれは使命を全うしたんだ。)」
「………………。」
男は優しく微笑むと、こちらに向かって一礼した。
「Welcome to the theater of fate.(ようこそ、運命の劇場へ。)
My name is Roots Prometheus. I'm a resident here.(私の名はルーツ・プロメテウス。ここの住人だ。)
I have one question to ask you before the story begins.(話が始まる前に、君に1つ聞きたいことがある。)」
彼は何処からか地球儀を取り出すと、片手でそれをからからと回転させながら、質問してきた。
「Which do you like better, coral or globe ?(君は珊瑚と地球儀だったら、どちらが好きかな?)
I want you to answer intuitively. (直感で答えてほしい。)」
男が差し出した左手には珊瑚のオブジェ、右手には地球儀が浮かんでいる。
直感……。
直感で答えるならば――
声を発することができない為、手を動かし、答えを指し示す。
「Thank you very much.
(ありがとう。)」
男の両手から珊瑚と地球儀が消え去る。
「Please don't forget that choice.(どうか今の選択を忘れないでほしい。)」
「………………。」
男がそう言い終わると、映写機から光が漏れ出し、カウントダウンが始まった。
20――
19――
「……Time has come.(……上映時間のようだね。)」
16――
15――
「This theater will surely tell you the answer to who you are.(君が何者か……、その答えは、きっとこの劇場が教えてくれる。)」
10――
9――
「It will be a very long journey.(長い長い旅になる。)
What do you think when you see their story ?(彼らの物語を観て、君が何を思うのか。)
Please show me what kind of answer you will reach.(どんな答えに辿り着くのか、観させてもらうよ。)」
3――
2――
1――
0――
.