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ホラー小説『死霊の墓標 ✝CURSED NIGHTMARE✝』 第2話「明日無き日常」(2/3)

 

 

 

 

 

  ニ・裏世界の侵略者

 

 

 

 

 そこにいたのは……蟻ではなかった。

 

 

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 もっと言うと……虫でもなかった。

 

 全身は血のような赤色。樽のような胴体には四本の脚。それでいて頭部は人間に近い――。

 

 そんな化け物が、リビングを我が物顔でうろついていた。

 

 

 (…………。)

 

 

 大きさは……70か80cmくらいか。

 

 俺は息を殺し、その不気味な姿を眺めた。

 

 襲ってくる気配はない。

 

 顔に懐中電灯の光を当てているというのに、まるで気にしていないようだ。

 

 目の焦点が合っていないし、もしかすると、周りがちゃんと見えていないのかもしれない。

 

 俺は懐中電灯の光を下にスライドさせた。

 

 

 「…………?」

 

 

 胴体を照らした時、俺は手を止めた。

 

 怪物の胴体に幾つか穴が空いている。そして、その穴の中で何かが動いていた。

 

 

 (何だ……?)

 

 

 俺は慎重に怪物との距離を詰め、目を凝らした。

 

 

 「……!」

 

 

 そして、その正体を知った。

 

 羽アリだ。

 

 穴を埋めるように大量の羽アリが群がり、うごめいている……!

 

 

 「っ!」

 

 

 彼らが飛び立ったのは、俺が危険を察するのとほぼ同時だった。

 

 やはり白熱電球の光には反応してくる。

 

 俺はドアを閉め、光を消し、床に置いたスプレーと掃除機を回収して反対側のダイニングまで駆け戻った。

 

 

 「はぁ…………。」

 

 

 素早く体を確認する。

 

 ――虫は一匹も付いていない。

 

 

 「ふー……。」

 

 

 リビングには殺虫剤を撒いてある。何匹かは時間が経てば勝手に死ぬだろう。

 

 しかし――

 

 

 (あの化け物、どうする……?)

 

 

 殺虫剤で死ぬとは思えない。

 

 武器に使えそうなのはキッチンにある包丁だが、接近戦をするとなると、大量の羽アリが怖い。

 

 ただの羽アリならば、多少纏わりつかれても問題無いが、さっき確認した通り、あれは普通の種類じゃない。

 

 とてもやる気にはなれない。

 

 

 (…………。)

 

 

 もっと安全にあの怪物を倒す方法はないだろうか。

 

 俺は家の中にあるものを頭に思い浮かべた。

 

 野球のバットは……良いな。包丁よりリーチがある。

 

 フライパンは……殺傷力が低過ぎるから駄目か。

 

 傘は……父さんが面白がって買った護身用のものが何処かにあった筈。あれは盾として使えるかもしれない。

 

 でもやっぱり……一番は炎だ。あの炎さえあれば、何が来ても対応できる。

 

 しかし……、どうやって出す?

 

 ……。実際に火が出るものがあればどうだ? 持ち運びできるもので……。何処かになかったか?

 

 

 (ライターは……。)

 

 

 ライターは物置にあった筈。場所はトイレのすぐ近く。ここから出て、右だ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ダイニングから出た俺は、すぐに物置部屋の前まで来た。

 

 他の部屋と同様、ここも電気が点かなかったので、懐中電灯を使いながら入る。

 

 窓が無いここは明かりが無ければ完全な暗闇。

 

 予備の電池はあるが、懐中電灯を無くすようなことにはならないよう気を付けなくては……。

 

 俺は細心の注意を払う。

 

 

 (さて、ライターは……。)

 

 

 出入り口付近にあると思ったが、見当たらない。奥に置くような物じゃない筈なのだが……。

 

 正直、何処に何があるかなんて正確に記憶していない。半分ゴミ置き場みたいな場所だし。

 

 俺は周囲の確認を怠らないようにしながら、やや狭い部屋の中を進んだ。

 

 棚には工具やインスタント食品、防災グッズなどが所狭しと並んでいる。

 

 自信は無いが、多分、現実と変わりない筈だ。

 

 しかし、俺は違和感を覚えた。

 

 

 (広くなってる……な。)

 

 

 内部構造が変化している。左右の間隔はこんなに広くなかった筈だ。

 

 それに――

 

 

 (分かれ道……?)

 

 

 行き止まりの先があった。

 

 前方、左右に道が分かれている。この先は完全に異空間だ。

 

 どうする……? ライターがこの先にあるという保証は無いし……。

 

 

 「…………。」

 

 

 いや、めんどくさがってる場合じゃないな。

 

 行くと決めた俺は、入り組んでいたことを考え、床に何か目印を残すことにした。

 

 そこら中に物が溢れているので、とりあえず置く物には困らない。

 

 

 (これでいいか……。)

 

 

 俺は来た道に棚から取ったカップ麺を置き、まずは左の方を探索することにした。

 

 何処に目的の物があるか分からないので、左右の棚は引き出しの中までじっくり見ていく。

 

 並びは違うものの、置かれているのはさっき見た物ばかりだ。

 

 

 (気味が悪いな……。)

 

 

 カップ麺がずらりと並んでいる謎のゾーンがあった。

 

 まるでスーパーかコンビニの棚だ。

 

 そんなことを思いながら進んでいくと、また分かれ道に遭遇した。今度も前方、左右。

 

 

 (マジで迷路っぽいな……。)

 

 

 俺は棚からまた1つカップ麺を取り、来た道に置いた。

 

 ライターはまだ見つからない。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 広がった物置の探索を始めてから数分。

 

 俺は背を低くし、懐中電灯で前方の床を照らしていた。

 

 そこにいたのは小さく、黒褐色で、光を受け不気味に輝く生物――。

 

 そう、ゴキブリだ。

 

 いるんじゃないかと注意していたが、やっぱりいた。

 

 

 《カサカサカサカサ……》

 

 

 光を受けたゴキブリは、しばらくすると動き出し、棚の隙間へと逃げていった。

 

 羽アリとは逆で、負の走光性を持つゴキブリは光から逃げるのだ。

 

 これでとりあえず見える範囲にはいなくなったが……。

 

 

 《シュー》

 

 

 逃げた場所に殺虫スプレーを吹きかけておく。

 

 ゴキブリも羽アリと同様、無視できない害虫だ。

 

 一匹いたら百匹いると言うし、こっちがじっとしてると食べ物だと思って噛み付いてくるらしいし……とにかく不衛生だ。

 

 これで死んでくれることを願う。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 それにしてもこんなにライターが見つからないとは思わなかった。

 

 今頃、家の中はどうなってるだろうか。

 

 あまり想像したくはない。

 

 

 「グフフフフ……!」

 

 「……?」

 

 

 途方に暮れていた時、何処からか奇妙な笑い声が聞こえた。

 

 

 (今のは……?)

 

 

 俺は懐中電灯で周囲の暗闇を照らしていった。

 

 

 「グフフッ!」

 

 

 すると何かが光から逃れ、角を曲がっていく姿が見えた。

 

 

 「…………。」

 

 

 俺は少し考えた後、それを追った。

 

 よく分からないが、わざとらしい笑い方だった。

 

 それが気になる。

 

 俺は角を曲がり、少し駆け足で進んだ。

 

 

 (……?)

 

 

 そして……見つけた。

 

 まるで絵具をぶちまけたかのような、奇怪なデザインの扉を。

 

 

 (ここに入っていったのか……?)

 

 

 扉に光を当て、よく見てみるが、取っ手らしきものが何処にも無い。

 

 俺は掃除機を床に置き、片手でドアに触れてみた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 「…………。」

 

 

 ……ん?

 

 

 (何だ……?)

 

 

 扉に触れた瞬間。景色が変わった。

 

 いや正確には、俺の向き・・が変わった。

 

 懐中電灯が照らしているのは、扉ではなく道。

 

 

 (何が……? 扉は……?)

 

 

 俺は後ろを振り返って確認した。

 

 しかし、そこに扉は無かった。あった筈の場所はただの壁になっている。

 

 階段のように消えてしまった。

 

 

 (どうなってる……?)

 

 

 俺は道を戻り、辺りを照らしたが、さっき見た何かはいない。

 

 

 「…………?」

 

 

 そこで俺はあることに気付いた。

 

 右手が何かを握っている。

  

 光を当てて確認すると、それは……。

 

 

 (ライター…………?)

 

 

 いつの間に手に入れたのか、俺の右手の中には赤色のライターがあった。

 

 しかも使い捨てのディスポライターではなく、スリムな形状のジッポライターだった。

 

 

 (さっきの扉か……?)

 

 

 あの扉に触れた御蔭でこれが手に入った……?

 

 よく分からないが、考えても答えが出そうにないのでそう考えることにする。

 

 

 (因果関係滅茶苦茶か……。)

 

 

 流石、夢だ。

 

 とりあえず、俺はライターが使えるかどうか確かめる為、キャップを開き、ホイールを回した。

 

 すると――

 

 

 《ボオオォォ!》

 

 

 驚くべきことに、普通の炎ではなく、黒炎が噴き出した。しかもかなりの勢いで、だいぶ遠くまで届く。まるでバーナーだ。

 

 

 (使えるな……。)

 

 

 これなら申し分ない。

 

 

 (やるか……。)

 

 

 経緯はどうあれ、目的の物は手に入った。

 

 早くこの悪夢を終わらせよう。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 物置部屋から出た俺は、懐中電灯で床や壁を照らした。

 

 案の定、変化が起きている。

 

 木を突き破り、赤い根……血管のようなものが出てきていた。

 

 なので俺は急いで玄関まで行き、靴箱から自分の靴を取り出し、履いた。

 

 ゴキブリ遭遇の時も感じたが、素足は心許ない。

 

 靴下が無いのが少し違和感だが、その内慣れるだろう。

 

 

 (よし……。)

 

 

 準備が整った俺は、まだ化け物がいるであろうリビングの扉の前に立った。

 

 

 《ダッダッダッダッ!

 

 

 耳を澄ませなくても、足音は聞こえる。

 

 俺は懐中電灯を消し、右手のライターを握り締めた。

 

 ゆっくりと扉を開き、少し距離を取る。

 

 敵の位置は向こうの壁際。

 

 流石にここからでは炎は届かないか。

 

 

 《ボオォォ!!》

 

 

 ライターから噴き出た黒炎がカーペット、そしてテーブルの一部を焼き消す。

 

 

 (燃え広がったりはしないか……。)

 

 

 普通の炎でないのは分かっていたが、こういう時には都合が悪い。

 

 可燃性のガスを含む殺虫スプレーと組み合わせて使えれば最強だったんだが……。

 

 

 (仕方ない……。)

 

 

 俺は距離を詰める為、リビングへと入った。

 

 薄暗いが、怪物の姿は見えている。

 

 

 (家の変化が気になるが、まずはこいつを排除だ。)

 

 

 俺はライターを構え、怪物へ向けて黒炎を放った。

 

 

 《ボオオォォ!!》

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 《ギイギギギィィィ!!

 

 

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 怪物が……跳躍した。

 

 奇声を上げながら黒炎をかわしたのだ。

  

 

 「っ!?」

 

 

 予感はあった。

 

 あれだけ頭がでかければ、人間並みの知性を持っていてもおかしくない。

 

 

 《ギッギギイギギギ!!

 

 

 床に着地した怪物は、蜘蛛のような速さで脚を動かし、向かってきた。

 

 しかし――。

 

 

 《ボオオォォ!!

 

 

 俺の武器は強力だった。

 

 後退しながらライターを握った手を薙ぎ払うように振り動かし、怪物の逃げ場を無くす。

 

 家具も巻き添えになるが、気にしない。

 

 

 《ギギギギギギイィ!!

 

 

 怪物は再び跳躍したが、呆気なく黒炎に包まれる。

 

 そして断末魔を上げる暇無く消え去った。

 

 

 「ふー…………。」

 

 

 怪物が暴れた所為で床に落ちた羽アリも一緒に消えた。

 

 

 (効いたな……。)

 

 

 これなら殺虫スプレーも掃除機も完全に要らない。

 

 

 《パキパキパキ……》

 

 

 「……。」

 

 

 一段落も束の間、家の軋む音が聞こえてくる。

 

 懐中電灯でリビングの壁や床を照らすと、廊下と同じように赤い根が張っていた。

 

 

 (他の場所も確認するか……。)

 

 

 悪夢はまだまだこれからのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  三・裏世界の女王

 

 

 

 

 

 シロアリには家を倒壊させる程の力がある。

 

 俺は床に落ちている大量の羽を見つめながら、彼らの特徴を思い出していた。

 

 あれは基本的に何でも食べる。木材に含まれるセルロースが主な栄養源だが、触れば人間も餌と認識して噛み付いてくる。

 

 持ってる毒は弱いが、何度も噛まれればアナフィラキシー・ショックを起こす可能性もあるというから油断できない。

 

 

 《ボオオォォ!!》

 

 

 今、家の至る所に小さな穴がぽつぽつと空き、羽アリが大量に湧き始めていた。

 

 あのでかい怪物が脚で壁を突き破り、そこから蟻を送り込んでいるようなのだ。

 

 

 《ギィ……ギィ……》

 

 

 家の軋む音がでかくなっている。

 

 このまま事態が悪化すれば……。

 

 俺は壁にできたヒビを見つめ、不安な気持ちになった。

 

 例の根も広がっていて、懐中電灯を当てると殆どの場所が赤く染まっていることが分かる。

 

 

 (どうしたらいい……?)

 

 

 ダイニングの中央で考え込む。

 

 

 (攻勢に出るか……?)

 

 

 しかしそれは壁に空いた穴に入っていくということ。奴らの巣に侵入するということだ。

 

 

 (何があるか分かったもんじゃないが……。)

 

 

 《パキパキパキ……!》

 

 

 (このままここに居ても、最悪、家の倒壊に巻き込まれて潰されるな……。)

 

 

 俺はダイニングから出て、リビングの様子を見に向かった。

 

 

 「…………。」

 

 

 先程の戦いでだいぶ荒れてしまっているが、どうせ夢なので気にしない。

 

 俺は壁に空いたでかい穴の前に立ち、懐中電灯で中を照らした。

 

 ここは怪物が通ってきた穴だ。

 

 ここを通れば、恐らく奴らの巣に行ける。

 

 だが穴は狭い。

 

 身を屈めなければ通れない。

 

 黒炎で穴を広げられないかと考えたが、何故か壁や床は消せず、役に立たない。

 

 

 「はぁ……。」

 

 

 (行ってみるか……。)

 

 

 俺は意を決し、穴に入った。

 

 結構でこぼこしているので、つまずかないよう慎重に進む。

 

 途中であの怪物と出くわすことになっても大丈夫なよう、懐中電灯とライターを構えながら。

 

 

 (……思ってたよりきついな…………。)

 

 

 うじゃうじゃいる羽アリは黒炎で消しているが、これだけ狭いと逃した奴が服の中に入ってもおかしくない。

 

 というか、人が中を通れる程、分厚い壁なんておかしい。

 

 この穴、一体何処に通じてる?

 

 しばらく進むと、終わりが見えた。

 

 

 (さて……。)

 

 

 穴から出た俺は、早速怪物がいないか懐中電灯で辺りを照らした。

 

 

 (…………。)

 

 

 普通にいる。

 

 数は二……いや、三、四体……。

 

 

 《ギイィィィ!!》 《ギイギギギィ!!

 

 

 「!」

 

 

 今度の怪物達の反応はリビングにいたものとは違った。

 

 俺の姿を見た途端、一斉に襲い掛かってきたのだ。

 

 

 《ボオオォォ!!》

 

 

 しかし分かりやすく向かってくるのは都合がいい。俺はライターの黒炎を撒いた。

 

 

 《ギギギギィィ!!

 

 

 ニ体、ジャンプしたが、既にその行動は知っている。

 

 俺は黒炎を放ち続け、怪物の逃げ場を無くした。

 

 そしてすぐに勝負はつく。

 

 黒炎に飲み込まれた怪物達は一瞬で焼き消え、後には何も残らない。

 

 

 「…………。」

 

 

 今のところ余裕だが、不意を突かれたり、黒炎の効かない怪物が出てきた場合はマズいので気は抜けない。

 

 俺は懐中電灯で空間の隅から隅まで確認する。

 

 

 (怪物の巣……。)

 

 

 壁も床も赤く、少し柔らかい。そして食べ物の腐ったような匂いがする。

 

 まるで何かの体内だ。あまり長くは居たくない。

 

 もうここに怪物は居ないようだが……。

 

 床に穴が空いている。

 

 人一人が十分通れそうな大きさの穴が。

 

 

 「…………。」

 

 

 懐中電灯の光を当ててみたが、中はやや曲がりくねっているようで、底は見えない。

 

 

 (落ちたら戻って来れないな……。)

 

 

 穴の壁は何だかぬめっているし、手を突いて落ちるスピードを落とすことは多分、難しい。

 

 

 (他に道は無いか……。)

 

 

 この辺りの床は柔らかいが、下もそうだとは限らない。硬い地面だった場合、最悪、骨折する。

 

 

 (ロープでも用意できればいいんだが……。)

 

 

 確か物置部屋にあった。

 

 

 (いや、そうだ……。)

 

 

 何か落としてみよう。できれば重さがあって、壊れる物を。ロープを結んで落とすのがいい。

 

 俺は一旦、家の中に戻り、必要な物を集めることにした。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 物置部屋から長めのロープ、空き瓶、メジャー。リビングから数本のマーカーペンを調達した。これで穴の長さと下の様子を調べる。

 

 俺は早速、空き瓶にロープを巻き付けた。

 

 もし下が硬い地面なら瓶は割れるだろう。

 

 俺はロープを持ち、瓶を穴に落とした。

 

 ロープが穴の中に吸い込まれていく。

 

 

 「…………。」

 

 

 そして止まった。

 

 瓶の割れる音は聞こえない。

 

 俺はマーカーでロープに印を付け、引き上げた。

 

 メジャーで長さを測ると、約4m。

 

 瓶が無事なことを考えると、下の床もここと同じく柔らかいようだ。

 

 

 (行ってみるか……。)

 

 

 道具はまだ使うかもしれないので、全て服に入れて持っていく。

 

 

 「…………。」

 

 

 4mなら行けないことはない。少し心配だが、曲がりくねっていて、下が柔らかいなら、怪我をする確率は低いだろう。

 

 

 「すぅ…………。」

 

 

 一応、五点着地を狙う。小学生の頃、少し練習したきりだが……。

 

 

 (確か順番はつま先、脛、尻、背中、肩……。)

 

 

 思い出したところで、俺は穴へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 《ドクン……ドクン……》

 

 

 脈動が聞こえる。

 

 自分のものではない。

 

 

 《ドクン……ドクン……》

 

 

 (これか……。)

 

 

 穴を落ち、巣の奥へと進んでいた俺は、今までとは違った形の怪物と遭遇した。

 

 真っ赤な球体で、直径は約2メートル。心臓のように鼓動しており、近付くと僅かに熱を感じる。

 

 

 (何だか分からないが……。)

 

 

 焼いちゃマズいってことはないだろう。

 

 

 《ボオォォ!!》

 

 

 黒炎に包まれたそれは、一瞬で焼き消えた。

 

 

 「……………。」

 

 

 何も残らないので分からないが、恐らく、奴らの卵みたいなものだろう。

 

 …………。

 

 

 (いや、待てよ……。卵がこれだけのサイズとすると……。)

 

 

 嫌な予感がする。

 

 俺は壁を照らした。

 

 

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