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『ケロタン』第4話「冒険の心得その②」(6/6)

ケロタン勇者の石+2

 

 

 《ズドオォォォォオオン!!

 

 (!?)

 

 一瞬――己が願いが天に通じたのではないかと思う程、その光景は思い描いた未来に酷似していた。

 心を震わす霹靂一声へきれきいっせい――。くうを裂く凄まじい雷撃――。それを受け、粉々になる魔物の頭部――。

 身体の自由が戻ったケロタン達の視線は、舞い上がる砂煙の中に立つ、一人の男の元へと向けられた。

 

 (まさか……。)

 

 遠目ではチェーンソーと見紛う大剣。帽子には斜めに切り裂かれた赤い星。そして、左目の大きな刀傷。

 間違いない。あれはシルシル警殺署長ブッタギリィ……! 何故彼がここに……!?

 

 「お前ら! 少しの間、時間を稼げるか!?」

 

 魔物の残骸が再生し始めたのを見て、急いで指示を飛ばすブッタギリィ。 

 どうやら説明は後。

 青白く発光する大剣を見て指示の意図を察したケロタン達は、フレアタンのように力を使い果たす覚悟で、魔物への攻撃を始めていく。

 

 バシュッ! バシュッ!

 

 まず先陣を切ったケロタンは、魔物の周りを走りながら、胴体に向けて次々と光球を放った。

 破壊した部分はすぐに再生されてしまうが、魔物の注意が少しでもブッタギリィから逸れるよう、敵愾心てきがいしんあおっていく。

 

 「ガァオ!!

 

 それに続くココオウは、再度、魔物との距離を詰め、先程と同様、その膂力りょりょくで以って魔物の胴体を砕こうとする。

 

 「シャアアアア!!」 《ボオォウ!!

 

 しかし、そこで魔物の体が突如激しい黒炎に包まれ、炎上!

 危険を感じたココオウは、拳を止めると素早く距離を取った。

 

 「くそ! これじゃ近付けねぇぞ!」

 「フハハハ!! やはり獣は火が怖いか! お前はそこで私が新たな伝説を作る様を、大人しく見ているがいい!」

 

 ココオウと交代するように魔物の前に踊り出たマカイは、伸縮自在な水のレイピアを操り、魔物の体に流れるような斬撃を放つ。

 普段の言動こそふざけているが、戦闘時の彼の動きは紛れも無く熟練者のそれ。

 相手が如何に巨大な魔物でも難なく倒してしまいそうな凄みがある。

 

 「ふっ。」

 

 手応えを感じたのか、攻撃後、不敵な笑みを浮かべるマカイ

 ――が、彼の攻撃は全て黒炎の壁に阻まれ、無効化されていた。

 

 「ん?」

 「効いてねぇんだよ!!」

 

 小首を傾げるマカイに、ココオウはすぐさま怒声を浴びせる。

 

 「《ハイパーケロダン》!!」

 《ズバアァァァァン!!》 「シャアアアアア!!

 

 マカイココオウがまた何やら揉めているようだが、ケロタンは威力の高い技に切り替え、魔物の注意を大きく引くことに成功する……!

 

 ボオォウ!! ボオォウ!! ボオォウ!!

 

 怒り狂った魔物は、ケロタンに向けて大量の黒炎を吐き始めた……!

 恐らく当たれば一瞬でお陀仏だが、幸いにも精度を欠いており、ケロタンは走るスピードを上げ、何とか全ての攻撃をかわし切る……!

 

 「はぁ……! はぁ……!」

 

 周囲の壁や地面が空間を削り取られたかのように抉れた。

 ケロタンは荒い息を吐きながら、額の汗を拭う。

 

 (ギリギリだったな……。)

 

 「シャアアアア!!

 「!」

 

 そんな時、二体目の大蛇がテロのいる方へ向かっていくのが見えた。

 

 「わわっ!」

 

 巨大な魔物に狙われ、慌てて逃げ出すテロ

 だが、足が短く、体の重いサボテン族では、あれから逃げ切ることはほぼ不可能だ。

 

 「くっ……!」

 

 ケロタンは身体に鞭打ち走り出す……!

 しかしその時――!

 

 《パシッ!

 

 何処からか伸びてきた蔦がテロの身体に巻き付き、引っ張り上げ、彼を窮地から救い出した。

 あれは――ツギの蔦だ……!

 見ると、彼はコロッセオの壁を植物を生やしながら移動しており、テロを抱えると、そのまま外側へと避難していった。

 

 「ふー……。」

 

 これでとりあえず二人の心配は要らない。

 ケロタン魔物に向き直った。

 魔物は再びその巨大な口から黒炎を激しくほとばしらせ、今にも凶弾を放とうとしている。

 

 (またか……。)

 

 ケロタンは集中し、攻撃を見切ろうとする。

 

 「っ……!」

 

 が、頭痛に襲われ、よろける。

 さっきの《ハイパーケロダン》で魔力はほぼ空だ。

 限界を超えて無理に魔法を使おうとすれば、代わりに身体の細胞や何やらが持って行かれ、気絶は免れない。

 

 (まだか、ブッタギリィ……!?)

 

 ケロタンは祈るような気持ちで顔を上げる。

 

 ドオォォン!!》 「シャアアアア!!

 「っ!?」

 

 そこで、魔物が突然、バランスを崩した。

 

 (何だ……!?)

 

 下を見ると、魔物の体が地面に深く沈み込んでいる。

 

 (地盤沈下? いや――)

 

 「重さが仇になったな。」

 

 近くで声が聞こえ、その方向を見ると、破壊された像の上にスダが立っていた。

 どうやらこれは彼の仕業らしい。

 

 「シャアアア!!

 

 魔物は暴れるが、流動性を増した砂の中に、体がどんどん飲み込まれていく。

 これなら簡単には抜け出せないだろう。

 勝機が訪れ、ケロタンブッタギリィを見た。

 決めるならば、今だ。

 

 「さぁて……、処刑の時間だぜ。」

 

 力を溜め終わり、不気味な笑みを浮かべるブッタギリィ。踏み締めた地面には激しい亀裂が走る。

 

 《ドンッ!!

 

 彼は地を強く蹴ると、魔物へ向けて飛んだ!

 

 破導式大剣術奥義――!

 

 いかずちを帯びた大剣……!

 ブッタギリィは激しく回転する車輪のようにそれを振るいながら、二体の大蛇へと突っ込んでいく!

 

 「《地爆一閃――轟壊雷ごうかいらい》!!」

 《ズドオオオオォォォォォン!!

 

 触れた瞬間に弾ける稲光――。

 哀れ魔物の体は放たれた幾本もの雷に貫かれ、一瞬で粉々となり、細かい欠片となって地面に降り注いでいく。

 無数に枝分かれした雷が、再生しようと集まる欠片を更に砕き、塵へと変えていく。黒炎の壁など意に介さない。

 

 (終わった……。)

 

 その光景を見ていた誰もがそう確信するほど、圧倒的な蹂躙じゅうりん だった。

 たった一人で……、たった一撃で……、あれだけ巨大だった魔物を葬る。

 彼に送るべき眼差しは羨望か、畏怖か。

 ケロタンはただただ光に目が眩み、呻くばかりだった。

 

 《シュウウゥゥゥ……

 

 そして――十分過ぎる追撃の後、ブッタギリィはようやく剣を下ろした。

 魔物が復活する気配は無い。完全に塵芥ちりあくたと化している。

 

 「巨人殺しタイタンスレイヤー……。噂にたがわぬ実力だな。」

 

 一人呟くスダ

 そんな二つ名があったとは初めて知ったが、すんなり受け入れられる程に、ブッタギリィの実力は群を抜いていた。

 

 「全員無事、だな。」

 

 ブッタギリィは周囲を見回し、安全を確認する。

 が、まだ警戒を怠らない様子でケロタンの元へ駆ける。

 

 「ブッタギリィ……。」

 「お前ら……あんな魔物とやり合うなんて無茶し過ぎだ!

  俺が遅れたらどうなってた……!?」

 

 労うよりも鋭い言葉を飛ばしてくるブッタギリィ

 その殺意を感じさせる眼に睨まれ、ケロタンはまたしても身体が硬直しかける。

 

 「あぁ……それはなんて言うか……状況がよく分からなくてさ。」

 

 勇敢に立ち向かうマカイの姿に対抗心を抱いたか……。

 テロを防いで手柄を立てたいという功名心に囚われたか……。

 改めて自分のことを振り返ると、どれも否定できず、居た堪れない気持ちになる。

 

 「助けが来なければ逃げていた。

  無茶をしたつもりはない。」

  

 一方、スダは淡々とした口調で答える。

 

 「はぁ……。こっちは今、実力のある冒険者を失う訳にはいかないんだ。

  少しは自分の力に責任があるってこと、自覚しておけ。」

 「…………。」

 

 言い方は荒いが、要するに命を大事にしろということなのだろう。

 期待されているというのは、嬉しいことだ。

 

 (……でも。)

 

 それでも、逃げるのは性に合わない。

 例え今の自分が抱くべき夢ではないとしても、捨て去ることはできそうになかった……。

 

 

 その後、全員が集められ、ブッタギリィの口からサバイバルレースの中止が伝えられた。

 無理矢理続けることはできたようだが、冒険ランド側が意図しない魔物との戦いで消耗した選手がいる以上、そのまま続行するのはやはり不公平ということだった。

 魔物との戦いで一番大きな傷を負ったナダラだが、彼女はツギに介抱されていたらしく、怪我の心配は要らなそうだった。

 ただ、顔を背けているところを見ると、やはり素顔は知られたくなかったようで……。

 こちらもさっさと忘れることにした。

 

 ◆ ウズトグロ山・ヒノヤマ道場 ◆

 

 同日――午後。

 レースを終えたケロタンは、しばしの休息を取った後、インド大陸中央部に存在するウズトグロ山――その麓にある道場へと足を運んでいた。

 歴史ある煉獄流格闘術の稽古場――ヒノヤマ道場

 そこで彼は、初老の男性と正座して向き合い、何やら神妙な面持ちで言葉を交わしていく。

 やがてケロタンが話し終えると、男性は目を閉じて俯き、小さく唸った。

 

 「そうか……。」

 

 彼はこの道場の師範――メラ

 フレアタン育ての親にして、師匠でもあるノーマンだ。

 つい先日、修行中に彼と知り合ったケロタンは、彼からフレアタン冒険ランドのことを聞き、サバイバルレースへの出場を考えたのだった。

 

 「フレアタンには、一人で強くなることばかりを考えるのではなく、時に仲間に頼り、共に戦うことができるような、そんなロッグになってほしかったが……。

  そこまで気持ちが強いのであれば、もうワシは何も言わん。」

 

 メラは静かに顔を上げる。

 

 「……じゃが、最後の戦いで、フレアタンはお前を守ったようにも見えた。」

 「ああ、あれは助かったよ。俺にも作戦はあったけど、100%成功するようなものじゃなかったからな。」

 「……今は、そんな姿が見れただけで満足じゃ。

  すまんかったな。まさかあんなことが起きるとは……。」

  「いや、決めたのは俺だし、俺の責任だよ。」

 

 メラは、一年前に突然道場を飛び出し、山に籠ったフレアタンのことをずっと心配していた。

 ケロタンはそんな事情を知り、興味が湧いたのもあって、フレアタンの心の内を探る役目を引き受けていたのだった。

 

 「ふっ……謙虚じゃな。

  約束通り、この勇者の石はお前に渡そう。」

 

 差し出された包みを受け取るケロタン

 布を解いて中を見ると、そこには確かに勇者の石が入っていた。

 

 「…………。」

 

 アグニスから話を聞いてから、ケロタンも個人で勇者の石について調べていた。

 そして、既に見つかっているものの内、一つがこの道場にあるという情報を入手したのだった。

 ここを訪れたのも、メラの悩みを解決したのも、全て勇者の石を手に入れる為だったのだ。

 

 「またいつかフレアタンに会ったら、気にかけてみるよ。」

 「ああ、そうしてやってくれ。」

 

 目的を果たし、ケロタンは道場を後にした。

 

 「んっ……んん。」

 

 木々に囲まれた道を歩きながら、腕を伸ばし、体をほぐす。

 

 (まだちょっと……疲れが残ってるかな。)

 

 冒険ランドの休憩所で三時間くらいしか寝てないし、まともに食事も摂っていない。

 アグランのところへ顔を出す前に、何処かの店に寄って腹ごしらえした方がいいかもしれない。

 

 「おい。」

 

 そんなことを考えていた時、男の声に呼び止められた。

 

 「っ……!?」

 

 振り返ると何かを投げられ、反射的にキャッチする。

 

 「なっ。」

 

 それはなんと勇者の石

 ケロタンは飛んできた方向へ目を向け、木々の間にフレアタンを発見する。

 

 「山で修行中に見つけたものだ。お前にやる。」

 「ちょっ、いや、嬉しいけど……いいのか?」

 

 今にも姿を消しそうなフレアタンに慌てて声を掛ける。

 

 「借りを作りたくはないからな。」

 (借り……。)

 

 もしかして、俺を守ってくれたのは木の実の件があったからなのだろうか。

 意外と義理堅いのかもしれない。

 

 「あ……なら丁度良いや。ついでに話してほしいことがある。」

 「何だ?」

 「もし願いが一つ叶うとしたら、お前は何を願う?」

 「は?」

 「夢だよ、夢。一人で修行してるみたいだけど、お前は何を望んで孤高の道を選んだんだ?」

 「…………。」

 

 少し顔をしかめ、考え込むフレアタン

 だが、すぐに仕方ないといった表情になり、話し始めた。

 

 「単純なことだ。誰よりも強くなりたい。そう思って、一人で冒険者をやっている。

  ギルドなんかに入って雑魚に合わせてたら、力がなまるからな。」

 

 それがフレアタンが仲間を作りたがらない理由か。

 そして恐らく――。

 

 「お前はその生き方を、心の底から気に入ってるんだな。」

 「…………。真の高揚というのは、誰の手も借りず、自らの力で目的を成し遂げた時、得られるものだろう?

  俺は俺の欠点を理解しているが、それでもこの生き方を変えるつもりはない。」

 「そっか。……レースが中止になって残念だったな。次はどうするつもりなんだ?」

 「出場する。一度だけならたまたまと思う奴がいるからな。」

 

 そう言うと、フレアタンきびすを返し、山の木々の中へと消えていった。

 

 「…………。」

 

 フレアタンの考えには、共感できる。

 自分も他人を邪魔に思う時があるし、一人の方がもっと上手くやれると思ったこともある。

 でも、フレアタンほど他人を排斥する気にはなれない。

 あのレースを通してはっきりした。

 

 (俺がなりたい俺は、もっと別のものだ。)

 

 ケロタンは心の中に理想の自分を思い描く。

 やがてその作業が終わると、何処か吹っ切れたような表情で歩みを再開した。

 

 (いつかあいつを超えてみせる……。)

 

 また新たな夢を抱いて……。

 

 

 ◆ アグニス城・六階・研究室 ◆

 

 「ふぅ……。」

 

 冒険ランドで起きたトラブルの事後処理について、各所に指示を飛ばし終わったアグニスは、椅子に腰掛けると、スープメーカーのスイッチを押した。

 

 《ギュイーーーーン……

 

 煮え滾った赤いスープが生成され、カップに注がれて、マグマのようにぶくぶくと泡を立てる。

 

 「……。」

 

 それを少しも冷ますことなく一気に飲み干したアグニス

 彼はゆっくりと湯気を吐き、呟いた。

 

 「…………冷め切ったものだ。」

 

 Prrr……Prrr……!

 

 その時、丁度、ブッタギリィからの連絡が入る。

 

 《Prrr……Prrr……!》《ピッ!

 

 「アグニスだ。」

 「悪い。細かく砕き過ぎちまって、魔物の残骸は回収できそうにねぇ。」

 「別にいい。生態系への悪影響はあるだろうが、分かっていれば対策も取れる。」

 「そうか……。はぁ……、倒した気がしねぇが、とりあえず、今は守れたな。あんたの御蔭だ。」

 「いや、大したことはしていない。敵の目的を考えれば、今日冒険ランドを襲わない理由はない。

  お前も読めていただろう。」

 「ああ、だがよ。タイミングや場所までは分からなかった。

  俺の身体は一つしかねぇ。あんたがある程度当たりを付けてくれたから自信が持てたし、ベストコンディションで向かえたんだぜ?」

 

 あくまでも謙虚な姿勢を崩さないアグニスに、ブッタギリィは国民に変わって賛辞を贈る。

 

 「あ、そうだ。さっき良いニュースが届いてな。ウズトグロ山に遠征に行ってた連中の件なんだが……。」

 「ん?」

 「どうも全員で仕事サボって遊び歩いてたらしい。食事やら映画館やら。

  全く……この時期に紛らわしいことしやがる。」

 「……確か昨日はホラー映画蛇影だえい』の公開日だったな。」

 「ん? 何だそれ。」

 「有名な映画監督の数年ぶりの新作だ。ネタバレを受ける前に観たいという気持ちは、理解できなくはない。」

 「それは……。だからって仕事ほっぽり出すかぁ?」

 「ほっぽり出す奴もいる。

  潰れかけの弱小ギルドなら特にな。」

 「あぁ、そうだった。

  魔物が強くなってるしな。嫌になる奴らや危険を避けようとする奴らが出てきてもおかしくないか……。」

 「…………。」

 

 アグニスは目を閉じ、あのこと・・・・を思い出す。

 

 「まぁ、そういうことで報告は以上だ。また気になることがあったら報告する。切るぜ。」

 プツッ

 

 通話を終えたアグニスは、元の席へと戻り、窓の外の景色を眺めた。

 

 (そう……今の内に潰れておくことだ。

  それが正しい時もある。)

 

 彼の冷たい視線の先――。

 遠くの空にまた、黒い雲が浮かんでいた。

 

 

第4話 End