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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』 第3話「廃れし学び舎」(4/5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
六骸りくがい 修人しゅうと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………。」

 

 

 目から花を咲かせた少女から逃げ、下の階に下りた。

 

 辺りを確認したところ、これ以上続く階段は無い。

 

 だいぶ寄り道をしたが、ようやく一階に辿り着けたようだ。

 

 俺は息を整え、ライターの火で暗闇を照らした。

 

 ここは上の階に比べ、電球の光が弱く、明かりがないと探索できない。

 

 

 「ふぅ…………。」

 

 

 ここで武器が手に入るといいが…………。

 

 俺はとりあえず、廊下を真っ直ぐ進んだ。

 

 見つけるべきは、給食室、それか保健室。

 

 上手くいくかは分からないが、包丁かはさみがあれば、あの花を切断できる。

 

 基本は自分の命優先だが、次に遭遇した時、まだあの女の子が生きていれば、試してもいいだろう。

 

 俺は鍵が掛かって入れないところは諦め、なるべく早足で探索を進めた。

 

 そして、突き当たりに辿り着く。

 

 

 (ここは……。)

 

 

 懐中電灯で扉の上の表札を照らすと――保健室と書かれている。意外と早く見つかった。

 

 鍵は……開いているようだ。

 

 

 《ガララ――》

 

 

 「ひっ……!」

 

 「……!」

 

 

 開けると同時に、誰かの声がした。

 

 すかさず懐中電灯で部屋の中を照らすと、ベッドのカーテンがふわりと揺れた。

 

 

 「誰かいるのか?」

 

 「あ、しゅ、修人君……?」

 

 「ん……。」

 

 

 やはり漆さんか……。もしかしたらと思ったが。

 

 俺は警戒を解き、保健室の中に入った。

 

 

 「ずっとここに?」

 

 「うん……。誰もいないし、隠れやすいから……。」

 

 

 漆さんは布団にくるまり、顔だけを出した状態でもぞもぞと動いている。

 

 

 「あれ。ところで、あの鬼は…………?」

 

 「ああ、倒しました。」

 

 「え?」

 

 「力は強かったですけど、頭を椅子で殴ったら一発で。

  念の為、これで燃やしておきました。」

 

 

 俺はライターを見せ、反応を窺った。

 

 

 「そ、そう……。」

 

 「…………?」

 

 (それだけか?)

 

 

 何故かあまり嬉しくなさそうだ。

 

 あんなに声を上げて怖がっていたのに。

 

 

 (考え過ぎか…………?)

 

 

 こんな状況で喜ぶ気力が無いだけかもしれない。

 

 

 「どうかしました?」

 

 「あ、いや……、まだ他にも怪物がいるし、油断しない方がいいと思って……。」

 

 

 例の黄色いお化けか……。確かに、油断は禁物だ。

 

 俺はテーブルに近付き、ペン立てから鋏を一本取り出した。

 

 他にも目に付いた使えそうな道具をポケットに入れ、離れる。

 

 

 「行くの?」

 

 「漆さん以外にも人がいるみたいなので。」

 

 

 朝になる前にできるだけ情報を得ておきたい。

 

 漆さんとはもう特に話すこともないので、保健室を後にするとする。

 

 

 《ギィ…………ギィ…………》

 

 

 「…………?」

 

 

 と、その時、床の軋む音が聞こえてきた。

 

 

 (外からか?)

 

 

 ちょうど出ようと思ったタイミング。またしても神経を使う事態に陥った。

 

 

 《ぼふっ》

 

 

 漆さんも聞こえたのだろう。

 

 急いで顔を引っ込め、身を隠した。

 

 

 (俺も隠れるべきか?)

 

 

 いや、もし敵だった場合、丸腰の漆さんがいるここに辿り着かれるのはマズい。

 

 ここは武器を持っている俺が囮になるべきだろう。

 

 俺はポケットから大きいカッターナイフを取り出し、キリキリと刃を出した。

 

 もう片方の手には懐中電灯を持ち、飛び出す準備を整える。

 

 

 《ギィ…………ギィ…………》

 

 

 床の軋む音を聞く限り、あの鬼教師のような怪物ではない。

 

 

 (もしかするとまた……。)

 

 

 俺は少し勢いを抑え気味に扉を開け、暗い廊下に懐中電灯の光を放った。

  

 

 「…………!」

 

 

 瞬間――驚き、後ずさる……女性の姿。

 

 足音の主は、怪物ではなかった。

 

 

 「えっ、誰……?」

 

 

 それはこっちも聞きたい。

 

 暗い中、壁伝いに歩いてきた若い女性。小柄で童顔だが、雰囲気から何となく、年下ではないと判断する。

 

 

 「あ、僕は……。目を覚ましたらここにいたんですが、あなたも?」

 

 「え、はい……。私は……校庭だけど……。」

 

 

 校庭? 外があるのか?

 

 

 「あ、あの……。その懐中電灯……。」

 

 「え?」

 

 「ちょっと……見せてくれないかな。必要で……。」

 

 

 何だ? 明かりが欲しいということか?

 

 いや、それなら見せてというのは少しおかしい。

 

 

 「いいですけど……、一旦、中で話しましょう。」

 

 

 俺は保健室に女性を招き入れた。

 

 少し怯えている風だったので、カッターナイフはしまい、ライターを取り出す。

 

 漆さんのことは紹介するか迷ったが、出てくる気配がないので、放っておく。

 

 

 「あの、それで……。」

 

 

 女性は懐中電灯を物欲しそうに見つめている。

 

 

 「渡してもいいですけど、情報と交換です。

  名前と職業、できれば住んでる場所を教えてください。」

 

 

 女性は急いでいるようで少し困った顔をしたが、余程懐中電灯が欲しいようで、全て話してくれた。

 

 名前は小川こかわ 由比ゆい横浜市の病院で看護師をしていて、実家暮らし。

 

 こちらも最低限の礼儀はと、簡単に自己紹介を済ませる。

 

 

 「あの、私、白いシールが張られた懐中電灯を探さないといけなくて……。」

 

 「白いシール……?」

 

 

 俺はすぐに懐中電灯を確認した。

 

 すると、手で隠れていた部分に赤いシールが張られていた。

 

 

 「多分、これじゃないと思います。」

 

 

 俺は女性に懐中電灯を見せた。

 

 

 「あ、これ……赤いシール? じゃあ違うのかな……。」

 

 

 …………。事情がまるで分からない。

 

 だが、白いシールが付いた懐中電灯には覚えがあった。

 

 あの時は特に気に留めていなかったが、目を覚ました階で手に入れ、鬼教師に見つかった時に手放したあの懐中電灯だ。

 

 多分、まだあそこにあるだろう。

 

 

 「あの、知ってるので案内しましょうか?」

 

 「え? ほんと……!? お願い。」

 

 「その代わり、事情を教えてくれませんか?」

 

 「でも、時間がなくて……。」

 

 「簡単で結構です。」

 

 

 焦りは伝わってくるが、聞かないままでは気持ちが悪い。

 

 

 「えっと……外で子どもの幽霊……? に変な運動会やらされてて……。

  負けたら何されるか分からなくて、それで、今、五種目の借り物競走の最中なの……。」

 

 

 成程……。懐中電灯はその借り物競走の為に用意されていた物だった訳か。運動会とは……俺の知らないところで随分と奇妙なことが起きている。

 

 しかし、赤いシールと白いシールの懐中電灯か……。

 

 

 (…………!)

 

 

 俺は、はっとして小川さんに質問した。

 

 

 「赤組と白組に分かれてます?」

 

 

 運動会なら当然、相手がいる筈だ。

 

 

 「うん。私は白組……。五……いや、四人のチームで……。」

 

 「相手は人間ですか?」

 

 

 小川さんは頷いた。

 

 

 (ってことは……。)

 

 

 赤組の借り物に、赤いシールの懐中電灯が含まれている可能性があるんじゃないか?

 

 あくまでも勘だが、そうなると、このまま俺がこの懐中電灯を隠し持っていれば、赤組の人間達は困ることになる。場合によっては勝てないまであるだろう。

 

 

 (どうする……。)

 

 

 何処かで手放し、彼らの運命を天に任せるか……?

 

 それとも、ここで会ったのも何かの縁だと、目の前の女性を救うか……?

 

 悩ましいところだ。

 

 

 

 「あの、これでいいですか……?」

 

 

 競走中の小川さんは、気が気でない様子。

 

 流石にこれ以上待たせるのは可哀想だ。

 

 

 (判断は赤組の人間に会ってからでも遅くはないか……。)

 

 「はい、十分です。行きましょう。」

 

 

 俺は小川さんを連れ、保健室から出た。

 

 運動会には巻き込まれたくないが、彼女と行動を共にしていれば、他の人間に出会った時、コミュニケーションがスムーズだろう。

 

 こちらも利用させてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
臼井うすい 康敬やすのり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《借り物競走……!

  全員が紙に書かれた物を持ち、無事にサークル内まで戻ってきたチームの勝利です……!》

 

 

 と、そう言われ始まった第五種目――借り物競走。

 

 説明が終わると、またあの青白い子ども達が現れ、赤組も白組も、彼らから文字の書かれた紙を受け取り、自分が探す物を確認した。

 

 全員一斉、ということ以外は、ルールに特に変わったところはないが……。

 

 仲間内で借り物についての情報を共有したところ、簡単な物もあれば、首を傾げずにはいられないものもあり、またも暗雲が立ち込めた。

 

 一体いつまでこんなことを続ければいいのか……。

 

 やはり向こうと話し合って、協力して引き分けにした方がいいんじゃないの……? 負けても殺されるとは限らないんだから。

 

 臼井はそんなことを思っていた。

 

 しかし、仲間の考えは違うようで……。

 

 

 「このルールなら……、人数の少ないこっちが有利だな。」

 

 

 そんなことを言われた。含みのある言い方だ。

 

 

 さっきの痛操は、かなり無理なポーズを取らされるというもので焦ったが、体の柔らかい小川さんの活躍でどうにか勝てた為、現在、二勝二敗。そりゃここも取れば逆転できるが、かなりのプレッシャーだ。何せ、物を探すとなると運が絡んでくる。必勝法なんて存在しない。

 

 どうしたらいい……。

 

 臼井はそんな感じで戦々恐々としながら、今現在、同じ白組メンバーである緑の作業服を着た男――埜鴫やしぎ ぜんと共に、校舎一階の探索をしていた。

 

 中は照明の光が弱く、びっくりするほど暗かったが、幸い埜鴫の目が良かった為、目的の場所まで簡単に辿り着くことができた。

 

 臼井が配られた紙に書かれていたのは、【1かい・人体模型の心臓】。

 

 人体模型と言えば、理科室と相場が決まっている。

 

 埜鴫の物は、【?かい・青い防災頭巾】と、場所の見当が付かない物であったが、目が良い彼なら、そんなに心配いらないかもしれない。

 

 

 「ああ、臼井さん、足元気を付けてください。」

 

 「ええ……。」

 

 

 理科室の中は床に物が散乱しており、足の踏み場が無かった。

 

 定規や顕微鏡…………ガラスの破片なども落ちているようで、転んだら怪我をしそうだ。

 

 

 「明かりは……つかないか……。」

 

 「ああ、後は自分で探せるので、行って大丈夫ですよ。」

 

 「いえ、自分の探し物もここにあるかもしれないので、手伝いますよ。」

 

 

 埜鴫は親切にそう言ってくれる。

 

 ――が、有り難くも少々複雑な気持ちだった。

 

 多分、一番年寄りということで声を掛けられたのだろうが、自分はまだまだ現役。そんなに精力的に活動している訳ではなく、運動会では今のところ役に立ててはいないが、一々心配されるレベルではないと、自分では思っている。

 

 最近ハゲてきてはいるが……。それはきっと遺伝の所為だ。自分が悪い訳ではない。うん。

 

 少なくとも、見た目で判断されるのは心外だ。

 

 

 

 「あっ、臼井さん。ありましたよ。人体模型。」

 

 「え。」

 

 

 早い。驚いて変な声が出てしまった。

 

 余計なことを考えていた所為で、先に見つけられてしまったか。

 

 

 「心臓は…………あ、外せました。」

 

 

 暗くてよくは見えないが、心臓らしき塊を手渡される。

 

 こんな状況で仲間に対抗意識を燃やしても仕方ないが、とても悔しい……。

 

 

 「じゃあ、一旦戻りましょうか。」

 

 「ん?」

 

 

 追い打ちをかけるように、更なる気遣い。

 

 

 「いや、大丈夫だから。あなたは早く防災頭巾を見つけないと。」

 

 「でも、さっき放送で無事サークル内まで戻ってきたチームの勝利って言ってたんで、何か罠がある可能性も……。」

 

 「ん……。」

 

 

 罠……。

 

 それは考えていなかった。

 

 そう言われると、少し不安になってくる、が……。

 

 

 「あぁ、大丈夫ですから。私、こう見えて空手やってるので……。」

 

 

 それっぽいポーズを取ってみる。

 

 

 「え、あぁ……そうなんですか。分かりました…。」

 

 

 

 自分が敗因になるようなことがあれば、あの男にどんな目に遭わされるか分からない。

 

 責任を取らされることがないよう、ここは一人で戻るべきだ。付き合わせる訳にはいかない。

 

 臼井はそんなことを思いながら、そそくさと理科室から出た。

 

 そして、暗い廊下をとぼとぼと歩きながら、自分の言動を思い返し、溜息を吐く。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 何だか不甲斐ない。

 

 そんな自分に嫌気が差す。

 

 

 (駄目だな、こんなことでは……。)

 

 

 ちっともパッとしない。

 

 他人と比べてどうしようもなく、劣っている気がする。

 

 これでは年寄りと思われるのも無理ないのでは……。

 

 介護、認知症、社会の害……。溢れるロクでもないイメージ。

 

 自分はそれに片足を突っ込んでいるのだろうか。

 

 ………………。

 

 

 

 思えば、最近、会社で邪険に扱われることが多くなった気がする。

 

 勤め先は大手の文房具メーカーで、収入は安定しているが、時代錯誤の年功序列に甘えているだけなので、若い社員からはうとまれているかも……。

 

 考え過ぎだとは思うが、臼井は怖くなった。

 

 まだ後、50年は生きられる可能性があるのに、このまま会社と同じく、緩やかに朽ち果てていくだけなのではないか……。

 

 考えると、とても恐ろしい……というより、悲しくなってくる。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 生きるのって辛い……。

 

 

 《ジジジジ…………》

 

 

 「…………?」

 

 

 落ち込んでいると、急に目の前が明るくなった。

 

 電球の調子が良くなったのだろうか。点滅はしているが、これなら辺りがよく見える。

 

 しかし、今更明るくなっても自分には……。

 

 

 「っ……!?」

 

 

 そう思いながら顔を上げた時――、思いがけない物が目に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

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 窓の外に、何かが浮かんでいる。

 

 丸い……。風船……? いや、違う。人の頭だ……!

 

 淡い光に包まれた生首が、ふわふわと飛んでいた。

 

 

 (何だあれは……。)

 

 

 青い防災頭巾とは、まさかあれのことなのか……?

 

 

 「……!」

 

 

 見失ってはマズいと、後を追いかける。

 

 埜鴫に伝えに戻っている余裕はない。

 

 何か一つでも手柄を立てたいという思いも後押しした。

 

 

 「はぁ…………! はぁ…………!」

 

 

 臼井は急いで窓を開け、外に出ると、低空飛行する防災頭巾に向かって手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
久丈くじょう 明日人あすひと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎一階。

 

 暗い廊下を抜け、今、自分は階段の前にいる。

 

 目的地は二階。

 

 しかし、この先には、よく分からないものが待っている。

 

 それを考えると、中々足を動かせなくて……。

 

 

 「アスヒ。多分、大丈夫だと思う。」

 

 

 階段の踊り場まで上がった響子ひびこが、上の階の様子を伝えてくる。

 

 何が起こるか分からないのに……、先に行くなんて度胸がある。

 

 さっきもそうだ。自分から進んで皆の前に立とうとした。

 

 階段を上ることすら尻込みしている自分とは大違いだ。

 

 明日人は足手まといになる訳にはいかないと、勇気を振り絞り、足を踏み出した。

 

 このまま頼ってばかりでは、男としても、友達としても失格だ。

 

 響子は気にしていないかもしれないが、引け目を感じ続けるのは気分が悪い。

 

 何とか……いてくれて良かったと思ってもらえるくらいの活躍はしないと……。

 

 明日人は考えながら進む。

 

 つまずかないよう、慎重に階段を上っていく。

 

 そして、照明が点滅する不気味な廊下に辿り着いた。

 

 

 「………………。」

 

 

 ここにいる。

 

 明日人は改めて借り物が書かれた紙に目を落とした。

 

 

 【2かい・ろうかのバケツ少年のバケツ】

 

 

 これが響子の方は、【2かい・トイレの花ちゃんの花】――

 

 同じ階なのは良かったが、最初に見た時は困惑した。

 

 

 「バケツ少年のバケツって……。」

 

 「トイレの花ちゃん……、花子さんじゃなくて?」

 

 

 そんなやり取りをした後、あの人……人形のように綺麗な女の人から、これを貰った。

 

 とてもよく切れそうな、鋭利なナイフ。

 

 何かあったら、これで自分の身を守れと言われた。

 

 何かとは……何なんだろう。

 

 あまり考えたくはない。

 

 とりあえず、見える範囲には何もいないようだが、場所が廊下ということは、角を曲がった瞬間、遭遇することも……。

 

 

 「考えてること当てようか。」

 

 「え……?」

 

 

 不意に響子が尋ねてきた。

 

 

 「何?」

 

 「無事に帰れたら、動画のネタにできる、とか。」

 

 

 響子は悪戯っぽい笑みを浮かべる。冗談が言えるくらい元気なのか。羨ましい。

 

 

 「それ、響子の方だろ。こっちは雑談とかやらないし。」

 

  「それもそっか。」

 

 

 響子にしか教えていないが、自分はゆっくり動画投稿者。

 

 やる内容は主にアニメやゲームのレビューで、たまに実況動画も上げたりするが、再生数や評価的に、中堅にあたる。

 

 一方、響子は、よく切り抜かれるほど人気のVTuber

 

 個人でやっていて、内容は主にホラーゲームの実況や雑談配信だ。

 

 

 「え、ほんとに言う気?」

 

 「んー、他にネタがなかったら言っちゃうかも。」

 

 「ほんとにあった怖い話的な……?」

 

 「そうそう、そんな感じ。」

 

 「今、冬だけど。季節外れじゃない?」

 

 「大丈夫だよ。年中ホラゲやってるし。」

 

 

 確かに……。

 

 アバターの服装は時期によって変えたりしてるみたいだが、プレイするゲームに季節感は無い。

 

 しかし、そうか、響子はホラー系のゲームを普段からやりまくってる所為で、だいぶ耐性が付いてるのかも。自分はびっくりするのが嫌でそんなにやらないが、確か最近はVRのゲームをやってた筈だ。

 

 この非現実的な状況で取り乱したりしないのは、割と納得がいく、が……。

 

 

 (感覚が麻痺してないといいけどな……。)

 

 

 危険に対して鈍感では困る。

 

 

 (まぁ、引きずり込んだ自分が言えることじゃないか……。)

 

 

 響子は見た目はスポーツ系女子だが、運動部に所属していたのは中学までで、高校に入ってからはパッタリやめている。

 

 彼女がサブカル系の趣味にガッツリハマったのは、入学からしばらくして――今から約九ヶ月前のことだ。

 

 きっかけになったのは自分。

 

 最初は好きなアニメやゲームが一致したことで、朝や昼休みとかにたまに話す仲だったが、ある日、趣味でゆっくり動画を投稿していることがバレた。

 

 お気に入りの投稿者だったということで、滅茶苦茶気に入られてしまったのだ。

 

 正直気分が良くて、それ以来、響子の知らない隠れた名作を教えたり、家に遊びに来た時は、動画の作り方をレクチャーしたりした。

 

 あの時はまさか、自分より何倍もの再生数・高評価を稼ぐほどのクリエイターに成長するとは思ってもみなかったのだ。

 

 まぁ、ゆっくり動画とVTuberじゃ、後者の方が人気が出て当たり前だし、別に後悔はしていないけど…………複雑な気持ちだった。

 

 

 「ねぇ、アスヒ。これ、幽霊に効くと思う?」

 

 

 前を歩く響子がナイフを取り出して見せてくる。

 

 

 「駄目なら逃げるしかないよ。」

 

 

 「ふふ、それなら得意。」

 

 

 ゲームの話……ではなく、実際に響子は足が速い。

 

 運動部に入っていた頃よりは衰えているだろうが、多分、逃げる時は置いてかれる。

 

 想像したくない展開だ。

 

 響子はやはり……、自分を助けようとするだろうか。

 

 ………………。

 

 

 「ねぇ、響子は、夢の存在とかじゃ…………ないんだよね。」

 

 「それ、起きてからじゃないと証明できなくない?」

 

 「うん……そうか。」

 

 

 これは夢だ……。

 

 今のところはそう思っているが、あまりにリアル過ぎて不安になってくる。

 

 痛みは感じるし、響子は本物としか思えない。

 

 しかしそうなると、複数人が同じ夢を共有していることになる。

 

 ゲームではそういう設定の作品も見たことあるが、現実にあるとは思えない。

 

 でも、無いと考えると、これは夢じゃなくて、寝ている間にさらわれてきたってことになってしまって……。

 

 

 死んだら……ほんとに死ぬってことに……。

 

 

 「あっ。」

 

 「え?」

 

 

 先に廊下の角を曲がった響子が声を上げた。

 

 何かいたのだろうか……。

 

 

 「子ども……男の子がいる。」

 

 「幽霊じゃなくて?」

 

 「多分。」

 

 

 恐る恐る顔を出すと、確かに小学生くらいの男の子が、壁を背に座り込んでいる。

 

 近くに何か……。

 

 

 (バケツ……?)

 

 

 男の子の傍にはバケツが置かれていた。よく見ると持ち手をぎゅっと掴んでいる。

 

 まさに廊下のバケツ少年…………あれが?

 

 身構えていたが、大して怖くない……。

 

 

 (いや、待て…………。)

 

 

 子どもだと思って油断するのは、死亡フラグじゃないか。

 

 外の幽霊とは違うとしても、警戒するに越したことはない。

 

 

 「…………!」

 

 

 近付いていくと、男の子はこちらに気付き、驚いた様子で立ち上がった。

 

 しかし、その手はバケツを掴んだまま、その場から逃げたりせず、こちらをじっと見ている。

 

 

 「あの……ちょっといいかな。」

 

 「何…………?」

 

 「そのバケツ、貸してほしいんだけど……いいかな。」

 

 「……! う、うん。いい……。」

 

 

 男の子はそう言うと、少しバケツから離れた。

 

 しかし、持ち手は変わらず握ったまま……。

 

 

 (…………?)

 

 

 彼は何故か、バケツを床に置いたまま、こちらが来るのを待っている。

 

 何か不自然だ。

 

 

 「え~…………っと。そのバケツ、もしかして何かあったりする?」

 

 「何もない。早く……持っていっていいから。」

 

 

 男の子は急かすように、持ち手を握り締めた手を動かす。

 

 

 

 「ねぇ…………怪しくない?」

 

 

 後ろに下がっていた響子が小声で尋ねてくる。

 

 彼女も同じ思いのようだ。

 

 ここは少し質問してみよう。

 

 

 「それ、ここまで持ってこれるかな。」

 

 「…………無理。」

 

 

 おっと。運ぶことを拒否。

 

 

 「じゃあ、持ち上げるのは?」

 

 「………………。」

 

 

 男の子は顔を伏せた。返答を拒否。

 

 これは……。

 

 

 (困ったぞ……。)

 

 

 何かあるっぽいが、あれを手に入れなければ借り物競走で勝てない。

 

 素直に事情を話してくれないと…………。

 

 このまま口を閉ざすなら、最悪、ナイフで脅すしかなくなる。

 

 

 「と……友達が…………。」

 

 「?」

 

 

 方法を考えていると、男の子が何かを呟いた。

 

 

 「友達がトイレに行ったきり帰ってこないんだけど……。

  見てませんか?」

 

 

 何か急に話を変えられた。

 

 トイレ……。トイレといえば、響子の探し物がある場所だ。

 

 

 「見てないけど……。」

 

 「…………。

  バケツが重くて動けないから、探してきてくれませんか……。」

 

 

 ああ、成程……。事情を話してくれたのか。

 

 

 「友達の名前は?」

 

 「初薔薇 咲……。」

 

 

 女の子かな。

 

 

 「アスヒ、どうする?」

 

 「う~ん……。」

 

 

 戻ってこないというのは嫌な予感しかしない。トイレには花ちゃんなるものがいるのだ。

 

 もしもの時を考えて、今の内に聞いておくべきか……。

 

 

 「友達がさ……もし無事じゃなかったら、どうしたらいい?」

 

 「………………。」

 

 

 男の子は少し悲しげな表情で俯くと、やがて答えを返した。

 

 

 「諦める……。」

 

 「そう……。」

 

 

 覚悟ができてるなら、悩む必要はない。

 

 

 「響子、トイレの方を先に済ませよう。」

 

 「うん。」

 

 

 大丈夫だ。

 

 武器はあるし、きっと何とかなる。

 

 明日人と響子は不安を抑え、トイレの方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ Another Side ~
-六骸 修人-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (あった……。)

 

 

 俺は床に転がっていた懐中電灯に手を伸ばし、まだ光を放っているそれを拾い上げた。

 

 回しながら表面を確認すると、記憶通り、白いシールが張られている。

 

 間違いない……。これだろう。

 

 

 「ありました。」

 

 

 振り返り、小川さんに差し出す。

 

 彼女はそれを受け取り確認すると、安心した様子で頭を下げた。

 

 

 「ありがとう。これで後は戻るだけだから……。」

 

 「一応、同行します。他の人からも聞きたいことがあるので。」

 

 

 まぁ、全員が急いでいるこの状況でまともに聞き込みができるとは思えないが……。

 

 借り物競走が終われば、少しはチャンスがあるかもしれない。

 

 無いなら無いで、また別の手を考えればいい。

 

 俺は小川さんと1階に戻ろうと、足を踏み出した。

 

 するとその時――。

 

 

 《ガララ――ダンダンダンダン……!》

 

 

 「…………!?」

 

 

 廊下の奥から何者かの足音。

 

 振り向くと目に入ったのは、宙に浮かぶ、黄色く光る謎の物体。

 

 

  「小川さん……!」

 

 「えっ、何……!?」

 

 

 俺と小川さんはすぐに壁に寄った。

 

 黄色く光る物体が、ふらふらと左右に揺れながらこっちに飛んでくる。

 

 咄嗟のことで武器を取り出す暇がない。

 

 

 (くっ……。)

 

 

 俺は腕を上げ、身構えた。

 

 だが、黄色く光る物体は、こちらに危害を加えることはなく目の前を通り過ぎていった。

 

 

 「ふぅ……! ふぅ……!」

 

 

 何だと思っていると、後を追うようにして、男が走ってきた。

 

 カラーレンズの眼鏡をかけた、ツーブロック。何というか、あまり印象の良い見た目ではない。

 

 彼は一瞬だけこちらを見たが、あの黄色い物体を追っているのか、立ち止まることなく目の前を通り過ぎ、階段を下りていった。

 

 

 「………………。」

 

 「今のは……?」

 

 「一応……仲間の人。

  あの人は黄色い防災頭巾を探すことになってて……。」

 

 

 黄色い防災頭巾……。

 

 今の幽霊みたいなの、速かったが、そんな感じに見えた気がする。

 

 漆さんが見た黄色いお化けというのは、あれのことか。

 

  

 「念の為、聞いておきたいんですが、他の人が探してる物は?」

 

 「えっと……赤組の方は知らないけど、残りの二人は、人体模型の心臓と……青い防災頭巾。」

 

 (つまり、白組の借り物は、白いシールの懐中電灯、黄色い防災頭巾、人体模型の心臓、青い防災頭巾の四つか……。)

 

 「…………?」

 

 (何だ? 何か引っかかる。)

 

 

 俺は頭の中で借り物を並べてみた。

 

 ………………。そうだ。借り物と呼ぶには違和感があるものが混じっている。

 

 そこら辺に落ちている物を拾っても、それは別に借り物とは言わない。ただの拾い物。

 

 誰かの所有物を持ってくるから借り物なのだ。

 

 懐中電灯は運動会の子ども達の物、防災頭巾はあの幽霊の物と考えられるが、そうなると人体模型の心臓だけは、どうも納得がいかない。果たして借り物と言えるのか?

 

 学校の物と考えればそれまでだが、ここは見たところ廃校、嫌な予感がする。

 

 

 「ちょっと急ぎましょう。」

 

 「え、うん……。」

 

 

 ゆっくりしている時間は無いと直感した俺は、小川さんを連れ、階段を駆け下りた。