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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』 第3話「廃れし学び舎」(1/5)

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  凶刃

 

 

 

  《ガタンッ……!!》

 

 

 この世は理不尽だ。

 

 

 《ブスッ……!!》

 

 

 この世は不平等だ。

 

 

 《ブスッ……!!》

 

 

 この世は残酷だ。

 

 

 《ブスッ……!!》

 

 

 何故生まれてこなければならなかったのか……。

 

 

 《ブスッ……!!》

 

 

 何故生き続けなければならないのか……。

 

 

 《ブスッ……!!》

 

 

 大量の血を浴びることもいとわず、何度も何度も振り下ろす。

 

 その度に、心が軽くなっていくような気がした。

 

 《ガタァン!!》

 

 「はぁ……はぁ……はぁ…………」

 

 声一つ発さなくなった醜い肉塊。

 それを蹴り飛ばし、鏡に映った自分の姿を見つめる。

 

 「………………。」

 

 そこには、真っ赤な血に濡れた、全く知らない人間の姿があった。

 

 自分が最も憧れ、そして忌み嫌うモノ。

 

 《バリィン!!》

 

 刃を突き立て、破壊する。

 

 亀裂が走り、細かいガラスの破片が床に落ちる。

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……………」

 

 

 

 

 

 

できることならば………… 
この体を切り刻みたい……………… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この手に握ったキョウキで………… 
何もかも変えてしまいたい……………… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、《私》はいつも思っている…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………。」

 

 硬い地面の感触に、肌を刺す冷たい空気……。

 

 暗く閉ざされていた視界に光が差し込み、《私》は、意識の浮上を自覚する。

 

 深い深い海の底から、ゆっくりと引き上げられていくかのような、不思議な感覚……。

 

 ああ……。

 

 これは…………一体何度目だろうか。

 

 もう随分、長いこと繰り返している。親しみすら覚えるほどに。

 

 半醒半睡の状態から脱した私は、ゆっくりと上体を起こし、辺りを見回した。

 

 まばたき、視界をクリアにすると、ボロボロの遊具が置かれたグラウンドに……、寂れた木造の校舎が見える。

 

 ここは……小学校だろうか。

 

 校庭の真ん中で倒れていたようで、周囲には、自分の他にも死んだように眠っている人間が何人もいた。

 

 ざっと数えると……、九人。自分も含めて、十人の人間が、今この場にいる。

 

 「…………。」

 

 今日は・・・多いな……。

 

 一人一人起こしていくのは面倒だ……。

 

 

 ――と、そんなことを思った時……。

 

 

 「…………っ」

 

 

 ぞわり……。

 

 首筋に息を吹きかけられたかのような冷たい風が吹き、青白い光に包まれた人型のもやが目の前を通り過ぎた。

 

 再度、辺りを見回すと、他にも幾つもの靄が現れていて、それらは全て、朝礼台の近くに集まっていく。

 

 

 身長的に子どもか……。

 

 この場所と合わせて考えれば、あれは小学生の霊。

 

 彼らは何処からともなく現れ、何かを運んでくる。

 

 それをよく見ようとするが、何故か頭と視界がぼやけ、理解することができない。

 

 「…………?」

 

 何をしているのか……。

 

 グラウンドの景色が変わっていく……。

 

 思考のかすみが取れた時には、飾り付けや道具の用意が終わっていて、小学生の霊達は、列を作り並び始めていた。

 

 すると、むくりむくりと……。

 

 自分の周囲に倒れていた人間達が、次々に起き上がった。

 

 彼らは目を閉じたまま、まるでゾンビか夢遊病患者のように、ふらふらと前へ歩いていく。

 

 

 ああ……。

 

 私はうつむき、目を閉じた。

 

 今日はこういう夢・・・・・か……。

 

 地獄に慣れ切ってしまった所為で、ロクな感想が浮かんでこない。

 

 

 「すぅ……はぁ……。」

 

 私は短い呼吸で心の準備を整え、立ち上がった。

 

 他の人間達に混ざって歩き、朝礼台の前に整列する。

 

 「…………。」

 

 視線を動かし、周囲の様子をよく観察する。

 

 まだ自分の他に意識を取り戻した者はいない。

 

 幸運・・なことに、見覚えのある顔も一人もいない。

 

 …………油断は禁物だが、やりやすくはある。

 

 《ザッ……ザザッ…………》

 

 「…………。」

 

 状況が動くのをじっと待っていると、校庭のスピーカーから音が漏れ出した。

 

 《キィーーン……!!》

 

 「…………っ」

 

 耳障りなハウリング音。

 

 その後に、幼い男の子の声が聞こえ出した。

 

 《これより…………第……ザザッ……回…………!

  うんどうかいを……始めます…………!

  皆さん、死ぬ気でがんばりましょう…………!》

 

 

 ああ……。

 

 彼女は思う。

 

 今日も絶対に生き残る……。どんな手を使ってでも、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  一・廃校

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 そこに、光は一切無かった。

 

 まぶたを開いても、目の前に変わらずあり続ける深い闇。

 

 ただそれを、じっと見つめるだけの時間が続いていた。

 

 それが果たしてどれほどの時間であったのか…………分からない。

 

 三分か……五分か……。

 

 意識がはっきりとし、違和感に気付くまで、だいぶ時間が掛かった。

 

 

 「………………ん……。」

 

 

 体を包み込んでいた温もりは、何処かへと消え失せていた。

 

 やけに冷えると思ったら…………枕も掛け布団も無く、硬い床に放り出された格好。

 

 寒いとまではいかないが、この体勢はキツい……。

 

 《俺》は肘に力を入れ、次に床に手を突き、ゆっくりと上体を持ち上げた。

 

 

 《ゴンッ

 

 「っい――!」

 

 頭を何かに打ち付ける。

 

 何なんだこれは……。

 

 目は開いているが、真っ暗で何も見えない。

 

 手探りで周囲を確認してみると、床は木の感触で、明らかにベッドの上ではなく、自分の部屋でないことも確か。

 

 頭を打った場所も調べると、ひんやりとした金属の感触で……どうやら机。それもこの形は、恐らく学校のもの。

 

 椅子も近くにあり、周囲にも同じセットがあるようだった。

 

 「………………。」

 

 教室……。

 

 真っ先に思い浮かんだのはそれだった。

 

 しかし、自分が知っている教室ではない。

 

 きっとまた……。

 

 

 

 「…………はぁ………………。」

 

 

 俺は頭を押さえた。

 

 これで三度目。眩暈めまいがしそうだ。

 

 現実と見紛うほどのリアルな悪夢。普通に考えて有り得ないが、こうして目の前で起こっている以上…………。

 

(受け入れるしかないか……。)

 

 理性の抵抗はあるが、ただの夢だと考える方が無理がある。

 

 

 これは……現実に起こっていることなのだ。

 

 

 「………………。」

 

 

 ならば……。

 

 

 ならば、放置しておく訳にはいかない。

 

 原因を……正体を突き止める必要がある。

 

 そうしなければ、俺は自分が生きている世界に納得できない。

 

 こんな理不尽な現象があっていい筈ない。

 

 (これ以上安眠を邪魔されてたまるか。)

  

 俺は決意を固めると、机の下から這い出て、立ち上がった。

 

 

 「………………。」

 

 

 耳をませ、周囲を警戒する。

 

 前回、前々回の悪夢から考えて、この悪夢にも怪物がいる筈。

 

 とりあえず、近くにはいないようだが、気は抜けない。

 

 俺は次に服に手を入れ、持ち物を確かめた。

 

 上着のポケットには何も無い。ズボンには……。

 

 「…………!」

  

 何か硬い物が入っている。

 

 取り出しても暗くて見えないが、この形は知っている。昨日の悪夢で手に入れたライターだ。

 

 少し驚いた。眠る時、誤作動が怖く、入れはしなかったが、ここにこうしてちゃんとあるということは……。

 

 どういうことだ……?

 

 前回の夢が終わる時、ライター以外にも懐中電灯やロープなど、色々持っていた。

 

 それらは全て無くなっているのに、どうしてこれだけ持ち越せている?

 

 そもそも入手経路自体おかしかったが……。

 

 「………………。」

 

 まぁ、ひとまずは置いておくか……。

 

 とにかく、明かりになるものがあって良かった。

 

 俺はライターの火をつけた。

 

 《ボッ……》

 

 (ん…………?)

 

 そこで少し戸惑う。

 

 てっきり黒炎が出ると思っていたのだが、ライターから出たのは、ちょろちょろとした赤く小さな炎だった。

 

 (普通のライター……?)

 

 いや、デザインは確かに前回の悪夢で手に入れたライターだ。

 

 (…………?)

 

 つけたり消したりしてみるが、一向に黒炎が出る気配は無い。

 

 これでは武器として使えない……。

 

 (そういつまでも思い通りにはならないか……。)

 

 どうする。

 

 何か他の物を燃やして松明たいまつにする手もあるが……。

 

 俺はライターの光で辺りを照らした。

 

 とりあえずここにある物で使えそうなのは椅子。

 

 ボロボロだが……、踏み台にもなるし、一つは持っていこう。

 

 と、その前に電気だ。

 

 俺はひっくり返った机や椅子の間を通り、教室前方へと移動した。

 

 かなり荒れているが、照明は無事だろうか。

 

 扉の近くで電気のスイッチを見つけた俺は、とりあえず、全てを押してみた。

 

 「………………。」

 

 反応は無し。

 

 (駄目か……。)

 

 少しでも光ってくれれば十分役に立ったのだが、仕方ない。

 

 俺は諦め、今度は窓際へと移動した。

 

 端から端まで……、締め切られたカーテン。

 

 それを開いてみるが、窓の外はやはり真っ暗で、何も見えない。存在しているのかどうかすら疑わしい。

 

 「………………。」

 

 そういえば、昨日の夢では外には出なかったが、出ようと思えば出られたのだろうか。

 

 何とか悪夢のパターンというか、ルールを掴みたいものだ。

 

 俺はその後、机やロッカー、掃除用具入れの中も調べた。

 

 役に立ちそうなものは入っていなかったが、学校にあっておかしな物も特に無かった。

 

 夢ならもっと滅茶苦茶でもおかしくないのに、世界の作りは割とちゃんとしている。

 

 これが一体何を意味するのか……。

 

 俺は思考を続けながら、出入り口の扉に手を掛けた。

 

 一旦、ライターの火を消し、あまり音を立てないよう、ゆっくりと横にスライドさせていく。

 

 《ガラララ…………》

 

 「……………。」

 

 廊下にも明かりは無く、右も左も真っ暗。

 

 (参ったな…………。)

 

 怪物のことを考えると、不用意にライターの火はつけられない。

 

 しかし、少しも光が無ければ、暗闇に目が慣れることはない。

 

 やはり、何か燃やして立てておいた方がいいか……。

 

 いや……、水が用意できない今、建物に火が移って、燃え広がったりしたら困る。

 

 「はぁ…………。」

 

 黒炎が使えればこんなに悩むこともないんだが……。

 

 怪物への対抗手段が乏しい今、慎重にならざるを得ない。

 

 俺はライターを持った手を上に伸ばし、表札を確認した。

 

 かすれているが……5……4という数字は読める。

 

 五年四組ということなら、ここは最上階か……。

 

 現在地の情報を手に入れた俺は、近くにあった椅子を掴み、廊下に出た。

 

 そして、視覚障害者が持つ白杖はくじょうのようにそれを使い、前方の床を触擦しょくさつしながら、隣の教室まで歩いた。

 

 《ガラララ…………》

 

 扉を開け、中に入り、扉を閉じる。

 

 それからライターの火をつけ、また机を調べていく。

 

 (こっちには何か良い物があるといいが……。)

 

 だが、調べ始めてまもなく、俺は固まった。

 

 

 《…………………………バァァン…………》

 

 

 「…………!」

 

 反射的な硬直。

 

 (何だ…………?)

 

 遠くから聞こえたが、自然に鳴るような音ではなかった。

 

 扉を蹴破ったような衝撃音……。

 

 (怪物か…………?)

 

 俺は姿勢を低くし、息を潜めた。

 

 

 やはり、何かがいる…………。

 

 

 「……………。」

 

 じっと耳を澄ませる。

 

 しかし、もう音は聞こえてこない。一瞬、高まった緊張は、徐々に収まっていく。

 

 遭遇する前に…………何か使えるものを見つけなければ…………。

 

 腕っ節には自信があるが、これまで人間の身体能力では到底敵わない怪物と遭遇してきた。

 

 今の状態であんなのに襲われたら、ひたすら逃げ回るしかない。こんな暗闇の中で…………。

 

 あまり想像したくない状況だった。

 

 何か小学校にある物で、武器になるような物は…………。

 

 パッと思い付くのは、給食室の包丁に、理科室の化学薬品。

 

 給食室でもし粉が手に入れば、ライターと組み合わせて粉塵爆発も起こせる。

 

 だが、どれも下の階に行かないと手に入りそうにない。

 

 先にそっちに行くべきか…………。

 

 このまま教室一つ一つを念入りに調べていくのは時間の無駄かもしれない。

 

 と、そんなことを考えていた時――。

 

 (ん…………?)

 

 ロッカーの中から思わぬ物が出てきた。

 

 懐中電灯…………。

 

 また古いタイプの物だが、スイッチを入れると、ちゃんと点灯する。

 

 消耗しているのか、少し光が弱いが、それでもライターの心許ない火よりはマシだ。

 

 (明かりに関してはこれで十分だな。)

 

 俺は懐中電灯をズボンのポケットに挿し、探索を再開した。

 

 後は武器…………。

 

 他のロッカーの中も照らし、何かないか見ていく。

 

 しかし、教室で椅子より強力な物はそうそう見つからない。

 

 (灯油ストーブとか…………無いか。)

 

 やはり、無駄に光を消耗する前に、一階を目指すべきかもしれない。

 

 そう思った俺は、出入り口に戻り、扉に手を掛ける。

 

 だが、そこで開けようと力を入れかけて…………、やめた。

 

 

 

 《ギィ……………………ギィ……………………》

 

 

 

 「…………!」

 

 床の軋む音……。誰かの足音。しかも割と近い。

 

 (もうここまで来たのか…………?)

 

 それとも別の怪物か…………。とにかく、早く身を隠さなければ…………。

 

 俺は近くの机を持ち上げ、なるべく静かに扉の前に移動させた。

 

 これですぐには中に踏み込んで来れない。

 

 そうして扉から離れた俺は、倒れている机の陰に隠れ、様子をうかがうことにした。

 

 目を閉じ、聴覚を研ぎ澄ませる。

 

 

 《ギィ…………ギィ………コン……………………ギィ…………コン…………ギィ……………………》

 

 

 「……………。」

 

 段々と近付いてくる足音。

 

 俺はしばしそれを緊張しながら聞いていたが、そのリズムは妙に不規則だった。

 

 足取りに迷いがある…………?

 

 それに、足音に混ざるコンコンという変な音は何だ?

 

 杖…………? いや…………。

 

 (これは…………椅子か?)

 

 まさか椅子を使って廊下を歩いているのか………?

 

 つまり、この足音の主も、暗闇で辺りが見えていないということに…………。

 

 想像するが、随分とシュールだ。

 

 何というか、俺は素直に怪物らしくないなと思った。

 

 どうする……? 確かめるか…………?

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、ライターを懐中電灯に持ち替えた。

 

 《ギィ……………………ギィ……………………ゴト…………》

 

 やがて、足音が扉の前に来る。

 

 《ガラララ…………》

 

 ゆっくりと扉がスライドする音。

 

 それが止まる瞬間に合わせ、俺は構えた懐中電灯のスイッチをオンにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ~ Another Side ~

               -?? ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………それは、魔法が解けたかのようだった。

 

 運動会の開会式が終わった途端、私の周囲にいた人間達は、一斉に秩序を失った。

 

 ある者は周囲を見回し、ある者は転びかけ、ある者は目をこすり、軽い混乱状態…………。

 

 (ようやく意識を取り戻したか……。)

 

 先程まで人形のようにじっと並んでいた彼らは、事態に対し、様々なリアクションを取り始めている。

 

 その様子はどれも初々しく、状況を飲み込めている者はいなそうだ。

 

 やがて困り果てた彼らは、助けを求め、次々に口を開く。

 

 「アスヒ、アスヒ…………!」

 

 「えっ?」

 

 「あぁ? 何だこれ。」

 

 「………………。」

 

 

 ほう…………。

 

 前の方にいる眼鏡の男子とポニーテールの女子は、どうやら知り合いのようで、小声で会話を始めた。

 私服姿である為、断定はできないが、恐らく、中学か高校生だろう。

 

 そして、もう一人。今、後ろの方で声を上げた男は、見た目は二十歳前後。

 蛇の模様が入った黒いダウンジャケットに、カラーレンズの眼鏡というイカついファッションに身を包んでおり、髪型はツーブロック。いかにも不良っぽく、あまり関わり合いになりたくないタイプの人間だ。

 

 彼の隣にはより目つきが悪い、強面の男が立っているが、そちらは周囲の様子を冷静に観察し、状況把握に努めているようで、好感が持てる。

 見た目は五十歳前後。年季の入ったトレンチコートを着ており、厳格な印象を受ける。

 

 「あの、ここ何処ですか…………?」

 

 「いや、私も分からなくて……。」

 

 「小学校…………みたいですけどね。」

 

 「あの青白いの何?」

 

 「…………………。」

 

 私の近くでもひそひそと会話が始まる。

 

 小柄で童顔の女に、緑色の作業服を着た男。

 

 白髪交じりの男に、ギャル風の女子。

 

 髪の長い女は、会話に混ざらず、遠くをじっと見つめている。

 

 …………。

 

 流石にこれだけ人数が多いと、誰もパニックは起こさない。

 

 現実感が無い所為で、幽霊を見てもこの反応の薄さ。いや、単に怖がりでないだけか。

 

 「…………ねぇ、周り真っ暗なんだけど、どうなってんの、ここ。」

 

 ポニーテールの女子は、辺りをきょろきょろと見回しながら疑問を口にした。

 

 彼女の言うように、壁や金網で囲まれた学校の敷地の外は闇に包まれていて、何も見えない。

 

 幾ら夜でも、街の明かりが全く無いのは不自然。それは誰でも分かる。既に記憶を辿り、夢なんじゃないかと思い始めている人間もいるだろう。

 

 (まぁ、せいぜい考えることだ。)

 

 

 《ザザッ……ザザザザッ…………》

 

 

 全員の観察を終えたところで、スピーカーからまた音が聞こえ出した。

 

 《まもなく…………! 第一種目…………目玉入れ・・・・を始めます…………!

  自分の組と同じ色のかごの前に集まってください…………!》

 

 (かご…………?)

 

 後ろを見ると、いつの間にか、赤と白のかごが用意されていた。

 

 だが、自分の組とは…………。

 

 私は服の中に何かないか調べた。

 

 「…………?」

 

 右手首に違和感がある。

 

 袖をまくって確認すると、いつ付けられたのか、赤いリストバンドが巻かれていた。

 

 どうやら自動で組分けされたようだ。

 

 私はすぐに他の人間達にリストバンドを見せた。

 

 「ねぇ、腕に何か巻かれてる。これじゃない?」

 

 それで彼らも自分の腕を確認し、どちらの組かを把握する。

 

 「は? 俺らがやんのか?」

 

 不良男はあからさまに嫌そうな顔をする。

 

 その気持ちは分かる。他の皆も顔には出さないが、同じ思いだろう。

 

 しかし、今、逃げるのは得策じゃない。

 

 私はかごに向かって歩き出した。

 

 「行くんですか?」

 

 白髪交じりの男が尋ねてきたので、私は振り向きざまに答えた。

 

 「何も分からないけど、分からない内は従っておくべきだと思う。」

 

 「…………。」

 

 全員、沈黙し、考え込む。

 

 流石にこの段階で反対意見は出ない。

 

 少し渋る者もいたが、結局、皆、他の人間の後に続き、かごの前に集まった。

 

 赤組のメンバーは、私と眼鏡の男子、ポニーテールの女子、強面の男、髪の長い女の五人。

 

 残りの五人は白組のようで、人数的には差は無い。

 

 (さて…………、問題はここからだ…………。)

 

 私はスピーカーに注目した。

 

 《………………それでは…………ルールを説明します…………!

  目玉入れは…………制限時間内に、より多くの目玉をかごに入れたチームの勝ちとなります…………!

  時間は三十秒です…………!》

 

 「目玉入れ…………。」

 

 眼鏡の男子が不安げにそのワードを口にする。

 

 多分、想像の通りだ。

 

 小学生の霊が主催する運動会など、ロクなものじゃないことは分かっている。

 

 エスカレートする前に、隙を見つけて逃げるのがいい。

 

 「はっ………はっ………。」

 

 待っていると、何処からか青白い光に包まれた女の子がやってきた。

 

 首にはホイッスルをぶら下げている。

 

 「それでは、目玉入れを始めます……!」

 

 女の子はそう言うと、開始の合図を鳴らした。

 

 《ピーッ!!》

 

 「………………。」

 

 しかし、特に音楽は流れず、無音状態。

 

 始まっているという実感が湧かず、どうしていいかも分からず、その場に異様な空気が流れる。

 

 「目玉を入れるって…………。何も転がってないけど…………。」

 

 ポニーテールの女子が地面を見ながらつぶや く。

 

 察しが悪い。

 

 いや…………、想像したくないのか。

 

 このまま誰も動かなければ、引き分けだが…………。その場合、何が起きるか分からない。

 

 《残り、二十秒…………!》

 

 カウントはしっかり進んでいるようで、男の子の声が校庭に響く。

 

 その時だった。

 

 近くにいた強面の男が、おもむろに自分の目に指を突っ込んだ。

 

 「えっ…………!?」

 

 それを見てしまったポニーテールの女子が困惑の声を上げ、他のメンバーも一様に固まる。

 

 まさか、取り出す気なのか…………?

 

 男が顔を上げると、その左目は失われ、手の上に取り出されていた。

 

 しかし不思議なことに、出血は無い。

 

 「義眼…………?」

 

 私は呟いた。

 

 「これでいいのかどうか分からないが…………。」

 

 男はそう言うと、取り出した目玉をかごに向かって投げた。

 

 それは見事、中に入り、一点となる。

 

 《残り、十秒です…………!》

 

 奇跡的だった。これは運が良い。

 

 (使える奴が味方で助かったな…………。)

 

 私はほっと胸を撫で下ろした。

 

 

 《3…………2…………1…………! 終了!

  赤組の勝利!》

 

 

 「やった……。」

 

 「あれでいいんだ……。」

 

 控えめに喜ぶ眼鏡とポニーテール。

 

 勝敗が決すると、かごが消え始めたので、強面の男は落ちてきた義眼を急いで回収した。

 

 (さて…………。)

 

 勝ってしまった訳だが、これで向こうがどうなるか…………。

 

 呆然としている白組の方に視線を送ると同時に、また男の子の声が聞こえてきた。

 

 《それでは……負けた白組の皆さんには罰ゲームがあるので、そのままお待ちください…………!》

 

  ほら、来た。

 

 《バンッ!!》

 

 「うわっ!」

 

 「いって!!」

 

 何が起きるか見ていると、白組の人間達がバットを持った子ども達に襲われ始めた。

 

 全員、一度ずつ殴られ、痛みに声を上げる。

 

 「ちょっ、何すんのよ、こいつら!!」

 

 ギャル風の女子が腰を押さえながら、激昂する。

 

 が、バットを持った子ども達は笑い声を残してすぐに消えてしまい、彼女は悔しさから歯を食いしばった。

 

 「最悪……!」

 

 「………………。」

 

 正直、もっと凄いものを想像していたが、流石に今後の競技に支障が出るような傷は与えてこないか。

 

 それなら少しは安心だが…………。

 

 私は強面の男の方をちらりと見た。

 

 「余計なことをしたか…………?」

 

 「いえ、助かりました。

  とりあえず、こうなった以上、勝つしかないでしょう。」

 

 最終結果が出た時、負けた方がどうなるかは分からない。

 

 「でも、あれ…………。」

 

 ポニーテールの女子は少し気の毒そうに白組の人間達を見ている。

 

 「気持ちは分かるけど、私はああなりたくない。チーム戦なんだから、手は抜かないで。」

 

 「まぁ……、そうだな。」

 

 眼鏡の男子は控えめに同意する。

 

 「………………。」

 

 とりあえず、これでまとまったか。

 

 髪の長い女だけはさっきからずっとぼーっとしているが、特に邪魔はしてこないので放っておこう。

 

 《ザッ…………ザザザッ…………》

 

 待っていると、また放送が入った。

 

 《第二種目は……臓物引きです…………!

  生贄を決めるので、皆さん、くじを引いてください…………!》

 

 臓物…………。

 

 さっきよりも物騒なワードが入っている。

 

 心の中で戦々恐々としていると、青白い光に包まれた少女が白い箱を持って私達の元にやってきた。

 

 「くじを引いてください。」

 

 「…………!」

 

 目の前に箱をずいっと差し出され、ポニーテールの女子は青褪める。

 

 「ど、どうしよう……。これって……。」

 

 彼女も察しがついたか。

 

 さっきの目玉入れ、特に何事も無く終わったが、本気でやったら凄いことになっていた。

 

 恐らく、今回も誰かが身を切ることになる。

 

 臓物引きで生贄というのは、そのままの意味だろう。

 

 「引かなきゃ多分、強制的に生贄ね。引きなさい。」

 

 「うっ…………。」

 

 ポニーテールの女子は諦めて箱に手を突っ込んだ。

 

 時間をかけてくじを選び、恐る恐る手を抜く。

 

 彼女が取り出したのは、小さく折り畳まれた紙。

 

 「うう…………。」

 

 小さく唸りながら、彼女はそれを開く。

 

 当たりか……それともハズレか…………。

 

 開かれた紙には……何も書かれていなかった。

 

 「これ、ハズレ……だよね?」

 

 ポニーテールの女子がそれを見せると、女の子の霊は頷き、白組の方に駆けていった。

 

 「はぁ………良かった。」

 

 ポニーテールの女子はへたり込む。

 

 私はすぐに彼女に近付き、耳打ちした。

 

 「ねぇ、そのくじ貸して。」

 

 「え? うん。」

 

 ハズレくじを手に入れた私は、それを再び折り畳み、手の中に隠した。

 

 やがて、女の子の霊が戻ってくる。

 

 「はい、引いて。」

 

 どうやら向こうもハズレを引いたらしい。

 

 普通にやれば運だが……。

 

 私はハズレくじを手の中に隠したまま、その手を箱の中に突っ込んだ。

 

 一つくじを摘み、手の中のくじと交換した後、箱から手を抜く。

 

 そして、最初に手の中にあったハズレくじの方を小学生の霊に広げて見せた。

 

 「私もハズレ。」

 

 「そっかぁ。」

 

 小学生の霊はぐにゃぐにゃと歪んだ不気味な顔を傾けると、また白組の方に走っていった。

 

 新しく引いたくじは、バレないようポケットの中にしまう。

 

 (これで良し。)

 

 少々不安だったが、バレずに済んだ。

 

 私は女の子が戻ってくる前に、残りのメンバーに小声で作戦を伝え、眼鏡の男子にこっそりとハズレくじを渡した。

 

 彼らも上手くやってくれることを祈る。

 

 やることを終えた私は、ポケットに隠したくじを開いて確認した。

 

 ハズレ。

 

 ここでもし当たっていた場合は、次の人間に箱の中に戻してもらい、二枚のハズレくじを引いてもらうだけだ。

 

 「はっ!?」

 

 (ん…………?)

 

 白組のギャルが驚いたような声を上げた。

 

 ああ……どうやら彼女が当たりくじを引いてしまったらしい。

 

 ボロが出る前に引いてくれて助かった。

 

 彼女はすぐに刃物を持った小学生の霊達に取り囲まれる。

 

 「ちょっ――」

 

 何かを言いかけたが、勢いよくぶつかってきた霊に腹を切り裂かれ、声が途切れる。

 

 「…………!」

 

 それは、一瞬の出来事だった。

 

 顔を歪ませ、うずくまるギャル。

 

 私はそれを見て、すぐに彼女の元に走った。

 

 「あ、い……いっ……。」

 

 彼女は必死に腹を押さえているが、血がじわじわと流れ出てくる。

 

 歯を食いしばり、痛みに耐えるその姿は、とても見ていられない。

 

 私は周囲の人間が驚いている内に、素早く彼女の背後に回り込んだ。

 

 「えっ……!?」

 

 涙目になったギャルの髪を掴み、彼女の頭を持ち上げる。

 

 そして私は、服の袖から取り出した――ナイフ・・・を思い切り、彼女の首に突き刺した。

 

 

 「…………!」

 

 

 頸動脈けいどうみゃくが切断され、中から大量の血が噴き出す。

 

 ギャルはすぐに意識を失い、断末魔を上げることなく、絶命した。

 

 「お、おい…………!」

 

 不良男が何やってんだとでも言いたげに声を掛けてくる。

 

 「助からないんだから、楽にしてあげたの。」

 

 私は生贄の内臓が零れないよう、痙攣けいれんしている彼女の体を仰向けにした。

 

 「……! これ、やっぱり夢なんじゃ………。」

 

 童顔の女が後ずさりながら呟く。

 

 間違ってないし、そう思った方が心が楽になると思う。

 

 私は見開かれた死体の目に手をやり、その瞼を閉じた。

 

 《それでは…………臓物引きのルールを説明します…………!

  制限時間内に、生贄の体からより多くの内臓を自分達の陣地に引っ張り出したチームの勝ちです…………!》

 

 ああ…………。

 

 もうこんなことでは大して心が動かない。

 

 私は死体の服を切り裂き、胴体に向かってナイフを振り下ろした。