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『ケロタン』第7話「墓場の森のミューバス屋敷」(1/3)

ケロタン:勇者の石+5

 

 

  最期の切れ端

 

 

 X月X日――

 

 私がこの場所に来てから、一体どれだけの月日が流れたか。それを記録するのも、今となっては意味が無くなった。

 私はもう向こう側へは戻れない。食料は底をつき、もうじきこの肉体はを迎える。

 ここでの体験を誰かに語ることも、そして名声を得ることも、最早、叶わぬ夢。

 

 だが、それは禁忌を犯した罰として、甘んじて受け入れるつもりだ。

 

 

 ただ――

 

 

 我が生涯を捧げた研究――その成果が無価値なものとなる。それだけは、それだけはどうしても耐えられない。

 私はこの研究の為に、ありとあらゆるものを犠牲にしてきたのだ。それを無駄に終わらすことはできない。

 

 

 

 故に、私はここに記す。

 

 私の最後の願いを――

 

 

 

 もし、これを読む者がいたならば、この願いを聞いてほしい。

 

 この屋敷にあるもの、全てを持っていって構わない。

 

 だからどうか、この場所から、あれを――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・墓場の森のミューバス屋敷

 

 

 「行方不明?」

 「ああ。何人かの住民が、墓参りに行ったきり、帰ってこないらしい。」

 

 アグニス・ランパード二階会議室――

 三国首脳会談が終わって落ち着く間もなく、アグニスに呼び出されたケロタンは、また新たな事件の発生を知らされていた。

 

 「墓参り……っていうと、あの森・・・だよな?」

 

 アグニス城シルシルタウンからずっと南、インド大陸東の地南東の地の丁度境目には、【マイソレウム】というがある。

 そこは死者の埋葬地として使われ、俗に墓場の森と呼ばれており、の人々がよく故人の供養に訪れるらしい。

 名前だけを聞くとおどろおどろしいイメージが湧くが、花や木々は森の管理団体によってよく手入れされていて、魔物避けの結界も張られている。その為、弔いの場として相応しい、とても静謐せいひつな場所となっているそうだ。

 

 「先日、私も調査に行ってきたが……」

 

 アグニスは虚空から円形の機械を取り出し、机の上に置いた。

 

 「これは?」

 「監視カメラ大気中に含まれる魔素の濃度を計測する機器だ。これを幾つかの木に仕掛け、変化を記録していた。」

 「それで?」

 

 アグニスは机の上に、プリントアウトした墓場の森の写真グラフを並べた。

 

 「カメラの方に問題は無いが、墓場付近の魔素の濃度が異常に濃くなっていた。特に深夜辺りが顕著だな。」

 「じゃあ、魔物の仕業……結界が機能してないのか?」

 「断定はできないが、可能性はある。警殺もこの情報から、魔物が絡んだ失踪事件という線も考え、捜査している。」

 「ふっ……。」

 

 そこでケロタンは笑う。

 

 「成程な。それで俺に話すってことは、警殺も苦戦する難事件って訳か。」

 「いや、少しでも負担を減らせればと考えている。

  この程度の事件・・・・・・・ならば、お前にも解決できるだろうと思ってな。」

 「あぁ……。」

 

 一瞬、がっくり来るが、大事な仕事であることに変わりはない。ありがたく引き受けるとしよう。

 

 「はぁ……、しっかし、墓場で行方不明とか、幽霊の仕業だったりして……。ほら、死者が寂しさのあまり、生きている家族を連れていくとか……」

 「幽霊か……。私の専門ではないが、魔科学の分野には霊科学というものがあってだな。」

 「? クソ真面目に研究してる奴がいるのか?」

 

 冗談のつもりだったが、案外真面目な顔で返すアグニス

 

 「魔科学で扱うは、一般に知られているものとは少し異なる。

  そうだな……。前にサボテン王国で戦った魔物のことは覚えているだろう。」

 「ああ、あれ……。そうだ。結局、あれの弱点って何だったんだ?」

 「太陽の光だ。

  霊体の魔物は光を苦手とする傾向にあるが、あの魔物にとっては、存在が保てなくなるほど致命的なものだった。そう作られていた。」

 「作られていた? 何ではそんな弱点残しておいたんだ?」

 「残しておかなければ、状況の制御が困難になる。急に計画を中止しなければならなくなった時、止められないではいかんだろう。」

 「まぁ、確かに……」

 「より詳しくはまた別の機会に説明してやる。」

 

 アグニスはそう言うと、機材や資料を片付け始めた。

 

 「じゃあ、今晩0時に森の入り口だ。予定は空いてるな?」

 「あぁ。あ……そうだ。テロも呼んどかなきゃ。」

 

 ケロタンは、会議室から出ていく。

 

 《ピピピ♪

 

 「ん?」

 

 ちょうどその時だった。アグニスの端末から、メールの着信音が響く。

 

 (ん。こいつは…… )

 

 「はぁ……。」

 

 差出人の名前を見たアグニスは、溜息を吐きながらメールを開くのだった。

 

 ◆ 午前0時前マイソレウムの森入り口 ◆

 

 深夜――マイソレウムの森の入り口は、城の兵士の設置した照明によって明るく照らし出されていた。

 一足先に現地に到着したアグニスが、助手達と共に墓場周辺の魔素量の変化を機器で確認している。

 現在、墓場付近の魔素量は、平常時のおよそ6倍から10倍の範囲で推移。結界が無ければ、いつ魔物が発生してもおかしくない値だ。

 

 「やはり、この時間が一番濃くなっているようだ。」

 

 行方不明者がに訪れた時間帯は警殺が捜査し尽くしている。

 この時間帯で事件解決の糸口を掴めなければ、また別の手を考えなくてはならないが……

 

 「よぉ、お待たせ。」

 

 背後から声――ケロタンテロだ。時間通りの集合となり、アグニスはひとまず安堵する。

 

 「何かいっぱいいるけど、こんな大勢で墓参りか?」

 「いや、私とお前達ともう一人だけだ。全員帰ってこれなくなったら困るだろう。」

 「は?」

 「あ~の~……。」

 

 その時、アグニスの背後から妙に間延びした声が聞こえてきた。

 

 「あぁ……、紹介する。彼女が同行者だ。」

 

 アグニスが退くと、そこには寝間着にしか見えない服を着た、横長の顔の女性が立っていた。あれは確かマクムとかいう種族だ。

 

 「ど~も~、心霊現象について研究しています~、魔科学者ユタリと申します~。」

 

 彼女はゆっくりと頭を下げる。

 

 「何処からか噂を聞き付けてきたらしくてな。

  勝手に行動されても困るので、こうして連れてきた。」

 「いや、それは別にいいけど……」

 

 なんか、あまりにも雰囲気が違うというか、とてもアグニスの同業者とは思えない。

 

 「ユタリ霊科学を専門にしている。他人の数倍の霊感を持っているらしくてな。このからの気配を感じるとか何とか……。」

 「あ~、まぁ~、そーなんですよ~。が近くにいると~すぐに分かります~。」

 「…………。」

 

 だが、ケロタンはそんなことより、彼女の馬鹿みたいにゆったりとした口調が気になった。

 

 「寝てるとこ叩き起こしてきたのか? アグラン。」

 「いや、こいつはこれで平常だ。」

 「あ~、どうぞ~、お気になさらず~。」

 

 そう言われても、会話のテンポが悪くなることこの上ない。聞いてると眠くなってくる。

 

 「……さて、じゃあ、いいな。特に質問が無ければ、出発するぞ。全員ライトを持て。」

 

 アグニスに続いて、ケロタンユタリも明かりを手に取り、の中へと向かおうとする。

 仲間と一緒に深夜の暗い森へ。肝試しの気分だ。

 

 「ん?」

 

 しかし、そこであることに気付く。

 

 「どうした?」

 

 突然、入り口のところで足を止め、周囲をキョロキョロし出したケロタン

 

 「あ~、えっと……テロは何処だ?」

 「何?」

 

 アグニスも入り口まで戻り、辺りを見回す。テロの姿が見えない。

 

 「さっきまでいたんだけど……」

 「いただろうが、よく探せ。」

 「あの~……あれではないでしょうか~。」

 

 その時、ユタリが先ほど自分達が集まっていた場所を指差した。

 

 「あ。」

 

 テロは機器の置かれたテーブルの下でうずくまっていた。

 

 「おい、どうした?」

 「ううぅ……。」

 

 テロは耳を塞ぎ、震えている。何をしているのか。

 

 「まさか、暗い森が怖いなんて言うんじゃないだろうな……?」

 「いや、ここに来るまで普通だったし……」

 

 何であれ、こんなところで子どもらしくなられても困る。

 

 「お~い、テロ、聞こえてるか? アグラン恐怖症とかじゃないよな? いてっ――」

 「はー……、幽霊に食われても知らんぞ。」

 

 痺れを切らしたアグニスは、一人で森の中へ向かおうとする。

 

 「ゆ……あ……まっ、待って……。」

 

 すると、置き去りは御免だと言わんばかりの勢いで、テーブルの下から這い出すテロ

 

 「…………。」

 

 ケロタンアグニスも、その様子を見てテロが何に怯えているか察しは付いたが、この時は大事にはならないだろうと考え、敢えて口にはしなかった。

 

 ◆ マイソレウムの森墓地 ◆

 

 それから、ケロタン達が目的地に辿り着くのはあっという間だった。

 森の入り口から墓地までは一本道なので、幾ら暗くても迷うことはない。

 しかし――

 

 「特に何も起きねーか……。」

 

 道中、異常はなく、肝心の墓場も静寂に包まれている。

 

 「…………。一応、墓参者ぼさんしゃと同じように振る舞うが、警戒は怠るなよ。」

 

 そう言ってアグニスは近くの木の前で腰を落とし、手入れをするフリを始める。何だか面倒だ。

 

 「それ誰の墓?」

 「……町で古本屋を営んでいたコタルという老婆だ。彼女は白い花が好きで、中でもお気に入りの本に出てくるオシロというが好きだった。ここに供えられているのは、その花だ。」

 「お、おう……。じゃあ、俺はあっちの方から見てみるよ。」

 

 ケロタンテロを連れ、墓場の奥へと歩き出した。

 墓石代わりの花壇をライトで照らし、異常がないか一つ一つ確認していく。

 

 「う~ん……。何だかこういうの、やっぱあんまり理解できないんだよなぁ……。いなくなった奴の為に、色々配慮して……。本人が喜ぶ訳でもないのに。」

 

 ぶっちゃけ墓参りなんて金と時間の無駄としか思えない。

 

 「まぁ、俺は家族がいないからそう思うのかもしれないけど……」

 「家族……。」

 「あ、そう言えば、テロの母さんって見なかったけど、亡くなってるか? もしかして。」

 「うん……僕が物心つく前に病気で死んじゃって……。

  もし、外の世界と交流できてたら、お母さんの病気も治ってたのかなって、よく考えちゃって……。」

 「やっぱり、母親には生きていてほしいって思うか?」

 「それは……」

 

 勿論――と言おうとしたが、テロは考える。

 もし母親が生きていたら、自分は外との交流を考えたりはせず、ケロタンと出会うことはなかったんじゃないか、と……。

 

 「今とは別の人生……それはそれで良いものかもしれないけど……。」

 「まぁ、考えてもしょうがないよな。」

 

 過去は変えられない。

 それより、幾らでも変えられる未来のことを考えた方が有意義だ。

 

 (過去に縛られるなんて、そんなの……)

 

 「お二人とも~……。」

 

 「うおっ!」

 

 突然、ライトの前に出てきたユタリに驚く。

 

 「どうしてでしょ~……? の存在は感じるのに~……全然姿が見えなくて~……」

 「知らねーよ……。」

 「ひ、ひ……ひっ……」

 

 あー、折角、別のこと考えさせてテロを落ち着かせたのに、また怯え出してしまった。

 

 「はぁ……、がいるなら早く会いたいけどなぁ……。」

 

 その後も墓場を観察したが、何の異変も起こる気配はなく、ただただ時間が過ぎるばかりだった。

 

 「……………。」

 「なぁ、アグラ~ン。何も出ねーよ、ここ……」

 「………ああ。結界はちゃんと機能しているようだな。」

 

 アグニスは、合わせていた手を解き、立ち上がる。一旦、全員合流となった。

 

 「そうなると、平常時を超える魔素は一体何処から流入しているのか。量的にこの辺りなのは間違いないぞ。」

 「何だそれ。俺を試してるのか?」

 

 ケロタンはそう言いつつも考えてみる。

 

 「う~ん……。空……から降ってきてるとか……?」

 「まぁ、ありえなくはないな。」

 

 アグニスは服の袖に付いた球体に触れ、何らかの操作をする。

 すると、空からプロペラの付いた機械が下りてきた。

 

 「勿論、ドローンを用いた調査も行っている。

  空の可能性が潰れたら、次は何処だ?」

 「えっと……地面から噴き出してるとか、誰かが変な装置を持ち込んだとか……。」

 「それは魔法で調べたが、地下に空間はなく、魔道具反応もない。」

 「じゃあ……何?」

 「ところで、テロは何処に行った?」

 「え?」

 

 後ろを見ると、付いてきていた筈のテロがいつの間にかいなくなっていた。

 

 「おい、またかよ……。」

 

 ケロタンはライトを動かし、木の裏などを調べる。どうせ、また何処かで怯えているのだろう。

 

 「無駄だ……。もうテロこの世にはいない・・・・・・・・。」

 「は?」

 

 どういう意味なのか。

 疑問に思い、振り向くと、アグニスが俯いたままこちらに近付いてきた。

 

 「アグラン?」

 「…………。」

 

 呼びかけるも反応がない。足取りも心なしか変だ。

 

 「え、あ……」

 

 瞬間、頭の中で色んな可能性が駆け巡る。

 ケロタンは咄嗟に適切と思われるリアクションを取った。

 

 「いやああああ!! やめてぇ!!」

 

 「何をやってる。これを見ろ。」

 「へ?」

 

 アグニスは手に持っていた丸い機械を見せてきた。

 どうやらレーダーのようで、画面上に4つの点が点滅している。

 

 「誰が消えてもいいように、全員に発信器を付けておいた。」

 「は? おい、いつの間に!?」

 

 ケロタンは自分の体のあちこちを調べる。

 

 「あぁ、すまん。言い方が変だったな。発信器はこのライトに付けてあるんだ。」

 「え……、じゃあ、テロは……」

 

 ケロタンは再度、辺りを見回す。だが、ライトも落ちていない。

 

 「これは~……霊界・・に引き込まれたと見るべきでしょうね~……。」

 

 その時、ユタリがすうっと現れ、見解を述べる。

 

 「ああ。こうなれば、行ってみるしかないだろうな。」

 「???」

 

 急に話が進んだことで、ケロタンは置いていかれ気味になる。

 

 「どうやらこの墓場~、不定期に霊界と繋がっている状態みたいですね~。魔素はそこから流入しているものと思われます~。」

 「開きが大きいのはこの辺りだな。運が良ければ、その内、迷い込めるだろう。」

 「えっと……そうなるまでウロウロ歩くってことか?」

 「統計的には~、霊を恐れるなど~、心が不安定な状態の人霊界に入り込みやすいみたいです~。」

 

 成程。テロは見事に条件に当てはまっている。

 

 「行方不明となった墓参者は、ここで死んだ者達のことを思い、精神の安定が崩れたのかもしれない。」

 「テロさんの場合、それに加え~、子どもであることも関係しているかもしれませんね~。

  子どもには~、大人には見えないものが見えたり~、聞こえないものが聞こえたりしますから~。」

 

 ユタリは嬉しそうに話す。

 

 「う~ん……、じゃあ、俺達の場合は……」

 「この中で一番脆いのはお前だ。」

 「え?」

 「そうですね~。ここは"道"になってもらうとしましょ~。」

 

 突然、二人に囲まれ、ケロタンは嫌な予感しかしなかった。

 

 「あの……さっきから妙に怖がらせようとしてたのって、もしかして……」

 「《ソマ・ストラァム》

 

 問答無用。

 アグニスが何らかの魔法を発動し、目の前が青い光で埋め尽くされる。そして――

 

 「お、オワァー!!」

 

 ケロタンの意識は、あえなく飛んでいった……。