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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』第5話「追跡者の地下水道」(2/5)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ~ Another Side ~

               -藤鍵ふじかぎ 賭希とき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PM5:20 白城マンション一〇六号室

 

 

 

 《ピンポーン》

 

 「ん、来たかな。」

 

 

 猫の相手をしながら待っていると、チャイムが鳴らされた。

 

 少し前に用事が済んだからすぐに向かうとのメールが来てたので、修人だろうか。

 

 渡取さんが立ち上がり、玄関へと向かう。

 

 

 「あ、こんにちは、藤鍵いますか?」

 

 「うん、坂力君の猫も一緒にいるよ。」

 

 

 良かった。修人だ。

 

 声を聞き、俺はほっとした。これでようやく家に帰れる。

 

 

 「こいつか……。」

 

 

 部屋の中に入ってきた修人は、猫の前でしゃがみ、観察を始めた。

 

 

 「特に何処も怪我はしてないみたいだな……。」

 

 「うん、餌はもうあげたし――。ああ、余った分は全部持っていっていいから。」

 

 「ん? 自分で用意したのか? 

  幾らかかった?」

 

 「いや、気にしないでいいよ。

  あっ、猫の種類だけど、さっき携帯で調べたら、セルカークレックスってのに似てて……。」

  

 「セルカークレックス……。」

 

 

 修人は手帳を取り出し、メモを取る。

 

 

 「じゃあ……、一旦俺のところで預かるが……。

  本当に持っていっていいんだな? この道具。」

  

 「俺より修人の方が上手く世話できるだろ。

  それにウチは親が厳しいし……。」

 

 

 父親も母親も倹約家なので、ペットなんてOKする筈がない。

 

 

 「………分かった。」

 

 

 修人はペット用品の入った袋を持ち上げて、脇に抱え、猫は自分の鞄の中に入れた。

 

 

 「じゃあ、俺達はこれで。」

 

 「うん、何かあればまた気軽に来てくれていいから。

  しばらくは遠出の予定ないし、午後なら時間余ると思う。」

 

 「はい。」

 

 

 渡取さんに軽く頭を下げ、玄関へ向かう修人の後に付いていく。

 

 外に出ると、辺りはもう暗くなってきていた。冬は日が落ちるのが早い。

 

 

 「猫って自転車に乗せて大丈夫だったか?」

 

 「あー、調べたけど、食後はあんまり良くないみたい。」

 

 「はぁ……、ここから歩いて帰るとなると遅くなるな……。」

 

 

 修人は溜息を吐いた。

 

 

 「あ、そういや修人。

  さっき猫を捕まえた時、轆轤に会ってさ。」

 

 「轆轤? ああ……、あの赤い髪の。」

 

 「またしつこく追ってきたんだけど、どうも猫嫌いみたいで、連れてるのみたら勝手に離れていってさ。かなりビビってた。」

 

 「ふ~ん……。」

 

 

 あんまり興味が無さそうな反応。

 

 

 「修人の姉さんに教えてあげたら?

  まぁ、既に知ってるかもしれないけど。」

 

 「そうだな……。

  ついでにお前を追いかける理由も聞いてやろうか?」

 

 「知ってるのかな……。それなら知りたいけど。」

 

 「こんなにタダで貰ったからな。何か返さなきゃ落ち着かない。」

 

 

 修人は自転車のかごに鞄を乗せ、足を上げて跨った。

 

 

 「なぁ、修人。

  その猫ってどれくらい重要なんだ?」

 

 「まだ何とも言えない。家に帰ってじっくり考えてみる。

  猫が外に逃げてるのは、不自然・・・だからな。」

 

 「不自然……。」

 

 

 やっぱり、修人には俺には見えないものが見えているのか。

 

 

 「何か気付いたら連絡する。

  それじゃまたな。」

 

 「うん、また。」

 

 

 ライトを点灯させた修人は、そのまま自転車をこぎ、マンションの外へと出ていった。

 

 

 「………………。」

 

 

 少しは力になれただろうか。

 

 俺は修人の姿が見えなくなった後、自転車に跨り、ハンドルの上に突っ伏した。

 

 何か間違えていないか、ちゃんと役に立っていたか、自分の言動を思い返す。

 

 

 「ふー……。」

 

 

 多分、大丈夫だろう。

 

 配慮の足らない部分はあったが、それは次から直していけばいい。

 

 

 (帰ろう。)

 

 

 安心した後、俺は自転車をこいで、帰路に就いた。

 

 ……………。修人を失望させることだけは、絶対にダメだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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           ~ Another Side ~

               -六骸りくがい 修人しゅうと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PM6:00 六骸家二階・六骸 修人の部屋

 

 

 

 「はぁ…………。」

 

 

 自分の部屋に鞄を下ろし、椅子に座って、一息つく。

 

 

 (疲れたな……。)

 

 

 漆 爽一郎の死に、坂力の飼い猫の発見――

 

 想定外のことが2つも起き、だいぶ予定が狂ってしまった。

 

 腹は減っているが、夕食の前に猫のことを片付けなくては……

 

 俺はとりあえず鞄を開け、猫を外に出してやった。

 

 急に家が変わってどんな反応を見せるのか。

 

 じっと観察していると、きょろきょろしながら、部屋の中を歩き回り始めた。

 

 

 「………………。」

 

 

 特に体調を崩しているようには見えない……が、俺は動物を診るプロじゃない。

 

 猫は環境の変化を非常に嫌う生き物だということは知っている。平気そうに見えてもストレスを抱え込んでいるということはあるだろう。

 

 

 (一度は獣医か、詳しい人間に診てもらった方が良いだろうな……。)

 

 

 それまであまりストレスを与えないよう、飼い方のノウハウは後でしっかり調べておこう。

 

 

 (さて……。)

 

 

 考えたいのは、この猫は一体どのタイミングで外に逃げたのかということ。

 

 坂力が自殺するよりずっと前か。

 

 自殺する直前か。

 

 それとも自殺した後か。

 

 これまでの調査から、自殺した後の可能性は低いと思われる。

 

 仕切り扉は坂力の体で塞がっていて通れない状態だったし、渡取さん達、野次馬の目、警察の手から逃れて外に逃げ出すことができるとも思えない。

 

 すると、少なくとも自殺の前――

 

 事故か意図的か……

 

 もし坂力が自分の意思で逃がしたのだとしたら、そこには何らかの意図がありそうだ。

 

 例の遺書の内容と繋がらないだろうか?

 

 

 《俺の死が無駄に終わった時は。その時は、任せる――》

 

 

 坂力の交友範囲は狭いことが分かっている。

 

 わざわざ捨てられてた猫を拾って飼い続けていたことから、何らかのメリットがあったか、仲間意識が芽生えていてもおかしくない。

 

 この猫に特別な何かがあるのか。

 

 オカルト寄りの考えだが、もうそういったことを排除しないと決めた。

 

 しばらくこの猫を傍に置いて、何が起きるか、観察を続けてみたい。

 

 そもそも捨てられてたというのが、嘘っぽい。坂力がそう説明したってだけで、本当かどうか怪しいものだ。

 

 今のご時世に、道端に動物を捨てるというのはかなりのレアケースだろう。

 

 愛護動物の遺棄は確か、一年以下の懲役または100万円以下の罰金だった筈だ。

 

 誰が何処から見ているか分からないのに……。まぁ、夜中なら比較的リスクが少ないが……。確か時期はクリスマスとか言ってたかな……。

 

 

 「………………。」

 

 

 坂力が自分勝手に捨てるとは思えない。

 

 絶対に何か深い理由がある筈だと考えるのは、買いかぶり過ぎだろうか。

 

 

 (特別……特別な存在……特別な力……。)

 

 

 猫も悪夢を見ていた可能性……。夢の中で坂力と共闘関係であった可能性……。

 

 いや、猫が遺書の内容を理解できる訳ないし、あり得ないか……。

 

 少々、妄想が過ぎたかもしれない。しかし、可能性は捨て切れない。

 

 常識に無いことが、既に起きているのだから。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 PM6:05 六骸家一階・ダイニング

 

 

 

 「ふぅ…………。」

 

 

 夕食を摂りながら、携帯で猫の飼い方を調べていく。

 

 とりあえずは、部屋から出さずに少しずつ新しい環境に慣れさせていくのが良いらしいが……

 

 

 (気を付けなきゃならないことが多いな……。)

 

 

 構い過ぎないことは良いとして、危ない物を片付けたり、いつでも飲める清潔な水の用意、定期的なブラッシングなど……

 

 これはチェックリストを作っておいた方が良いだろう。遅くまで作業詰めになりそうだ。

 

 

 「はぁー……。」

 

 

 こんなにすぐに見つかるとは思ってなかったから、全然準備ができていない。

 

 まぁ、ストレスがかかれば、悪夢で能力を発揮しやすくなるので、都合は良いのだが……。

 

 

 (道具は足りてるか……?)

 

 

 不足しているものは買わなきゃならない。そうなると、結構な出費になるだろう。

 

 いつまでも飼い続けるつもりはないから節約したいが、それで病気になられても困るので、難しいところだ。

 

 

 (裁朶姉にも手伝ってもらうか……。)

 

 

 いや、しかし、平日の日中、家に誰もいなくなる。何かあった時、対処が遅れるという問題は残る。

 

 しかも、セルカークレックスは甘えん坊で寂しがり屋な性格ときた。

 

 

 (誰かに預かってもらうことも考えなきゃ駄目か……?)

 

 

 その場合、その誰かを巻き込むことになる。

 

 渡取さんは事情を知っているし、断らないと思うが、仕事の邪魔になるだろうし、何より家の距離が遠過ぎる。

 

 

 (う~ん……。)

 

 

 ずっと家にいてくれる人間・・・・・・・・・・・・でもいれば……。

 

 

 (家事代行サービスってペットの世話もやってくれるんだったかな……? いや、でも高いだろうな……。母さんは……)

 

 

 「ん?」

 

 「いや、何でも……。」

 

 

 台所の母さんと目が合ってしまい、すぐに逸らす。

 

 よくよく考えると、坂力も日中は留守にしてただろうし、猫も慣れてる可能性はある。そんなに心配する必要はないかもしれない。

 

 まぁ幸い、明日明後日は休日だ。猫の様子を見ながらじっくり考えるとしよう。

 

 

 《がたっ》

 

 (ん。)

 

 

 考えに一区切りついたところで、夕食を食べ終わった裁朶姉が立ち上がり、食器を片付け始めた。

 

 こっちはまだ半分も進んでいない。自分もさっさと済ませなければ……

 

 と、思ったところで、藤鍵との約束を思い出した。

 

 

 「あ、そうだ裁朶姉。

  藤鍵が気にしてるんだが、轆轤が藤鍵を追うのって、何か理由があるのか?」

 

 「…………。知らない。」

 

 「そうか……。」

 

 

 裁朶姉はこちらを向くことなくそう返し、食器を台所に置きに行った。

 

 興味が無いんだろうな。

 

 ――と、そう思ったが、すぐに戻ってきて、続きを話し始めた。

 

 

 「でも、あの子って、かなり子どもっぽいでしょ。」

 

 「ん、ああ、それは見てて感じる。」

 

 

 他人と楽しそうに取っ組み合ってるところとか、運動系の部活で心身を鍛えられてる割には行動が幼い。

 

 そういう気質なのか。

 

 

 「多分、逃げる相手を追うのが楽しいんじゃない?」

 

 「遊んでる……? いじめってことか?」

 

 「そういう見方もできる。

  まぁ、他人との距離の詰め方が分からないだけだと思うけど。」

 

 「…………。」

 

 

 多分、それだろう。

 

 藤鍵のことが気になったきっかけは分からないが、恐らくは些細なことだ。

 

 

 (放っておいた方が良さそうだな……。)

 

 

 藤鍵には適当に話しておこう。この先、二人が友達と呼べる関係になるかどうかは分からないが、その可能性を潰してしまうのは惜しい。

 

 ……………。

 

 できればあいつには、俺のことなんか気にしないで、別の関係を構築していってほしいし……。

 

 そうすれば、次第に俺の存在が小さくなっていき、やがて気にならなくなるだろう。

 

 

 (あいつ気付いてんのかな……。)

 

 

 俺とつるむようになってから、藤鍵はロクに友達を作れなくなった。

 

 大して頭も良くないのに、俺の影響で中途半端に他人を警戒するようになって……。

 

 きっと誰が信頼できる人間なのか判断できず、安全な俺との関係に依存してしまっている。

 

 様子からして、坂力と本当に友達と呼べるまでの関係だったのか疑わしい。

 

 

 (馬鹿だよな……。)

 

 

 あいつには向いていない。絶対に合わない生き方だ。

 

 人間、生まれ持った性質というのは変えられず、性格も約50%が親からの遺伝。

 

 どうしても、得意、不得意なことがあり、相応しい夢、不相応な夢があるのだ。

 

 親となる人物は、それを早い内に見極め、自分勝手な願望は捨て、長所を伸ばしていってやる必要がある。

 

 しかし……

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 失敗している。あいつは俺のような生き方をするべきではなかった。一緒に過ごすべきではなかった。

 

 そう思ったから、小学校を卒業する前、縁を切ろうとした。

 

 しかし、それが駄目だったのか、あいつは俺の元に戻ってきてしまった。

 

 この先もあいつが俺の傍に居続ける選択をするのなら、いつか俺は本気であいつを突き放さなければならないかもしれない。

 

 そうしてやるのがあいつの為、恩人への最大の恩返しになる。

 

 いや……、というより、道を誤らせてしまったことの贖罪か……。

 

 

 「………………。あ、そうだ……。

  これも藤鍵が言ってたんだが、轆轤って、猫が苦手らしい。」

 

 「…………。へぇ……。」

 

 

 聞いて、悪魔のような笑みを浮かべる裁朶姉。

 

 他人の弱みは大好物……。

 

 轆轤に恨みはないので、少しだけ申し訳ない気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【件名:縺ゅ↑縺溘?蛟倶ココ諠??ア縺悟些髯コ縺ォ縺輔i縺輔l縺ヲ縺?∪縺】

 

 

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 PM7:00 六骸家二階・六骸 修人の部屋

 

 

 

 (天寿教てんじゅきょう……。)

 

 

 夕食を終えた後、部屋に戻った俺はパソコンを起動し、調べ物の続きをしていた。

 

 猫のことや、悪夢に関すること……。

 

 特に気になっていることは、前回の悪夢の中に名前が出てきた、御社おやしろ 未練みれん光神こうがみ メサイアの二人。

 

 まずは御社 未練の方から。試しに検索にかけてみたところ、結構な数引っかかった。

 

 

 (一応、実在はするか……。)

 

 

 横浜市内に拠点を持つ新興宗教団体――「天寿教」の教祖の名前……。

 

 

 (宗教……。)

 

 

 そのワードが出てきたところで警戒してしまうのは、やはり怪しげなことをしているイメージが強いから。

 

 小説や漫画、アニメやゲーム……。あらゆる作品で裏のある組織として描かれているし、実際、その通りに信用のおけない団体が多い。

 

 目的は本当に人々の救済なのか。

 

 宗教法人はかなり税金面で優遇されると、昔、父さんから聞いたことがある。

 

 幹部達が信者から巻き上げた金で豪遊する姿は、ありありと目に浮かぶ。

 

 しかし、先入観は一旦、排除だ。そうしなくては、真実を見抜くことはできない。

 

 俺は検索結果の一番上に表示された、天寿教の公式ホームページをクリックして開いた。

 

 すると、真っ白になった画面の中央に、少し不気味な目のマークが表示され、瞬きのアニメーション。

 

 同時に画面も黒く閉じ、開くとそこに様々な項目が表示された。

 

 

 (凝ってるな……。)

 

 

 目立つ位置に表示されている不思議な目のマークは、天寿教のシンボルであるようだ。

 

 目の周りから木の枝のようなものが生えており、不気味というよりは、神秘的な印象を受ける。

 

 目というと、キリスト教プロビデンスの目なんかが有名だが、何か関係があるのだろうか。

 

 俺は早速、色んなページを開き、組織の概要や活動実績などを調べていった。

 

 

 「………………。」

 

 

 ざっと読んだものを簡単にまとめると、彼らはストレス社会に疲れた人々を救済すべく活動しているようで、主に職を無くした人々や、精神病を患った人々への社会復帰支援などに力を入れているようだ。

 

 

 (「夢は人生を豊かにする」、か……。)

 

 

 御社 未練の言葉として紹介されている。

 

 疲れた時は、しっかり休息を取ることが大事だという考えで、それを許さない企業への抗議活動や訴訟なんかも、たまに行っているらしい。

 

 

 (知らなかったな……。)

 

 

 書かれていることが真実なら、かなり人々に寄り添った組織だ。

 

 まぁ、それが宗教法人として当たり前の姿なのだが……。

 

 

 (問題は……。)

 

 

 俺はページをスクロールさせ、先ほど読んだ場所をもう一度見た。

 

 

 (夢……ストレス……)

 

 

 気になるワードだ。これで、今俺が巻き込まれている件と無関係なんてことがあるのか。

 

 俺はサイト内を隅から隅まで見て回った。

 

 もっとあの現象に繋がるような情報はないかと。

 

 

 (ん……?)

 

 

 その時、あるものが目に留まる。

 

 サイト内で売られている安眠グッズを見ていたのだが、その中に見覚えのあるものがあった。

 

 

 (このアイマスク……。ひょっとして、あれと同じか……?)

 

 

 不気味な一つ目のアイマスク……。クラスメートの裂俄泗さきがし はらえが毎日付けているものに似ている。

 

 多分、ここで買ったものか、譲られたもの。

 

 

 (気になるな……。)

 

 

 天寿教に入信しているかどうかは知らないが、念の為、次に顔を合わせた時に聞いてみた方が良いかもしれない。

 

 

 《カタカタカタカタ……》

 

 

 次に俺は、天寿教の評判をSNSなど、色んなサイトで調べた。

 

 どうやら公益事業として霊園や宿泊施設などを経営しているようで、その利用客の口コミが見れる。

 

 

 (………………。特にあくどいことをしているといった情報は無いか……。)

 

 

 どれも真っ当な施設のようで、評価は独特の良さがあっていいといったところ。

 

 口コミの量が少ないといったことはなく、まぁ、それなりに信用できる情報だ。

 

 

 (天寿教に関しては今はここまでだな……。)

 

 

 次は、光神メサイアだ。

 

 明日人から聞いた情報が正しいのかどうか。一応、確認しておきたい。

 

 俺は検索窓に光神メサイアの名を打ち込み、エンターキーを押した。

 

 すると、ちょうどまとめサイトが上位に表示されたので開いてみる。

 

 検索してはいけない言葉Wiki――

 

 その名の通り、検索してはいけない言葉がまとめられているサイトだ。

 

 

 (都市伝説の一つ、か……。大袈裟な。)

 

 

 検索してはいけない言葉といっても、半分ネタみたいなもので、大半は検索しても然程大きな害はない。

 

 コンピューターウイルス系なら危険度は高くなるが、光神メサイアは、案の定、多少、不快な思いをする程度の、危険度1に分類されている。

 

 

 (さて、どんなのだ……?)

 

 

 読みながらページをスクロールさせていく。

 

 個人勢の男性VTuberで、主に検索してはいけない言葉を検索したり、ホラーゲームの実況プレイをしたり、都市伝説系の配信を多く行っていた堕天使。

 

 視聴者への配慮はあまりなく、グロ画像の規制を緩めにするなど、かなり思い切った配信を続けていたが、四年前の2月6日の配信で、アソビガミに遭遇後、失踪――

 

 SNSの更新も止まったが、身内からの報告も何も無い為、現在も生死は不明――

 

 アソビガミに殺されたとの噂が蔓延しているが、真偽は定かではない。

 

 

 (明日人が言ってた通りか……。)

 

 

 途中、SNSへのリンクが張られていたが、長期間更新が無かった為、休眠アカウントとして既に削除され、今は見れないようだった。

 

 しかし、動画の方はまだ生きているようで、俺は一番最後に張られていた、チャンネルページへのリンクをクリックし、YouTubeの方に飛んだ。

 

 全部の動画を確認している時間は無いが、せめて最後の動画だけは見ておきたい。

 

 時間は三時間ほど。コメント欄の方に時間指定コメントがあった為、アソビガミが出たという問題のシーンまでスキップする。

 

 

 「ん~、うおっ……! アソビガミ!? Aso……アソビガミだ! 出た!」

 

 

 オンラインゲームの中でAsobigamiという名前のプレイヤーに遭遇し、興奮する光神メサイア

 

 アバターを急いで近付け、会話を試みている。

 

 視聴者の誰かの悪戯でも全然おかしくないのに、皆ノリに乗っているようで、コメントの流れは早くなっている。

 

 

 (楽しんでるな……。)

 

 

 水を差すようなコメントは0。人数が少ない御蔭かもしれないが、だいぶ視聴者にモラルがあるようだ。

 

 恐らく自分もリアルタイムで見ていたら、一緒に盛り上がっていたことだろう。

 

 光神メサイアはその後、アソビガミへの質問内容を募り、かなり性的なものも遠慮なくぶつけながら、相手の反応を視聴者と一緒に楽しんでいった。

 

 

 (これで怒ったアソビガミが光神メサイアを殺したって流れか……。馬鹿馬鹿しいな。)

 

 

 数回質問に答えたアソビガミは、ログアウトしたのか突然いなくなり、まだ質問を続けようとしていた光神メサイアは落胆したが、すぐに気を取り直し、コメントと会話を始めた。

 

 

 「明日はね。21時くらいからデペナントの続きやる。」

 

 「………………。」

 

 

 動画の最後には次の配信の予告をしている。

 

 具体的な内容まで話しているし、確かにこの後、失踪するなんて誰も思わなかっただろう。

 

 全てアソビガミの仕業と思わせる演技なのか、それとも何らかのトラブルに巻き込まれてライブ配信・動画投稿が行えない状態になったか……。

 

 死んだ場合は身内が何らかの報告をする可能性があるので、寝たきりの状態か、身内が誰も気付いていないか、既に身内が全て亡くなっているか……。

 

 動画からは、その辺りのヒントは得られそうになかった。

 

 収穫は、明日人の信用度が少し増したくらいだ。

 

 

 (ん……? そういえば、この中に明日人って……。)

 

 

 コメント欄にはユーザーネームが沢山表示されている。

 

 リアルタイムで観ていたと言ってたかどうか、思い出せないが、何かコメントしてないだろうか。

 

 俺は少し動画を巻き戻し、アソビガミが現れた辺りからちょくちょく止めながら、コメント欄を確認した。

 

 

 (こっくりちゃん)おいでませぇぇぇえ!!

 

 (坂鬼薔薇 怪斗)帰れ! ブタヤロー!

 

 (生駒 ミオしゃ)GAME OVER

 

 (あすなろ[ゆっくり動画])質問したい!

 

 (絶叫無頼ガイジ)ありがてええええ!!

 

 (いったんモンメン)本物!?

 

 (冷チキ)キター!!

 

 

 突っ込みどころ満載な名前とコメントが並んでいるが、この中で一番明日人のイメージに合うものはどれだろうか?

 

 

 (確か、ゆっくりが大好きで……。)

 

 「………………。」

 

 

 俺は検索窓に「あすなろ ゆっくり動画」と入力し、エンターキーを押した。

 

 分かりやす過ぎて考えるまでもなかった。

 

 

 (あいつも動画投稿してるのか……。)

 

 

 ちゃんと上位にチャンネルが表示された。登録者の数は五万人ほどで、中々多い方だ。

 

 俺は感心しながらチャンネルを開き、投稿動画を確認した。

 

 動画のサムネイルには、ちゃんと悪夢の中で見たゆっくりが映っている。

 

 アニメやゲームのレビュー動画が多めで、長さはどれも二、三分ほど。大体三日に一本くらいの頻度で投稿されているようだ。

 

 最近はこういった隙間時間に見れるような短い動画が流行りであり、明日人もその辺りはちゃんと押さえているようだ。

 

 

 (チャンネル登録しておくか……。)

 

 

 明日会いに行く予定だし、少しでも話のネタは多い方がいいだろう。

 

 俺は登録ボタンをクリックし、リストに追加されたことを確認してからブラウザを閉じた。

 

 

 「ふー…………。」

 

 

 ここでひとまず調べたことを簡単にメモ帳にまとめていく。

 

 その作業を終えると、時刻は七時半。大きく伸びをし、体をほぐした俺は、一旦パソコンを離れ、猫の様子を見に行った。

 

 寝る前にもう一度餌を与えておいた方がいいだろう。

 

 フェンスの向こうに移動した俺は、袋から出したキャットフードを開き、皿に入れて床に置いた。

 

 待ってましたとばかりに近寄ってくる猫。

 

 クチャクチャと音を立てながら、美味しそうに食べ始める。

 

 

 (俺も休憩するか……。)

 

 

 喉が渇いてきたし、ついでに風呂にも入ろう。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 PM7:32 六骸家一階・風呂場

 

 

 

 「はぁー……。」

 

 

 溜まった疲れが全身から染み出ていく……。

 

 作業後の風呂はまた一段と格別だ。思わずこのまま眠りたくなってしまうほどに。

 

 俺は浴槽にもたれながら、少し目を瞑り、頭の中を一旦無にした後、これまで起きたことを最初から一つ一つ思い出し、整理していった。

 

 

 「………………。」

 

 

 明日からのことを考えると、非常に憂鬱だ。漆 爽一郎という最有力容疑者がいなくなったことで、いよいよ一人では手が足りなくなっていく。

 

 

 (折角の休みも潰れるな……。)

 

 

 悪夢の中で出会った人間達の自宅を一つ一つ訪ねて回り、実在するか、内容を覚えているかの確認を取る。

 

 裁朶姉には既にメールを送り、OKの返事を貰っているが、完全に手分けができる訳じゃないから、大した意味は無い。

 

 

 (まぁ、それよりも、今日の悪夢がどうなるかか……。)

 

 

 もう怪物を生み出していた漆さんはいないが、また見ることになるんだろうか。

 

 そしてそこでまた色んな人間と出会う……。

 

 

 (無限の繰り返し……。)

 

 

 地道なやり方じゃ、真相解明がいつになるか分かったもんじゃない。

 

 

 「………………。」

 

 

 もしかして、裁朶姉が俺達を巻き込みたくないと思っていた理由はこれか? こうなることが分かっていたからか。

 

 こんなことにいつまでもかかり切りになっていたら、他のことがおろそかになる。

 

 長引けば長引くほど、人生への影響が大きくなっていくだろう。

 

 

 (でもな、裁朶姉……。)

 

 

 俺は裁朶姉と違って記憶を引き継げる。

 

 ここまで異常なことが起きているとはっきり分かっていて、調べずになんていられない。

 

 寧ろ、裁朶姉こそ何で抗っているのか?

 

 何でいつも……犠牲になろうとするのか?

 

 理解できない。

 

 あの自己犠牲は、メサイアコンプレックスなのか……?

 

 姉がそんな愚かでないと信じたいが……、何を考えているのか正直分からない。

 

 幼い頃から一緒に過ごしてきても、結局は他人。見えない部分はある。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 十分温まった俺は湯船から上がり、タオルで体を拭いて、洗面所の方に移動した。

 

 

 (とにかく……早く何か成果を出さないと、裁朶姉に殺されるかもしれない。)

 

 

 俺はあの悪夢の中で、裁朶姉のことを味方だと思うつもりはなかった。

 

 俺の記憶を消して、無理矢理この件から手を引かせる為に、俺の命を狙ってくる可能性は十分あるからだ。

 

 まだそこまでの感情は抱いていないかもしれないが、長引けばいずれそんな時が来る気がする。

 

 決して隙は見せられない。時間切れになる前に、解決したいものだ……。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 


 PM7:47 六骸家二階・六骸 修人の部屋

 

 

 

 部屋に戻ると、猫は既に食事を終え、毛布の中で大人しくしていた。

 

 

 (行儀が良いな……。)

 

 

 坂力のしつけが上手かったのか、拾われる前からこうだったのか。いずれにせよ、動物を飼うことに慣れていない自分には助かる。

 

 

 (さて、作業再開……。)

 

 

 パジャマ姿で作業机に向かった俺は、とりあえず、机の上の携帯を手に取り、メールを確認した。

 

 

 (お……?)

 

 

 父さんから一通来ていた。

 

 

 (漆さんのことか……。)

 

 

 実はあの後、漆さんのことで何か分かったら、教えられる範囲で教えてほしいとメールを送っておいたのだ。

 

 忙しいだろうに今日中にまとめてくれるとはありがたい。

 

 俺は早速、内容に目を通した。

 

 

 「…………。」

 

 

 漆 爽一郎(うるし そういちろう)。年齢30歳。

 

 トワイライトマンション常夜の三一二号室で一人暮らし。

 

 この辺りは既に分かっている部分だが、この先は初めて知る情報だ。

 

 職業、漫画家アシスタント。

 

 職場ではあまり目立たない方だったようだが、与えられた仕事はそつなくこなしていて、人間関係が悪いということはなかった。

 

 ただ、自分の作品の方は中々芽が出ず、何度も賞に応募しては落ちており、そのことについての不満を漏らすことがよくあったらしい。

 

 絵は悪くないが、普段あまり人と関わりたがらない性格だった所為か、リアルな人物を描くといったことが苦手で、ストーリーが薄っぺらいものになりがちだった。

 

 娯楽で溢れ切った今の世の中で売れていくには、圧倒的に個性が足りなかったのだろう。

 

 ちなみに、ペンネームは狂我 葬一(くるが そういち)。

 

 

 「………………。」

 

 

 父さんからの情報はここまでだ。

 

 漆 爽一郎……夢に破れた悲しい男といったところか。

 

 

 (30にもなってしがみついているとはな……。)

 

 

 夢を諦めない。

 

 聞こえは良いが、現実には様々な障害があり、執着し続けることが必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。

 

 何かアドバイスするとしたら、やはり夢に期限を設けることか。例え、それまでの努力が全て無駄になるとしても、自分の実力不足を認め、道を引き返した方が良い時はある。

 

 しかし、そんなことを幾ら言っても無駄だろう。

 

 やめられる人間は言われる前にやめている。やめたところで他にやりたいことのない人間もいる。

 

 諦めの悪い連中は、ほんとしょうもない。

 

 

 「………………。」

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 


 PM11:00

 

 

 

 猫が寝ているのを確認した後、部屋の電気を消し、ベッドに向かい、布団にくるまる。

 

 そして仰向けになり、天井を見つめながら、今後のことを改めて考える。

 

 

 (一ヶ月……。)

 

 

 タイムリミットを設けるとしたら、そのくらいか。

 

 もしこの一ヶ月で悪夢の真実を掴めなかった場合は、諦めも視野に入れる。自分の手には負えないと判断する。

 

 すなわち、悪夢の中で、自ら命を絶つ……。

 

 

 (夢のストーカーになるな……。)

 

 

 俺のお気に入りの推理ゲーム『黒葬こくそうのフューネラル』の主人公である探偵・黒島くろしま 葬祇そうぎの言葉だ。

 

 何かを諦めるのが辛い時は、この言葉を思い出すようにしている。

 

 

 (久々にまたやりたくなるな……。)

 

 

 あのキャラクターのように、闇の中から真実を見つけたい。

 

 もし誰かが許されない罪を犯しているのなら、それを絶対に葬らせてはならない。

 

 

 「………………。」

 

 

 俺は目を閉じ、ベッドに深く沈み込んだ。

 

 別に死者の魂を救うだとか、善人めいたことを言うつもりはない。

 

 俺の中にあるのは、ただ許せないという感情と、理不尽を叩き潰したいという衝動。

 

 ほんとそれだけだ。

 

 でも、そんな俺でも少しは世界の為になるようなことができる。

 

 そう……、信じている。