≫ 東京都・杉並区・
「
「ん……。」
名前を呼ぶ声が聞こえ、
視界に母の姿が見えて、一瞬、寝坊したかと焦ったが、部屋の中はまだ少し暗い。
手を伸ばし、携帯で時刻を確認すると、五時をちょっと過ぎた頃だった。
「何……。」
思ったより早く起こされて不機嫌になる幽鵡。
「ちょっと来てほしいんだけど……。トイレの扉が開かなくて……。」
「はぁ……?」
仕方なく寝巻のまま、部屋を出て、トイレの前に向かう。
「呼びかけたり、引いたりしてるんだけど……。固まってるみたいに開かなくて……。」
「んん……?」
手を掛けて引いてみるが、確かにビクともしない。
「何かつっかえてるとか? 他の3人は?」
「パパもおばあちゃんも
「はは……。」
何それ、怖い。
二人で笑っていると、下の階から父親が上がってきた。
「開いた?」
「ううん、全然。」
どうやら一階のトイレを調べていたらしい。
下も開かないとなると……。
「風呂でするしかないのか……。
まぁ、そっちの方が水の節約になるし、良いかも。」
「でも、大の方はどうする?」
「…………。」
流石にそれまでには開くだろう……、と思いたいが……。
「二人は大丈夫?」
「一応、昨日の夜にしたから、しばらくは……」
「私も多分……。」
父親も母親もまだ平気そうだが、使えないと思うと、尻の辺りがざわつく。《危険予知》の異能はまだ発動しないが、カウントダウンは着実に進んでいる。
(マズいな……。)
普通の高校生として……、いや、人として、その辺で漏らす訳にはいかない。
「万が一の時は、防災用簡易トイレの出番かも。」
「あ、それがあった……。」
母親は手を叩くと、急いで一階へ下りていく。
普段から備えておくと、こういう時に焦らずに済む。
「まぁ、無いなんてこと……ないよな?」
☆ まじぱれ ☆
≫ 天瞑家一階
【ミツヤ:あー。遂にトイレもへそ曲げちまったか。最近、濃いの飲ませてやってなかったからなぁ。】
【ワタヌキ:僕の方は大丈夫。二人とも全く同じ状況?】
【カスム:(泣)】
食事を取りながら、携帯のメッセージアプリでクラスの仲間とやり取りをする。
どうやらトイレが使えなくなったのは自分の家だけではないらしい。
【マザネ:誰かが異能で悪戯してるのかもよ? 近所の子どもとか。】
【うず:けつあな確定。】
【ミツヤ:けつなあな、な。】
「う~ん……。」
こんなくだらないことをするのは、確かに子どものような気もするが……。
【うず:うんこぉ!】
「…………。」
クソガキみたいなうずはスルーし、やり取りを続ける。
【カスム:学校、トイレ使えなかったら休み?】
【ミツヤ:つーか、どのくらい影響出てる? ニュースじゃやってねー。】
【マザネ:諦めて登校したら?】
【カスム:まぁ何も連絡来なければ。】
【うず:助けてぇ!! ママが庭でうんこしようとしてる!!】
【ミツヤ:お前ん家、絶対行かねーわ。】
―シバさんが入室しました。
【シバ:朝っぱらから、なにうんこの話してんだ。】
【カスム:トイレの扉開かなくなった。】
【うず:同じく。】
【ミツヤ:俺も。】
その後、少し間があって――
【シバ:開くぞ、普通に。】
【ミツヤ:よし、
【シバ:来ても絶対使わせないからな。カスムならいいが。】
【うず:何でカスムだけOKなんだよ! ホモかよ!】
(
開く家と開かない家……。一部に発生している現象か……。
【ミツヤ:このままずっと開かないとか嫌だぞ。】
【うず:とりあえず、SNSで広めとくわ。】
【カスム:頼む。】
そうすれば誰かが解決してくれるかもしれない。
他力本願だが、命に関わる問題ではないし、時間のない普通の高校生なので許してほしい。
【ミツヤ:んじゃ学校で会おう。うんこの臭い持ってくるなよ。】
【うず:善処する。】
―ミツヤさんが退室しました。
―うずさんが退室しました。
(さて……。)
今日も危険とは縁遠い普通の一日にしてみせる。
そう意気込んで、幽鵡は家を出るのだった。
≫ 東京都・中野区・
午前十時――
《♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪、♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪》
トイレから部屋に戻ったところで、震え出す携帯。
「何があった?」
《少し妙な事件が。
トイレに関する情報は何か入ってきていますか?》
「いや、知らないな。どちらかというと出した方だ。」
《成程。
現在、渋谷区、杉並区、目黒区、世田谷区の一部でトイレが使用できなくなるという事象が発生しているのですが……。》
「トイレが……?」
《はい。異能で間違いなさそうです。
広がり方を見ると、恐らく次は武蔵野市、三鷹市、調布市辺りかと。先程、三鷹に住んでる知人に連絡しました。トイレの扉を開けてもらい、変化が起きたタイミングで知らせるよう伝えてあります。》
「分かった。とりあえず、そのまま監視を続けてくれ。被害が拡大し続けるようなら、介入する。」
《了解です。》
「…………。」
他に優先すべき事件は沢山あるが、狙いが分からない為、完全な無視はできない。
(三鷹市か……。)
先日、一番星 流々を救ったばかり。
魔法少女という力の覚醒は想定外だったが、御蔭で最小限のサポートで事件を終息させることができた。
「…………。」
彼女が今回、どう動くのかだけは把握しておいた方が良いだろう。
夙吹 創太は再び携帯を手に取った。
≫ 三鷹市・星明学園・中学部校舎一階・家庭科室
《タタタタタタタタタ!》
「おおっ! テクニカル過ぎて、エモい!!」
目の前で食材が超スピードで刻まれていくさまに感嘆の声を上げる。
二、三時間目・家庭科――調理実習。
新クラスでの親睦を深める目的のこの時間、流々は同じ班のメンバー、
勿論、学校一の目立ちたがり屋がこのまま観客でいられる筈がない。
「ならこっちも……!」
対抗心を燃やした彼女は、すかさず鞄の中から
《ザクッザクッザクッ!》
それは☆の形をした型抜きだった。
彼女の手により、食材は次々と大小様々な大きさの星型に切り抜かれ、綺麗に並べられていく。
「流星群……」
ルゥは思わず息を呑んだ。まな板の色が黒なので、まるで星空を見ているかのよう。
一流レストラン《ミャシュラン》の店長の息子である明日多の包丁技術は見事だが、奇抜さでは流々が上回っている。
《子どもは喜びそうだなぁ。こういうの。》
「ふふっ、キャラ弁も作れるよ☆」
《手間暇かけれるのは才能だな……。》
火星は仮面の中で郷愁に浸る。
「ふん♪ ふん♪ ふ~ん♪」
《ん……?》
ご機嫌な鼻歌が聞こえ、コンロ台の方に目を移すと、髪に大量のアクセサリーを着けた少女が、カラフルな謎の卵を割り、中身をフライパンの上に落としていた。どう見ても普通の卵の色ではないが……
《お前……、それ……何の卵だ……?》
「ん、めるの産みたて卵♪ 沢山あるよ!」
テーブルの上にドーンと置かれるトレーに入ったカラフル卵。つまり、どういうことなのか。
「メッシーからしかとれない高級なやつだよ。食べるのはちょっと勇気がいるけど。」
「俺は絶対食わないぞ。」
視界に入れたくないといった風に顔を逸らす明日多。
どうやら深く突っ込まない方が良さそうだ。
《はぁ……色んな奴がいるんだな。お前らは何もしなくていいのか?》
火星は後ろに突っ立っている二人に尋ねる。
班のメンバーは、猫山 明日多、一番星 流々、水漏 ルゥ、メルシー・メシエール、
「私は……汗が入っちゃうといけないから……。」
「邪魔したくない……。」
《あまり遠慮し過ぎるのは良くないと思うけどな……。おい、流々。》
「はっ、ついいつもの調子で全部やっちゃうところだった……。
みなもちゃん達もやる?」
☆ まじぱれ ☆
その後、皆で楽しく型抜きした食材は、春野菜のスープとなり、試食の時間へ。
小さく切られたキャベツや玉ねぎに、星型のニンジンやジャガイモなど、彩り豊かな仕上がりだ。
「フランスのポタージュ・キュルティバトゥールを意識して作ってみたよ。」
「きゅるてぃば……?」
ルゥの頭の中でポケモンみたいな可愛い動物が飛び跳ねる。
「個人的にはもう少し入れたいものがあるけどね。機会があればまた作るよ。」
明日多はお椀によそい終わると、それを流々達に配った。
「1……2……3……4……、う~ん♪ 三ツ星以上はあるね☆」
星の数を数え、目を輝かせる流々。とても食欲をそそられる見た目だ。
《美味そうだな。匂いは分からないが。》
「仮面君も食べる? めるのめだまる焼き♪」
《え。いや、この状態じゃ、腹も空かないし……!》
「あッ……!」
――と、黄身の部分が虹色の卵焼きを全力で拒否していた時、隣の班でお椀を運んでいた女の子が、椅子に足をぶつけた。
転びはしなかったが、衝撃でスープがお椀から飛び出し、他のメンバーにかかりそうになる。
「危ない……!!」
素早く反応したのはルゥだった。
彼女が手をかざすと、お椀からこぼれた汁が空中で停止。ギリギリで誰にもかからずに済んだ。
「ナイス! みなもちゃん!」
「は……早く……早く回収して……」
ルゥは手をかざしたままぷるぷると震える。額にはじんわりと汗がにじみ出る。
異能の対価で何かが失われているのか。お椀を持った女の子は急いで宙に浮いているスープを回収した。
「はぁ……はぁ……。」
椅子に座り、息を吐き出すルゥ。
「これはみなもちゃんも星三つだね☆」
「綺麗は良いことだ。」
周りから大量の星が送られてくる。
だが、ルゥはそれに反応するどころではなかった。
「あうぅ……も……も……。」
「も……?」
目を瞑り、下腹部を押さえているルゥ。
どうしたのかと心配していると、突然、立ち上がり、先生の元へと駆けていく。
「せ、先生……! トイレ行ってきます……!」
「あぁ、どうぞ、ゆっくりね~。」
返事を聞くより早く家庭科室から飛び出していくルゥ。
《確か……能力使うと、トイレが近くなるんだったか……。不便だな……。》
「そこは考え方次第かな。」
流々はそう言うが、火星にはいまいちピンと来なかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はぁ……はぁ……。」
家庭科室から飛び出したルゥは、急いで近くの女子トイレへと向かっていた。
昨日も使った一階のトイレ。大丈夫。十分、間に合う位置にある。
「……?」
だが、見えてきたのは真っ白な壁。
「あれ……?」
場所は間違えていない筈……。ちゃんとプレートもある。
なのに、何故か入口が塞がれていた。中に入ることができない。
(な……何で……?)
どうして……?
走り回るが、二階、三階、四階のトイレも同じ状態だった。
(ええぇぇ……!?)
遂にトイレの神も見放したか。困ったルゥは立ち往生する。
改修工事があるなんてお知らせは来ていない……筈。トイレの調子がおかしかったのは確かだが、幾らおかしくなったとしてもこんな風になるなんて……
(ど……どうしよう……。)
他の建物に向かうか……。でも、ここと同じだったら……
(あ……)
その時、屋上への階段が目に入った。
今は授業中だし、誰もいない可能性が高い場所……。
あんまり花壇にはしたくないが、緊急事態である為、ルゥは急いで駆け上がった。
しかし――、扉を恐る恐る開いたところで愕然とした。
花壇のすぐ近くにアングレア先生がいる。
何をしているのか分からないが、その場から動く気配はない。あの位置にいられては気付かれずに用を足すのは困難だ……。花を摘ませてほしいとも言えない。
「…………。」
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
《ガララ――》
「あっ、みなもちゃん、おかえり。
冷めないようラップかけておいたよ。」
「あ、うん……。
でも、ごめん。今はお腹空いてないから……食べていいよ。」
「あっ、じゃあ貰う!」
ルゥの分のスープがあっという間にメルシーの口の中に吸い込まれた。
《食いしん坊だなぁ、余った分も食べちまうし。》
「だって、美味しいもん♪ 猫山君も食べなくてよかったの?」
「他人の手が加わったものは食べない主義だ。」
「シェフのこだわりってヤツ!?」
《こいつは潔癖症なだけだろ……。》
「あはは……。」
ルゥは体調不良を悟られないよう、必死に笑顔を作るのだった。
★ まじぱれ ★
三時間目を乗り切り、次の四時間目は数学――
尿意を
(皆は、トイレ使えなくて大丈夫なのかな……。)
朝からあんな状態なら誰かが気付いてる筈だが……。どうなのだろう。誰も気にしていないような……。
素直に聞けばいいのだが、ルゥは自分が騒ぎの中心になるのを嫌がり、何も言えなかった。
しかし、いつまで声を上げずにいられるか。
悩んでいる内にチャイムが鳴り、四時間目が始まってしまう。
(あわわ……。)
残りの時間はずっと教室で移動は無いので、なるべく水分を取らないように過ごせば大丈夫……と考えられるほど、水漏 ルゥは自分の体質を甘く見れない。何処かで出さなければ確実に決壊する。
授業が終わったら、もう一度屋上に向かうか……。
いや、冷静になって考えれば、AIの監視があるし、バッチリ記録に残る。トイレ以外で安全に用を足せる場所はないんじゃ……。
(あれ……?)
ひょっとして詰んでる?
そのことに気付いた時、再び尿意が強まってくる。
「~~~!」
とても授業に集中できる状態ではない。
問1、問2、問3……とい……。
ああ……トイレトイレトイレトイレトイレ……。
頭の中がトイレのことでいっぱいになる。小文字のbもトイレに見えてくる。
(早く……早く終わって……。)
必死に願うが、授業はまだ始まったばかり。
「それでは、試しに2問ほど作って、出来たら、隣の人に送ってください。」
「よ~し、みなもちゃん! どっちが多く解けるか勝負するよ!」
「あ……うん……。」
アプリの機能を使い、問題を作って、送り合う。いつものやつ……。座ったままできるから、楽だ。
「おっ、来た来た……。
うわっ。」
【x=682 y=-917 542x+402y=?】
《お前、その顔で何ちゅうめんどくさい問題出すんだよ……。》
「え……む、難しかった……?」
「出来た!」
《早っ……!? 暗算したのか?》
「そろばんコンクール1位だからね。
フラッシュ暗算もできるよ☆」
《はぁ。》
流石、大口を叩くだけのことはある。
「ところでみなもちゃん。2問とも答えが同じだけど、さては狙ってやったな?」
「え……ぐ……偶然だよ……。」
そんな余裕ある訳ない。
もし仮に同じだったとしたら、無意識の内に引き寄せられたか……。
(うぅ……。)
漏らしたくない……。漏らしたくないのに……、体はちっとも言うことを聞いてくれない。
(何とかしないと……。)
このままでは持たない。
そう思ったルゥは、こっそりスカートの中に手を入れた。
そして、股間に手をやり、パンツをずらす。
(よし……)
これでいつでも漏らして大丈夫。
いや、正確には大丈夫ではないが、水を一箇所に留めることができる異能――
それを使えば、もし出してしまってもスカートの中に隠すことができる……かもしれない。
というのも、自分の異能は非常に力が弱い。あまり量が多いと恐らくポタポタと漏れる。
いや、それ以前に発射の勢いを殺せるかどうか不安だ。
(あわわ……。)
やっぱり、パンツで一度受け止めた方がいいかも……。
下着が濡れるのは嫌だが、教室の床をびしょ濡れにしてしまうのはもっと嫌だ。
――というか、もう教室を出た方がいい。
(うぅ……。)
さっき行ったばかりだけど……。
ルゥは尿意を堪えながら、恐る恐る手を上げた。
「じゃあ、長さ分かる人――
んっ?」
「せ……先生……。」
数学教師、
椅子から腰を浮かせ、前のめりになりながら手を上げる水漏 ルゥの姿を。
(おお……水漏さん。
なんて決意に満ち溢れた目を……。)
控えめな生徒だという印象だった。その勇気には感動を覚える。
「よし、ではこのトイレットペーパーの平均使用量を――」
「80cm! 行ってきます!!」
水漏 ルゥは答えを言うと、大急ぎで教室から出ていった。
「…………。」
《おい。あいつ、またトイレ行ったぞ。まだ異能の影響出てるのか?》
「先生! 私もトイレ行ってきます!」
「あ、うん。どうぞ。」
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「はぁ……。はぁ……。」
尿意を堪えながら、階段を上る。
急がなければならないが、もう後ちょっとの刺激で出てしまいそうだ。
(ゆっくり……。ゆっくり……。落ち着いて……。)
ああ……、何だかもう駄目だ。
体が熱くなっているのが分かる。
恥ずかしさで火照ってるのもあるが、トイレに入れなくなってから、体調が急速に悪化している。やっぱり、休んでいた方が良かったかもしれない。
(うぅ……異能なんて使わなければ……。)
後悔する。何で家庭科の時間、あんなことをしてしまったのか。
あの場の空気を壊したくなかったからか。
自分も何か人の役に立ちたくなったからか。
(やっぱり、私には……。)
「みなもちゃん……!」
「っ……!?」
声に呼ばれて振り返ると、階段の下に流々の姿。
「どうかしたの? トイレは……」
「こっ、来ないで!!」
今、近付かれてはマズい……!
耐えながら何とか声を絞り出す。
「みなもちゃん……?」
《おい、まさかネガヘルツの奴らが何かしたんじゃ……。》
「ちっ、違うの。本当に何でもないから……! 今日は上のトイレの気分なだけだから……!」
「えー! トイレに上とか下とかあるの!? 一緒に行くよ。」
「あわわ……、いや、違くて……一人で……ふぁ……」
あ、ヤバい……。
ルゥは急いで身を隠そうとする。
が――運動神経抜群の流々を撒ける筈もなく……
「はっくしゅん!!」
《~~~~~~~~》
ああ……。
その瞬間、解放の喜びと絶望が同時に押し寄せてきた。
目の前が真っ暗になりそうだった。
「みなも……ちゃん……。」
「………………。」
終わった。
何が終わったかって何もかも……。
「うぅぅ……。」
泣きたくないけど、涙が溢れてくる。
「そうか。やっぱり、トイレ怪人に……。みなもちゃん……!」
流々は階段を駆け上がると、まずハンカチで流れたものを拭こうとした。
しかし――
「やめて!」
その優しさを拒絶するルゥ。
彼女は異能で流れたものを集めると、それをスカートの中に隠し、屋上へ向かっていってしまった。
「…………。」
《……なぁ、トイレ怪人って昨日言ってた……。》
「……うん。とにかく、色々確認しないと。
早く居場所見つけなきゃ……。」
その後、流々によって学校に起きた異変は報告され、この日の授業は半日で終わることとなった。
しかし、トイレ怪人の力は留まることなく、更に広がりを見せ続ける……。
「うん……、何とか範囲は抑えてみたわ。そっちはどう?」
《とりあえずは何とか……。今、フレットと怪人は何処に?」
「しけ込んじゃったわ。
次の出番まで手を加えさせない気よ。」
《はぁ……。
第2話用の怪人はもっと弱い設定だと思ったんですが……、フレットが改変したようですね。》
「今後に響くわ……。
彼って次の話も担当なんでしょ?」
《実力はあるみたいですからね。
ただ……、このままだと彼の用意した怪人を魔法少女側が倒せるかどうか……。》
「難しそうなの……?」
《それが……》
アングザイアは、花壇に目を落とす。
一輪だけ