ケロタン:勇者の石+5
◆ サボテン王国・中央広場 ◆
「何? 居ない?」
テロ達と共に城の外に出たアグニスは、ケロタンを呼びに行った兵士からの報告を聞き、驚いた。
「はい……! 隅々まで探したんですが……。」
兵士が困り顔で説明する。
まさか溺れた訳ではあるまい。
「誰か見ていないのか。」
アグニスは辺りを見回した。
ここでは他種族は目立つ。ケロタンがオアシスガーデンから出て動き回っているなら、その姿を目撃した者が必ずいる筈だ。
アグニスは兵士と手分けをし、ケロタンを見た者がいないか探すことにした。
そして予想通り、すぐに目当ての人物は見つかる。
「はい……。魔物の話をしたら、すぐに行っちゃって……。」
どうやら例のサンドワームの襲撃の話を住人達から聞いたらしい。
ついさっきケロタンは王国を出ていったようだ。
「へばったり、すっ飛んだり、忙しい奴だな。」
アグニスは溜息を吐く。
せめて一声掛けてほしいものだ。
「…………。」
それとも、一声掛けられない理由でもあるのか。
アグニスは呆れながらも、あらゆる可能性を考える。
その目の奥に赤い炎を
「……あの。ザンボは王国の東にいっぱいいるから。早く行こう!」
「駄目です、王子! ここはアグニス様達に任せましょう!」
討伐に向かおうとするテロと、何とか引き止めたい兵士達。
デーロ王の気持ちも考えれば、ここは彼らの味方をするべきなのだろうが……。
「王子の実力については確認済みだ。私が保証しよう。」
アグニスはテロの側に立つ。
「ですが……。」
「いつまでも同じやり方では国を守れない。
不安と言うなら付いてこい。少しは王子を安心させてやれ。」
アグニスの言葉を受け、顔を見合わせる兵士達。
彼らはやがて意味を理解した様子で頷くと、二人の後に続いた。
◆ サボテン砂漠・東 ◆
砂に残っていたケロタンの足跡を追う形で、車で移動すること数分。
アグニス達はサンドワームの巣へと辿り着き、魔物と交戦中のケロタンを目撃する。
「おう! 遅かったなお前ら!」
彼の周囲にはサンドワームの死骸が幾つも転がっている。
その姿は串団子のように連なったサボテン。体長は1.5m程度。
あれがザンボ。サボテン砂漠に生息する、サンドワームの亜種である。
「…………。」
まだ数匹残っているが、全滅するのは時間の問題と思われる。
だが、話に聞いていた巨大なザンボの姿が見えないのが気掛かりだ。
恐らく、よく聞かずに飛び出したケロタンはそのことを知らない。
《ウィーン》
車のドアが開け放たれると同時に、飛び出すテロ。
兵士達も急いでそれに続く。
(さて、お手並み拝見といこうか。)
アグニスはサンルーフ(天窓)から顔を出し、様子を見守ることにした。
《サァァァ……ズドォォォン!》
車から降りて間もなく、砂の中にいたザンボの一匹が顔を出し、テロに襲い掛かる。
「《トゲミサイル》!!」
――が、タイミング良くテロの背中から発射されたトゲが、全弾命中し、魔物は空中で断末魔を上げた。
一方、別のザンボが砂を盛り上がらせながら接近。
兵士達は並んで槍を構え、攻撃に備える。
《サァァァ……ズドォォォン!》
そして彼らはギリギリでザンボの突進を避け、その長い体に一斉に槍を突き刺し、動きを封じた。
《ギイィィィィ!!》
幾ら凶暴化しているとはいえ、慣れた敵との戦い。
対処法は身体に染みついているし、恐怖で動きが鈍ることはない。
しかし――。
《ゴゴゴゴゴ……ズドオォォォン!!》
お出ましのようだ。
「うおっ!? 何だあれ!?」
すっかり油断していたのか。ケロタンは砂の中から現れた一際大きなザンボを目にし、驚きの声を上げた。
その姿はザンボと似ているが、胴体はより太く長く、針もいっぱいで、体色は血のように赤く、禍々しい。体長は約10m。
「あれが親玉だ。気を抜くなよ。」
《ギシャアアアアアア!!》
口から黄色い液体を
そして物凄いスピードで移動し、ケロタンへの突進を始める!
「うわっ!」
体が硬く鋭い棘に覆われている為、少し触れるだけでも大怪我は免れない。恐らく、毒もあるだろう。
皮膚の硬いサボテン族ならばある程度耐えられるだろうが、体の柔らかいケロタンにとっては恐ろしい相手に違いない。
「アグラン! またテロか!?」
「えっ、何!?」
「…………。」
彼らの成長の為にも、ここは静観したいところだ。
「違う。だが、強敵だ。油断するなよ。」
《ズサアアアアァァァァ!!》
巨大ザンボの体がテロや兵士達にも迫る。
彼らはさっきと同じ方法で撃退しようとするが、相手の素早さと巨大さに圧倒され、かわすので手一杯。早くも統制が乱れ始めている。
「《ストーンウォール》!!」
そんな中、テロは状況を変えようと、異能を使う。
彼は目の前に岩の壁を出現させ、巨大ザンボをその壁に激突させた。
それで壁はあっさりと破壊されてしまうが、痛みはあったのだろう。
巨大ザンボは砂から顔を出し、再びケロタン達を威嚇し出した。
《ギシャアアアアアア!!》
口から放たれた黄色い液体が、砂の上でシューシューと音を立てながら気化していく。
触れた植物はドロドロだ。
《バアァァァン!!》
だが、その攻撃をケロタンは許さない。
毒液をかわし、一気に距離を詰めた彼は、《ハイパーケロダン》で魔物を怯ませ、テロ達が攻撃する隙を作る。
「《カクタスブロウ》!!」
二人の連携攻撃は見事に決まった。
緑色に発光したテロの拳が、《ハイパーケロダン》で針の折れた巨大ザンボの胴体に突き刺さり――!
《ズザザザッ!!》
拳から勢いよく伸びた数本の長いトゲがその体を貫く!
《ギイイイィィィ!!》
体に穴が空き、苦しむ巨大ザンボ。
しばらくその場で暴れるが、そこにケロタンや兵士の攻撃も加わり、遂に巨体は倒れ、動かなくなった。
「ふー、上手くいったな。」
ケロタンは額の汗を拭うと、テロに近付き話しかけた。
「うん……!」
テロも戦闘の内容に満足いったようで、笑顔で答える。
これで兵士達も一安心だろう。
アグニスも車を降り、ケロタン達の輪に加わった。
「悪くなかったぞ。相談無しにここまで連携できるとはな。」
「ってか、アグランも何かしてくれよ。」
ケロタンは不満を漏らす。
「私が手を出すまでもなかったということだ。自分達の実力を誇るといい。」
「しかし……、後ろにアグニス様がいるのといないのとでは……。」
安心感が違う――。
兵士がそう言いかけた時だった。
「おっ、おい。どうした?」
「ん?」
兵士の一人が突然その場に倒れ、荒い息を吐き出した。
「何だ?」
ケロタンとテロは驚き、固まる。他の兵士も同様だった。
「魔物の毒を吸い込んだようだな。
他に体調の悪い者はいないか?」
全員首を振る。
これは運が良い。戦いが長引いていなくて良かった。
アグニスは倒れた兵士に近付き、服の袖の球体を操作し始める。
「俺の魔法で治せないかな。」
ケロタンも毒を受けた兵士に近付き、試しに状態異常を回復させる魔法《ケロリ》を使用した。
――が、症状が改善する気配は無い。
「う~ん、強い毒みたいだ。」
「どうしよう……。」
「大丈夫だ。車に医療キットを積んである。運ぶぞ。」
倒れた兵士は他の兵士に運ばれ、車に乗せられた。
こうなると勝利の喜びも失せてしまい、ケロタン達は暗い気分で帰路に就くのだった。
◆ サボテン王国・診療所 ◆
王国に戻ったケロタン達は、一旦テロと別れ、毒を受けた兵士を診療所まで運び込んだ。
一時はどうなることかと思ったが、アグニスの応急処置により、着く頃には状態は安定していて、この分なら助かるだろうということだった。
しかし、一歩間違えれば、テロがああなっていた可能性もある。
城に戻った彼は、また父親と揉めるだろう。
ケロタンはアグニスと情報交換しながら、先行き不安な気持ちになった。
「俺はテロの言う通り、このままじゃマズい気がするんだよな。
何が起こるか分かんなくなってきたし、殻に閉じこもってるからって、周りに攻撃されない訳じゃないだろ。」
「そうだな。変化に取り残されれば、いずれ大きな力にあっさりと飲み込まれる。」
アグニスは窓の外を行き交う人々を見つめた。
「しかし、彼らは動けない。
歴史とは繰り返すものだからな。いずれまた戦争は起きるし、差別も続くだろう。
それに自分達や、後の世代が巻き込まれるのを恐れている。
「そっか……。
テロ以外はどうなのか心配だったけど、何とかなるのかな。アグランの御蔭で。」
「ああ。こうした医療の提供も、彼らと良好な関係を築く為の足がかりだ。
しかし、まだ不十分。
本格的な支援は、サボテン族への差別意識が払拭されてからでないと厳しい。」
アグニスは目を
「差別か……。そんなに酷かったのか?」
「私の国では道徳教育に力を入れているからな。あまり感じないだろうが……。
――昔は相当だったぞ。」
アグニスの声色が変わり、ケロタンは身震いする。
「ろ、ロッグ族は大丈夫だったんですかね。」
「ラド族、ノーマン、ロッグ族はとりあえずヒエラルキー上位だ。」
「一番上はラド族か……。」
生まれる種族は選べないのだから残酷だ。
「じゃあアグランもやっぱり……他の種族、差別してたりするのか?」
「ああ。」
「え?」
衝撃の答えがノータイムで返ってきたことに驚く。
「私は、差別意識を完全に無くすことは不可能だと考えている。」
「ああ、そういうことか。」
「例えばお前はサボテン族を見てどう思った?
小さい、弱そう、可愛い、変わった形をしている。
そのように見下したのではないか?」
「そうだな……。小さいのは事実だし……。」
答え辛い質問だった。
「私も同じだ。
実際劣る部分はある訳だが、とにかく、そういった意識が次々と芽生えるのを抑えることはできないだろう。
あんな種族に自分達と同じ権利を与える必要なんて無い。
あんな種族に負けたくない。
そういった意地の悪い気持ちは
「んん……じゃあ、どうすりゃいいんだ……?」
「
「は?」
「まぁ、お前にはまだ早い話だ。
とにかく方法はある。お前はお前のできることを、お前らしくやっていればいい。
それが助けになる。」
「…………。」
相変わらず、アグニスは何かを隠している。
だが、それは決して悪意のこもった何かでないことを、ケロタンは
「あのー、アグニス様いらっしゃいますか……!?」
――と。丁度、キリの良いタイミングで、兵士が現れた。
「ここにいる。何か用か?」
「はい。デーロ王がザンボ討伐のお礼がしたいとおっしゃってまして、アグニス様とケロタン様には、今日一日、王城に泊っていってもらえたらと。」
「おお。」
「そうだな。もう日が暮れてきたし、お言葉に甘えるとしよう。」
「あー。でも、アグラン。ここにいて大丈夫なのか? 狙われてるんだろ?」
「ふっ。あれから一週間。私も何もしてこなかった訳ではない。
それこそ……、
「そ、そうか……。」
そこまで言われては返す言葉は無い。
ケロタンは安心して兵士の後に付いていくことにした。
◆ 砂の城・一階・食堂 ◆
「こ、これは……。」
夕食の席、ケロタンは目の前に置かれた料理を見て、固まった。
茶色いドーム型の蓋の下から現れたそれは、紛れもなくサボテン。
「あの、これって……。」
「あぁ、サボテンステーキです。普段は棘はそのままなのですが、今日はアグニス様達にも食べていただけるよう、特別に取り除かせました。どうぞお召し上がりください。」
デーロ王が笑顔で勧めてくる。
ちゃんと見ると、確かに棘は全部抜かれているようだ。
「う~ん、興味はあったけど、あんま美味しそうに見えないな……。」
ケロタンは正直だった。
「そう言うな。案外気に入るかもしれんぞ?」
隣に座るアグニスは食べたことがあるのか、動じていない。
「じゃあ……、いただきます。」
期待半分、怖さ半分。
ケロタンはアグニスに促されるまま、切り分けたサボテンステーキのひと欠片を口に運んだ。
(う~ん……。)
青臭いし、何だかねばねばしている。味は想像通り、野菜に近い感じだが……、酸っぱい。
「俺の口には合わないかな。やっぱ肉とかの方が……。」
テロの方を見ると、彼は棘付きの物を美味しそうに食べている。
その幸せそうな顔を見ていると、自分だけ不味いものに当たってしまったんじゃないかと思えてくる。
「なぁ、アグラン。これって栄養あるのか?」
ケロタンはアグニスに小声で尋ねる。
何か少しでも食べる気力が湧くようなメリットが聞きたかった。
「低カロリーで食物繊維が豊富と聞く。意外と栄養価は高いらしい。
ただ、他の種族に提供するには、味付けや見た目に……もう一工夫必要だろうな。」
料理人の腕か、それとも好みの問題か、アグニスもやはり美味しいとは感じていないようだ。
「う~む、口に合いませんか。
なら、次。本日のメインディッシュはいかがでしょう?」
デーロがそう言うと、給仕が次の料理を運んでくる。
テーブルに乗せられ、蓋を開けられると、そこには太くて穴だらけの肉が……。
「うおっ! き――!」
思わず気持ち悪いと言いかけたが、流石に自制する。
この料理はまさか……。
「こちらは今日、ケロタンさんが退治してくださったサンドワームの丸焼きです。」
(マジか……。)
味は良さそうだが、若干グロテスクな見た目にはどうしても食欲がそそられない。
「魔物の肉……。ネットには体に悪いって書いてあるんだけど……。」
「まぁ確かにリスクはあるが、適切な処理をすれば問題無い。
その辺りの知識は伝えてあるし、毎日のように食べなければ健康への影響は無いだろう。」
「そっかぁ……。」
その後、ケロタンは頑張ってみるが、サンドワームを3分の1くらい食べたところで、ギブアップした。
いや、味は悪くなかった。寧ろ好みだったのだが、ハマってしまうのが怖かったのだ。
何で体に良いものは不味くて、悪いものは美味しいのか……。
◆ 砂の城・二階・客室 ◆
「うー、ベッドがかてぇ……。」
食事を終え、夜になり、客室で過ごしていたケロタンは、不意に寝転がったベッドの尋常でない硬さに驚き、不満を漏らしていた。
「
「これがカルチャーショックって奴なんだな。地面で寝るのと大して変わらねーぞ。」
「安心しろ。こんなこともあろうかと、ちゃんと枕や毛布を用意してきた。」
アグニスはそう言うと、魔法で二人分の寝具を取り出した。
「おお、助かる。」
ケロタンは毛布に包まり、ベッドの上に戻った。これで少しはマシになる。
「もう寝るか?」
「ああ。今日は色々あって疲れた……。」
冒険ランドの大蛇に、暑いサボテン砂漠、テロのことやサボテン王国のこと、そしてサンドワーム。
色んなことがあり過ぎたし、まだ解決してない問題も多い……。
ケロタンは深く溜息を吐く。
一週間前も大変だった。
シルシルタウンのロボットに、ヘルヘルランドの空飛ぶエイ。二回もテロが起きたのだから……。
「…………。」
二回……。
そう考えて嫌な予感が頭を
今日はもうこれ以上のことは勘弁だ。
アグニスが明かりを消し、部屋は暗くなった。
ケロタンは目を閉じ、眠ることに集中しようとする。
「…………。」
だが、じっとしていると色んなことが頭に浮かんできて、中々寝付けない。
アグニスにどうしても聞いておきたいことがあったのを思い出した。
「なぁ、アグラン。」
「ん?」
「気になることがあって眠れない。」
「何だ? 言ってみろ。」
「あれ……オアシスってどうやってできてるんだ? 砂漠で水が湧き出るなんておかしくないか?」
「いや、周囲に山があっただろう。
あそこに降った雨や、雪解け水なんかが、地下水脈を通じて砂漠を通り、地殻変動で地表に顔を出す。
そうやってオアシスは形成される。」
「へー。」
疑問の一つが消え失せる。
「それだけか?」
「いや、もう一つある。」
ケロタンは続けて尋ねる。
「前にアグラン。俺に夢や願いを聞いたけど、そういやアグランのは聞いてないなって。」
「そうだったな。」
アグニスはさして間を置かずに答える。
「私もお前と同じだ。」
「ふ~ん…………。」
つまり、無いということ……。
あの時は、アグランの狙いが分からず、本当のことを言わなかったが……、もしかして見抜かれているのだろうか。
(アグランも、俺と同じで隠すのか……。)
当然と言っちゃ当然かもしれないが……。
「他の奴にも聞いてるんだけど、ヘルシーは、願いを叶える力になんて頼りたくないって言ってたよ。
フレアタンは、誰よりも強くなりたいって言ってた。
テロはやっぱり、理想の王子になりたいとかかな。」
「…………。」
「アグラン?」
急に黙り込んだアグニスに、ケロタンは呼びかける。
「私はあまり信用しない。そういうのはな。」
「え?」
「願いを叶える力……。
それほどの大きな力が実際に目の前にあるのと、手に入らないほど遠くにあるのとでは訳が違う。」
アグニスは知っている。人の心の欲深さを。
「ケロタン。お前はどうだろうな。
もし、どんな願いでも一つだけ叶えるという力を前にしても、ウインナーを食べたいなどという願いを口にできるだろうか。」
「…………。」
「本当に願いを叶える力を前にした時、その者の真価が問われる。
そう思わないか?」
…………。
それはつまり…………。
「忠告はしておく。
勇者の石が集まってるということは、あまり言い触らさない方がいい。
情報を共有するのは、信用のおける仲間だけにしろ。」
「……。分かってる。初めからそのつもりだよ。」
「ならいい。」
「………………。」
勇者の石の力が本物にせよ、本物でないにせよ。
集めれば群がる奴らは出てくる。
それは欲望に塗れた者か、阻止しようとする者か……。
彼らと戦う覚悟が、自分にあるのか……。
「もし私が信用できないのであれば、いつでもやめればいい。止めはしない。」
「………でも、俺が集めなくても、いずれ集まるような気がするんだよな。
今、見つかってんの、十二個くらいだったっけ?」
「ああ。」
「これからどのくらいのペースで発見されてくのか知らないけど、いつかはパズルが完成する日が来ると思う。
その時、結局、大変なことになるだろ。」
「心配なら、勇者の石を破壊してしまうという方法もあるが?」
「破壊か……。」
それも何か無駄な気がする。あくまで勘だけど。
「アグランもそんなの望んでないだろ。
分からないことを分からないままにしておくなんて。」
「ああ。」
その答えに、ケロタンは満足する。
「ふわぁぁ……。」
会話が終わったところで、睡魔に襲われ、一際大きな
「いい感じに眠くなってきた……。寝るわ。」
ケロタンは隣のベッドに背を向け、寝に入る。
その様子を見たアグニスも、同じように目を瞑り、意識を深く沈み込ませた。
例え、それが
◆ 深夜 ◆
「う、ううん……。」
気持ち良く眠りについていたケロタンだったが、何故か夜中に目が覚めてしまった。
何だか腹が痛い。
「うう……アグラン……。アグラン起きてるかぁ?」
少し間を置いて返事が返ってくる。
「どうした……?」
「な、何か腹の調子が……。」
ケロタンは起き上がり、腹を押さえた。
「はぁ……、運が無い奴だ。
慣れない物を食べた所為だろうな。」
アグニスは鞄の中から整腸剤と水を取り出し、ケロタンに渡す。
「トイレ何処かな……?」
「サボテン族用のものなら一階の北にある。」
「…………。」
ケロタンは一瞬、考えるが、変な場所でするよりはマシだと思い、そこへ向かうことにした。
「はぁ……。」
夜の砂漠は冷えるので、耐寒魔法を体にかけた後、部屋を出て一階に下り、廊下を歩いて北に向かう。
トイレの具体的な場所は聞かなかったが、分かりにくい位置にないことを祈る。
「あれお~れ~……」
「ん?」
廊下を歩いていると、一人のサボテン族に遭遇した。
こちらに背を向け、俯き、何かを呟いているが……、誰だろうか?
「テロ……?」
いや、手に長槍を持っている。
多分、見回りの兵士だろう。
「あれお~れ~……」
「あぁ、御苦労さまで~す。」
ケロタンは何か良くないものを感じた為、腹を押さえ、前屈みになりながら、足早に兵士の横を通り過ぎた。
《カッ!》
その瞬間――兵士の目と口がオレンジ色の光を放つ!
「アレオ~レェエェ~!!」