◇
そんな感じで脅しを受けてしまった後、周りの視線を気にしながら、DD、カリンの二人と一緒に店の外に出た。
乗り切った……と言っていいのかどうか分からないが、二人は満足している様子だし、こっちの作戦はまだバレてない。
それならば良い……。少し穢されるくらいなら、許容範囲内だ。
あっさり誘惑に負けて、みっともなく快楽に溺れることに比べたら……。
あんな……誰かの道具として、いいように使われるのだけは、絶対に御免だって――
「ん……? 騒がしいね。」
「…………?」
一人で燃えていると、DDが声を上げた。確かに建物の裏手の方が何やら騒がしくなっている。
何か事件でも起きたのだろうか? それともイベントか? これ以上、問題は増えないでほしいのだが……。
「何かあったのかい?」
DDが店の前で待機していたメロンに尋ねる。
「ううん、分かんない。
今、イザヤ君とホルン君と、ココナちゃんが様子見に行ってるんだけど。」
「あ、戻ってきましたよ。」
モモが指差した方向を見ると、三人がこちらに駆けてくる。
「みんなー、ちょー大変だよ! 道路が凄いぶつぶつしてる!」
「そうそう、凄く気持ち悪い!」
「あー…………。」
ココナとホルンは興奮気味で要領を得ない。一体何を見たんだろうか?
「悪いことは言わねぇぞ。あっちの方には行くな。この世の地獄を見たくなけりゃな。」
「地獄…………。」
一体どんな状態になっているのか気になる。だが、折角の忠告だ。
君子危うきに近寄らず。
あえて飛び込むなんて、普通の高校生らしくない。らしくないよな?
「とりあえず、この場からは早く離れた方が良さそうですね。
警察が来るかもしれません。」
紳士風のホスト――エスカーがそう言う。
こちらとしては、霜之口の時間を削れるなら一向に構わないが……。
「なぁ、カラーギャングが出るって言うし、やっぱ危ないんじゃないか。
もうこの辺で……。」
「大丈夫だよ、カスム君のことは皆で守るから!」
「………………。」
すぐに通せんぼしてくる霜之口。この必死さを見ていると、無事に帰れるのか不安になってくる。
延長は勘弁してほしい。
≫ 渋谷・ショッピングモール
それからしばらく……また腕を絡められながら歩いて、今度はショッピングモールに連れ込まれた。
食事を終えた次は、遂に本来の目的であるショッピングか、また霜之口に先導されるまま、未知のエリアに足を踏み入れる。
(うわ…………。)
そこは普通の男子なら入るのを躊躇うような、こじゃれた感じのブティックで、店内にいるのはやはり女性客ばかり。並べられている服もほとんど女性物のようだった。
(こんな場所でどう過ごせって言うんだ……?)
後ろからイケメンのホストが付いてきてる所為で、周りからじろじろ見られてるし、比較されてるに違いない。どう振る舞ったって浮いて見える。
《とんとん》
「ん。」
ネガティブなことを考えていると、近付いてきたホルンに肩を叩かれた。
「姿勢を正して堂々としてた方がいいよ。だいぶ印象変わるから。」
「………………。」
そんなにこやかな顔で言われると逆にムカツクんだが……。
こっちは無理矢理連れて来られてるというのに、何で霜之口達に合わせなきゃならないのか。
――と、思わず反感を抱いてしまうが、ここも大人しく従おう。
(はぁ……。)
代わりに心の中で溜息を吐く。
周りは楽しんでいても、自分だけが楽しくない。この状況は昔と似ている。都合の良い道具として使われていたあの頃に……。
(くそ……。)
折角勇気を振り絞って逃げてきたのに、これじゃあまた同じだ。気分が悪い……。
もしここで体調不良を訴えれば、すんなり帰してくれるだろうか?
…………いや、駄目だ。通ったとしても、絶対看病するとか言って家まで付いてくる流れ……。
(ここも我慢するしかないな……。)
「おっ。よぉ、カスム。」
「え?」
その時、急に横から声をかけられ驚いた。
すぐ声のした方を向くと、なんとそこには女物の黒コートを手にしたクラスメート――三ツ矢 括の姿……!
「え、ミツヤ……? 何でこんな場所に。」
「たまたまだよ、たまたま。俺も服買いたかったからな。」
「女物の? 彼女用とか?」
「いや、自分の。別に買っちゃいけない決まりなんてないだろ。」
確かにそうだが……。
「あぁー!!」
――と、ここで霜之口が三ツ矢の存在に気付き、大慌てで駆けてくる。
「ちょっと! 付けてくるなんて性格悪くない!?」
ビシッと指差し、睨み付ける霜之口。
「別に付けてねーって。偶然だ、偶然。俺の方が先にここにいたしな。」
三ツ矢は服を元の場所に戻すと、霜之口の威嚇を物ともせず、こちらに近付いてくる。
「それ以上近付かないで! さもないと……。」
「……!」
マズい……。霜之口の能力が発動する……!
一定範囲の空間を支配し、任意の現象を引き起こせるA級能力《AV(アブノーマル・ヴィジョン)》!
その空間内に入った物体は、あらゆるものを傷付けられないという性質が付加される為、異能を無効化する手段が無い限り、一方的に辱められてしまう……!
(ミツヤ……!)
「ん? サモンナイトがどうしたって?」
(え……?)
その時、不思議なことが起こった。
目を離していないのに、三ツ矢の姿が一瞬で消え、霜之口の背後に出現。
これは……。
「え……? いやああああっ!!!」
肩にポンと手を置かれた霜之口が悲鳴を上げて飛び退き、店内は騒然となる。
「ッ!」
そして恐ろしいことに、それを見た風俗嬢とホスト達の動きが素早く、一瞬にして俺と三ツ矢は周囲を取り囲まれてしまった。
「ふふふ、しもちゃんに許可無くお触りするなんて、良い度胸をしているね。」
「よっぽど精子が惜しくないんだぁ。無限発射コースでイッてみる?」
「へぇ~、興味あるな。」
優しくない笑みを浮かべながら迫りくるDDとカリンに対し、呆れ顔で返す三ツ矢。
なんてことをしてくれたんだ……。どうしてそんなに余裕そうなのか。
「一応、確認しとくが、こんな場所でやり合う気か?
俺も友達は多い方なんでな。それも、頼まなくても何でもするようなおっかない連中がわんさか……」
「…………!?」
DDが突然、周囲を警戒し始める。
「え……ダイヤちゃんどうしたの?」
「殺気を感じる……。」
(えぇ……。)
三ツ矢は三ツ矢で一体何を連れてきているのか……。
「じゃっ、そういう訳だから。ちょっとカスム借りてくぜ。」
三ツ矢に引っ張られ、離れざるを得なくなる。
「むぅー!!」
頬を膨らませ、強い不満の意思を伝えてくる霜之口。
調子に乗った三ツ矢は、そんな彼女を更に煽るような言葉をかける。
「用が済んだら返してやるって。
カスムをいじめるんじゃなく、買い物を楽しめよ。」
「いじめてないもん……!」
「あっそう。それってお前の感想だよな。」
…………三ツ矢。ちょっとカッコ良かったのに、最後で急にひろゆきにならないでくれ……。
ほんと心臓に悪い……。
◇
――と、まぁそんな感じで、一時的にだが、霜之口達と距離を置けることになった。
それは助かったのだが、後が怖いし、店から出ることはできないので、三ツ矢の買い物に付き合って時間を潰すしかない。
とても状況が好転したとは思えず、寧ろ悪化するまであるので素直に喜べない。
三ツ矢にはこの後の考えがあるのだろうか?
「なぁ、ミツヤ……。お前の友達って、セ……彼女のことだよな? 何処に隠れてるんだ?」
「いや……、実はさっきのはただのハッタリだ。」
「…………え?」
返ってきてほしくない答えが返ってきた。
「でも殺気がどうとか……。」
「全く……、ホントにいるとはな。
最近また誰かに付けられてるような感じはしてたんだが……。」
(おいおい……。)
思わず周囲を確認する。
ここにいる女性客の中に、新たな三ツ矢のストーカーが紛れて……?
「まぁ、そんな気にするな。こんな場所で襲ってこねーって。」
「いや、でも……殺気を飛ばせるような人間だぞ……。
姿を確認しとかなくていいのか……?」
「分かってねーな。準備不足の方がゾクゾクするだろ。」
「………………。」
そんな変態的嗜好分かりたくもない。
(参ったな……。)
問題が起きてから対処方法を考えるなんて耐えられない。
俺は女じゃないし、まさか嫉妬とかされないだろうが……、分かんないよな……。
不安は拭えない。
異常者が何をするか、それはいつだって予測不可能なのだから……。
≫ 東京都・港区・芝浦港南地区
24日・午後2時頃――
東京都・港区の高層ビル――
「お前達に、一つ問題を出そう。」
「あん?」
「日本の貨幣製造技術は、今も尚、世界最高水準を誇っているが、仮に本物と区別のつかない偽札を何枚も作れたとしたら、経済にどんな影響があるか。」
「…………。そりゃ数が増えると価値が下がるから、円がゴミになって物価が上昇するだろ。インフレだ。」
「そう、それだ。」
ソファでくつろいでいた少年と少女は、億卍の質問に対し、特に深く考えることなく答える。
だが――
「違う。正解は何の影響も無い。」
「は? どうしてだよ?」
「ふふ……。そりゃ君、幾ら偽札を刷っても、使わなきゃ意味が無いじゃないか。」
部屋の奥で紅茶を
すると、黒と黄色のストライプカラーの髪をした少女――
「引っかけ問題かよ。」
「で、結局何が言いたいんだ?」
一方、白髪の少年――
「本物にしろ偽物にしろ、金は使わなければ意味が無いということだ。
日本資本主義の父と呼ばれる
タンス預金をするといった、経済を回す意思の無い行動は非常に好ましくない。
ただ、金を手元に置いておきたいという気持ちは分かる。
だから俺はお前達が安心して金を使えるよう、定期的に案件を回して稼がせてやっている。それが社会の活性化に繋がっている。」
億卍はパソコンを操作し、死瑪と落花の間にあるテーブルの上に情報を表示した。
「そこで本題だ。今年に入ってから、俺の管轄外で消費が急激な拡大を見せている。」
「…………? 良いことなんじゃないか?」
死瑪はデータを適当に眺めながら答える。
「それならもう一つ別のデータを見せよう。
今年に入ってから、急激に増加しているものがもう一つある。」
「…………。……! メールに書いてあったヤツか……。」
「そう、消費と犯罪――俺はこの二つに何らかの関連があると見て調査を行った。
そして、急に羽振りの良くなった連中が全て何らかの犯罪を起こしていることが判明した。ほとんど無職か薄給の人間だ。」
「つまり、何処からか資金が出てる……。それが犯罪支援アプリって訳か。」
「ああ、名前は伏せるが、
異能の力で隠蔽されていた為、時間がかかってしまったが、ようやく反撃に出れる。」
「で、俺達は何をやればいいんだ?」
「今は使えそうな能力を持ってる人間に案件のメールを送り、作戦を練っている段階だ。
派手に動いては犯人に逃げられてしまうからな。」
「そうか。俺は今、
面倒な仕事はできるだけ他に頼んでくれ。」
「幾ら金を積まれてもか?」
「犯人が女ってことが分かれば、タダでも喜んでやるんだがな。」
死瑪は薄気味の悪い笑みを浮かべ、答える。
「……分かった。落花はどうだ?」
「犯人をぶっ殺してもいいなら喜んで引き受ける。殺し屋だからな。」
「そうか、期待するとしよう。
犯罪支援アプリについては一週間以内に片付ける予定だ。いつでも動けるようにしておけ。
では、話は以上だ。」
「はいよ。」
死瑪が立ち上がり、出入り口に向かうと、落花もそれに続いた。
「なぁ、死瑪。別件って何だ?」
「お前には関係ねーよ。つーか、もっと離れて歩け。」
「………………。」
二人が去った後、只乃は立ち上がり、壁一面に張られたガラスの向こうに広がる景色を眺めた。
「こう上から見ても、何かが起きてるようには見えないのが、世界の怖いところだ。
億卍君、本当に彼らを巻き込む気かい?」
「…………。異能の力により、光の当たらない場所は昔よりも増えている。
一人一人が脅威に立ち向かえる力をつけなければ、いずれ訪れるであろう
「君は……、あまり時間は残されていない、と考えている訳か。」
「去年のクリスマス辺りからISNOが妙な動きを見せている。
あのハイゼンスからZ級能力者が脱獄したとの、真偽不明のリーク情報も流れている。
悠長にしてはいられない。」
「そうだったね。
Hoping for the best, prepared for the worst, and unsurprised by anything in between.
(最高を望み、最悪に備える。そして、その中間に驚かぬよう。)
≫ 渋谷・???
「………………。…………?」
あれ……? ここ何処だ……? 俺、何してたんだっけ……?
《ゆさ……ゆさ……》
ピンク色の天井に……甘い匂い……。
誰かの息遣いに……服が
「う……うぅん……。」
「あ、気が付いた?」
「うん……?」
何だ……? 体が重くて……視界に凄い肌色が……。でかい膨らみが二つ……。
「…………!?」
胸……!? 裸……!?
「……なっ!」
目の前に素っ裸のカリン。体の上に
驚いてすぐ顔を下に向け、自分の状態を確認すると、服が滅茶苦茶。半分脱がされている。一体いつの間に……!?
「うおっ……!」
面食らっていると、こちらの顔を覗き込んでいたカリンが体を落としてきた。
胸が胸に押し付けられ、体温がダイレクトに伝わってくる……!
「どぉ~? 興奮する?」
息のかかる距離で尋ねてくるカリン。
何とかしようとするが、手首に枷がはめられ、ベッドと繋がれていて、身動きが取れない……!
「ちょっ、近い……!」
「私ってせっかちだからさぁー。前戯とか正直めんどくさいんだよねぇ……。」
そう言って更に体重をかけ、密着してくるカリン。
顔を背けてみるが、無防備になった首筋を舐められ……、そして耳の中に舌を入れられる。
「いっ……!」
流石に深くは入れてこない……入り口周辺を舐められた程度だが、全身に鳥肌が立つ。こんなこと霜之口にもされたことない。
カリンは舌先から糸を引きながら体を起こすと、また悪戯っぽい笑みを浮かべ、話しかけてきた。
「ふふ……ここが何処だか知りたい?」
「…………まさか、ラブホテルじゃ……。」
「ぶっぶー、ハズレー♪ ここはね、虹幻町っていう場所なの。」
「にじげんちょう……?」
「そうそう。本来は一部の子達しか入れない場所なんだけど、特別に仲間に入れてもらって、
「………………。」
何だかよく分からないが、どうやってここに連れて来られたかを思い出せば、脱出の手掛かりになる筈だ。
確かブティックで霜之口達から離れた後……、しばらく三ツ矢と話をしていて……。
あれは何の話だったか……。
◇
数分前――
「そういやカスム、お前、
「え? いや知らないけど……、ここでそんな話やめろよ……。縁起でもない……。」
「ははは、まぁ聞けって。話の引き出しは多いに越したことないぜ?
話題を逸らしたい時に使えるし、霜之口を怖がらせることもできる。」
「う~ん……。」
成程、確かにそういったオカルト系の話題はドン引きさせるのにピッタリかもしれない。
数々の修羅場を潜り抜けてきた三ツ矢が言うなら、万が一の時の保険として真面目に聞いておくのもアリか……。
「ふ……これは昔、フランスで流れた噂なんだがな。
ブティックに来店した女が試着室に入った後、いつまで待っても出てこなくて、そのまま行方不明になっちまうっていう話なんだ。」
「えぇ……? それどう考えても店の人間が怪しいだろ。」
「ああ、だから薬物かなんかで意識を奪われて、隠し部屋に運ばれたとか、その後、人身売買の商品として売られたとか、不穏な噂が立った訳よ。
で、実際に消えたとされる女の数だが、なんと60人。」
「嘘臭いな……。そんなに試着室で人間が消えてるなら、警察の捜査が入るだろ。」
「それが報道機関まで犯人グループに買収されててな。届出に対し、まともな対応がされなかったらしい。」
「………………。」
そういう話か……。それは少し怖いかも……。
試着室で失踪というのはリアリティが無いが、真実が隠されることはよくあることだ。
「…………。なぁ、ミツヤ。杉並で消えてる人間って何処に行ってると思う?」
「ああ……そういや、お前の能力が発動したんだよな? だったら危険な場所ってことにならないか?
それでも気になるなら自分が消えてみるしかねーよ。」
「そんな度胸ない……。」
「お。」
話をしていると、ちょうど二つ並びの試着室の前を通りがかった。
「入ってみるか?」
「いや、何かフラグっぽいし、やめておく……。」
「お前は異能があるから多少のフラグは折れるだろ。」
「だからこの力は万能じゃない……って……。」
その時、急にこちらに駆けてくる足音が聞こえ、振り返った。
《ドスッ!》 「うおっ!!」
――が、反応が遅かった。
襲撃者の動きは早く、三ツ矢は黒い服を着た長髪の女に後ろから押され、そのまま試着室の中に吸い込まれていった……。
「あ……。」
突然のことで動けなくなる。見事なフラグの回収速度……!
だが笑えるような状況ではなく――
「ミツヤ!? うわっ!?」
名前を叫んだところで、試着室の中から伸びてきた腕に掴まれ、自分も連れ込まれてしまう……!
やはり、迂闊だった。
この状況では三ツ矢のストーカーと霜之口達が結託してもおかしくなかった。利害は一致している。
《もにゅん……♪》
その後、どうなったのかは記憶が曖昧だが……。
何か柔らかいものに包まれたことと、鏡の前に立たされたことは覚えている。
そして、俺は確か
(鏡……。そうだ、合わせ鏡だ……!)
恐らく、それが行き来の仕方……!!
◇
秘密に気付いた俺は、早速、行動を起こすことにした。
「あの……すいません。もう降参しますから、この拘束を解いてほしいんですけど……。」
「……あ、もしかして、怖がらせちゃった?
う~ん、どうしよっかなぁ~……。」
カリンは口元に手を当てて、考え込むような仕草をする。
(いけるか……!?)
「まぁ、仮に手が自由になったところで逃げるのは無理だし、別にいいかなー。」
「…………?」
カリンがまた顔を近付けてくる。
「私の異能はね。相手と身体能力を入れ替える《立場逆転》。
だから君がどんなに力強くても無駄なんだよねー。そ・れ・に……」
《あー……。あー……。》
「…………?」
何だ。何処からかモモの声が聞こえてきた。
《えっと……この部屋はですね……。実はあの……"セ〇クスしないと出られない部屋"なんです。》
「は……!?」
《そ……そういうことなので、頑張ってください……。》
それだけを言うと、モモの声は聞こえなくなる。
「今のってどういう……。っ……!?」
カリンの方を向いた瞬間、あまりの衝撃で息が止まりそうになった。
両手で顔を押さえられたと思った次の瞬間、唇を奪われ、舌先が口内に侵入――
「んんー!」
抵抗することができず、プロの舌使いで内側を舐め回される。
「はぁ~…………。」
そしてたっぷり堪能した後、唾液を垂らしながら、顔を離すカリン。
「し、霜之口との約束があるんじゃ……。」
動揺のあまり声が震えてしまう。
「うん。カスム君にしていいのは、口を使わない前戯まで。
そう言って、カリンは下の方に移動し、ズボンとパンツに手をかけてきた。
「っ……!? まっ……それだけは勘弁……!!」
足を振り、抵抗する。
――が、力が逆転している為、簡単に押さえ込まれてしまい……。
「おっ、普通サイズ♪」
既に硬くなっていたモノを見られ、握られてしまう。
そして――
「よっと……。」
カリンが再び素股の体勢を取ったことで、互いの性器が接触。
愛液でぬるぬるになり、非常に危険な状態となる。
「ふふふ……このまま一発イかせちゃってもいいけど……。」
「な……。何でこんなこと……。」
快感に耐えながら、カリンに尋ねる。
「その前に一つ聞きたいんだけどさ。
カスム君って、自分のこと大好きだったりする?」
「は……?」
「まぁ、普通だよね。別に自己愛強くても構わないけど。」
「……?」
さっきから何なんだ。まさか……このまま最後までするつもりじゃないだろうな……?
「本当はね。ここモモの担当だったんだ。」
「え?」
あのピンクのおとなしめの……?
「あ、もしかしてその方が良かった?
でもあの子、サキュバスって言われること多くて……おとなしそうな顔してとっても性欲強いから、干からびるまで搾り取られるかもしれないよ?」
「………………。」
今もだいぶピンチだが……。
「で、そのモモの能力もサキュバスっぽくてね。《桃色遊戯》って言うんだけど、フェロモンで相手をフラフラにしちゃうの。」
フェロモン……。
成程、試着室の中に俺を引きずり込んだのはモモさんだった訳か……。
「そして、もう1つできることがあってね……。
これが凄くて、
「えっ……。」
カリンが再び顔を近付けてきて、目を覗き込んでくる。
「好みの子に犯されるって、最高でしょ?
それで、君の好きな人に変身してもらったんだけど……。
「…………!」
カリンの目が野獣のように光る。
「ねぇ、君誰なのかな? もしかして女の子じゃないよね? まぁ、棒があるならそれでもいいけど。」
「あ……。」
股間を強めに握られ、背筋が凍る。
まさか……そんな流れでバレるなんて……。
(失敗……。いや、これは自分のミスじゃない……!
でも、
頭がパニックになり、考えていたことが真っ白になる。
「ああ、そんな焦らなくて大丈夫だよ。
しもちゃん達にはバラすつもりないから♪」
「え……?」
「だって、そんなのしもちゃん悲しむじゃん?
私達だけの秘密にしておいた方が、皆気持ち良くなれる。そうでしょ?」
………………。
その提案はとても魅力的だ。でも、何だか嫌な予感がする……。
「でも不思議だよねー。偽物なのに、あんなに質問攻めにされてボロが出ないなんて。
君もモモと似た変身能力者なんだよね?
ねぇ、カスム君とはどういう関係なの?」
「………………。」
兄貴との関係……。
そんなの、他人に簡単に喋るようなことじゃない。
「…………。ま、答えたくないならいいや。」
せっかちなカリンはすぐに追及を諦めてくれる。
できればこの行為もさっさとやめてもらいたい。
「あの……。そろそろ手枷を……。」
《バサッ!》
「…………?」
何とか嫌な予感を振り払おうとしていると、カリンが両腕を押さえ付けてきた。
「何察し悪いフリしてるのかな?
カスム君とはシちゃ駄目だって言われてるけど……、偽物と分かったら、ねぇ……。じゅる…………。」
「…………!」
カリンがXXXを掴み、舌舐めずりをする。
まさか……。
「ダイヤちゃんは手コキが得意だけど、私は騎乗位が得意でさ。
Mに目覚めちゃう人多いんだ~。」
「………………。」
衝撃で固まっていると、カリンが腰を浮かし、屹立したモノと秘部を接触させる。
「うわっ!!」
そのまま挿れそうな勢いだったので、全力で自由な足と腰を動かし、挿入を防ぐ。
「むっ……! あれ? 抵抗しちゃうんだ。」
(そりゃするだろ……!)
こっちはこんなビッチで童貞を卒業する気はない……!
諦めず抵抗を続ける。
「足を拘束してない意味、分かってないみたいだ……ねっ!」
《ガシッ!!》
だが、力を増したカリンにあっさり掴まれてしまい――
「…………!?」
そのまま両足を頭の方に持っていかれ、でんぐり返しのような格好にさせられる。
この体勢は……!
「ほら~、ちんぐり返しで童貞卒業ルート♪
あ、童貞かどうかは分からないか……。」
「やっ、やめ……!」
ちんぐり騎乗位の体勢を取り、再び狙いを定めてくるカリン。
「一気に根元まで挿れちゃうからね。
カウントダウンしてあげよっか?」
「うう……。」
目を瞑り、何とか萎えさせようとするが、間に合いそうにない。
「さ~ん、に~い、い~ち……、はい、ゲームオーバー♪」
「…………!」
興奮で濡れ切ったカリンの秘部が亀頭を飲み込む。
XXは、堪らず心の中で叫んだ!
(ごめん兄貴……! もう限界……!!)
《ぼふっ!!》
「っ……!!?」
挿入する瞬間――突然、カスムの体が爆発!
目の前が白い煙に包まれたことで、カリンは驚いた。
そして、その煙の中を走る小さな影――
カリンはそれを目で追うと、すぐにベッドから降り、煙の外に出た。
そこで見たのは――
「えっ、タヌキ……?」
影の正体……、天瞑 幽鵡に変身していた能力者の正体……。
それはタヌキだった。頭に緑の葉っぱを乗せたタヌキ……周囲にも沢山の葉っぱが散らばっている。
「あっ、待って!」
姿を見られたタヌキは、部屋の扉に向けて一目散に走っていく。
そして、扉の前で再び白い煙を撒き散らすと、ロックされた扉の向こう側に出現し、廊下を疾走――
カリンはすぐにロックを解除し、部屋の外に出るが、そこにはもうタヌキの姿はなかった。
◇
「はぁ……はぁ……。」
廊下を走ってる途中で見つけた大きな鏡の前で、記憶にある手鏡に変身――
正直、賭けだったが、合わせ鏡は成功したようで、何とか元の場所――ブティックの試着室に戻ってくることができた。
(早く逃げなきゃ……。)
再び幽鵡の姿に変身した
「あ、戻ってきた。」
「…………!」
しかし、そこには霜之口達がいた。
どうやら他の客が近付かないよう、ずっと試着室を囲んでいたようだ。これでは逃げられない……。
「ふふん、どうだった? モモちゃんのお尻!」
「尻……?」
そうか、モモさんが相手してたことになってるんだっけ。
「ああ……まぁ……、凄かったな……。色々と……。」
「捕まえた~♪」
「うわっ!」
適当に誤魔化そうとしていると、カリンとモモが試着室から出てきてしまった。
「カリンちゃん、首尾はどお?」
「バッチリ。カスム君、タヌキみたいになっちゃって、とっても可愛かったよ。」
「タヌキ……? あ、金玉爆発しそう?」
「あ……はい、そんな感じでした……。ははは。」
「………………。」
モモさんは困り顔で笑っている。二人ともバラすつもりはないのか……。
「そ……そんな話より、ミツヤはどうなったんだ?
あいつも確か試着室の中に……」
「むぅー。そんなの気にしなくていいの!」
また頬を膨らませる霜之口。
今度はカリンとモモが両サイドから腕を絡めてくる。
「もうカスム君の金玉が限界みたいだし、後一押しってところだね。
それじゃ次行こう!」
(うう……まだ続くのか……。)
早く兄貴のところに帰りたい……。
▼DD
異能《ダイヤモンドコーティング》:手で触れた物体の硬化。
▼カリン
異能《立場逆転》:相手と身体能力を入れ替える。
▼モモ
異能《桃色遊戯》:フェロモンによる魅了と、相手の好みの容姿への変身。
▼メロン
異能《マスクメロン》:相手は一定時間、顔をメロンとしか認識できなくなる。
▼ココナ
異能《ココナッツ爆弾》:落下の衝撃を強める。
▼イザヤ
異能《イン・ザ・ダークネス》:闇を操る。
▼ホルン
異能《マッターホルン》:あらゆるものに角を生やす。
▼エスカー
異能《エスコーティル》:砂を操る。
≫ 東京都・杉並区・天瞑家一階
「………………。」
夜――7時40分。
《ガチャ》「ただいま~……。」
「…………!」
リビングのソファに座り待っていた幽鵡は、力の無い
そして……、そこで自分と全く同じ姿をした人間を出迎える。
「おかえり、
《ぼふっ》
幽鵡の姿を見た途端、安堵した表情を見せ、白い煙に包まれる緑葉。
彼は頭にタヌキの耳を生やした子どもの姿になると、幽鵡に駆け寄り、抱きついた。
「うう~兄貴ぃ~! おいら耐えた。耐えたよぉ~!」
「おお……、そうか……。頑張ってくれたんだな……。」
幽鵡は、服に顔を
「……それで、お前の正体は誰にもバレなかったんだな?」
「いや……それが……。
カリンとモモの二人にだけ、異能を使われた所為でバレちゃって……。
一応、他の皆には言わないって約束してくれたんだけど……。」
「異能か……。」
デートの大まかな流れと来ていた人間の能力は、送られてきたメールに書いてあったので把握しているが、そんなアクシデントがあったとは……。
「ごめん、兄貴……。」
「いや、よくやった。
完璧に俺の真似ができる奴なんて、クラスメート以外にお前しか思い付かないし……。」
化け狸である緑葉は、葉っぱさえあればどんなものにでも化けることができる。
昔からの友達で、お互いのことをよく知る仲だし、性格も似てるから、安心して影武者を任せることができた。
「はぁ……今日は悪かったよ……。俺が霜之口の誘いを断り切れなかった所為で……。
こんな遅くなるなら、素直にクラスメートを頼ってれば……。」
「いや、疲れるくらいならどうってことないよ……!
そりゃ耳舐められたし、ファーストキスも奪われたけど、兄貴がそんな目に遭うくらいなら、おいらが……!」
「わ、分かった……。それ以上言わなくていい……。」
緑葉がそれ以上の目に遭ったら、こっちは良心の呵責に耐えられそうにない。
(くそ……。)
弟をレ〇プされた気分だ。今日は時間が無かったからあまり作戦は練れなかったが、次はもっとよく考えないと……。
「ありがとな、緑葉。
細かい話は後でいいから、ゆっくり休んでくれ。」
「あ。待って……。
最後にダイヤさんからこんなもの渡されたんだけど……。どうしたらいいかな……?」
「ん?」
そう言って、緑葉は
《ぼふっ》
それが白い煙に包まれ、元に戻ると、チケットのようなものになった。
「え……? 優待券……。トロピカル・クイーンの?」
「そう。どうする?
兄貴は使わないと思うけど、貴重なものだし、捨てるのはちょっと勿体ない気が……。」
「う~ん……、ミツヤ辺りなら欲しがるかもしれないけど……。
そもそも風俗に高校生は……。ん? これ期限無いのか……」
《ガチャ》
「!?」
その時、廊下の方から扉の開く音がした。
慌ててテーブルの上の優待券を掴み、ポケットに突っ込む。
一方、緑葉はタヌキの姿に変身し、俺の膝の上に飛び乗った。
「ふー……。」
少しして、リビングに入ってくるパジャマ姿の妹――。
風呂から出てきたところのようで、肌がほんのり上気している。
「あ……、ぽんすけ。」
《キューン……!》
緑葉はテーブルの上に飛び移ると、鳴きながら香澄の方に歩いていく。
「どうしたの?」
特に驚いた様子も無く、目の前をうろうろする小動物を見つめる香澄。
相変わらず、感情の起伏が乏しい。
そのあまりに自然な振る舞いを見ていると、少し勘違いしてしまいそうになる。
緑葉は家族には「ぽんすけ」なんて愛嬌のある名前で呼ばれているが、一応、ペットではなく、ウチに住み着いてる
法律云々が面倒というのもあるが、その方が気を遣う必要が無いので、父さんも母さんもあまり触れないようにしている。
実際、
でも……。
(こんなのやっぱり普通じゃないよな……。)
普通の高校生になった今も妖怪とつるんでるなんて……。軽い気持ちで他人に話せるようなことじゃない。
でも……、それでも俺は緑葉との関係を切りたくないと思っている。
昔、命を救ってからすっかり慕ってくれて、それで
とても厚意を無下にできない。
ちょっと好かれ過ぎてるような気もするが……、そこは弟みたいな感じで可愛いし……。
「………………。」
俺の力になりたいという気持ちを利用するだけになりたくない。
夕食は食べてきたみたいだし、今度、大好物の天ぷらでも御馳走してやるかな……