ケロタンは力を溜めるのをやめ、ロボットの背中から離れようと跳躍した。
しかし、ロボットが立ち上がるスピードの方が速く、ケロタンは鋼鉄の巨体に押され、吹っ飛ばされた。
《バンッ》 「いてっ。」
建物の外壁にぶつかり、地面に落ちる――。しかし、ロッグ族で物理的な衝撃に強いケロタンはほぼ無傷。
「何だってんだ一体……!?」
《グオオオオオ!!》
「……!」
ケロタンは目を見開いた。
ロボットがこちらに顔を向け、口を大きく開けている。
(またあの光線を……!)
ケロタンはその場から離れようとした。
「っ!」
だが、目に入ってしまった。
建物の影で震える一人のフレイ族(手足はロッグ族と似ているが、胴体はスモールノーマンに似ている。また、頭に金属の冠をつけている。)の少年の姿が。
「いい感じに逃げ遅れてるな……!」
ケロタンは少年の元に走り、その腕を掴んだ。
《コオオオオオオオ!!》
「くそっ!」
逃げるのは間に合わない。オレンジ色の光線が向かってくる。
ケロタンは魔法の障壁を張り、何とか凌ごうとした。
その時だった――。
《キキィーッ!!》 《ゴオオオオオオ!!》
「ケロタン、乗れ!!」
運転席から叫ぶメッタギリィ。
ケロタンはフレイ族の少年の手を引っ張り、急いでケイバツに乗り込んだ。
《ブオオオオオオ!!》
勢いよく発進するケイバツ。
「アグラン! ロボットは!?」
ケロタンは車の上のアグニスに状況を尋ねた。
「あのロボットの弱点はラド族と同じにしてある。角を破壊すれば、すぐに動作を停止する筈なのだが……、どうやら、私の設計図通りには作られていないらしいな。」
「じゃあどうやって倒すんだ!?」
「とりあえず今、手足の関節部を破壊した。これで上手く動けない筈だ。」
「えっ?」
ケロタンは窓から顔を出し、ロボットを見た。
アグニスの言う通り、腕や脚の一部が破壊され、姿勢が崩れている。
「私一人で片付けてもいいが、街中であまり炎を使いたくない。
ケロタン、メッタギリィ。後は任せたぞ。」
アグニスは心底つまらなそうな
《キキィーッ!!》
「うおっ!」 「うわっ!」
車が再び急停車し、後部座席のケロタンとフレイ族は前のめりになった。
「ホウカ! タイホィ! その一般人は任せた!」
予備の刀を手にしたメッタギリィが車から降り、再び飛行魔法でロボットに向かって飛んでいく。
「ったく、どうりでアグラン。落ち着いてる訳だ。」
車から降りたケロタンは、納得した表情で後ろを見た。
アグニスにとって、目の前の巨大ロボットは大した脅威ではないのだろう。
「俺も負けてらんねぇな。」
ケロタンはフレイ族の少年がホウカとタイホィに連れられていくのを見届けると、巨大ロボットに向かった。
「
魔法で刀のリーチを伸ばし、高速回転しながら破壊された関節部に突っ込むメッタギリィ!
《キュイイイイィィン!!》 《ゴゴオオオォォン!!》
斬り落とされた巨大な腕が地面に落下し、周囲に大きな音が響く。
ケロタンが見た時には、もうロボットの両腕は無くなっていた。
「っ! 何だ……?」
ケロタンは
斬り落とされた部分から、オレンジ色の液体が溢れている。中に機械がびっしり詰まっていると思われた部分は……空洞だった。
「よく分からね―けど……!!」
《バシュッ! バシュッ!》
ケロタンは両腕から光の球を放った。
《バアアァァン!!》
それは両脚の関節部に命中し、破壊を更に深刻なものにした。
《ケロタン!》
直後、無線からメッタギリィの声!
「どうした!?」
《飛ばし過ぎたみたいだ。そろそろ魔力が切れる。》
「分かった。後は俺がやる。」
ケロタンは魔法で空中に四角い足場を作り、階段を上るようにしてロボットの頭を目指した。
「んっ!?」
その時、ケロタンはロボットの口からもオレンジ色の液体が飛び出ているのに気付いた。
《コオオオオオ!》
「何っ!?」
その液体は発光し、オレンジ色の光線をケロタンに向けて放ってきた!
「《バリア》!!」
間一髪! ケロタンは魔法の障壁で光線を弾いた!
――が、足場を維持することができなくなり、落ちていく!
「くそっ!」
《お困りのようだな。》
「!?」
そんな時、無線からメッタギリィとは別の声がした。
《その声は……!!》
今度はメッタギリィの声。
「ブッタギリィ!? 生きてたのか!!」
《お前らが注意を引き付けてくれた御蔭で、技の準備が完了した。感謝するぞ。》
現在、ブッタギリィがいるのは、ロボットの真下。
「
魔法で恐ろしい程に巨大化・赤熱した大剣を手に、彼は飛翔。上に飛んだ。
「空爆一閃!」
《ガアアアアアァァ――!!》
ロボットの体を真っ二つに裂きながら上昇していくブッタギリィ!!
豪快な斬撃は、すぐに頭に到達!!
「《
《ドゴオオオォォン!!》
ロボットの頭は吹っ飛ばされ、上空で爆発四散! 町にオレンジ色の液体が降り注ぐ!
そして頭部を失ったロボットは、完全に動きを停止した。
「ふー……。」
その様子を遠くから見ていたアグニスは、静かに呟いた。
「掃除が大変だな……。」
◆ シルシルタウン・巨大ロボット付近 ◆
「これは何だ?」
空から下りてきたメッタギリィとブッタギリィに駆け寄ったケロタンは、ロボットから出てきたオレンジ色の液体について尋ねた。
「いや、分からねぇ。どうもこれがこのロボットの中に……。いや、そもそもこれはロボットなのか?」
「魔物かもしれないな……。」
「魔物?」
ブッタギリィの発言に、ケロタンは疑問符を浮かべる。
「スライムが巨大ロボットの皮を被って町を襲ったってことか?」
「お前達!」
そんな話をしていると、アグニスが現れた。
「後は私が処理する。」
「どうしたんだ? アグラン。」
「このオレンジ色の液体――かなり強い放射線を放っている。ボロボロにされたくなければ近付かないことだ。」
「うええっ!? 回復魔法、回復魔法……!」
慌てて体中に魔法をかけるケロタン。
「ラド族である私は平気だが……、メッタギリィとブッタギリィ!」
名前を呼ばれた二人は、アグニスを見る。
「お前達も後で念入りに検査する。」
「ちっ……! 何だってんだよ、これは。」
「ここら一帯はしばらく封鎖。除染が終わるまで誰も近付けるな。」
「分かった。」
ブッタギリィは素早く返事をし、無線で部下へ命令していく。
アグニスは周囲に簡単に浄化の魔法をかけた後、ケロタンやメッタギリィ達の体を検査し始めた。
「俺あんまり覚えてないんだけど、放射線浴びるとどんな影響があるんだっけ?」
「……我々の体の細胞は、毎日、死と再生を繰り返している。
放射線は、細胞の再生に必要な染色体を破壊するんだ。」
「命の設計図ってヤツだな。」
横からメッタギリィが口を挟む。
「そうだ。すぐには影響は出ないだろうが、放っておけば、体はボロボロになっていく。設計図を失えば、新しい細胞が作られない訳だからな。」
「だ、大丈夫なのか? 俺ら。」
「問題無い。治療法はある。」
アグニスは服の袖の球体を少しいじり、何かの魔法を起動した。
ケロタンの体が光に包まれる。
「あぁ~、何か気持ちい。」
「王様、早く俺らにもやってくれよ。仕事が残ってるんだ。」
「ケロタンが優先だ。ロッグ族は放射線にかなり弱い。あの光線をまともに浴びていれば、お終いだっただろう。」
「怖いこと言うなよ……。」
「はぁ……お前は子どもじゃな――いや、そうか……。
記憶を失ってるんだったな。精神的には、まだまだ子どもか。」
「んなことねーよ。」
ケロタンは反発する。
「そんなことより、あのロボットの中に入ってたの……スライムだよな?」
「ああ、あの魔物……。何かを被るスライムというのは幾らか確認されているが、自然発生したものではないだろう。」
「……!」
アグニスの言葉に、メッタギリィとブッタギリィが反応する。
「人工的ってことか? 確か駄目な奴じゃ……。」
「そうだ。」
現在、人工的に魔物を作り出すことは禁止されている。
「……アグラン。本当に犯人に心当たりないのか?」
「私と同じ魔科学者である可能性は大いにあるな。そして……。」
アグニスは警殺達に目配せした。
「まだ……終わってないみたいだな。」
「はぁ……。」
顔を伏せ、何やら考え事を始めるブッタギリィとメッタギリィ。
「?」
ケロタンは疑問を抱くが、この場でそれが解消されることはなかった。
◆ アグニス城・地下・保管庫 ◆
その後、住民達の身体検査と魔法による町の除染を終えたアグニスは、破壊された建物の修復をしかるべき業者に任せ、ケロタンと共に城へ戻った。
そして地下の保管庫にケロタンを招いたアグニスは、ガラスケースの中から拳より一回り大きいサイズの丸い石を取り出し、彼に差し出した。
「協力の礼だ。これをやる。」
「何だ? この石。」
「勇者の石。聞いたことないか?」
「あー、何だっけ。」
「百個揃えれば願いが叶うという奇妙な伝説を持つ石だ。
信じる者の間では、高値で取引されている。」
「ふ~ん。」
ケロタンはアグニスから石を受け取ると、手の上で転がしたり、軽く上に投げたりした。
黄色いような青いような……。どうやら見る角度によって色が変化するようだ。
「ま、いいや。売ってウインナーに変えるさ。」
「好きにするといい。」
アグニスは寛容だった。
「それで、アグラン。これから設計図盗んだ犯人捜すんだろ?」
「ん。ああ、そうだな。さっきの一件で、犯人はだいぶ絞られた。すぐに見つかるだろう。」
「ん~、そうか……。もう俺の出る幕は無さそうだな。」
ケロタンは少しがっかりした気分だった。
何かが始まる予感がしたのに、当てが外れたか。
「…………。」
アグニスはそんな様子のケロタンをじっと見つめた。
「平和が気に入らないのか?」
「いや……、そりゃ平和が一番だよ。悪いことなんて起きない方がいい。でも……。」
「お前、何か夢はないのか?」
「夢……か。特に無いな。」
「哀れだな。」
「…………。」
記憶を失っていなければ、また違ったのだろうか。
「はぁ……、何かもっと……面白いこと起きね―かなぁ。」
ケロタンはそう言って、保管庫から去ろうとした。
その時だった――。
《ピカーッ!!》
ケロタンは眩い光に襲われた。
「うおっ、なっ、何だ……!?」
「おい、こんなところで魔法を使うな。」
「ちげーよ! 石が勝手に――!」
「!!」
そう、光り輝いたのは――勇者の石。
…………。
これが、彼らの始まり――。
(第1話 End)