―【TURN 1】 SNS怪人 【LP 5000】―
「俺のターン!
アイテムカード《フェイスブック》を発動。
手札の【SNSOW(センス・オブ・ワンダー)】シリーズのユニット1体を、デッキのものと入れ替える。」
SNS怪人の手に、顔文字の描かれた絵本が出現し、パラパラとページがめくられた。
アイテムカード――。
手札で使用するという点はスキルカードと同じだが、自分のターンでしか使えず、使っても手札に残り続けるという違いがある。
消費されるのは、使用可能回数が尽きた時や、確率で壊れた時だ。
「そしてフィールドカード……。
《S★N★S(スーパー★ネガティブ★ステージ)》を発動!」
「…………!」
フィールドカード……。
発動と同時に、ステージの一部が黒く染まり、悪意のあるコメントが流れ始める。
「このカードが発動した時、俺は手札1枚を捨て、デッキから【SNSOW】シリーズのユニット1体を手札に加えることができる。
《SNSOW―クラウディオ》を捨て、《SNSOW―ウィングド・シルバー》を手札に加える。そして召喚。」
[Rank 4・POWER 2100]―召喚石 0/3
場に出現したカードの中から翼を持つ奇術師が姿を現す。
あれがSNS怪人のユニット。その能力は――
「……? カードの情報が……。」
確認しようとするが、何故か詳細表示にノイズが走り、スキルを見ることができない。
これは……。
「サーストンの三原則だ。種明かしなどつまらんだろう?
《ウィングド・シルバー》のスキル発動! 自分フィールドにコイントークンを呼び出す!」
SNS怪人のフィールドにシルクハットが描かれた大きなコインが出現し、くるくると回転を始める。
トークン――。
カードの効果で生み出されるユニットのことだ。
「更に、《ウィングド・シルバー》のもう1つのスキルを発動。
場のトークン1体を相手フィールドに移動させる。」
「! ディフェンスゾーンに……!」
SNS怪人がコイントークンを移動させたのは、3×3マスのフィールドの最奥――後衛位置。
ディフェンスゾーンと呼ばれるこの場所を埋められるのは、マスターエールのデッキにとってかなりの痛手だ。
「その後、自分フィールドにコイントークンを召喚し、自身にスターカウンターを1つ乗せる。」
《ウィングド・シルバー》の胸に黒い星のバッジが輝く。
カウンター――。
カードの効果によって、カードに貯まるエネルギーのようなものだ。
「そして、ソウルエリアの《SNSOW―クラウディオ》のスキル発動。
1ゲーム中に1度だけ、自分の場のトークン1体をソウル化することで蘇生でき、その後、自身にスターカウンターを1つ乗せる。」
[Rank 5・POWER 2400・★1]
「更にスキルカード《ブルーバード・マジック》を発動。
場に2体のブルーバードトークンを呼び出し、全ての【SNSOW】にスターカウンターを1つ置く。」
[Rank 1・GUARD 0]
「そして、フィールドカード《S★N★S》の効果発動!
場のトークン1体をソウル化することで、召喚石を1つ増やす。
俺はブルーバードトークン1体をソウル化し、《SNSOW―スターゲイザー》を召喚!」
[Rank 3・GUARD 1600]―召喚石 0/3
「《スターゲイザー》のスキル発動。
自身以外のユニットからスターカウンターを1つ取り除き、自分フィールドにスタートークンを召喚する。その後、自身にスターカウンターを1つ乗せる。
ちなみに【SNSOW】シリーズのユニットは、自身に乗っているスターカウンターの数だけランクをアップさせる。よって――」
[ウィングド・シルバー Rank 4 → 5・★1]
[クラウディオ Rank 5 → 7・★2]
[スターゲイザー Rank 3 → 4・★1]
「最後に《S★N★S》の効果発動!
トークンを2体ソウル化することで、デッキからスキルカード《アウト・オブ・ディス・ワールド》を手札に加える。
ターンエンドだ。」
―【TURN 2】 マスターエール 【LP 5000】―
「私のターン!
《☆★プリチアトップフレーズ―スターライト☆★》と、《☆★プリチアトップフレーズ―コスモーク☆★》を召喚!」
[Rank 2・GUARD 600]―召喚石 1/3
[Rank 1・GUARD 100]―召喚石 0/3
マスターエールのフィールドに星型の舞台照明、そして、スモークマシンが出現する。
「2体のスキル発動!
まず《スターライト》の効果で、《☆★プリチアトップスター―クレセントムーン☆★》を手札に加え――。
《コスモーク》の効果で、《プリチアトップスター》をコスト無しで召喚する。
来て! 《プリチアトップスター―クレセントムーン》!」
[Rank 7・POWER 2800 - 400 = 2400]
「……! 攻撃力が下がった……?」
「《S★N★S》の効果だ。ディフェンスゾーン以外のお前の場のユニットのステータスは、スターカウンターの数×100ダウンする。」
「成程ね。
でも、《クレセントムーン》のスキルは受けてもらうよ。
まず《プリチアトップフレーズ》の合計ランク分、ランクをアップ!」
[Rank 7 + 1 + 2 = X]
「そしてこのランク以下のユニットに元々の攻撃力分のダメージを与え、破壊した場合は更に破壊したユニットの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
対象は《クラウディオ》!」
「そうはいかない。
俺はソウルエリアのスキルカード《ブルーバード・マジック》の効果発動。
このカードをディメンションエリアに送り、場にブルーバードトークンを召喚。
そのトークンに効果の対象を移し替える。」
《クレセントムーン》が放った三日月の光の軌道が逸れ、ブルーバードトークンに命中。
だがその攻撃力は0。すなわち発生ダメージも0。
「なら、《クレセントムーン》でプレイヤーにダイレクトアタック!」
「無駄だ。《スターゲイザー》のスキル発動。
ランクを相手ユニットと同じにする。」
《クレセントムーン》の前に《スターゲイザー》が立ち塞がり、攻撃を受け、破壊される。
だが、ディフェンスゾーンにいる状態のユニットは、バトルしてもダメージは発生しない。
これも防がれてしまった。
「ターンエンド。」
―【TURN3】 SNS怪人 【LP 5000】―
「私のターン。
ふふ、一番星 流々。
貴様が何処でこのような力を得たかは知らないが、慢心は命取りだぞ?
その格好……大衆から持て
「…………。」
「だが彼らは所詮、ただの娯楽の1つとしか考えていない。
今まで自分を支持していた人間、友人達が突然、手の平を返し、敵に回った気分はどうだった?
連中の大半は、そんなゴミばかりだぞ。」
「あれは、あなたが怪人の力で悪さしたからでしょ。」
「ふ……、外の連中はどうかな?」
「外?」
「お前の噂はじわじわと外にも広まり始めている。
仮に俺を倒せたとして、それで済むかな?」
「そっちが本当の狙いって訳だね。」
「いい加減、夢から覚めたらどうだ?
見栄と虚構に踊らされる馬鹿共……! そんな奴らの評価に何の価値がある……!?」
「価値は見出すものだよ。」
「くっ……!
その強さが……。
その強さがあの悲劇を引き起こした……!!」
SNS怪人は赤く目を光らせ、一番星 流々を睨み付ける。
「俺は!
スターカウンターの乗った《ウィングド・シルバー》と、《クラウディオ》の2体をソウル化する!!」
2体のユニットが闇に包まれ、SNS怪人が持つカードに吸い込まれていく!
「最たる奇術師よ。この黒き星は価値無き硬貨。
今こそ、その稀なる手で全てを掌握し、世界を変えろ!!
《SNSOWR(センス・オブ・ワンダラー)―ナインセンシズ》!!」
「……!」
床を突き破り、巨大な奇術師が姿を現した。
その体は銀河のように渦巻き、星々が輝きを放っている。
「召喚時! 自身にスターカウンターを9個乗せる!」
[Rank 9 → X8・POWER 2900・★9]
「スキルカード《アウト・オブ・ディス・ワールド》発動!
場のスターカウンターが7つ以上の時、カードを2枚ドロー。
《SNSOW―ホーンテッド・デック》と、《フラリッシャー》を召喚!!」
[ホーンテッド・デック Rank 1・GUARD 500]―召喚石 1/3
[フラリッシャー Rank 3・POWER 1400]―召喚石 0/3
「《ホーンテッド・デック》のスキル!
場のスターカウンターを1つ取り除き、相手の手札1枚をデッキに戻す!」
マスターエールの手札から、1枚がデッキに。これで手札は3枚。
「続けて《フラリッシャー》のスキル。
自分フィールドの【SNSOW】全てにスターカウンターを1つずつ乗せ、更に別のスキルで《ナインセンシズ》の攻撃力を、ターン終了時まで乗っているスターカウンターの数×200アップさせる!」
[ナインセンシズ POWER 2900 + 200 × 9 = 4700・★9]
「さぁ、バトルだ!
《ナインセンシズ》! ダイレクトアタック!」
《ナインセンシズ》の両手が消え、マスターエールの周囲に現れる。
「《クレセントムーン》でガード!」
マスターエールの身代わりに、《クレセントムーン》が発生した渦に飲み込まれていく。
ガードの数値は1100下がったことで、1000――。
[マスターエール LP 5000 - 3700 = 1300]
「《フラリッシャー》でダイレクトアタック!」
「《スターライト》でガード!」
[マスターエール LP 1300 - 800 = 500]
「くっ!」
衝撃波で壁際まで吹き飛ばされるマスターエール。
残りライフ500。ギリギリだ。
「後が無いな。一番星 流々。
余裕で勝てると踏んでいたのだろうが、生憎、俺はお前が求めるようなやられ役じゃない。」
「ふふっ……。それはどうかな?」
「何……?」
「あれを見てごらん。」
マスターエールに促され、SNS怪人は壁を流れるコメントに目をやる。
《鉄壁入った☆》《勝ちパターン☆》《カン☆コーン》《それはどうかな☆》
「チッ……
お前はまさか、自分を主人公だとでも思っているのか?」
「一番を目指しているからね。
あなたはこういうお約束は嫌い?」
「気持ちが悪い。
当事者の気持ちを無視して、悲劇すら娯楽に変える連中が……。
そんな奴らの期待に応えている貴様が……!!」
「………………。
それって、やっぱり家族を失ったことが原因?」
マスターエールは悲しげな表情でSNS怪人を見つめる。
「…………っ!
そう言えば、お前は俺の名前を知っていたな。
他に何を知った?」
「………………。
七年前、家が放火に遭って、家族が全員死んだって。」
「………………そうだ。」
SNS怪人は思い出す。
あの日の悲劇を……。
「今もはっきりと思い出せる。
俺は一家の長男で、あの時は高校生。
弟は中学二年……。妹は……お前と同じ、中学一年生だった。」
「………………。」
「両親は共働きで、母親はスーパーのバイト、父親は大手電機メーカーの下っ端従業員として働いていた。
決して裕福ではないが、
そんな、何処にでもあるような平凡な家庭に、悲劇が襲った。
「あの日は日曜日で、俺は友人との遊びに一人出かけ、夜遅くなり、彼の家に泊まることになった。
火を付けられたのは、よりによってそんな時だ。
親は二人共、仕事が休みで、弟と妹も、言わずもがな家にいた。」
「真夜中に放火されて、気付いた頃には、手遅れだったんだよね。」
「ああ……それで犯人だ。
俺達は一体誰から恨みを買っていたんだと思う?」
「………………。」
SNS怪人は拳を握り締めた。
「誰からも買ってなどいない……!
俺の家を、ある有名な配信者の居場所だと勘違いした馬鹿が、嫉妬から放火した!!
そんなくだらないことだ!!」
そう、あれは救いの無い完全なとばっちり。
「一応、犯人はすぐに捕まったんだよね?
ちゃんと裁判で裁かれて、重い判決も出た。」
「ああ……、ああ出たさ!
だが、ただの無職のクズ男だ。
気持ちが晴れると思うか……!?
俺の家族は、何の意味も無く殺されたんだ……!!」
受け入れられる訳がなかった。
「有名配信者の方は、その後も、俺の家族に起こった悲劇など知らん顔で配信を続けた。
ネットの情報によると、よく人間関係のトラブルを起こして、頻繁に引っ越しを繰り返していたそうだ。」
「…………。」
「それでもネットの連中は笑えるクズとして、そいつのことを祭り上げた。
そいつは図太くも炎上を利用して金を稼ぎ続けて、今現在、裕福な暮らしを送っている。
許せるか、こんなこと……。」
「だから復讐するの?」
「最初は我慢していたさ。
気持ちを抑え付け、必死に忘れようとしていた。
誰かの異能で記憶を消してもらうことも考えた。
だが、家族の思い出を捨てることはどうしてもできなかった。
そんなある日、俺の前にスーツ姿の怪しげな女が現れたんだ。
その女は、こう言った。
あなたの苦しみを、全世界に向けて発信しませんか、と――」
「ネガヘルツ……!」
「付いて行った結果、こんな姿にされて、最初は騙されたかと思った。
だが、この力を得た御蔭で、こうして馬鹿共に思い知らせることができる。
もうあんな悲劇を繰り返させはしない!」
「………………。」
「それでも一番星 流々。
お前は一番を目指す気か? 俺を止める気か?」
SNS怪人は、じっとマスターエールを見つめる。
彼女の答えは――
「勿論、だって私は、正義の味方だからね。」
「正義……?
正義……正義だと……?
ふざけたことを言うな!!
SNSは人の悪意を増長させる!!
その悪意に俺の家族は奪われた!!
親も……弟も妹も……!! 全てだ!!」
「私はそんな悪意に負けるつもりはない! 逃げずに立ち向かう!」
「何だと……。」
「私だって、この世界を変えたいと思ってる。
でもあなたのやり方じゃ、あなたみたいに逃げてたら、何も変えられないよ。」
「俺が逃げているだと……?」
「逃げてるよ。
よりよい方法を考えることから。
あなたはただ、自分の家族を奪った世界を滅茶苦茶に壊したいだけでしょ。
そんなのは間違っている。」
「じゃあ、どうしろと言うんだ……!?
言葉で真面目に訴えろとでも言うのか!?
それで変わるんだったら、世界はとっくに変わっている!
こうするしか、家族の無念を晴らす方法は……!!」
「本当にそう?」
「…………!?」
手を差し伸べたマスターエールに、SNS怪人は動揺する。
「今からでも遅くないよ。
私と一緒に行こう。
一人じゃ出せる答えに限りがある。
でも誰かと一緒なら、別の道を開くこともできる筈だよ!」
「別の道……?」
真っ直ぐな瞳で見つめてくるマスターエール。
その真剣な眼差しに、一瞬、心が動いてしまいそうになる。
「くっ……たかが中学生の……、そんな抽象的な言葉に騙されるか……!
まずはこの勝負に勝ってから言うんだな!
ターンエンド!」
―【TURN 4】 マスターエール 【LP 500】―
「このドローフェイズ、お前はドローすることができない。
代わりに《ホーンテッド・デック》の効果で、デッキに戻ったカードがお前の手札に戻り、スターカウンターがこのユニットに乗る。」
「…………。」
手札4枚。新たなカードを引かずに、ここから逆転は可能なのか。
「奇跡など無い。次のターンで終わりだ。一番星 流々。」
「ふ……奇術師としては失格のセリフだね。
私は絶対に諦めないよ。
この勝負に勝って、絶対にあなたの心を変えてみせる!」
「ふん……やれるものならやってみるがいい。」
「私のターン!
《☆★プリチアトップスター―ドレミラージュ☆★》を召喚!!」
[Rank 6・POWER 2000]―召喚石 0/3
「スキル発動!
デッキから《☆★超銀河応援団☆★》を手札に加える。
そして、《ドレミラージュ》のもう1つのスキルも発動するよ!」
マスターエールの場の《コスモーク》が光に包まれ、カードの状態に戻っていく。
「自分の場の《プリチアトップフレーズ》1体を、手札に戻す!」
「もう一度効果を使う気か……。
だが既にそのユニットを呼ぶ召喚石は無いぞ!」
「焦っちゃ駄目だよ。
私は《超銀河応援団》を発動して、デッキから《☆★プリチアトップフレーズ―ハートビジョン☆★》を召喚!」
マスターエールの場にハート模様を映し出す巨大なモニターが出現!
「このユニットのスキルで、《プリチアトップスター》を手札に戻して、召喚石を1つ回復させる!
私が戻すのは、《ドレミラージュ》!」
[マスターエール 召喚石 0/3 → 1/3]
「くっ……。」
「《コスモーク》を召喚してスキル発動!
手札の《プリチアトップスター》1体を、コスト無しで召喚できる!」
《ピカーッ!!》
マスターエールの掲げたカードが、ピンク色の光に包まれる!
「溢れる愛と友情……! 世界に広がれ!!
召喚! 《☆★プリチアトップスター―プリンセスキュア☆★》!!」
[Rank 8・POWER 2400 - 1200 = 1200]
「ふん、上級ユニットを呼んだところで、スターカウンターは12、《S★N★S》の効果で、攻撃力は1200もダウンする。」
「なら上げるまでだよ!
《プリンセスキュア》のスキル発動!
自分のライフが相手より少ない場合、ライフを1000回復し、攻撃力を1000アップ!」
[マスターエール LP 500 + 1000 = 1500]
[プリンセスキュア POWER 2400 - 1200 + 1000 = 2200]
「《プリンセスキュア》で、《フラリッシャー》を攻撃!」
「その程度か!
俺はスキルカード《ワイドスクリーン・バロック》を発動!
これで攻撃は無効になる!」
「だったらアイテムカード《魔法少女SIGHT》!
このカードの効果で、バトル中のスキルカードの発動を無効にし、そのカードを手札に戻す。
そしてこのターン、戻されたカードは使用できない!」
これで《プリンセスキュア》の攻撃は続行される。
「ならばこれでどうだ!
《ナインセンシズ》のスキル発動!
攻撃してきたユニットの攻撃力は、バトルフェイズの間、フィールドのスターカウンターの数×100ダウンし続ける!」
[プリンセスキュア POWER 2400 - 1200 + 1000 - 1200 = 1000]
「これで返り討ちだ!」
「幾ら下げられても私は止まらない!
スキルカード《☆★スターバタフライ☆★》!
このカードの効果で、ユニットのステータスを下げる相手のカードの効果を反転させる!!」
「何……!? 反転……!?」
「そう、つまりあなたが下げてくれた御蔭で、《プリンセスキュア》の攻撃力は……!」
[プリンセスキュア POWER 2400 + 1200 + 1000 + 1200 = 5800]
「攻撃力5800……!?」
《プリンセスキュア》が持つハートのステッキからピンクの光線が放たれ、《フラリッシャー》が破壊される。
「ぐああー!!」
[SNS怪人 LP 5000 - 4400 = 600]
壁際まで吹き飛ばされ、膝を突くSNS怪人。
「まだまだ終わらないよ!
《フラリッシャー》がいなくなったことで、《プリンセスキュア》の攻撃力が200下がるけど、《ハートビジョン》のスキル発動!
《プリチアトップスター》が破壊したユニットの元々の攻撃力分、自分のライフを回復させる!」
[マスターエール LP 1500 + 1400 = 2900]
「更に《プリンセスキュア》の効果!
回復したライフの数値分、攻撃力アップ!」
[プリンセスキュア POWER 5600 + 1400 = 7000]
「7000……。そんなに攻撃力を上げてどうする気だ……?
もう攻撃は終わった筈……。」
「終わらないって言ったでしょ。
《プリンセスキュア》は攻撃力を半分にすることで、二回目の攻撃ができる!」
[プリンセスキュア POWER 7000 ÷ 2 = 3500]
「…………!」
「これでトドメだよ。
《プリンセスキュア》で、《SNSOWR―ナインセンシズ》を攻撃!
ハートフル・スターズ!!」
ピンク色の巨大な星が降り注ぎ、ナインセンシズの体を貫いていく!
「そんな馬鹿な……!」
[SNS怪人 LP 600 - 600 = 0]
《ズドオォォォン!!》
「ぐああああー!!」
― WINNER マスターエール ―
「ぐっ……。」
爆風に吹き飛ばされ、床に仰向けに倒れたSNS怪人。
その衝撃で仮面が外れ、素顔が露わになる。
マスターエールはすぐに彼の元に駆け寄った。
「今のやり方は行き過ぎだけど、きっと別の選択肢もある筈。
一緒に目指そうよ。これから……。」
笑顔で手を差し伸べる。
しかし――
「くっ……、これは……。」
消えていく。
SNS怪人の体が黒ずみ、塵となって霧散していく。
「……!? 何、これ……。」
「残念だが……、もう俺にチャンスは無いらしいな……。」
「どういうこと……?」
「契約だ……。
怪人は敗北すれば、その時点で消える……。
意味が分からなかったが、今ようやく分かった。
フフ……。用済みって訳だな。連中も証拠を残したくはないんだろう。」
SNS怪人は覚悟を決めた様子で全身の力を抜き、目を閉じた。
「諦めちゃ駄目!」
しかし、マスターエールがSNS怪人の手を取る。
「私が何とかしてみせるから。」
「やめろ。
もういいんだ……。楽に死ねるなら、このまま……。」
「良くない!
家族の無念を晴らすんでしょ!? 世界を変えなくていいの!?」
「………………。」
「あなたの力は必要だよ。
深い悲しみを背負っているあなたなら、この世界を変える力がある筈。
今のやり方じゃない別の道を探そう。
私と一緒に!」
「本気で言ってるのか?」
「私が絶対に諦めさせない。
どんなに落ちても、諦めなければ人は何度だって輝けるんだから!」
……………。
何という自信だ。
SNS怪人――火星 策は驚く。心が揺らぎ始めていた。
もし、あの女よりも先に彼女と出会っていたら、こんな道を踏み外すことはなかったんじゃないか。
火星 策は消えゆく自分の体を見つめ、自分の選択を後悔した。
「う……。くそ……、もう体が……。」
「ティーヴィ!
お願い!!」
マスターエールが何かを呼ぶ。
すると、何処からともなくマントを羽織ったヒトデのような生物が出現し、彼女の肩に飛び乗った。
その生物が腕をクロスさせると――
《ピカーッ!!》
ビームが放たれ、火星 策の体が光に包まれる。
(何だ……これは……。)
助かるのか、助からないのか。
よく分からないまま、火星 策の意識は途絶えた。
最後に聞こえたのは、妹によく似た……、少女の声だった。
天に星が輝いていても、あなたが見上げなければ、ないに等しい。あなたが自分自身に目を向けなければ、あなたの価値もないに等しい。
☆ 天至21年4月9日(土)☆
[Mage Name ― SING]
[Mage Name ― Staryu]
怪人を倒した次の日――。
私はメッセージアプリ――MAGEを使い、とある人物と事件の事後処理等について話し合っていた。
【掲示板の方でも真実は広めておいた。
怪人の所為で流れた噂については、じきに消えるだろう。
何か至らないところがあれば、すぐに連絡をくれ。】
【ありがとうございます!
御蔭でボヤで済みそうです!】
このチャットの相手――SINGは、私に火星 策さんのことを教えてくれた人で、HOSHI Meの開発に
彼曰く、HOSHI Meのデータは学校による隠蔽を防ぐ為、外部で管理されている――第三者機関の監視が入っているとのことで、それで異変に気付いたらしい。
【投げ銭の方はどうなってますか?】
【口座は既に押さえた。一銭も使われてない。
仲間と協力して月曜日までに全額、返金するつもりだ。学校には既にそう伝えてある。
お前の手柄、ということにしておいたが、問題ないな?】
【OKです!】
御蔭であれから皆からの感謝のメールと星が止まらない。
洗脳されていたつぐみちゃんと喜多映ちゃんは、わざわざ家まで来て、頭を下げてくれた。
「お詫びにこのハエの写真を……。」
「あ、ハエ好きなの、頭おかしくなってた所為じゃないんだ……。」
そんなやり取りをして、笑い合った。
【ところで、ずっと気になってるんですけど、あの時、何で私にメールを?
学校の先生とかじゃなく。】
それを尋ねると、SINGは少し考えた後――
【恩を売るに足る人間だと判断した。
それだけだ。】
そんな答えを返した。どうやら打算あってのことらしい。
まぁ、喜んで協力するけどね。
「ふー。」
チャットを終えた私は、ベッドに寝転び、皆からのメールを再び確認した。
ただでさえ人気者なのに、ますます星に近付いたって感じだね。
「へへへ。」
「おい。」
「?」
にやにやしていると、何処からか声をかけられた。
「んー、どうかしたー?」
「どうかしたって……、俺は一体どうなっちまったんだ?」
壁にかかっていた白い仮面がカタカタと揺れる。
それはSNS怪人――火星 策が付けていた物だった。
「えっと、なんて言うかね。新しく生まれ変わったって感じらしいの。」
「生まれ変わった?」
「分かりやすく言うとね。
肉体が消える前に魂を抜いて、別の入れ物に移し替えたってこと。」
「何……? ってことは、俺、この先ずっとこのままか……!?」
「流石にそれは考えるよ。でも今は、自分のやったことをしっかり反省してね。」
「はぁ…………そうか。
それは分かったが、お前の力は一体何なんだ。
ネガヘルツって連中も。」
「あー、その話はまた今度ね。
今、返信で忙しいの。」
「全く……、俺との約束は忘れてないだろうな?」
「分かってる。
でも世界を変えるのは、そう簡単にはできないからね。
焦っちゃ駄目だよ。まずは小さなことからコツコツと。
それで一番になって、皆を一番に導くの!」
「…………。
信じるからな。まぁ、こうなったらもうお前の方針に従うしかないんだが……。」
一番になって、皆を一番に導く……。
とんでもないことを言ってるのは、何となく分かる。
だが、こいつはその夢を真剣に追っている。
「ああっ! 星がっ!! 星が沢山!!」
ちょっと変なところもあるが……。
(応援してやるとするか……。)
火星 策は、久しぶりに心に光が差し込むのを感じるのだった。
「…………はい、……はい。
これで××××××間違いなしかと……。
××ほどの××を見つけられたのは××でした。
せいぜい、××として頑張ってもらうとしましょう……。
(☆1 End)