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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』 第1話「焼ける悲鳴」(1/3)

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 ………………………………………………………………………………………………

 

 あれがいつのことだったかは……………どうしても思い出せない…………………

 

 ……ただ………………とても寒い日だった………それだけは覚えている…………

 

 ……多分……そう……………………「冬」……だったんじゃないかな……………

 

 …………きっと…………貴方も覚えてるよね…………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………XXXX――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               

死霊の墓標

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       

✝CURSED NIGHTMARE✝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 X月X日(X)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には、見てはいけないものがある。

 

 

 「……っ!!」

 

 

 決して知ってはならないものがある。

 

 それは知れば知るほど、深みにハマっていく……、沼のような場所。

 

 一度足を踏み入れれば、抜け出すことは容易ではない。

 

 そう、彼らは扉を開くべきではなかったのだ。

 

 

 《―――――》

 

 

 一瞬――夢か現実か、分からなくなるほどの衝撃――。

 

 先に部屋に入った年配の警官――牌槻艦働はいつきかんどうは、あまりの惨状に息をんだ。

 

 そこにあったのは、この世のものとは思えない醜い肉塊――。目を背けたくなるような地獄絵図――。

 

 濁流の如く襲い来たドス黒い空気と尋常ならざる狂気が、容赦無く牌槻の心を揺さぶった。

 

 

 「…………。」

 

 

 嫌な予感はしていた――。覚悟はできていた――。――しかし、絶対に動じないという気構えはあっさりと崩れ去った。圧倒的な経験の足りなさからくる想像力の貧困を実感せざるを得ない。

 

 

 「っ……牌槻さん……!」

 

 

 一緒に来た若い警官――船邊舵禽ふなべかじとりも目の前の光景に驚愕きょうがくし、思わず後ずさった。

 

 

 「……大丈夫だ……。早く済ませよう…………。」

 

 

 牌槻は上官として平静を保って見せたが、猟奇事件・・・・に遭遇するのは彼も初めてのことだ。正視に耐えない惨酷ざんこくを目の当たりにし、今すぐこの場から逃げ出したいという思いが頭をかすめている。

 

 ――しかし、実際にそうする訳にはいかない。

 

 牌槻つのる不安と恐怖を抑えながら、ライトで部屋の中を照らし、安全確認を行った。

 

 そして、改めてそれ・・を見た。

 

 部屋中央に仰向けに倒れている一人の人物――。その顔面は脳漿のうしょうが飛び出す程に潰れ、最早見る影は無い。一体どれだけの間、暴行を受けていたのか、その下の胴体も酷い有様で、滅茶苦茶に切り裂かれた上に、中から内臓が引きり出され、それもまたズタズタに切り裂かれている。両腕両脚も当然の如く逃されず、刺し傷だらけだ。

 

 

 「…………。」

 

 

 間違いなく……、殺されている。誰が見ても分かる程に……徹底的に。

 

 牌槻は震えた。

 

 何故ここまでする必要があるのか。

 

 今までも何度か殺された人間の死体を見たことがある。しかし、ここまで凄惨なものは無かった。

 

 牌槻せ返るような異臭にたじろぎつつも、倒れている人物に近寄り、腰を落とした。

 

 一瞬、人形の可能性も考えたが、こうして近くで見ると、間違いなく人間であると分かる。

 

 死んでいるのは一目瞭然で、脈を確認するまでもない。不謹慎だが、もしこの状態で生きていたら化け物だろう。

 

 

 「……こりゃ、今日は良い夢見れそうにないなぁ。」

 

 「あまり無茶はするなよ……。顔色悪いぞ。」

 

 「あぁ、いや、流石に吐きはしませんよ。そこまでやわじゃ……。」

 

 

 船邊も相当参っているようだが、何とか現場保存に努めようとしている。

 

 心強いものだ。

 

 それから状況を粗方確認し終えた牌槻は、無線で本部に死体発見のむねを伝え、その後、刑事ら到着までの間、部屋の様子を見て回ることにした。

 

 鑑識が来るまで断言はできないが、机や本棚はきちんと整理されている状態で、ベッドやクローゼットも荒らされた形跡は無いように見える。また、窓はしっかり施錠されているようで、この部屋の扉にも鍵が掛かっていたことから、これは……。

 

 

 「…………。」

 

 

 牌槻はますます顔をしかめた。

 

 顔の無い死体に、密室――。まるでミステリー小説に出てくるような状況だ。現実でこんなことが起こるなんて……ふざけてる。

 

 牌槻いきどおった。

 

 一体誰がこんなことを。

 

 動機は怨恨えんこんか、それとも快楽殺人か。いずれにせよ、とてもまともな人間の犯行とは思えない。

 

 牌槻の中に犯人に対する激しい怒り、そして底知れない恐怖が湧き上がってくる。

 

 

 「あっ……!」

 

 

 そんな時、船邊が声を上げた。何かを見つけたようだ。

 

 

 「は……牌槻さん、上……。」

 

 

 彼がライトで照らしているのは、丁度死体の真上。

 

 下にばかり気を取られていた牌槻は、恐る恐る天井を見上げた。驚くべきことに、天井にまで大量の血が付着している。

 

 しかし、それだけではなかった。その血は明らかに文字の形を成していたのだ。

 

 

 「……!」

 

 

 人の名前に見える――。

 

 書かれた文字を理解した瞬間、牌槻は困惑した。それはよく知っている人物の名前だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名前は他でもない――自分自身のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  一・いざな

 

 

 

 二月二日(月)

 

 

 AM7:20 六骸りくがい家二階・六骸 修人りくがい しゅうとの部屋

 

 

 

 「………………。」

 

 

 目を開けると、朝が来ていた。

 

 何が原因で目が覚めたのか……、なんてことは分からない。

 

 この朝の寒さの所為せいかもしれないし……、車や人の物音の所為かもしれないし……、或いは、その両方かもしれない……。

 

 

 「………………はぁー…………。」

 

 

 忌々しい……。

 

 今日の目覚めは最悪だった。

 

 頭がぼんやりとしていてすっきりしない……。だるい……。

 

 もし今日が休日ならば、すぐにでも寝直すところだが……、生憎あいにくと平日――学生である自分は学校に行かなくてはならない。

 

 しかし、溜息をついても身体は重たいまま。気温が低いことも相俟あいまって、とても布団から出る気になれない。

 

 せめて何時か確認しようと枕横に顔を向ける。すると、目覚まし時計の針がへの字になっているのが見えた。

 

 七時二十分――そこで、記憶が蘇る。

 

 確か……さっき見た時は真っ直ぐだったような……。

 

 ……どうやら、既に二度寝していたらしい。仕方ない……羽毛布団の暖かな抱擁ほうようから逃れられなかったのだ。

 

 誰にだってあるだろう。

 

 ……さて。もう起きなければマズい時間なのだが……、身体が全く言うことを聞いてくれない。

 

 どうしたものか……。

 

 

 「起きろ~……。起~き~ろ~……。」

 

 

 ? 不意に目覚めの呪文が聞こえてきた。この声は……姉の裁朶さばただ。

 

 俺が中々起きない日は、大抵、父さんか母さんが来るのだが……、そうか……、もうあの二人は仕事に行ったのか……。

 

 裁朶姉さばたねえが珍しく起こしに来たのも、朝飯をさっさと片付けたいからだろう。

 

 ……仕方ない、とりあえず上半身だけでも起こすか……。

 

 ――と、そう思い、枕から顔を上げた瞬間だった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ゴッ!!》 「!?

 

 右顳顬こめかみに強烈な衝撃。裁朶姉の拳が振り下ろされたのだ。

 

 

 「ほ~れ、朝だ。次こんなことがあったらおはようのドリルするからなー。」

 

 

 裁朶姉の足音が遠のいていく……。

 

 おはようのドリル……? その謎フレーズがしばらく頭から離れなかった。

 

 

 「いってぇ……。」

 

 

 俺は頭を押さえた。もう一秒早く頭を上げていれば、この痛みを味わわずに済んだだろうか?

 

 ……いや、気の短い裁朶姉のことだ。それでも手遅れだっただろう。

 

 

 「……はぁー。」

 

 

 今の衝撃で眠気が吹っ飛んだかというと、微妙なところだ。まだ頭が上手く働かない。

 

 

 「…………寒い。」

 

 

 布団から出た上半身に冷たい空気が一気にまとわりついてくる。冬は何だってこんなに寒いんだ……。

 

 すぐにまた中に潜りたい気分だが、裁朶姉に殺されかねないのでやめておく。

 

 とりあえず服は布団の中で温めておいたので、着替えはそれほど苦ではないが……、これから寒風吹き荒ぶ高校までの道のりを全力疾走しなければならないと思うと、気が滅入る。

 

 着替え終わった俺は、少しでもマシになるようにと、厚手のマフラーと手袋を用意した。

 

 そして、いよいよ鞄を持って部屋から出る。今日の授業の用意は昨日の内に済ませてあるので、後は朝飯を食べるだけだ。

 

 別に抜いても死にはしないだろうが、欠食のリスクは怖いので、やはり食べておきたい。

 

 俺は寒さに耐えながら階段を下り、ダイニングに入った。

 

 さっさと食べなければと、急ぎ足でテーブルに向かう――と、そこで問題が発生した。テーブルの上に朝食の用意がされていなかったのだ。

 

 茫然ぼうぜんとしていると、キッチンの方から片手に皿を持った裁朶姉が近付いてきた。

 

 

 「ほら。」

 

 

 乱暴に手渡された皿に乗っかっていたのは、冷凍状態の食パン一切れ。

 

 何故こんな嫌がらせをするのか。

 

 

 「早く食え。」

 

 

 そう言ってダイニングを出ていく裁朶姉

 

 心の中でマジかよと思いながら、皿の上の食える状態でない四角い物体を見つめる。

 

 ……いや、幾ら何でもこれは無理だ。

 

 見ていても状態が変化する訳でなし。俺は食パンを冷蔵庫に戻し、代わりに菓子パンを幾つか取り出して食べた。

 

 これで済ませて良いものかどうかは分からないが、時間が無いので仕方ない。

 

 朝食を食べ終えた俺は鞄を持ち上げ、再び急ぎ足でダイニングを出た。

 

 出発する前に洗面所で身嗜みだしなみを整えるか――などと思ったが、玄関の所で裁朶姉が靴を履いた状態で仁王立ちしているのが見えた。顔は無表情。

 

 これは……寝癖を直す暇はないな。

 

 俺は無言の圧に負け、裁朶姉と共に家を飛び出した。

 

 

 「ほら、後三十秒。走るよ。」

 

 

 間に合わないだろうと思い、半ば諦めながら走ったが、そうでもなかった。バスは予定時刻通りには来ないものだ。

 

 しかし、少し遅れてきたバスの中はやはり混んでおり、その有様を見た裁朶姉は露骨に舌打ちをした。

 

 バスに揺られる時間は長くなりそうだ。

 

 裁朶姉と違って、俺は救われる思いだった。中は暖房が効いていて非常に暖かいのだ。

 

 これで座れれば尚良いが、席は埋まっているので、乗車した俺と裁朶姉は並んで吊革に掴まった。

 

 

 「今日の夕食何がいい?」

 

 

 バスが発車してから少しして、不意に裁朶姉がそう尋ねてきた。適当に答えるとまた殴られそうなので、カレーと答えておく。まぁ、無難なところだろう。

 

 

 「ん……ふふ。」

 

 

 しかし、俺の答えを聞いた裁朶姉は……笑った。悪魔の微笑みだ。

 

 一体何を企んでいるのか……。

 

 色々考える……が、何も思いつかない……。やっぱり朝は駄目だ。頭が上手く働かない。

 

 情けないが、朝に弱いところは昔からどうにもならないのだ。

 

 その後、俺は特に何を考えるでもなく、バスの外を流れる景色をただぼーっと見つめていた。

 

 途中眠りそうになったが、裁朶姉に腕をつねられ、現実に引き戻された。

 

 そんなことを何回か繰り返したのち裁朶姉に脇腹を小突かれ、目的地に到着したことを気付かされる。

 

 降車の際、定期のことを忘れていて焦ったが、上着のポケットに入れっぱなしになっていたので助かった。もたついたらまた裁朶姉に殴られるところだった。

 

 ――さて、バスから降り、再び走り出した裁朶姉に、俺も続いていく。

 

 風が冷たく、涙が出そうになるが、速度を緩めず走り続ける。

 

 遅刻上等の学生を何人か追い抜き、そうして学校――浅夢あさゆめ高校に辿り着いたのは、始業の約五分前。必死になれば案外間に合うものだ。

 

 しかし、まだゴールではない。そう言わんばかりに走り続ける裁朶姉に、俺も遅れを取らずに付いていく。

 

  教室の場所は、二年生である裁朶姉が三階、一年生である俺が二階だ。

 

 

 《タッタッタッタッタッ!》

 

 

 階段を凄いスピードで駆け上がっていく裁朶姉。二、三段は飛ばしている。俺もだいぶ鍛えているので平気だが……、相変わらず女にしては体力が多過ぎだ。

 

 改めて姉に対して恐れを抱く。

 

 だが、そんな裁朶姉も流石に途中で力尽きたらしく、二階の所で少し立ち止まって休んでいる。

 

 ――と、思ったが、どうやら違ったようだ。俺のことを待っていたようで、別れる前に鋭い目つきで睨みつけてきた。

 

 こちらに全面的に非がある以上、萎縮いしゅくするしかない。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 裁朶姉の姿が見えなくなってから溜息を吐く。

 

 朝っぱらから心身共に疲れ果てたが、何とか遅刻せずに済んだ。

 

 は少々暴力的だが、しっかり助けてくれるからどうしても嫌いにはなれない。

 

 好きにもなれないが。

 

 俺は深く息を吐き、気持ちを切り替え、自分の教室の扉に手を掛けた。I組の教室は階段のすぐ近くなので楽だ。

 

 どうやら暖房はまだ点いていないらしく、中に入っても肌に感じる空気の温度は変わらなかったが、それは別に良い。

 

 俺は窓側から二列目の一番後ろに位置する自分の席へと向かった。

 

 

 「ふー……。」

 

 

 席に着いた俺は、早速、襲い来る睡魔と闘い始めた。今は寒さが加勢してくれるが、暖房が入ったら大変だ。滅茶苦茶眠くなるから。

 

 俺はヒンヤリした机に顔を当てた。授業中に眠るなんて恥をさらしたくはない。

 

 

 「修人君、眠そうだね……。」

 

 「ん?」

 

 

 うつ伏せていると、不意に声を掛けられた。顔を上げると、目の前に目玉がプリントされた奇怪なアイマスクをした少女が立っていた。後ろにはもう一人。

 

 

 「早く寝た方がいいよ。じゃないとこの季節は辛いから。」

 

 

 いつもの二人。後ろの男は兄の裂俄泗 祀さきがし まつる、目の前の女は妹の裂俄泗 祓さきがし はらえ。双子らしい。友達という訳ではないが、最近よく話しかけてくる。

 

 

 「お前ら元気そうだな。……あー、今朝、寝坊してたら裁朶姉におはようのストレート喰らっちまってさ……。次はドリルらしい。」

 

 

 俺は痛そうに頭を押さえた。いや、実際まだ痛む。触るとズキズキする。

 

 

 「うわ~、怖いね……。」

 

 

 は苦笑しながら言った。

 

 

 「大丈夫?」

 

 

 は心配そうに俺を見てくる。

 

 ……こいつらは、何故か俺を怖がらない。噂に踊らされない奴には好感が持てるが……。

 

 実は裁朶姉は、この浅夢高校の生徒の間で《魔女》や《番長》などと呼ばれ恐れられているのだ。

 

 俺が入学する前の話なのだが、何でも当時問題行動が目立っていた男子生徒のグループが、裁朶姉に何かちょっかいを出したらしい。

 

 そうと聞いた時点で、俺はそいつらがどうなったかを瞬時に理解した。

 

 勿論、ボコボコだ。小さな頃から一緒だった俺には分かる。

 

 しかし、そいつらがその後、退学になったと聞いた時は、流石に驚いた。

 

 裁朶姉がそこまで関わったのかは謎に包まれているが、未成年喫煙や飲酒が発覚したとのこと。

 

 まぁとにかく、俺はたった一人で一組織を壊滅させた女の弟な訳だ。当然、入学当初から何をしなくとも近寄り難い存在になっていて、話しかけてくるのは入学前から俺をよく知っている奴だけだった。

 

 それで困ったかというと――、そうでもない。

 

 眠れる獅子とされるのは別に悪い気分じゃないし、群れるのがあまり好きじゃない俺にとっては、人が寄って来ないという状況は寧ろ都合が良い。

 

 別に人と関わるのが嫌いという訳ではなく、付き合う相手は慎重に選びたいと、そう思っているだけだ。

 

 

 《キーンコーンカーンコーン……!》

 

 

  話をしていると、チャイムが鳴り、二人は足早に自分の席に戻った。

 

 それから間もなくして、担任が教室に入ってきた。

 

 

 「起立……! 礼。」

 

 

 学級委員が号令をかけ、全員起立。そして――。

 

 

 「〇✕△ございます……。」

 

 

 やる気の無い挨拶がなされ、全員着席。いつも通りの光景だ。

 

 しかし、先生の表情はいつもと少し違っていた。やけに真剣な目をしている。

 

 

 「はい、えー、少し静かに。重大な報告があります。」

 

 

 

 

 

 

 

 PM3:30 浅夢高校・校門前

 

 

 「ふぁ~……ヴッ!?」

 

 校門の前で欠伸あくびをしていると、背中を誰かにぶっ叩かれた。

 

 誰だいった……いや、俺を突然ぶっ叩くような人間は、この学校に一人しかいないか。

 

 

 「何しけた面してんだよ。」

 

 

 振り返ると、やはり裁朶姉だった。

 

 しけた面って……そりゃ今の衝撃で欠伸が引っ込んだからだよ。気持ち悪いんだよ。

 

 俺は文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、裁朶姉は夕食の材料を買ってから帰ることを早口で伝えると、すぐに行ってしまった。

 

 ……口調もちっとも女らしくない癖に、家事、しっかりやってるんだよな……。

 

 裁朶姉にこんな一面があることを他の奴らが知ったらどうなるだろうか?

 

 まぁ、当然驚くだろう。俺だって未だに納得いかないぐらいだし。

 

 あぁもしかしたら魔女ってことで、大きな壺か何かで怪しげな薬品を調合している姿を思い浮かべる奴がいるかもしれない。それかもしくは、キレて包丁をぶん回す姿を想像するとか――。

 

 ……そんな感じで、結局、裁朶姉の扱いが劇的に変わるということは無いんだろうな。

 

 

 「…………はぁ。」

 

 

 本日何度目か分からぬ溜息。

 

 しかし、それは裁朶姉が原因ではない。授業の疲れの所為でもない。そして冬の寒さの所為でもない。

 

 

 「修人!」

 

 

 名前が呼ばれた。やれやれ……、ようやく来たようだ。

 

 

 「遅いぞ、藤鍵ふじかぎ。」

 

 「悪い、ちょっと色々あってさ。」

 

 

 こいつは藤鍵賭希ふじかぎ とき。俺が待っていた人物で、今現在、俺の唯一の男友達だ。

 

 

 「白城しろじろマンションだったか。」

 

 「あぁ、うん。」

 

 

 何故俺がこいつのことを待っていたか。それは勿論、頼まれたからだ。

 

 ――自殺した友達・・・・・・のことを調べるのに協力してほしいと。